やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 回復期リハビリテーション病棟が2000年に設立されて20年がたとうとしている.この20年間に確実に回復期リハビリテーション病棟は進歩を遂げ,地域包括ケアシステムのなかのなくてはならないシステム要素として機能するようになった.高齢者の介護状態の予防にとどまらず,健康的なライフスタイルの推進やリハビリテーションの理念の浸透に大きな役割を果たしてきたといえる.
 新しい考え方でスタートした回復期リハビリテーション病棟は,専門職が多数集まり,患者中心にリハビリテーションを展開するための場と機会に恵まれているが,一方で,看護職やケア職にとっては,かならずしもその恵まれた環境がそのように認識されているわけではない.
 回復期リハビリテーション病棟でケアを展開するためには,リハビリテーション医療についての知識と高齢者ケアについての知識の統合が必要なのであるが,その知識と情報を効率良く獲得し患者に統合できるような情報源が限られていることが要因であるだろう.これからの回復期リハビリテーション病棟のケアにはエビデンスベースの実践(EBP)が不可欠である.EBPは組織的取り組みであり,すなわち組織開発である.
 本書は,このような課題認識のもと,理論的でありつつ,かつ根拠に基づいたケア改善に役立つという趣旨のもとに企画された.
 本書の構成は,回復期リハビリテーションとEBP,回復期リハビリテーション看護の特質,回復期リハビリテーション病棟のマネジメント,回復期リハビリテーションのケアを改善するための知識とスキル,という〈理論編〉と,回復期リハビリテーション病棟におけるEBPの実装例という〈実践編〉から成り立つ.
 本書は,回復期リハビリテーション病棟でケアの質改善を行おうとする専門職の方々,とくに看護職リーダーに向けて作られている.しかし,回復期リハビリテーション病棟に限らず,エビデンスに基づいたケア改善を行おうとする人たちにとって有益な内容となっている.執筆陣には,研究者と実践者がバランス良く配置されている.これからのEBPの推進に有益な示唆を提供できていると思う.
 これからますます重要性を増す回復期リハビリテーション病棟において,ケアが根拠に基づき,かつ患者中心であることは,日本の高齢者にとって幸いなことである.ともに学び,お互いからお互いについて学び合える回復期リハビリテーション病棟を目指したい. 2019年8月
 酒井郁子
 黒河内仙奈
I 回復期リハビリテーション病棟とEBP
 1 EBMからEBPへ(藤沼康樹)
  1.EBMとは何か?
  2.EBMの5つのStep
   1)疑問(問題)の定式化
   2)情報収集
   3)情報の批判的吟味
   4)情報の患者への適用
   5)Step1からStep4の振り返り
  3.EBMの広がりとEBP
  4.EBPの5つのStep
  5.せん妄予防のEBP
  6.おわりに
 2 EBP実装に関する日本の看護領域の現状と課題(深堀浩樹,友滝 愛)
  1.日本の看護領域におけるEBPの実装に関する現状
   1)日本の臨床現場におけるEBPの実装に関する現状
   2)看護基礎教育におけるEBPの現状
   3)EBPに関連する活動の具体例
  2.日本の看護領域におけるEBP促進のための新しい取組み
   1)大学病院におけるEBPの取組み
   2)システマティックレビューの普及に関する活動
   3)Doctor of Nursing Practiceの教育課程の開設
   4)学会による看護に関するガイドラインの開発
   5)まとめ
  3.EBPに取り組むうえでの課題と対策
   1)大学病院におけるEBPの取組み
   2)EBPに必要な知識・スキル
   3)EBPを促すための組織的な取り組み
   4)看護実践で求められる科学的根拠
   5)まとめ
 3 リハビリテーション医療の現状,制度,政策,展望(荒木暁子)
  1.リハビリテーションの定義,リハビリテーション医療の目的と意義
   1)リハビリテーションの定義と目的
   2)リハビリテーションの対象とフェーズ
   3)かかわる専門職
  2.リハビリテーション医療を推進する制度・政策
   1)関連する法律・計画
   2)リハビリテーション医療に関連する制度
  3.回復期リハビリテーションをめぐる状況,課題
 4 急性期リハビリテーションとの連携(池永康規)
  1.病院間連携
   1)回復期リハ病棟に設置されたホットライン
   2)急性期病院と回復期リハ病院の定期相互交流
  2.回復期リハビリテーション病棟での対応
  3.連携パスの運用
  4.インターネットを利用した情報伝達
  5.まとめ
 5 高齢者ケアのエビデンスからみた回復期リハ病棟でのケア改善の必要性(酒井郁子)
  1.高齢者医療とケアにおけるエビデンス
   1)高齢者慢性疾患における総合的管理の考え方とエビデンス
   2)高齢者ケアのエビデンスの実装の課題
   3)看護におけるEBPの定義
  2.回復期リハビリテーション病棟の役割と機能
   1)回復期リハ病棟の設置と発展の経緯
   2)地域包括ケアシステムからみた回復期リハ病棟の役割と機能
   3)回復期リハ病棟の特徴
  3.回復期リハビリテーション病棟におけるケア改善
   1)高齢者の安全を確保しつつQOLの向上を目指す
   2)高齢者のリハを加速し,療養場所の移行を安心できるものにする
II 回復期リハビリテーション看護の特徴
 1 回復期リハビリテーション看護の特徴(酒井郁子)
  1.回復期リハビリテーション病棟の特徴
  2.回復期リハビリテーション病棟で求められる看護
   1)一人ひとりのリハの希望と目標に即した看護の提供
   2)地域包括ケアシステムからみた回復期リハの役割と機能
   3)ケアの質のマネジメント
   4)入院前からスタートする退院支援
  3.回復期リハビリテーション病棟に勤務する看護職の特徴と今後求められる役割
 2 回復期リハビリテーション看護に必要な実践能力(酒井郁子)
  1.看護の実践能力とは何か
   1)専門職の実践能力(コンピテンシー)
   2)看護師の実践能力
  2.リハビリテーション看護師の役割・機能とそれを達成するために必要な看護実践能力
   1)アメリカにおけるリハ看護師の役割と実践能力
   2)日本におけるリハ看護師の実践能力
   3)今後求められる看護実践能力
  3.回復期リハ看護に携わる看護師が獲得すべき看護実践能力
   1)高齢者への看護実践とリハ看護実践の統合
   2)地域のリハニーズに適したリハ医療の提供に貢献する
   3)ケアチームの構築運営のためのリーダーシップと専門職連携実践能力
 3 回復期リハビリテーションケアチームの構築と運営 看護と介護の連携(黒河内仙奈)
  1.ケアチームの構築
   1)看護と介護の連携の必要性
   2)お互いを知る
  2.ケアチーム運営のカギ
   1)話しやすい場づくり
   2)看護と介護の両方の視点からのケアプラン作成
   3)病棟管理者によるマネジメントの重要性
 4 回復期リハビリテーション看護の倫理的課題(菊地悦子)
  1.看護倫理とは
  2.回復期リハビリテーション病棟で生じやすい倫理的課題
   1)尊厳を損なうリハ看護師としての対応
   2)患者の意思決定が反映されない
  3.倫理的課題の明確化と改善への取り組み
   1)尊厳を損ねる具体的状況の有無を検討する
   2)尊厳を損ねる具体的行為を検討する
   3)倫理的問題が生じていると思われる事例検討の例
III 回復期リバビリテーション病棟のマネジメント
 1 診療報酬からみたマネジメント 経営に貢献する(塩田美佐代)
  1.病院経営に貢献する回復期リハ病棟の運営
   1)回復期リハ病棟からみた診療報酬
   2)診療報酬と成果
   3)施設基準に必要なデータ収集
  2.回復期リハビリテーション病棟のマネジメントの実際
   1)回復期リハ病棟におけるチーム医療と人員配置
   2)脳卒中リハビリテーション看護認定看護師を活用した教育プログラム
   3)重症患者の適正数を確保する仕組みづくり
   4)重症患者の機能を改善する体制の整備
   5)在宅復帰率を高める
   6)地域連携の強化
   7)成果の見える化とベンチマーク
  3.まとめ
 2 患者のQOLマネジメント 生活を支援し,社会復帰を達成するための診療ケアの統合に貢献する(黒河内仙奈)
  1.QOLについて
   1)QOLの定義
   2)包括的QOLと特異的QOL
  2.回復期リハビリテーション病棟における患者のQOLを高める看護
   1)入院時からの継続的なオリエンテーションと目標の共有
   2)患者がリハに取り組むことを支援する日々の体調管理
   3)患者が入院生活を心地良く送るための支援(余暇時間の活用)
   4)患者の希望を聞き,希望を叶えるための支援(就労支援を含む)
   5)患者への敬意
 3 リハビリテーションを担う人材の管理と育成 採用から研修まで人材育成に貢献する(荒木暁子)
  1.人材管理フローと人材育成
  2.組織構造をいかす人材育成
   1)人材育成計画
   2)人材育成方策
   3)研修の実際
  3.柔軟性を高め,地域やニーズの変化に対応する組織づくりに向けて
 4 専門職チームの構築と運営(酒井郁子)
  1.専門職連携実践とチーム
   1)専門職連携の目的と専門職連携実践の類型化
  2.チームの構築と運営に必要な基本的知識
   1)チームを理解し評価するための枠組み
   2)インプット(チームデザイン)
   3)プロセス(チームビルディングとチームワーク)
   4)チームパフォーマンス
   5)回復期リハ病棟における専門職連携実践の特徴
  3.回復期リハ病棟の専門職連携実践の向上のためにできること
   1)回復期リハ病棟の使命へのコミットメント
   2)患者のリハに対する遂行責任と説明責任の達成
   3)専門職間の専門性の理解とリスペクトの醸成
 5 組織間連携の円滑化,連携パスの作成と改善(池永康規)
  1.ベースとなる連携ネットワーク組織への働きかけ
  2.多職種間コミュニケーションツールの開発
   1)共通言語,概念,ツールの共有
   2)ID-Linkを利用した地域施設間の情報伝達
  3.情報の流れや学びの仕組み
   1)加賀脳卒中地域連携協議会総会
   2)日本海脳卒中セミナー
   3)コラボ研修
   4)コアとなるチームメンバー以外の専門家から支援を得る仕組み
   5)まとめ
IV 回復期リハビリテーション病棟のケアを改善するための知識とスキル
 1 EBPを臨床で実装していくためのステップ(松岡千代)
  1.EBPのモデル
   1)IOWAモデル
  2.IOWAモデルのEBPステップ
   1)EBPのトリガーとトピック
   2)チームの形成
   3)関連する研究論文および文献の収集
   4)実践で利用するための研究のクリティークと統合
   5)実践変革の試験的実施
   6)実践変革の開始
   7)結果の普及
 2 EBP導入の際に有用なツール(松岡千代)
  1.EBP実装戦略の概要
   1)EBP実装戦略のフェーズ(段階)
   2)EBP実装戦略の選択と秘訣(コツ)
   3)チェンジエージェント(変革推進者)について
  2.EBP実装戦略の実際
   1)フェーズ1:気づきと関心の創造
   2)フェーズ2:知識とコミットメントの構築
   3)フェーズ3:行動と採用の促進
   4)フェーズ4:統合と継続的使用の促進
 3 EBP実装プロジェクトの推進(酒井郁子)
  1.EBPの実装を推進するプロジェクト
   1)プロジェクトとしてEBPを実装する
   2)プロジェクトとは何か
   3)プロジェクトの成功を目指すには
  2.EBPの実装プロジェクトの進め方
   1)現状を評価し優先度の高いテーマを決める
   2)実践の改善の評価と普及・定着
   3)EBP実装の類型
  3.EBPの実装に必要な多層的なリーダーシップ
V 回復期リハビリテーション病棟におけるEBPの実装例
 1 生活機能を再建する
  A 生活リズムの調整(岩佐はるみ)
  B 基本動作の獲得(塩田美佐代,市川 真,黒河内仙奈)
  C 排泄機能の向上(黒河内仙奈,菊地悦子)
  D 移動機能の向上(樋浦裕里,黒河内仙奈)
 2 患者のQOL向上をめざす
  E 身体拘束の解除(岩佐はるみ,住谷ゆかり,黒河内仙奈)
  F 転倒の予防(松岡千代)
  G せん妄の予防(大舘千歳,黒河内仙奈)
 3 患者の学習を支援する
  H 服薬管理(近藤浩子,塩田美佐代,黒河内仙奈)
  I 退院後の生活に焦点をあてた健康管理教育(菊地悦子)
 4 円滑な地域移行を推進する
  J 回復期リハ病棟における専門職間コミュニケーションの改善(樋浦裕里,山崎千寿子,黒河内仙奈)
  K 退院前訪問指導(ホームエバリュエーション)の実際と効果的な方法(黒河内仙奈)

 索引