やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦の辞
 本書は,てんかんのある人や,てんかんのある子どもとその家族を支援するために,医療関係者が何をしたらよいのか,どのようにするべきかを,豊富な資料とともに,やさしく説明している.生活のさまざまな場面を想定した解説は,極めて具体的,実践的であり,これから支援をはじめようとする人,これまで情報が乏しく悩んでいた人,よりよい支援を模索していた医療人に,すぐに役立つ内容である.類書は非常に少なく,てんかん医療を進めていくうえで力強いパートナーになってくれるだろう.
 本書のなかに,“多職種連携を目指す際によく陥りやすい体制は「多職種分業」です”という一文がある.支援者が医療の目標や介入経過を共有し,情報交換を通じて,それぞれの職種の役割と機能を理解することが肝要であり,そしてそのプロセスが医療者,ひいては病気のある人の教育につながる.これが,分業の対極にある多職種協業である.てんかんの包括医療は,まさにこの協業のうえに成り立つものである.
 14の職種にわたる52人が,57の質問に答え,16症例について協業した経緯を記した本書は,読むだけでもとても面白い.しかし本書は,診察室での医療から,てんかんのある人を外の世界に連れ出し,彼らが生活の場でてんかんに取り組み,問題を解決し,よりよい生活へと歩んでいくのに寄り添う.そのための工夫と道しるべを随所にちりばめた,人による医療の優れた案内書である.
 てんかんの医療にかかわるすべての人にお薦めしたい.
 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター院長
 井上 有史


はじめに
 てんかんは,私たち臨床家が出合うことの多い疾患です.てんかんについての学問,てんかん学の教科書はとても厚い教科書です.それは,てんかん学が長い歴史をもち,多くの研究者,多くの臨床家がたゆまぬ努力をしてきたことの証左です.
 一方,いざ,てんかんのある人や子どもを支援しようとしたときに,参考になるような具体的な方法が記された書籍が少ないことは,驚きと言わざるをえません.てんかんのある人への支援には,多職種が係ります.また支援には,医療だけでなく,行政や福祉,教育に携わる人々が関係します.てんかんのある人や子どもを「はじめて」「支援しよう」とした誰かが一人で悩んだときのお手伝いができるような書籍を出版できたらと思い,私たちは本書を企画しました.はじめての人だけでなく,すでにてんかんの支援をしている誰かが,次の誰かに支援のバトンタッチをしようとしたときに,どのような対応が必要なのか悩んでいるかもしれません.あるいは今以上によりよい支援ができないかと悩んでいる人がいるかもしれません.本書はそのようなさまざまな場面で,手にとっていただける書籍を目指しています.
 このような思いから書かれた本書ですから,読者の皆さんが興味をもったページから読み始めていただければよいように構成されています.そのため,一部内容が重複しているかもしれません.最初から読み進んでいただくと,てんかん支援のAtoZ,すなわちてんかん診断からてんかんリハビリ・対応法まで学べると思います.
 本書を通して読者の皆さんとチームを作り,てんかんのある人や子どもへの支援の輪を広げていけることを執筆者一同,心より願っています.
 2018年5月
 編者 谷口  豪
    西田 拓司
    廣實 真弓
 推薦の辞
 はじめに
第1章 てんかんの支援総論
 Q1 てんかんとはどのような病気ですか?
 Q2 てんかんの治療はどのように行われますか?
 Q3 てんかんリハビリにはどのような特徴がありますか?
 Q4 リカバリーとはどのようなことですか?
第2章 てんかんの基礎知識
 Q5 てんかんの原因にはどのようなものがありますか?
 Q6 てんかんは遺伝しますか?
 Q7 てんかん発作にはどのようなものがありますか?
 Q8 てんかんはどのように分類されますか?
 Q9 症候性てんかんと特発性てんかんの違いは何ですか?
 Q10 てんかん発作以外の症状にはどのようなものがありますか?
 Q11 心因性非てんかん性発作(PNES)とは何ですか?PNESはどのように診断・治療が行われますか?
 Q12 てんかんの治療は何科で行われますか?セカンドオピニオンはどのようにすればよいですか?
 Q13 医師や看護師と連携する際に知っておくとよい医学用語,略語にはどのようなものがありますか?
第3章 てんかんの医学的検査
 Q14 脳波検査はどのように行われますか?どのようなことがわかりますか?
 Q15 画像検査にはどのようなものがありますか?どのようなことがわかりますか?
 Q16 抗てんかん薬の血中濃度はどうして測るのですか?
第4章 てんかんの治療
 Q17 抗てんかん薬にはどのようなものがありますか?いつ治療を開始しますか?
 Q18 抗てんかん薬の減薬と断薬で気をつけることはありますか?
 Q19 どのようになれば発作が抑制されたと考えられますか?いつ治療を終了しますか?
 Q20 小児のてんかんで,抗てんかん薬はどのように選択されますか?
 Q21 成人のてんかんで,抗てんかん薬はどのように選択されますか?
 Q22 抗てんかん薬の副作用にはどのようなものがありますか?
 Q23 てんかんの外科治療はどのように行われますか?
 Q24 脳梁離断術,VNSはどのように行われますか?
 Q25 食事療法はどのように行われますか?
第5章 てんかん発作時・発作後の対応
 Q26 病棟でてんかん発作が起こった場合,どのように対応すればよいですか?
 Q27 てんかんのある人が一般病棟に入院した場合,看護師はどのような工夫をすればよいですか?
 Q28 リハビリ中にてんかん発作が起こった場合,どのように対応すればよいですか?
 Q29 学校でてんかん発作が起こった場合,どのように対応すればよいですか?
 Q30 自宅でてんかん発作が起こった場合の対応を,家族にどのように指導すればよいですか?
 Q31 保護帽とはどのようなものですか?
第6章 てんかんのリハビリ
 Q32 てんかん発作時・発作後の高次脳機能障害(言語・記憶障害を中心に)にはどのようなものがありますか?
 Q33 小児の発達はどのように評価・介入をしますか?
  症例
 Q34 成人の高次脳機能障害はどのように評価・介入をしますか?
  症例
 Q35 医療スタッフはてんかん外科手術前後にどのような検査・支援を行いますか?
 Q36 思春期のてんかんのある人にはどのような問題がありますか?
 Q37 てんかん病棟で看護師はどのような工夫をすればよいですか?
  症例
 Q38 疾病教育はどのように行いますか?
  症例
 Q39 ストレスマネージメントはどのような目的で,どのように行いますか?
  症例
 Q40 易怒性のある人にはどのような介入を行えばよいですか?
  症例
 Q41 うつ状態の人にはどのような介入を行えばよいですか?
  症例1
  症例2(薬物療法以外で)
 Q42 家族支援はどのように行いますか?どのようなことを意識すればよいですか?
  症例
 Q43 心理士はどのように評価・介入をしますか?
 Q44 OTは患児にどのように評価・介入をしますか?
 Q45 OTは患者にどのように評価・介入をしますか?
 Q46 STは患児にどのように評価・介入をしますか?
 Q47 STは患者にどのように評価・介入をしますか?
 Q48 PTはどのように評価・介入をしますか?
 Q49 多職種連携(チーム医療)はどのように行うとよいですか?
  事例1
  事例2
  事例3
  事例4
  事例5
第7章 てんかんの生活支援
 Q50 決められた通りに服薬しない患者にはどのように指導を行うとよいですか?
 Q51 生活リズムが乱れている患者にはどのように指導を行うとよいですか?
 Q52 てんかんのある人も子どもを産むことができますか?
 Q53 どのような福祉サービスを利用できますか?
 Q54 就労したい人が利用できる制度や支援機関はありますか?
 Q55 進学・復学の支援はどのように行うとよいですか?
  症例
 Q56 就労支援はどのように行うとよいですか?
  症例
 Q57 てんかんのある人は運転できますか?

 索引