やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版改訂にあたって
 本書は主に,看護学生や新人ナースを対象として執筆したものですが,熟練ナースや手術看護認定ナースの皆様も読者であり,わかりやすいという声を得ています.それらの声に後押しされて,第3版改訂では,写真やビデオ映像を導入し,さらなるわかりやすさに努めました.視覚や聴覚を駆使した学びによって,学習効果が高まることを願っています.
 また,数年前から医師や患者向けの診療ガイドラインが増え,ガイドラインの改訂版も多く発刊されてきています.「急性腹症診療ガイドライン2015」(日本腹部救急医学会・他編集)では,腸管麻痺(イレウス)と腸閉塞の定義が変わりました.「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン」(日本循環器学会・他編集)も,2017年改訂版が発行されています.本書はそれらに対応して,内容を更新しています.
 さらに,超高齢社会となったわが国の実情に応じて,高齢者の特徴をふまえた周手術期看護の記述を増やしました.老年症候群やフレイル,サルコペニアの理解などは,今や周手術期看護においても必須事項だといえます.それらの理解とともに,急性期病棟で手術入院や術後の退院支援に関わるナースが,どのような役割を担う必要があるのかという点も加筆しました.
 根拠に基づいた医療/看護実践という点に留意していることは,以前から変わっていませんが,第3版改訂からは,さらに根拠を深めたいという方がすぐに成書を紐解けるように,本文中に文献番号を付して,その引用文献を記載することにいたしました.
 学生や新人ナースの多くは,手術を受けた患者を適切にイメージすることができず,看護援助が患者の回復の後追いになってしまったり,既存の知識を統合することができず,観察したことを看護に結び付けてアセスメントすることができなかったりするものです.しかし,いくつかのヒントやいくつかの参考書等を提示すれば,自ら答えを導き出してくることが多いものです.臨床で実習指導やナースの現任指導を担当しているナースの方々と,大学の看護教員らで執筆された本書が,そのような折に有用な手引きとしてお役に立てば幸いです.
 竹内登美子


はじめに 初版の序
 本書は主に,看護学生や新人ナースを対象としてまとめたものです.読者の方々が,講義や演習などで得た既存の知識を復習・整理することを助け,看護実践(看護学実習)に活かすことができる実践的テキストとして企画しました.
 従来の成人看護学「外科系」や「急性期」,臨床外科看護学などの類書といえますが,周手術期看護perioperative nursing,すなわち患者が手術療法を選択するか否かに関する看護から,「手術前・中・後の看護」に焦点をあて,退院するまでの一連のプロセスに関わる看護までを整理しました.
 シリーズ1は外来/病棟における術前看護,シリーズ2は術中/術後の生体反応と急性期看護,シリーズ3は開腹術/腹腔鏡下手術を受ける患者の看護です.これらに共通していることは,頻度の高い幽門側胃亜全摘出術を受ける患者の看護を中心に記述しながら,噴門側手術の場合や,食道あるいは大腸手術,腹腔鏡下手術,開胸手術の場合などと比較検討して知識を広げていけるように構成した点です.麻酔に関する知識についても同様で,全身麻酔と硬膜外麻酔下で手術を受ける患者の看護を中心に学びながら,脊椎麻酔の場合との違いが理解できるように構成されています.
 特に,「手術を受ける患者と家族の心理を理解するための看護の要点」,「手術療法の理解と看護実践に必要な解剖・生理学の知識」,「術後合併症予防のための看護技術と指導」に力点をおいています.これらは,周手術期看護の基礎ともいえる必須概念と技術だからです.そしてその際,現在の医療・看護に応じた最新の知見を盛り込んで記述するように努めました.
 その他の特徴としては,章の内容を適切に理解する助けとして学習目標objectivesを明示したこと,図表やイラストを多くしてビジュアルな紙面としたこと,知識の整理を促進するために看護過程の展開例を入れたこと,各章に適宜Q&AやPLUS ONEとしてコラムを入れ,追加情報や知識の補足をしたことなどがあげられます.
 学生や新人ナースの多くは,手術を受けた患者を適切にイメージすることができず,看護援助が患者の回復の後追いになってしまったり,既存の知識を統合することができず,観察したことを看護に結びつけてアセスメントすることができなかったりするものです.しかし,幾つかのヒントを与えたり,幾つかの参考書を提示すれば,自ら答えを導き出してくることが多いのも事実です.臨床で実習指導や新人ナースの指導を担当しているナースの方々と,看護教員養成課程および看護大学の教員で執筆された本書が,そのような折に有用な手引きとしてお役に立てば幸いです.
 竹内登美子
第1章 超高齢社会を迎えた わが国における周手術期看護
 1 基礎知識
  (1)高齢者と成人患者数の年次推移(竹内登美子)
  (2)老年症候群(geriatric syndrome)とは(竹内登美子)
  (3)高齢者に多いフレイルとサルコペニア(岩崎涼子)
  (4)高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment;CGA)とは(竹内登美子)
 2 高齢者と成人の周手術期看護とは(竹内登美子)
  (1)周手術期看護の定義
  (2)高齢者と成人に対する周手術期看護の共通点と相違点
   (1)高齢者と成人にとっての発達課題と看護上の留意点
   (2)手術効果やリスクの判断
   (3)高齢者への周手術期看護の留意点
    PLUS ONE 高齢者の定義
     高齢社会の分類
第2章 入院前に必要な外来における看護
 1 基礎知識(竹内登美子)
  (1)患者の意思決定を支える外来看護の重要性
  (2)入院期間の短縮と外来看護の重要性
    PLUS ONE 高齢者への手術を決定する4因子
 2 診断検査を受ける患者の看護(山田尚子)
  (1)放射線検査
   (1)単純撮影
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
   (2)消化管造影
    A 上部消化管造影
     目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
    PLUS ONE 腹腔内に造影剤が漏出する可能性のある患者に用いられる水溶性造影剤
    B 下部消化管造影;注腸造影
     目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
  (2)内視鏡検査(endoscopy)
   (1)胃内視鏡検査
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/内視鏡検査の合併症/検査結果の看護へのいかしかた
   (2)気管支鏡検査
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
    PLUS ONE 大腸癌・乳癌の組織学的分類
  (3)超音波検査(echo)
   (1)腹部超音波検査
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
   (2)超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography;EUS)
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
  (4)CT,MRI
   (1)CT(computed tomography;単純コンピューター断層撮影)
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
   (2)MRI(magnetic resonance imaging;磁気共鳴画像)
    MRIの長所と短所/目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
  (5)PET(陽電子放射断層撮影)検査
   (1)FDG-PET(fluoro-deoxy-glucose-positron emission tomography)
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
    PLUS ONE 診断検査に使用する主な薬剤の作用・副作用
 3 術前検査を受ける患者の看護
  (1)呼吸機能検査(竹内登美子・松田好美)
   (1)基礎知識
    年齢と肺活量/肺気量分画/拘束性換気障害と閉塞性換気障害
   (2)スパイロメトリーによる呼吸機能検査
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
   (3)動脈血液ガス分析
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/検査結果の看護へのいかしかた
  (2)循環機能検査(竹内登美子)
   (1)基礎知識
    循環機能評価のための検査/NYHA(New York Heart Association)分類/心筋梗塞の既往/心臓の刺激伝導系と心電図/心電図からの心拍数の計算方法
   (2)心電図(標準十二誘導心電図)
    目的/方法/インフォームド・コンセント/検査時の看護/心電図の基本的な見方と看護へのいかしかた
  (3)術前の検体検査(竹内登美子)
   肝機能検査/腎機能検査/血液凝固・止血機能検査/栄養状態に関する検査
    PLUS ONE 成人と高齢者の血圧値について
     電極装着部の覚え方
 4 術前化学療法を受ける患者の看護(緕q嘉美)
  (1)癌患者が受ける集学的治療
   (1)癌の病期と術式
   (2)手術が組み込まれる集学的治療の化学療法
    A 術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;ネオアジュバント療法)
     目的
    B 術後化学療法(adjuvant chemotherapy;アジュバント療法)
     目的
  (2)癌化学療法
   (1)抗癌薬の基礎知識
    A 細胞傷害性抗癌薬
    B 分子標的治療薬
     種類
   (2)抗癌薬による副作用
    副作用/副作用の評価
  (3)術前化学療法を受ける患者の看護
   (1)術前化学療法を受ける患者の理解
   (2)化学療法の流れと看護の実際
    A 開始前
    B 投与から終了
   (3)化学療法を受けている患者が手術を安全に受けるためのセルフケア支援
    A 日常生活における感染・出血予防のセルフケア
    B 化学療法の副作用による苦痛のセルフケア
   (4)術前オリエンテーション
   (5)高齢患者と家族への支援
    PLUS ONE パフォーマンス・ステータス(performance status;PS)
 5 入院前の患者心理に対する看護
  (1)患者の心理(山田尚子)
   (1)病気(疾病)をもった患者の心の動き(時期に応じた患者の心の変化とその対処)
    罹患直後/受診・検査を受ける時期/結果説明の時期
   (2)患者のニーズ
   (3)心理面に影響を与える因子
    患者役割行動に影響を及ぼす因子/病気(疾病)行動に影響を及ぼす因子
   (4)不安の内容(病者のストレス)
   (5)適応の方向へ危機を解消していくプロセス(フィンクの危機モデル)
    衝撃の段階/防衛的退行の段階/承認の段階/適応の段階
  (2)家族の心理(山田尚子)
   (1)疾病が家族に及ぼす影響
    肯定的影響/否定的影響
   (2)家族のニーズ
  (3)活動理論と離脱理論の概要と高齢者の理解(竹内登美子)
   社会的活動理論activity theory/社会的離脱理論/疎隔理論disengagement theory
第3章 入院から手術前日までの看護
 1 入院・術前オリエンテーション(竹内登美子)
  (1)入院オリエンテーション
    PLUS ONE 入院患者の権利と責任(patient rights and responsibilities)
  (2)術前オリエンテーション
   (1)術前オリエンテーションの目的
   (2)術前オリエンテーションの主な項目
    PLUS ONE 内視鏡的切除術とは
  (3)術前オリエンテーション実施時に必要な知識;全身麻酔で開腹術の場合
   (1)手術予定者の疾患の理解
   (2)硬膜外麻酔法と全身麻酔法の理解
    PLUS ONE 硬膜外麻酔と腰椎麻酔(脊椎麻酔)の基礎知識
   (3)術式の理解
   (4)手術時間と麻酔時間の理解
   (5)術前トレーニング内容と方法の理解
   (6)術前に準備する物品の理解
    PLUS ONE 腹帯のエビデンスとT字帯
   (7)術前処置の理解
   (8)麻酔科医,手術室看護師の術前訪問の理解
   (9)術後の全身管理と主な術後経過の理解
   (10)入院予定期間と入院費用の理解
   (11)退院後の日常生活,仕事への復帰時期の理解
 2 術後合併症を予防するための術前看護
  (1)術前の全身状態の観察と看護(竹内登美子)
  (2)術前トレーニング(竹内登美子・橋由起子)
   (1)深呼吸法の基礎知識
    呼吸運動と呼吸に関する筋/リラクセーション(全身弛緩)と呼吸筋のマッサージ
   (2)深呼吸法の目的
   (3)深呼吸法の原理
   (4)術前の深呼吸の練習法
    腹式呼吸/胸式呼吸
   (5)呼吸筋のリラクセーション
  (3)術前トレーニングとしての含嗽法(橋由起子)
   (1)含嗽法の目的
   (2)術後の含嗽開始の時期
   (3)含嗽の方法
  (4)咳嗽による排痰法(竹内登美子・橋由起子)
   (1)基礎知識
    生理学的な気道内分泌物の量/正常な気道の「排出・浄化作用」の要因/術前トレーニングとして排痰法を行う理由/咳の起こり方
   (2)咳嗽による排痰法の目的
   (3)咳嗽による排痰法の原理
   (4)術前患者に対する排痰法の練習法
  (5)器具を用いた呼吸法(竹内登美子・橋由起子)
   (1)器具を用いた呼吸法の対象
    呼吸機能が低下している患者/高齢患者
   (2)器具の種類と特徴
    PLUS ONE 高齢者に術前指導を行うときのポイント
  (6)早期離床のためのトレーニング(橋由起子)
   (1)下肢の運動
    目的/原理/方法
   (2)体位変換
    目的/原理/方法
    PLUS ONE たばこが身体に与える影響は?
     ハフィング(huffing;強制呼出法)とは?
   術前トレーニングの関連動画QRコード
 3 術前の患者と家族の心理面に対する看護(竹内登美子)
  (1)術前の患者と家族の心理
   PLUS ONE 患者-看護師関係の成立にいかすナースの自己開示
  (2)術前患者教育のための術前アセスメント
   (1)学習者の一般的な特徴
   (2)術前患者の特質
   (3)個人の認知プロセス
  (3)心理的ストレス理論の活用
   PLUS ONE ストレス評価の大きな要因である一般的信念とは?
  (4)危機回避モデルの活用
第4章 手術前日の看護
 1 術前処置(竹内登美子)
  (1)禁飲食
  (2)消化管のプレパレーション(preparation)
  (3)皮膚の準備
   (1)体毛の除去(カッティング)
   (2)臍の処置(臍の清潔)
   (3)入浴(シャワー,清拭)
   (4)爪切り
   (5)物品の準備
 2 手術室看護師による術前訪問(後藤紀久)
  (1)術前訪問の目的
  (2)術前訪問時の情報収集
   (1)手術申し込み用紙(術前情報用紙)から得る情報
   (2)医師カルテ,主治医から得る情報
   (3)看護カルテ,受け持ち看護師から得る情報
   (4)患者・家族との面接から得る情報
  (3)術前訪問時の看護
   (1)術前訪問の流れ
   (2)術前オリエンテーションの内容
 3 麻酔科医による術前訪問(竹内登美子)
  (1)麻酔科医による術前訪問の主な目的
  (2)麻酔科医による術前訪問の実際
   カルテや画像診断類からの情報収集/診察(気管内挿管による全身麻酔と硬膜外麻酔が予定されている患者の場合)/麻酔に関するインフォームド・コンセント
    PLUS ONE アレン(Allen)テストとは?
    薬剤師による術前訪問と薬剤管理指導業務
    手術を受ける患者の自己概念
第5章 手術当日の看護
 1 手術当日の患者と家族に対する看護(竹内登美子)
  (1)看護目標と期待される結果
  (2)患者と家族に対する心理的援助
  (3)身体的準備に関する援助
   絶飲食と内服薬の確認/バイタルサインの測定と睡眠状況の確認/清潔/排泄/着替え/身のまわり品の除去/輸液/前投薬(プレメディケーション premedication)
 2 手術室看護師への引き継ぎ(竹内登美子)
  (1)引き継ぎ事項
   氏名,年齢,性別,病棟/血液型,感染症/アレルギー/身体の清潔/手術野の体毛チェック/絶飲食/最終排尿時間と排尿量,排尿方法(自尿,導尿,留置)/最終排便の月日,時刻,方法(自然,下剤,浣腸)/身のまわり品の除去/手術当日の輸液・輸血/心身上の問題点,その他/手術室への持参物品
  (2)手術室への患者の移送と引き継ぎの実際
第6章 術前の看護過程の展開
 看護過程の展開(梅村俊彰)
  (1)事例
   (1)患者の概要
   (2)患者の経過
    外来受診から入院までの経過/入院後から手術までの経過
  (2)アセスメントと看護診断
   (1)アセスメント
   (2)看護診断
  (3)解決目標・具体策
  (4)看護の実際と評価

 付録(竹内登美子)
  (1)周手術期看護に役立つ知識:Q&A
  (2)周手術期看護:主な看護診断に対する具体策と理論的根拠
  (3)術後日数に応じた術後合併症と看護の要点

 索引