やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 われわれの日本超音波骨軟組織学会が正式に設立されたのは平成13年3月である.運動器領域における骨・軟部組織を対象とする超音波研究会として藤田紀盛会長のもとに,前組織を発展解消し再構築された.平成16年3月には法人格を有する学会として設立登記され,会員も800人余りとなり,多くは柔道整復師である.
 一方,柔道整復師の超音波検査機器取り扱いにおける厚生労働省の見解は,平成15年9月に「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については,柔道整復の業務の中で行われていることもある.」との回答(厚生労働省医政局医事課長)があり,その使用を正式に認めたものと考えられる.
 したがって,本学会では学会活動の一環として,会員の走査技術向上を図るために,超音波観察法の実技指導を行い,教育セミナーとして開催している.受講生の技術レベルにより,入門,初級,中級へとグレードアップできる機会が設けられている.
 本書「入門 運動器の超音波観察法」は学会教育セミナーのテキストであると同時に,臨床に際して,運動器の超音波観察のための入門書として編集したものである.
 最近の超音波機器は技術革新によって,画像の解像度もよく,鮮明化され,また小型化も進み取り扱いが簡便である.日常臨床の現場はもちろんのこと,出張診療やスポーツ競技会場などの現場への持参も容易にでき,より的確な病態把握や判断が可能となっている.超音波機器のイノベーションとともにそれを扱う施術者のスキルアップもなされなければならない.
 外傷性の疾患を扱う施術者としては,正確な病態把握をすることがまず必要である.そのための検査機器として,柔道整復師が自らの業務の中で用いることが可能であり,客観的な評価ができる唯一の機器が超音波観察装置である.日常の臨床でより正確な判断をするために,超音波観察装置を用いて傷害部位の病態把握を行っている事実を,患者はもとより,社会の人々へ周知する努力が必要である.さらに,われわれ自らが超音波検査について基礎的,臨床的に大いに研修して,他の医療関係職の方々にも,そのエキスパートとして認められる必要があると考える.そのためにも,本学会で,さらなる研鑽が必要不可欠であり,教育セミナーを通じて超音波技術研修の輪を広げていただきたいと願っている.また,超音波観察が柔道整復師を養成する教育課程の中に組み入れられる必要がある.
 この小さな著書が多くの方々に役立つ存在となることを祈念している.
 本書の構成,ならびに執筆者は以下のとおりである.
 第1章 超音波工学の基礎:中村辰三,曽山良之輔
 第2章 超音波画像のみ方・よみ方:上肢編・柳田雅彦,下肢編・曽山良之輔
 第3章 臨床応用/六大関節の典型症例:増田雅保
 なお黒田康史評議員にはイラストのご協力をいただき感謝します.あわせて,本書に先立ち平成17年以来,本学会入会者に配布してきた『超音波観察入門』の著作委員嶋木敏輝理事のご功績に深謝いたします.
 平成20年4月
 著者代表 中村辰三
 序文
第1章 超音波工学の基礎
 はじめに
 1.超音波検査装置とその原理
 2.波の要素
 3.表示法
 4.走査様式
 5.画像の成り立ち
 6.超音波の周波数による特徴
 7.エコーレベル
 8.アーチファクト
 9.超音波検査装置活用のすすめ
第2章 超音波画像のみ方・よみ方
  1.画像の描出の基本
  2.超音波観察のコツ
 I.上肢編
  1.肩関節の観察
  2.腱板の観察
  3.肘の観察
   前方走査 外方走査 内方走査 後方走査
  4.手関節・指部の観察
 II.下肢編
  1.股関節の観察
  2.大腿部の観察
  3.膝の観察
  4.下腿部の観察
  5.足部の観察
第3章 臨床応用/六大関節の典型症例
 はじめに
  上腕二頭筋長頭腱炎 橈骨頸部骨折 橈骨遠位端骨折 股関節捻挫・単純性関節水腫 大腿部肉ばなれ オスグッド病 アキレス腱炎 第5中足骨骨折

 参考文献