やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦の序
 生理学実験で痛み刺激や生体に侵襲を与える刺激を侵害刺激といいます.侵害刺激は刺激中,末梢血管を収縮させ,心拍数を増加させます.しかし刺鍼刺激は刺激中,末梢血管を収縮させますが心拍数を増加させず低下させます.刺鍼は生体に傷を与えることは確かです.しかし,痛み刺激が心拍数を増加させるのに,刺鍼は低下させ,生体反応は明らかに異なります.刺鍼は侵害刺激ではないのです.そこに生体に傷を与えながら機能としての治療技術があります.
 鍼灸治療は,中国から日本に伝来しています.しかし我が国では,17世紀に杉山和一により技術革新が行われ,痛みを与えずに治療技術としての刺鍼技術に「管鍼法」という画期的な,独自な発展を遂げています.
 鍼灸の4年制大学での学部,学科が6大学になりました.その6大学の2校には大学院修士課程が,1校には博士課程があります.大学院大学も1校できました.我が国鍼灸の世界に本格的な高等教育機関時代が始まりました.
 伝統的,経験的技術の伝承に止まらず,科学的視点に立った学問としての科学的技術として発展できなければなりません.人間のもつ機能が総合されて発展し伝えられてきたのが伝統的経験医術です.新たな視点に立って現代科学技術により新しくつくりだされるものとは違います.「人間のもつ機能が総合されて発展し伝えられてきた」という明確な目標があります.この目標こそが科学的視点に立ち学問として展開する時に忘れてはならない基準です.
 「鍼灸基礎実習評価基準」は,治療技術としての鍼灸術の最も基礎をつくる部分です.
 今般,鍼灸の大学関係者が協力して本書を世に問う意味は大きいものがあります.鍼灸治療技術を科学的視点に立って学問化してゆくスタートです.本書は学問として研究を進め発展させなければなりません.当然,その先に「鍼灸臨床実習評価基準」があります.
 今日,我が国の鍼灸国家試験に実技試験がないという批判の声を多く聞きます.国家試験に実技試験を導入できるのは,科学的学問としての「鍼灸基礎・臨床実習評価基準」ができた時に始めて導入の検討ができるようになるわけです.本書はその第一歩のスタートです.鍼灸高等教育機関時代の本格的スタートにふさわしい本書の出版です.世の多くの人々のご指導,ご支援,ご協力を得て本書が発展してゆくことを祈念いたし,本書推薦の序といたします.
 2008年12月
 日本伝統医療科学大学院大学初代(前)学長
 筑波技術短期大学(前)学長(国立短期大学)
 医学博士 西條一止

発行にあたって
 医学教育ではすでに2001年に医学教育モデル・コア・カリキュラムが策定され,それに沿った共通の試験(共用試験)が実施されています.鍼灸学教育においてもモデル・コア・カリキュラムを導入して,学習内容の標準化を図り,それに沿った教育によって,学生個々の「知識」を広め「技能」を高めることが肝要なことと考えます.
 鍼灸学系各大学の教育カリキュラムの60〜70%は基本である共通の学習到達目標に基づき,残りの30〜40%は独自の教育理念により定められた目標に基づくものであり,学習到達目標や評価方法などは文書やインターネット上で公開することなどで教育の質が保障されています.その根拠となるものがシラバスになります.
 鍼灸の実技実習においては多くの場合,教員の個人的な能力に基づく評価方法が行われています.講義形式であれば筆記試験により,ある程度客観的に評価できますが,実技実習形式では統一性,一貫性,透明性が担保されていないのが現状です.シラバスを作成する際には,その授業の成績評価基準等が明確に記述されなければなりません.鍼灸手技の実習評価でも客観性のある成績評価基準が問われています.
 そこで,ステップアップ式学習法による鍼灸実技評価基準を編成し,世に知らしめ,社会的承認を得ることが求められています.
 本書は,各大学の鍼灸基礎実習の授業担当者が,鍼灸基礎実習の評価基準の標準化・共通化について検討し,まとめたものです.今後,教材として鍼灸実習教育で活用していただければ幸いです.
 皆様方のご意見をいただいて,さらに良いものにしてまいりたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします.
 2008年12月
 編著者 森 英俊
     佐々木和郎
 推薦の序(西條一止)
 発行にあたって(森 英俊・佐々木和郎)
I.鍼実技編
 1.刺鍼にあたっての心構え
 2.鍼灸医療に求められる「安全性」
  1)有害事象の情報開示
  2)安全で正確な技術習得とその課題
 3.刺鍼の基本手技(術式)
 4.刺鍼のための手つくり
 5.管鍼法における刺鍼の手順
  1)刺鍼にあたっての注意
   (1)施術者の姿勢
   (2)用具の滅菌・管理
   (3)手洗い・手指消毒
  2)管鍼法における刺鍼の流れ
   (1)刺鍼部位の消毒
   (2)前揉捏
   (3)押手の決定
    (1) 左右圧(水平圧) (2) 上下圧(垂直圧) (3) 固定圧(周囲圧)
   (4)鍼の弾入・切皮
   (5)旋撚刺入
   (6)抜鍼
   (7)後揉捏
   (8)術後の消毒
  ※ 鍼基礎実習において銀鍼を使用する理由
  参考文献
II.鍼基礎実習 評価基準
  * 教育目標/到達目標/評価基準/判定基準
  * 評価記載方法/評価項目の判定方法
 第1段階 鍼施術前準備
  心構え/態度/服装/手洗い/消毒/総合/各項目の補足
 第2段階 刺鍼前準備
  消毒/器具/姿勢/前揉捏/押手/総合/各項目の補足
 第3段階 片手挿管
  姿勢/正確性/迅速性/円滑性/巧緻性/総合/各項目の補足
 第4段階 刺鍼練習台への切皮・刺入
  姿勢/押手/立管/切皮/刺入/抜鍼/総合/各項目の補足
 第5段階 身体への切皮
  姿勢/消毒/押手/鍼管/切皮/抜鍼/総合/各項目の補足
 第6段階 身体への刺入
  姿勢/消毒/押手/切皮/刺入/鍼測/抜鍼/総合/各項目の補足
 第7段階 身体への刺入
  姿勢/消毒/押手/切皮/刺入/計測/抜鍼/総合/各項目の補足
III.灸実技編
 1.施灸にあたっての心構え
 2.鍼灸医療に求められる「安全性」
  1)施灸による有害事象の報告
  2)安全で正確な技術習得とその課題
 3.施灸の基本手技(術式)
  1)有痕灸の種類
   (1)透熱灸
   (2)焦灼灸
   (3)打膿灸
  2)無痕灸の種類
   (1)知熱灸
   (2)隔物灸
   (3)温灸:棒灸,円筒灸,器械灸(箱灸など)
 4.施灸のための手つくり
  1)艾シュの作製
   (1)指の動き
   (2)艾シュの成形
   (3)艾シュの立置
  2)線香による艾シュへの点火
 5.施灸の手順
  1)施灸にあたっての注意
   (1)施術者の姿勢
   (2)手洗い・手指消毒
  2)施灸の流れ
   (1)線香への点火
   (2)線香の持ち方
   (3)艾シュの作製
   (4)施灸前の施灸部消毒
   (5)艾シュへの点火の要領
   (6)灰の処理
   (7)施灸後の施灸部消毒
  参考文献
IV.灸基礎実習 評価基準
  * 教育目標/到達目標/評価基準/判定基準
  * 評価記載方法/評価項目の判定方法
 第1段階 灸施術前準備
  心構え/態度/服装/手洗い/消毒/総合/各項目の補足
 第2段階 施灸前準備
  消毒/器具/艾/姿勢/総合/各項目の補足
 第3段階 点火
  姿勢/正確性/迅速性/円滑性/巧緻性/総合/各項目の補足
 第4段階 施灸基礎
  消毒/取穴/艾/点火/除灰/総合/各項目の補足
V.鍼灸の効果 身体における自律神経系に及ぼす作用
 1.鍼刺激が循環器系に及ぼす作用
  1)血圧,心拍数,心拍変動
  2)皮膚血流
  3)末梢循環障害に対する臨床研究
  4)筋血流
  文献
 2.鍼刺激が消化器系に及ぼす作用
  1)胃運動
  2)胃酸分泌
  3)腸運動
  文献
 3.鍼刺激が泌尿器系に及ぼす作用
  1)過活動膀胱
  2)脊髄損傷
  3)前立腺肥大症・間質性膀胱炎
  文献
 4.鍼刺激が瞳孔反応に及ぼす作用
  1)瞳孔反応
  2)眼底血流
  文献
 5.鍼刺激が内分泌系に及ぼす作用
  文献