やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 鍼灸治療の対象患者は従来から高齢者が多くを占めています.近年は高齢化が特に著しく,高齢者の増加とともに「虚弱高齢者」や身体の不自由度が高いために「介助・介護を要する高齢者」が増加の一途をたどっています.このような状況にあって,鍼灸治療の受診患者も介助・介護を必要とする不自由度の顕著な高齢者が増えており,鍼灸院などへの通院可能な,自立度の高い患者への対応のテクニックのみでは対応できない場合が生じていると思われます.
 したがって,今後,鍼灸臨床を行っていくためには,心身の障害があって介助・介護を必要とする高齢者の心身の特徴の理解とともに,介護・介助の知識とテクニックを持つことが必要となり,さらに高齢者保健・福祉,介護等の制度も理解して,本人および家族の相談に応じ,制度の活用をアドバイスできることが必要となってきております.
 そこで,老年医学と鍼灸医学を統合した新しい鍼灸医療の分野として創設し,明治国際医療大学で教育されている「高齢鍼灸学(旧・老年鍼灸学)」の内容をもとに,本書を作成しました.
 本書は,虚弱高齢者や要介護高齢者に対する臨床において必要な鍼灸医療および保健・福祉・介護(ケア)に関する「知識と技術」について述べたものであり,鍼灸の臨床や教育にご活用頂けることを願っております.本書を日々の臨床や教育に少しでもお役立て頂ければ幸甚です.
 最後に,本書の出版にあたりご協力,ご尽力頂きました医歯薬出版の竹内大氏をはじめスタッフの方々に深く感謝いたします.
 2013年2月吉日
 編著者 松本 勅
 著 者 江川 雅人
     北小路博司
     鶴  浩幸
     廣  正基
 序文
第1章 高齢化の現状および今後の課題
 1.高齢化の実態
  1)人口動態と疾病の推移 2)高齢化社会,高齢社会
  3)年齢別人口および年齢3区分別人口の推移 4)平均寿命と健康寿命
 2.高齢者の健康と愁訴
  1)高齢者の健康状態 2)医療機関への受療状況
  3)愁訴の種類と有訴者率
 3.高齢者の問題と今後の課題
  1)高齢者の諸問題 2)将来へ向けての主な課題
第2章 老化および高齢者の疾病の特徴と対応
 1.老化について
  1)老化の概念,メカニズム 2)東洋医学にみる老化
 2.高齢者の疾病の特徴,代表的疾病
  1)高齢者の疾病の特徴 2)高齢者にみられやすい主な疾患,問題点
 3.高齢者への対応
  1)敬愛の念 2)老年期の心身の特徴 3)日本の老年期の人格の特徴
第3章 高齢者に特有な病態,介助の基礎と評価法
 1.高齢者に特有な病態(老年症候群)
  1)認知障害(認知症,健忘症候群) 2)精神障害(うつ状態,うつ病)
  3)尿路障害(排尿障害) 4)視聴覚障害 5)転倒,骨折
  6)姿勢異常 7)歩行異常 8)寝たきり 9)褥瘡
 2.介助の基礎
  1)車いすで移動の介助 2)移乗動作 3)体位変換
 3.高齢者の評価法
  1)高齢者総合的機能評価(老年医学的総合評価:CGA)とは
  2)その他の各種評価票 3)障害高齢者・認知症性高齢者の日常生活自立度
第4章 高齢者に対する鍼灸治療の役割
 1.主な鍼灸治療研究
  1)特別養護老人ホームおよびケアハウス入所者に対する鍼灸治療の成績
  2)鍼治療による歩行速度の変化 3)鍼灸治療による姿勢の変化
  4)鍼治療による夜間頻尿の変化
  5)その他の研究結果(シルバー鍼灸等調査研究事業など)
 2.高齢者に対する鍼灸治療の役割
  1)シルバー鍼灸マッサージ等調査研究およびその他の研究による鍼灸治療の効果
  2)鍼灸治療の役割
第5章 高齢者に対する鍼灸臨床の実際
 1.頸部痛・頸腕痛
  1)筋・筋膜性頸部痛 2)変形性頸椎症 3)後縦靭帯骨化症・石灰化症
  4)黄色靭帯骨化症・石灰化症 5)黄色靭帯肥厚症
 2.肩痛
  1)肩の痛みの原因 2)肩関節周囲炎
 3.背部痛
  1)背部痛の原因 2)胸郭の構造と機能(機能解剖)
  3)筋・筋膜性背部痛 4)胸椎の椎体圧迫骨折
  5)骨粗鬆症による円背形成後の背部痛
 4.腰痛・腰下肢痛
  1)原因 2)主な診察所見 3)鍼灸治療
 5.股関節痛
  1)股関節の構造と機能(機能解剖) 2)股関節痛の原因
  3)変形性股関節症 4)大腿骨頸部骨折
 6.膝痛
  1)膝の構造と機能(機能解剖) 2)膝の痛みの原因
  3)変形性膝関節症
 7.パーキンソン病(パーキンソン症候群)
  1)パーキンソン病,パーキンソン症候群とは 2)症状
  3)重症度判定と評価方法 4)治療方法 5)鍼灸治療
 8.うつ病(うつ状態)
  1)うつ病とは(定義等) 2)頻度 3)症状
  4)診断と評価法 5)治療方法 6)鍼灸治療
 9.慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  1)慢性閉塞性肺疾患とは 2)病態 3)原因
  4)頻度 5)症状 6)検査所見
  7)一般治療 8)鍼灸治療
 10.高齢者高血圧(本態性高血圧)
  1)病態 2)診察のポイント 3)鍼灸治療
 11.虚血性心疾患(狭心症,心筋梗塞,無症候性心筋虚血)
  1)高齢者の虚血性心疾患の病態 2)診察のポイント 3)鍼灸治療
 12.不整脈
  1)病態 2)診察のポイント 3)鍼灸治療
 13.便秘
  1)便秘とは 2)大腸の構造と排便の生理 3)便秘の種類と病態
  4)便秘の症状 5)便秘の現代医学的診断 6)便秘の鍼灸臨床
 14.皮膚疾患・皮膚症状
  1)皮膚の構造と作用 2)高齢者にみられる皮膚の加齢現象
  3)高齢者にみられる皮膚疾患と症状 4)皮膚の機能と東洋医学
  5)加齢に伴う皮膚症状に対する鍼灸治療方法
 15.泌尿器障害
  1)高齢者の尿路障害と3Msについて
  2)鍼灸施術所に来院する高齢者の泌尿器系愁訴の保有率
  3)下部尿路症状とは 4)過活動膀胱について
  5)前立腺肥大症について 6)まとめ
 16.視聴覚障害
  A.視覚障害
   1)白内障 2)緑内障
  B.聴覚障害
   1)耳鳴・難聴 2)めまい
第6章 高齢者の保健・福祉
 1.医療保険制度
  1)わが国の医療保険制度 2)一部負担金(自己負担)
  3)高額療養費制度
 2.高齢者の福祉制度
  1)高齢者福祉制度のポイント 2)在宅サービスの概要
  3)施設サービスの概要
 3.介護保険制度
  1)介護とは 2)介護専門職の出現 3)介護保険法
  4)介護保険制度の概要 5)介護保険の手続き
  6)介護保険料の納付 7)サービスの概要
  8)介護保険における訪問調査,かかりつけ医の意見書
  9)要介護認定における一次判定 10)介護認定審査結果の種類
  11)要介護度別認定者数 12)ケアプランの作成
 4.年金制度
  1)公的年金制度の仕組み 2)年金制度の体系の概要
  3)国民年金の保険料 4)厚生年金および共済年金の保険料率(掛金率)
  5)国民年金の支給 6)老齢厚生年金の支給
 5.生活保護制度
  1)生活保護制度とは 2)生活保護の対象者および理由
  3)生活保護の手続き 4)生活保護の種類と保護費の額
  5)生活扶助基準月額の算出方法

 付表 高齢者評価法のいろいろ
 索引