はじめに
地方の時代といわれ,また,地方分権が推進され,それぞれの地域が地域特性に見合った保健医療福祉活動を行うようになりました.たとえば,地域包括ケアの体制整備においても,民間資源の種類や量が豊富な都市部と,行政が多くを担う地方とでは,ネットワーク構築のあり方が異なります.また,東日本大震災時には,東北地域での人びとの日常的な顔のみえる関係が,極度の困難な状況下でも互いを支え合うことにつながっていました.それぞれの地域には地域が築いてきた歴史があります.
地域看護活動を進めるうえでは,それぞれの地域特性,地域の課題や強みを把握して,地域の課題を解決する必要があります.また,その活動を評価するためには,事前の実態把握を正確に行わなければなりません.本書「地域看護アセスメントガイド」は,地域看護活動を行うための最も基本となるアセスメントの視点と方法を明らかにしています.このアセスメントガイドは,看護の視点からの地域の理解と地域の健康課題を解決するための地区活動ならびに施策の計画立案と評価を行うための視点を明確にし,地区に根ざした活動や保健福祉事業の計画および評価計画の策定に活用されることを目的に開発しました.これらのアセスメントは根拠のある活動を行うために必須の過程です.本書初版が発行された2007年当時,とくに,健康課題の指標としては,医学モデルにもとづく医学的・身体生物学的な指標は明確でありデータも蓄積されていましたが,生活モデルにもとづく指標はほとんどありませんでした.そこで,NANDA(北米看護診断),NIC(看護介入分類),NOC(看護成果分類),ICNP(R)(看護実践国際分類),ICF(国際生活機能分類)などの成果を参考に,地域での健康課題の分類を行いました.
それから10年余りが経過し,健康日本21や健やか親子21など,生活や行動に着目した健康指標は多くなり,保健福祉計画策定や介護保険事業計画立案は,保健師業務の一部として取り組まれるようになりました.一方では,地域づくり活動が推進され,「地区活動」の方法の明確化が課題となっています.今回の改訂では,地区活動のアセスメントを新たに収載し,また,事業評価に関する記述の充実,地域 社会構造の枠組みの修正,各領域別の健康課題と指標の見直しを図りました.
本書は「地域(看護)アセスメント」の用語を用いていますが,「地域診断」「地区診断」などの類似語とほぼ同義です.「診断」とは,広辞苑によれば「医師が患者を診察して病状を判断すること」と説明されています.本書で扱う健康課題については,データの収集と分析による推論の段階であり,ある一定の基準をもって地域の健康状態を判断するところまでは至っていないと考え,「アセスメント」としています.近い将来,「地域看護診断」が構築されることを願っています.
本書を,地域をアセスメントするための入門書としてご活用いただき,根拠のある保健福祉事業の計画立案と評価,住民と共有できるデータを活用した協働的な地区活動の実践に役立つことを願っております.
2018年8月 編者
地方の時代といわれ,また,地方分権が推進され,それぞれの地域が地域特性に見合った保健医療福祉活動を行うようになりました.たとえば,地域包括ケアの体制整備においても,民間資源の種類や量が豊富な都市部と,行政が多くを担う地方とでは,ネットワーク構築のあり方が異なります.また,東日本大震災時には,東北地域での人びとの日常的な顔のみえる関係が,極度の困難な状況下でも互いを支え合うことにつながっていました.それぞれの地域には地域が築いてきた歴史があります.
地域看護活動を進めるうえでは,それぞれの地域特性,地域の課題や強みを把握して,地域の課題を解決する必要があります.また,その活動を評価するためには,事前の実態把握を正確に行わなければなりません.本書「地域看護アセスメントガイド」は,地域看護活動を行うための最も基本となるアセスメントの視点と方法を明らかにしています.このアセスメントガイドは,看護の視点からの地域の理解と地域の健康課題を解決するための地区活動ならびに施策の計画立案と評価を行うための視点を明確にし,地区に根ざした活動や保健福祉事業の計画および評価計画の策定に活用されることを目的に開発しました.これらのアセスメントは根拠のある活動を行うために必須の過程です.本書初版が発行された2007年当時,とくに,健康課題の指標としては,医学モデルにもとづく医学的・身体生物学的な指標は明確でありデータも蓄積されていましたが,生活モデルにもとづく指標はほとんどありませんでした.そこで,NANDA(北米看護診断),NIC(看護介入分類),NOC(看護成果分類),ICNP(R)(看護実践国際分類),ICF(国際生活機能分類)などの成果を参考に,地域での健康課題の分類を行いました.
それから10年余りが経過し,健康日本21や健やか親子21など,生活や行動に着目した健康指標は多くなり,保健福祉計画策定や介護保険事業計画立案は,保健師業務の一部として取り組まれるようになりました.一方では,地域づくり活動が推進され,「地区活動」の方法の明確化が課題となっています.今回の改訂では,地区活動のアセスメントを新たに収載し,また,事業評価に関する記述の充実,地域 社会構造の枠組みの修正,各領域別の健康課題と指標の見直しを図りました.
本書は「地域(看護)アセスメント」の用語を用いていますが,「地域診断」「地区診断」などの類似語とほぼ同義です.「診断」とは,広辞苑によれば「医師が患者を診察して病状を判断すること」と説明されています.本書で扱う健康課題については,データの収集と分析による推論の段階であり,ある一定の基準をもって地域の健康状態を判断するところまでは至っていないと考え,「アセスメント」としています.近い将来,「地域看護診断」が構築されることを願っています.
本書を,地域をアセスメントするための入門書としてご活用いただき,根拠のある保健福祉事業の計画立案と評価,住民と共有できるデータを活用した協働的な地区活動の実践に役立つことを願っております.
2018年8月 編者
I 基本編 地域看護アセスメントガイドとは
はじめに
1 地域看護活動の目的と対象
(佐伯和子)
1.地域における保健福祉の動向
2.地域看護活動の目的
3.看護の対象としての地域
個人・家族への支援の背景としての地域/住民組織・地域組織/日常生活圏である地区・小地域としての地域
自治体などの社会システムレベルの地域/地域社会の相互関係と多様性
4.地域看護活動の対象としての健康課題の考え方
地域の健康課題とは何か/健康課題と対策上の課題の区別
2 地域看護アセスメントの場面と展開
(佐伯和子)
1.アセスメントの重要性
2.地域看護アセスメントの場面
はじめて出会う地域がどのようなところなのかを知りたいとき/地区・小地域での活動において
自治体の仕組みづくりや施策化活動において
3.地域看護アセスメントの展開過程
アセスメント過程の概要/日常の活動とアセスメント過程
3 地域特性のアセスメント
(佐伯和子)
1.地域構造のモデル
地域の歴史,自然・地理的環境/地域に暮らす人びと/地域内外の制度・施設
2.地域概要の把握
3.地域構造のモデルにもとづくアセスメント
地域の歴史,自然・地理的環境のアセスメント/地域に暮らす人びと(人口集団)のアセスメント
地域内外の制度・施設のアセスメント
4 健康課題のアセスメント
(佐伯和子)
1.健康課題の抽出と特定
健康と生活の実態の5領域/健康課題の種類
2.健康課題の優先性
3.健康課題の分析(構造化)
健康課題の原因・背景要因/健康課題への資源と対処力/健康課題が地域に及ぼす影響の予測
4.健康課題を解決する対策の検討
健康課題の類型による対策/関連要因の所在による対策
5 事業計画・評価計画
(佐伯和子)
1.事業計画の作成
政策体系における事業/事業計画作成のポイント
2.事業評価計画の作成
評価目的/事業評価の構造/評価計画の作成
6 地区活動のためのアセスメント
(佐伯和子)
1.地区活動の目的
2.地区活動のためのアセスメント/計画
地区の概要把握/地区の健康課題の抽出と分析/地区活動計画・評価計画
3.地区活動のためのベースとなるアセスメント
7 データ収集と分析
(麻原きよみ)
1.量的データ
量的データの特性/データの種類/収集方法/調査方法/分析
2.質的データ
質的データの特性/データの種類/収集方法/調査方法/分析
3.収集したデータを総合的に判断する
8 領域・対象別のアセスメントガイド(項目と指標)
1.アセスメント項目全体の構成(平野美千代)
アセスメントガイドの枠組み/健康と生活の5領域と大項目,中項目
2.地域の全体的な健康のアセスメント(平野美千代)
地域全体の健康をアセスメントする必要性
3.領域・対象別のアセスメントガイド
・親子を対象とするアセスメントガイド(本田 光)
・成人を対象とするアセスメントガイド(和泉比佐子)
・健康な高齢者を対象とするアセスメントガイド(平野美千代)
・要支援,要介護の高齢者を対象とするアセスメントガイド(平野美千代)
II 実践編 地域看護アセスメントと評価の実際
1 地区活動の実践例 親子保健活動(子育てサロン)
(本田 光)
地域概要の把握,保健師の問題意識,対象の背景にある地域特性の把握,人びとの健康状態と生活実態のアセスメント,健康課題の特定と分析,健康課題への対策,地区活動事業計画の立案,地区活動評価計画の作成
2 事業化の実践例 高齢者保健活動(認知症高齢者と家族)
(工藤禎子)
地域概要の把握,保健師の問題意識,対象の背景にある地域特性の把握,人びとの健康状態と生活実態のアセスメント,健康課題の特定と分析,健康課題への対策,事業計画の立案,事業評価計画の作成
3 事業化の実践例 親子保健活動(子どもの虐待予防)
(上田 泉)
地域概要の把握,保健師の問題意識,対象の背景にある地域特性の把握,人びとの健康状態と生活実態のアセスメント,健康課題の特定と分析,健康課題への対策,事業計画の立案,事業評価計画の作成
4 施策化の実践例 成人保健活動(メタボリックシンドローム/糖尿病対策)
(和泉比佐子)
地域概要の把握,保健師の問題意識,対象の背景にある地域特性の把握,人びとの健康状態と生活実態のアセスメント,健康課題の特定と分析,健康課題への対策,施策体系の立案,施策評価計画の作成
文献
はじめに
1 地域看護活動の目的と対象
(佐伯和子)
1.地域における保健福祉の動向
2.地域看護活動の目的
3.看護の対象としての地域
個人・家族への支援の背景としての地域/住民組織・地域組織/日常生活圏である地区・小地域としての地域
自治体などの社会システムレベルの地域/地域社会の相互関係と多様性
4.地域看護活動の対象としての健康課題の考え方
地域の健康課題とは何か/健康課題と対策上の課題の区別
2 地域看護アセスメントの場面と展開
(佐伯和子)
1.アセスメントの重要性
2.地域看護アセスメントの場面
はじめて出会う地域がどのようなところなのかを知りたいとき/地区・小地域での活動において
自治体の仕組みづくりや施策化活動において
3.地域看護アセスメントの展開過程
アセスメント過程の概要/日常の活動とアセスメント過程
3 地域特性のアセスメント
(佐伯和子)
1.地域構造のモデル
地域の歴史,自然・地理的環境/地域に暮らす人びと/地域内外の制度・施設
2.地域概要の把握
3.地域構造のモデルにもとづくアセスメント
地域の歴史,自然・地理的環境のアセスメント/地域に暮らす人びと(人口集団)のアセスメント
地域内外の制度・施設のアセスメント
4 健康課題のアセスメント
(佐伯和子)
1.健康課題の抽出と特定
健康と生活の実態の5領域/健康課題の種類
2.健康課題の優先性
3.健康課題の分析(構造化)
健康課題の原因・背景要因/健康課題への資源と対処力/健康課題が地域に及ぼす影響の予測
4.健康課題を解決する対策の検討
健康課題の類型による対策/関連要因の所在による対策
5 事業計画・評価計画
(佐伯和子)
1.事業計画の作成
政策体系における事業/事業計画作成のポイント
2.事業評価計画の作成
評価目的/事業評価の構造/評価計画の作成
6 地区活動のためのアセスメント
(佐伯和子)
1.地区活動の目的
2.地区活動のためのアセスメント/計画
地区の概要把握/地区の健康課題の抽出と分析/地区活動計画・評価計画
3.地区活動のためのベースとなるアセスメント
7 データ収集と分析
(麻原きよみ)
1.量的データ
量的データの特性/データの種類/収集方法/調査方法/分析
2.質的データ
質的データの特性/データの種類/収集方法/調査方法/分析
3.収集したデータを総合的に判断する
8 領域・対象別のアセスメントガイド(項目と指標)
1.アセスメント項目全体の構成(平野美千代)
アセスメントガイドの枠組み/健康と生活の5領域と大項目,中項目
2.地域の全体的な健康のアセスメント(平野美千代)
地域全体の健康をアセスメントする必要性
3.領域・対象別のアセスメントガイド
・親子を対象とするアセスメントガイド(本田 光)
・成人を対象とするアセスメントガイド(和泉比佐子)
・健康な高齢者を対象とするアセスメントガイド(平野美千代)
・要支援,要介護の高齢者を対象とするアセスメントガイド(平野美千代)
II 実践編 地域看護アセスメントと評価の実際
1 地区活動の実践例 親子保健活動(子育てサロン)
(本田 光)
地域概要の把握,保健師の問題意識,対象の背景にある地域特性の把握,人びとの健康状態と生活実態のアセスメント,健康課題の特定と分析,健康課題への対策,地区活動事業計画の立案,地区活動評価計画の作成
2 事業化の実践例 高齢者保健活動(認知症高齢者と家族)
(工藤禎子)
地域概要の把握,保健師の問題意識,対象の背景にある地域特性の把握,人びとの健康状態と生活実態のアセスメント,健康課題の特定と分析,健康課題への対策,事業計画の立案,事業評価計画の作成
3 事業化の実践例 親子保健活動(子どもの虐待予防)
(上田 泉)
地域概要の把握,保健師の問題意識,対象の背景にある地域特性の把握,人びとの健康状態と生活実態のアセスメント,健康課題の特定と分析,健康課題への対策,事業計画の立案,事業評価計画の作成
4 施策化の実践例 成人保健活動(メタボリックシンドローム/糖尿病対策)
(和泉比佐子)
地域概要の把握,保健師の問題意識,対象の背景にある地域特性の把握,人びとの健康状態と生活実態のアセスメント,健康課題の特定と分析,健康課題への対策,施策体系の立案,施策評価計画の作成
文献