やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 これまで,解剖学,生理学,運動学の3基礎科学に関連した書籍は,数多く発刊されている.しかし,それらの学問は個別的に体系化されたもので,医療系分野の教育カリキュラム編成においても,それぞれの学問的見地より個別的に教授されている.そのため,理学療法士・作業療法士を含む看護師,言語聴覚士,介護福祉士などを目指す学生には,縦割り式的に学習した各科目の知識・技能を統合する能力が要求される.これは,いかなる専門分野についても同様なことが言える.つまり,上記のごとく,学生には個別的に学習・修学する科目を統合する高い能力が求められるのである.
 しかし,初等教育とは異なり高度に細分化されて発展した基礎科学の学問体系を大学や専修学校などの高等教育水準で教授する教員に対して,統合された形態で授業を行うことを期待することは,至極難解であろう.とはいえ,各科目を担当する教員の心がけとしては,学生の立場を十分に考慮したうえで,可能な範囲で関連科目との関係性を念頭に置いて教授することが望ましいと考える.
 今後の医療系大学教育では,実際の臨床場面で勤務する関連専門職種との対話と連携とを通じて,現実的な保健・医療・福祉領域の動向を的確に掌握し,社会の要請に応えるために,適時柔軟にカリキュラムを再編成して善処することが望まれる.リハビリテーション医療領域における関連専門職者は,あらゆる臨床場面で日常的に遭遇する対象者を診る,もしくは観察する際に,さまざまな学問を基軸にした臨床推論力で日々の生活の基盤となる動作を分析統合できる能力が求められるからである.なお,通常の人間の生活をはじめ,作業やスポーツなどの遂行場面では,反射(reflex),反応(reaction),動作(motion),行為(action),行動(behavior)が連動していることは言うまでもない.本書では動作分析とその統合を主眼としているが,本書の執筆者には可能な限り基礎科学との関係性を念頭に置いて解説していただくことをお願いした.
 本書では『解剖学・生理学・運動学に基づく動作分析』とのタイトルのごとく,基礎科学の分野の総合的視点から,より具体的かつ包括的内容を提供して,統合的に学習可能な書籍となるように努めた.よって,本書は,主にリハビリテーション医療領域の初学者や若手専門職者に役立つことを願っている.なお,本書の特徴は,基本的な側面から生活に関連することまで,日常的に繰り返される身近な動作に焦点を絞って,基礎科学的視点からリハビリテーション医療領域において応用可能な統合された知識・技能の学習・修学の一助になることに心がけたことである.
 2017年12月
 編著者代表 奈良 勲
第1章 リハビリテーション医療の基礎知識
 1.解剖学(身体の構造)の概要(佐藤香緒里)
 2.生理学(身体の作用・機能)の概要(松川寛二)
 3.運動学(身体の運動・動作)の概要(木林 勉)
 4.廃用症候学(山崎俊明)
第2章 解剖学・生理学・運動学に基づくさまざまな動作の分析と統合
 1.国際生活機能分類とそれに準じた簡易総合評価(内山 靖・奈良 勲)
 2.臥位からの立ち上がり・立位・片足立ち(角田晃啓・松尾善美)
 3.車いす・車いす座位(渡辺豊明)
 4.歩行(木林 勉)
 5.ステップと跨ぎ(上村一貴・内山 靖)
 6.階段昇降(小島 悟)
 7.走行(永井将太)
 8.投げる(立花 孝・亀田 淳)
 9.姿勢保持と制御(立位・座位)(淺井 仁)
第3章 解剖学・生理学・運動学に基づく日常生活活動の分析と統合
 1.作業分析学(清水順市)
 2.言語的コミュニケーション機能の分析と統合(能登谷晶子)
 3.リハビリテーション医療分野における行動分析学(奥田裕紀)
 4.精神疾患者の作業療法と理学療法
  精神疾患者の作業療法(畑田早苗)
  精神およびメンタルヘルス関連疾患の理学療法─ヨーロッパを中心とした世界の動向─(山本大誠)
 5.栄養と食事(渡邉直子・若林秀隆)
 6.調理(岡部拓大)
 7.排尿・排便(河野光伸)
 8.更衣・整容(鈴木 誠)
 9.入浴(磯 直樹)
 10.高次脳機能からみた日常生活活動(網本 和・能登真一)

 索引

 コラム
  (1)臨床におけることばは医療行為の要でごわんす!(奈良 勲)
  (2)テーブル上のコップの中の水を飲む(河野光伸・木林 勉)
  (3)「持ち上げ」動作の科学(藤村昌彦)
  (4)ゴルフ動作の科学─コーチを行う際に対象の機能不全水準をどう考慮するか─(浦辺幸夫)
  (5)“精神疾患患者の理学療法”への挑戦(加賀野井聖二)
  (6)脊髄損傷者のトランスファー(佐藤貴一)
  (7)車いすテニスの極意(三木拓也)
  (8)脳血管損傷者の自動車運転再開支援(高間達也)
  (9)コミュニケーション・ロボットを活用した認知症を呈する人々に対するケア(井上 薫)
  (10)作業療法士が担うスプリント療法の現状と課題(猪狩もとみ)
  (11)入院期間の短い急性期病院における理学療法士と作業療法士の協働(松村真裕美・亀井絵理奈)
  (12)こども療育センターの役割の変遷に想う(辻 清張・気谷祥子)
  (13)回復期リハビリテーション病棟における理学療法士と作業療法士の二人三脚(津田浩史・山田 唯)
  (14)介護老人保健施設における理学療法士と作業療法士の二人三脚(須子智浩・矢野浩二)
  (15)在宅における理学療法士と作業療法士の二人三脚─役割をもって在宅生活を送るための支援─(金谷さとみ・横田里奈)
  (16)認知症病棟における理学療法士と作業療法士の二人三脚(山中裕司・長尾巴也)
  (17)緩和ケア病棟における理学療法士と作業療法士の二人三脚(伊藤美希・俵屋真弥)
  (18)褥瘡の予防と治療の進歩(須釜淳子)
  (19)運動生理学的負荷量の調整(関川清一)
  (20)運動器疾患の基礎科学的病態を診る(森山英樹)
  (21)個々人のニーズに応えるための身体の理解とフィールドワークの意義(浜村明徳)