やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 今日,「緩和医療」に関する認識は高まっている.報道によると,この1年で約25万人の人口が減り,人口の4分の1が65歳以上になったという.少子高齢化とともに人口減少が進み,緩和医療はこれらの問題のエンドポイントで重要な役割を果たす.
 緩和医療のみを語るのであれば,緩和医療専門の医師がたくさんおり,外科医である筆者が執筆していることに違和感があるかもしれない.しかし,筆者の世代の外科医は,外科治療から緩和医療まで,全体に携わっており,外科医が緩和医療に重きを置くのは自然な流れである.外科治療の最終局面では緩和医療と対峙するが,その際,鍼灸医学が緩和医療に極めて高い親和性をもつことに気づき,このマニュアルにまとめた.
 このマニュアルで述べられる鍼灸治療について,外科医の観点から述べておきたい.鍼灸治療は,まさに非常に小さな刺激によってもたらされている.外科医は患者に大きな負担をかける立場にあるので,それとは正反対の立ち位置にあり,その施術は緩和医療にベストマッチングなのである.緩和医療の現場では,鍼灸治療は患者への福音となっている.この10年間,外科診療の中で外科担当の鍼灸師とともに鍼灸治療をみてきた.よく頑張ってくれたことに心から感謝している.
 この「緩和ケア鍼灸マニュアル」は,鍼灸師が医療従事者のひとりとして,緩和ケアチームに加わるために必要な知識をコンパクトにまとめた入門書として,鍼灸師をターゲットに絞った内容となっている.このマニュアルをきっかけとして,鍼灸師の方たちが緩和医療をより深く理解され,緩和医療の分野への扉をぜひ開けていただきたい.
 さらに筆者にとって,外科診療における鍼灸治療は当たり前で,自然なものとなっているが,一般臨床医には縁遠いかもしれない.そのような医師を含めた緩和ケアチームのメンバーが,鍼灸治療とはどういうものか,緩和医療ではどんな役割を担ってくれるのかを理解するのにも最適な書としてお薦めできる.
 平成26年4月
 糸井啓純
 序文
 緩和ケアに関連する基本的な用語
A 緩和医療
 1 緩和ケア概論
 2 がんの痛みの評価と治療
B 鍼灸師に期待される資質と緩和ケアへの姿勢
 1 チーム医療と緩和ケア
 2 チーム医療に参加する鍼灸師の要件
 3 緩和ケアへの姿勢
 4 「緩和的鍼灸医療」のパイオニアが求められること
 5 医師に対する緩和ケア研修システム「PEACEプロジェクト」
C 緩和医療の実際
 1 一般的症状,その評価と鍼灸治療
  1.疼痛とそのマネージメント
  2.消化器系愁訴
  3.呼吸器系愁訴
  4.皮膚の愁訴
  5.腎・尿路系愁訴
  6.神経系愁訴
  7.運動器系愁訴
  8.精神症状
  9.胸水,腹水,心嚢水,浮腫
  10.東洋医学のアプローチ
 2 放射線治療の基礎知識
 3 腫瘍学についての理解
 4 心理・社会的側面
 5 スピリチュアリティ
 6 緩和医療と倫理
D 研究と教育
E 鍼灸治療症例
 I.鍼灸治療例:日本式の微鍼による鍼治療
 II.著効症例
 III.症例:緩和ケアチームへの貢献
付 鍼灸師のための緩和医療研修カリキュラム(案)

 あとがき
 索引