やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに 第2版
 早いもので,フォーカスチャーティングとの出会いから25年経ちました.本書を出版しておよそ8年余りのあいだ,有志との学習会でフォーカスチャーティングの記録方法の検討を行ってきました.記録システムは電子化されても,看護の現場における記録方式は,POS(問題志向型記録)とフォーカスチャーティングが主流です.POSは,アセスメントでどのような目的をもってかかわっているのかがわかるように,フォーカスチャーティングは,記録のフォーカスをみれば,患者の姿・出来事,病状経過や看護の経過がわかるように,それぞれに記録方法のよさはあると思います.要は記録のあり方が,医療者側からは患者に開示できる記録として証明義務,説明責任が果たせる記録であるか,また患者からは納得・同意・共有できる記録であるか,さらに医療従事者間で記録(電子カルテ上)内容が情報として継続的に伝達されているかということです.
 初版を出版したときは,わが国の精神科では看護記録様式はPOSかフォーカスチャーティングかと議論・検討されていた時期であり,多くの精神科がPOSからフォーカスチャーティングへシフトし,研修会も全国規模で活発に開催されていました.その後フォーカスチャーティングにかかわる大きな出来事が2度ほどありました.1つは,電子カルテの導入がなされ,フォーカスチャーティングで記録する際にシステム上混乱を招くといった出来事でした.電子カルテの導入は,これまでの「記録する」から「入力する」へと変貌し,業務の効率化,スリム化へと形を変えることになりました.2つめは,日本フォーカスチャーティング協会の解散報告でした.
 今回,改訂版を再版するに至った理由として,かねてからフォーカスチャーティングを導入していた医療施設の方々から,記録方法などについて相談を受けていたことがあります.
 臨床現場の方々が日頃より抱いている問題とあわせて,フォーカス用語と不適切な表現を追加しましたので,少しでも記録するうえでの手助けになるのではないかと思います.初版同様,現場の実務書として活用していただければ幸いです.
 2020年9月
 焼山和憲
I フォーカスチャーティング(R)の基礎と考え方
 第1章 フォーカスチャーティング(R)の開発と発展
  1.わが国へのフォーカスチャーティングの紹介と広がり
  2.フォーカスチャーティングが開発された背景
  3.フォーカスチャーティングは記録時間の短縮,記録の簡素化に効果がある
   1)時間の経済性(記録時間の短縮)
   2)記録の重複(無駄の省略)
   3)記録の簡素化(情報の選択)
  4.看護記録の歴史的流れ
   1)叙述式記録
   2)経時的記録
   3)看護過程記録方式
   4)プロセスレコード方式
   5)POS(Problem-oriented system,問題志向型システム)方式
   6)フォーカスチャーティング(R)
  5.フォーカスチャーティングの関心が高まった理由
  6.フォーカスチャーティングの導入に向けて
 第2章 フォーカスチャーティング(R)の考え方
  1.フォーカスチャーティングとは
   1)フォーカス・ノートに記載される4つの構成要素
   2)フォーカスチャーティングの縦読みと横読みによって伝達される内容
   3)フォーカスとして使用する用語
   4)フォーカスで使用してはならない用語
   5)フォーカスチャーティングのキーポイント
  2.フォーカスチャーティングでの記録をどのように考えるか
   1)看護過程とフォーカスチャーティングは同じサイクルである
   2)フォーカスチャーティングでの思考過程
  3.フォーカスチャーティングの効果的な書き方
   1)フォーカス(F)のあて方
    (1)フォーカスは何にあてるのか
    (2)フォーカスとして取り上げられるもの
    (3)フォーカス・コラムに書かれないもの
    (4)記録においてフォーカスが先か,経過記録が先か
   2)経過記録に書かれる,D-A-R
  4.フォーカスチャーティングの記録の構造
   1)F:D-A-Rに含まれる記録の構造
    (1)A(援助・働きかけ)には,前後を構成する「判断・考え」の2つがある
    (2)フォーカスチャーティングの記録はフォーカスへの振り返りである
 第3章 フォーカスチャーティング(R)の方法
  1.看護過程に基づき,目的意識をもって援助活動をしたフォーカスチャーティング
  2.偶発的,突発的な出来事のフォーカスチャーティング
  3.コミュニケーションのフォーカスチャーティング
  4.ヒヤリハット,事故発生時のフォーカスチャーティング
  5.エンパワーメントアプローチのフォーカスチャーティング
 第4章 フォーカスチャーティング(R)に求められる記録内容
  1.簡潔に,事実をありのままに記載する記録
  2.フォーカスチャーティングに求められる記録の要件
   1)法律的要件としての記録
   2)必要かつ重要な部分を伝達する記録
   3)看護師の援助内容が見える記録
   4)看護師の看護に対する考え方(看護観)が反映されている記録
 第5章 フォーカスチャーティング(R)の導入方法と添削
  1.看護計画とフォーカスチャーティングを同時に導入したい
   1)フォーカスチャーティングの4つの要素で記録する
    (1)看護過程を導入していない.記録方法は叙述式あるいは経時的記録方法の施設
    (2)フォーカスチャーティングを導入しようと検討しているが,叙述式で看護記録を行っている施設
   2)看護計画を考える
  2.看護計画を導入しているので,記録をフォーカスチャーティングにしたい
  3.フォーカスチャーティングの記録上の問題と添削
   1)POSの記録とフォーカスチャーティングを混同している
   2)フォーカスと記録内容(D-A-R)が異なる
   3)看護診断・共同問題の特定がされていない
   4)フォーカスチャーティングの利点が活かされていない
 第6章 精神保健福祉法に基づいた記録の要件とフォーカスチャーティング(R)
  1.個人情報保護法と行動制限の法律
   1)個人情報の保護
   2)行動制限の法律
    (1)行うことができない行動の制限
    (2)精神保健指定医が必要と認める場合でないと行うことができない行動の制限
    (3)厚生労働大臣が定める処遇の基準
  2.精神保健福祉法に基づいた記録の要件
   1)隔離を行った場合
   2)身体的拘束を行った場合
   3)自ら求めて保護室に入ることを希望する場合
   4)任意入院患者の解放処遇の制限の場合
   5)面会の制限
  3.フォーカスチャーティングで人権擁護,患者の権利尊重,倫理性に基づいた看護記録を目指す
 資料1 フォーカスチャーティング演習
 資料2 フォーカスチャーティング評価表
II 記録マニュアル/記録の実際(例)
 1 悪性症候群にある患者の記録マニュアル/記録例
 2 うつ・自殺企図のある患者の記録マニュアル/記録例
 3 行動の制限のある患者の記録マニュアル/行動の制限(隔離)の患者の記録例1/隔離(不穏時)の患者の記録例2
 4 希死念慮がある患者の記録マニュアル/記録例
 5 強迫行為のある患者の記録マニュアル/記録例
 6 拒食状態にある患者の記録マニュアル/記録例
 7 拒薬状態にある患者の記録マニュアル/記録例
 8 幻覚・妄想のある患者の記録マニュアル/記録例
 9 他患の薬を誤って服用したときの記録マニュアル/記録例
 10 昏迷状態にある患者の記録マニュアル/記録例
 11 自殺企図があった患者の記録マニュアル/記録例
 12 日常生活に障害をきたしている患者の記録マニュアル/記録例
 13 躁状態にある患者の記録マニュアル/記録例
 14 転棟(転入・転出),閉鎖病棟入室時の記録マニュアル/記録例
 15 入・退院時の記録マニュアル/記録例
 16 不安状態にある患者の記録マニュアル/記録例
 17 水中毒の患者の記録マニュアル/記録例

 参考文献
 精神科フォーカス用語
 フォーカスチャーティング(R)記録用紙