やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 脳卒中,脊髄損傷,脳性麻痺をはじめとする上位運動ニューロン障害による運動障害の治療において,痙縮治療は非常に重要な意味をもっています.これらの上位運動ニューロン障害では,多くの場合,麻痺が残存します.麻痺の回復が困難な場合にも,痙縮をコントロールすることにより,上下肢の機能改善を図ることが可能です.また痙縮をコントロールしながらリハビリテーション治療を行うことにより,より効果的な麻痺の回復が可能となります.逆に,慢性期,生活期においては,痙縮のコントロールができていなければ,痙縮の増悪による機能低下をきたすことが多く見受けられます.
 痙縮に対する治療には,薬物療法,ボツリヌス療法,ブロック療法,ITB療法,外科的手術,リハビリテーション治療があります.特に近年はボツリヌス療法ならびにITB療法により,安全かつ効果的な痙縮治療を行うことが可能となりました.しかしながら,どんなに優れた治療法であっても,正しく施行ができなければ,その効果は乏しく,かえって不利益を患者さんに与えてしまう可能性があります.
 本書は痙縮治療の目的・適応を正しく理解し,日々の臨床で正確にボツリヌス療法,ITB療法,リハビリテーション治療を行うことができるようにまとめられたものです.いわゆる教科書的な内容ではなく,より実践的に,治療を行う際のマニュアルとして使用できるように,各治療手技に関して豊富な写真とイラストをもとにわかりやすく解説しています.また,診察室やベッドサイドへ手軽に持参できるように,ポケットサイズのマニュアルとしました.
 関連各科の医師はもちろん,理学療法士,作業療法士をはじめ医療スタッフが痙縮治療の実際を理解し,効果的なリハビリテーション治療を行えるようになることを目指しています.本書が痙縮治療に関わる多くの方々のお役にたち,リハビリテーション医療の質の向上に役立つことを期待します.
 2018年6月
 藤原俊之
 まえがき
1 痙縮治療の原則
 (藤原俊之)
 1−痙縮とは
 2−痙縮の神経機構
  1.運動制御の基本 2.臨床的に問題となる痙縮
 3−神経機構から考える痙縮治療
 4−痙縮治療の目的
  1.Pain(疼痛)
  2.Passive range of motion(他動関節可動域)
  3.Active function(運動機能)
2 痙縮の評価
 (藤原俊之)
 1−臨床評価
  1.modified Ashworth scale(MAS)
  2.disability assessment scale(DAS)
 2−電気生理学的評価
  1.表面筋電図 2.H波による評価
  3.相反性抑制の評価
3 痙縮による障害とその原因筋の同定
 (藤原俊之)
 1−上肢
  1.肩内転・内旋,肘屈曲
  2.手指屈曲,母指屈曲・内転 3.手関節屈曲
  4.前腕回内 5.前腕回外 6.肩伸展
 2−下肢
  1.股関節内転 2.股関節屈曲
  3.膝屈曲 4.内反尖足 5.足趾屈曲
4 ボツリヌス療法
 (藤原俊之)
 1−ボツリヌス療法の原則
 2−薬剤調合
 3−筋同定法
  1.電気刺激による筋同定法 2.筋電図
  3.超音波
 4−施注部位
  1.大胸筋 2.広背筋 3.上腕二頭筋
  4.腕橈骨筋 5.上腕筋
  6.橈側手根屈筋 7.長掌筋
  8.尺側手根屈筋 9.浅指屈筋
  10.深指屈筋 11.円回内筋
  12.長母指屈筋 13.母指内転筋
  14.虫様筋・掌側骨間筋 15.腓腹筋
  16.ヒラメ筋 17.後脛骨筋
  18.長趾屈筋 19.長母趾屈筋
  20.短趾屈筋 21.前脛骨筋
  22.長内転筋・大内転筋 23.ハムストリングス
  24.腸腰筋
5 髄腔内バクロフェン投与療法(ITB療法)
 (有島英孝)
 1−適応
  1.対象となる疾患と症状・状態
  2.ITB療法の効果
 2−スクリーニング
  1.スクリーニングとは 2.方法
  3.痙縮の経時的評価
  4.スクリーニングの合併症
 3−挿入・設置方法
  1.準備する用具 2.ポンプ位置の決定
  3.ポンプの準備 4.手術体位
  5.カテーテル先端の位置 6.手術
 4−リフィル
  1.準備する用具 2.手順
 5−トラブル対応
  1.離断症状 2.過剰投与による症状
  3.効果の減弱や離断症状を認めた場合
 6−MRI撮影
6 痙縮のリハビリテーション
 (山口智史)
 1−痙縮のリハビリテーションでは何を行うか
  1.痙縮に対するリハビリテーション
  2.痙縮の評価
 2−痙縮のリハビリテーションの概要
  1.関節可動域訓練 2.運動療法
  3.電気刺激療法 4.装具療法
 3−上肢のリハビリテーション
  1.関節可動域訓練 2.運動療法
  3.電気刺激療法 4.装具療法
 4−下肢のリハビリテーション
  1.関節可動域訓練 2.運動療法
  3.電気刺激療法 4.装具療法

 コラム
  1% lidocaineによるトライアルブロック
  CI療法で使用されるTransfer packageの概念
 付録
  付録1 ボツリヌス毒素の使用単位(目安)
  付録2 手の関節
  付録3 手の解剖
  付録4 足の解剖