やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 柔道整復師は多くの競技者にとって,もっとも近い医療関係者であるといっても過言ではありません.一度もけがをしたことがないという競技者は少なく,多くの競技者は接骨院や鍼灸院,整形外科に通院経験があり,多くの柔道整復師に出会い,治療だけでなく話をした一言ひとことに影響を受けていることでしょう.学生の皆さんも同じように影響を受けて,今この本を読んでいるのかもしれません.
 2018年の柔道整復師新カリキュラムが制定されるにあたり,競技者特有の外傷・障害に対し,治療・施術を行うだけでなく,予防対策を学び実践していくことが時代の流れとして求められています.
 これまで柔道整復師の役割は,競技者を治す・治せることが一番と考えられがちであったと思いますが,一度接骨院に来院した競技者が,受傷した外傷を自ら理解し,セルフコンディショニングなどを行って二度と受傷せず来院しないほうがわれわれの業務としては幸せなことだと思います.何度も来院して接骨院の常連になることは,競技者は本来望んでいないはずです.ですから,柔道整復師には外傷の治療で来院した競技者に外傷予防や再発予防トレーニングなどを実施できるような知識・技術を獲得し,開業した際にはそのようなトレーニングが可能な新しいスタイルのハイブリッドな施設となるよう目指していってほしいと考えます.
 学生時代は国家試験に合格するため多くのことを覚え学んでいきますが,教科書に書いてある内容は正しいものとは限りません.本書に記載した内容も今現在は正しいと思いますが,10年後には新しい知見が報告され,異なる方法のほうが優れている,あるいは外傷予防にはこのような方法が効果的であるなどと変わっていくこともあるでしょう.日々多くの研究者や現場で活動している方々が悩み苦しみながら競技者と一緒に外傷予防に関し考え,実践しています.時代とともに医学・科学は進歩していくのです.競技者,患者のために常に最先端の知識に目をくばり,自らの目で正しいことを取捨選択し,競技者を正しい情報,知識のもと全力でサポートしていってほしいと考えます.
 本書は学生が教科書として使用するだけでなく,卒業後も活用できる内容を目指して執筆いたしました.卒業後もデスクの片隅に置き,役立てていただければ著者としてうれしく思います.
 最後に執筆にあたり,多くの意見を交換しご助言をいただきました医歯薬出版編集部,執筆・写真撮影に協力をしてくださった競技者の皆様や関係大学の先生方,このような機会をいただきました公益社団法人全国柔道整復学校協会・教科書委員会の皆様に深謝いたします.
 2019年2月
 著者
1 運動生理学の概要
 (橋康輝)
 A 運動が生体に与える影響
  1 運動のメリット
   a.運動による骨や筋肉の増強
   b.運動による心肺機能の向上
   c.運動によるストレスの解消効果
  2 運動のデメリット
   a.運動が身体に与える物理的衝撃によるリスク
   b.運動が心臓血管系のイベント(狭心症・心筋梗塞の発作,重篤な不整脈の発現)を引き起こすリスク
 B 運動とエネルギー代謝
  1 無酸素性エネルギー供給機構
   a.ATP-CP系(ハイパワー)
   b.解糖系(ミドルパワー)
   c.無酸素パワーを必要とする競技
  2 有酸素性エネルギー供給機構(ローパワー)
  3 運動強度の違いによるエネルギー供給機構の動員割合
 C 運動と骨・筋肉
  1 運動による骨の増強
  2 運動と筋力
   a.筋繊維タイプと運動単位
   b.筋の収縮様式について
   c.筋パワー
   d.筋疲労
 D 運動と呼吸・循環
  1 呼吸
   a.呼吸中枢
   b.心理的要因が呼吸に及ぼす影響
  2 酸素摂取量
   a.最大酸素摂取量
   b.無酸素性作業閾値
   c.酸素借と酸素負債
  3 循環
   a.心臓・血管のポンプ機能
   b.運動中の血圧上昇
   c.心臓にかかる負荷と心臓の適応(スポーツ心臓)
 E 運動とホルモン
  1 運動により変化するホルモン
  2 運動による骨格筋や骨の成長とホルモン
  3 性ホルモン
 F 競技者の運動生理学的特徴
  1 競技者の有酸素性作業能力
  2 競技特性と間欠的作業能力
  3 競技者の形態および身体組成
2 競技者の外傷予防――概論
 (小林直行)
 A 競技者の外傷予防の概要
  1 競技者の外傷発生状況
  2 競技者の外傷治療の歴史と治療から予防への考え方の変化
 B 外傷の発生要因
  1 内的要因
   a.年齢(成熟度)
   b.性別
   c.身体特性
   d.運動器の形態
   e.健康状態
  2 外的要因
   a.環境
   b.人的要因
   c.用具
   d.補装具
  3 外傷への直接的誘発要因
   a.外力の作用
   b.受傷状況・動作
   c.他者との関係
 C 外傷の予防対策
  1 外傷の予防対策作成の流れ
  2 外傷の実態把握および競技者の外傷の発生しやすい状況
  3 競技者の外傷の予防対策
3 競技者の外傷予防のための実技
 (小林直行)
 A メディカルチェック―評価と測定
  1 全身関節弛緩性テスト
  2 筋タイトネステスト
   a.下肢の筋タイトネステスト
   b.肩関節のタイトネステスト
  3 アライメント測定
   a.Q-angle
   b.Leg-heel alignment
 B 外傷予防に必要なコンディショニングの方法と実際
  1 ローラーによるセルフケアの方法と実際
  2 アイシングの方法と実際
  3 ストレッチングの方法と実際
   a.肩部のストレッチング
   b.腰背部のストレッチング
   c.大腿部のストレッチング
   d.殿部のストレッチング
   e.股関節のストレッチング(内旋・外旋)
   f.腸腰筋のストレッチング
   g.下腿のストレッチング
  4 スポーツマッサージの方法と実際
   a.スポーツマッサージの実際
  5 スポーツテーピングの方法と実際
   a.スポーツテーピングの実際
   b.競技におけるテーピング
   c.キネシオテーピング
  6 外傷予防に必要な筋力トレーニングの実際
   a.胸郭部の柔軟性および可動性向上トレーニング
   b.肩甲帯のトレーニング
   c.回旋筋腱板のトレーニング
   d.スタビリティトレーニング
   e.骨盤周囲のトレーニング
   f.下肢のトレーニング
   g.ハムストリングスのトレーニング
   h.動的ストレッチングと筋活動の活性化トレーニング(ムーブメント・プレパレーション)
4 種目別の外傷予防とその実際
 A 柔道における肩関節の外傷予防(小林直行)
  1 肩関節の受傷メカニズム
  2 肩関節の外傷予防トレーニングの立案
  3 肩関節の外傷予防トレーニングの実際
   a.肩甲帯,胸郭の可動性向上トレーニング
   b.肩甲帯のトレーニング
 B 水泳における体幹の傷害予防
  1 体幹の受傷メカニズム
   a.非特異的腰痛
   b.伸展型の腰痛
   c.屈曲型の腰痛
  2 体幹の傷害予防トレーニングの立案
  3 体幹の傷害予防トレーニングの実際
   a.胸椎・胸郭の可動性向上トレーニング
   b.腰背部・下肢筋群のストレッチング
   c.体幹筋群の強化
 C バスケットボールにおける膝関節の外傷予防
  1 ACL損傷の受傷メカニズム
  2 ACL損傷の外傷予防トレーニングの立案
  3 ACL損傷の外傷予防トレーニングの実際
   a.下肢の安定性向上トレーニング
   b.ジャンプトレーニング
   c.アジリティトレーニング
 D サッカーにおける足関節の外傷予防
  1 足関節の受傷メカニズム
  2 足関節の外傷予防トレーニングの立案
  3 足関節の外傷予防トレーニングの実際
   a.外側荷重改善トレーニング
   b.腓骨筋群のトレーニング
   c.関節位置覚改善トレーニング
   d.バランストレーニング
   e.動的バランストレーニング
 E 成長期の外傷予防
  1 オズグッド・シュラッター病の外傷予防
  2 オズグッド・シュラッター病の発生メカニズム
  3 オズグッド・シュラッター病の外傷予防の立案
  4 オズグッド・シュラッター病の外傷予防対策
   a.脛骨粗面のチェック
   b.セルフコンディショニングの実施
 F 高齢者の外傷予防(橋康輝)
  1 高齢者の受傷メカニズム
  2 高齢者の外傷予防エクササイズの立案
  3 高齢者の外傷予防エクササイズの実際
   a.柔軟性の改善エクササイズ
   b.筋力トレーニング
   c.骨密度の維持・改善エクササイズ
   d.バランスエクササイズ
   e.呼吸機能改善エクササイズ

 索引