やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書の初版発行から4年がたち,このたび第2版を発行することとなりました.この間,国策として掲げられている地域包括ケアシステムの構築は,都道府県での実装に向けてさまざまな取り組みが重ねられています.そして,人生100年時代を見据えて,医療・福祉,産業,教育などの多分野で,未来の社会のあり方,地域のあり方を模索する議論が始まりました.
 本書「生活と医療を統合する 継続看護マネジメント」は初版の発行以来,多くの方に手にしていただき,私たち自身も「生活と医療を統合する」こととは何か,「継続看護」とは何か,問い直す機会になりました.私たちはこの本の執筆に,これからの看護師が責任をもつべき役割,そして看護師が信じてやまないめざすケアの形を具現化したい,あるいは根拠をもって説明できる枠組み構築の第一歩としたいというチャレンジ精神で臨んでいます.
 継続看護マネジメントは,平成22-25年度科学研究費補助金(基盤研究(B))「生活と医療を統合する継続看護マネジメント能力を育成する教育プログラムの開発と検証」(22390440):研究代表者長江弘子の研究成果としてまとめたものですが,この第2版では研究成果そのものというよりも,研究プロジェクトメンバーとともに実践への適用を試みた方々と用語やモデル図などの精選を重ね,再編することに注力しました.この4年間,国内外の学会などでの交流集会を7回開催し,都道府県看護協会や病院からの依頼で開催した基礎編や実践編のセミナーは7カ所を超えました.こうした継続看護マネジメントモデルの教育・啓発活動の機会を通じて多くの実践家と出会いました.そして,その実践知を集め,退院支援ではなく,「生活と医療を統合する」ことを地域連携の多職種で理解し合えるよう,ダイナミックな思考過程をイメージするためのモデル図を新しく作成しました.また,各事例は,実践の焦点を明示し,展開をわかりやすい図表で示すなど,構成を再考し,事例の数も大幅に増やしました.
 私たちの継続看護マネジメントの追求は,退院支援や在宅移行支援という特定の状況への看護師の取り組みではなく,何のために看護師は退院支援をするのか,その活動の本質を示すものは何かを問うことから始まりました.また,看護学基礎教育において育成すべき人材像や教育方法は何か,そして地域社会に役立つ看護師をどのように育てるべきなのかという問いがいつも私たちの原動力となっています.看護教育者・研究者である私たちが大切にしているもの,育てたい“看護師のまなざし”,それを形にして伝え,共有していきたいという一心で本書をまとめました.しかし,用語や言い回しもまだ洗練されていません.ですので,皆さまからのご意見やご感想をぜひお寄せいただければありがたいです.読者である看護師,ならびにすべての対人支援職の皆さまとともに精錬させていきたいと思っております.
 最後になりますが,本書を出版するにあたり,“その人の生きるを支える継続看護マネジメント”をイメージした新しい本書の構成やデザインをともに検討していただきました,医歯薬出版の編集担当をはじめ,制作にかかわってくださった方々に深く感謝いたします.
 著者を代表して 編者 長江弘子
 はじめに
第1章 生活と医療を統合する看護を必要とする背景
 1 地域包括ケアシステムにおける看護師の役割(坂井志麻)
 2 生活と医療の統合とは:看護実践における思考過程の再考(長江弘子)
第2章 継続看護マネジメント(CNM)の概要
 1 継続看護マネジメント(CNM)とは(長江弘子)
 2 継続看護マネジメント(CNM)の概念構造(渡邉賢治)
第3章 継続看護マネジメント(CNM)の事例
 イントロダクション(長江弘子)
 [事例1] 慢性疾患とともに生きる一人暮らし高齢者への支援
  家で暮らしたいと願うAさんへのCNM(仁科祐子,谷垣靜子)
   多職種と家族が協働した病状管理により,Aさんの望む生活を叶えた事例
 [事例2] 心疾患をもつ人への支援
  入院をしたくないと願うBさんへのCNM(乗越千枝)
   診療所外来看護師のCNMにより,入院せずに病状管理をしている事例
 [事例3] 認知機能障害のある人への支援
  「パークゴルフがしたい」と願うCさんへのCNM(山下いずみ)
   本人・家族,医療者で治療やケアの方向性について目標を共有しながら進んだ事例
 [事例4] 認知症をもつ人への支援
  家で息子と暮らしたいと願うDさんへのCNM(乗越千枝)
   入院をきっかけに認知症となった高齢女性の自宅退院を可能にした事例
 [事例5] 頸髄損傷者と家族への支援
  頸髄損傷とともに夫・父親・経営者として生きるEさんへのCNM(岡田麻里)
   重度な障がいを抱えながらも,社会的な存在であることを実現した事例
 [事例6] ALS患者と家族への支援
  どう生ききるか問い続けたFさんへのCNM(谷垣靜子)
   ALS患者が望む生き方を最期まで尊重してかかわった事例
 [事例7] 多系統萎縮症の療養者と家族の支援
  自身の病状や家族のライフステージが変遷していくGさんへのCNM(片山陽子)
   生活に医療を組み込みつつ,家族の希望とライフタスクの達成を支えた事例
 [事例8] がん終末期にある人への支援
  正月を家で迎えたい一人暮らしのHさんへのCNM(酒井昌子)
   末期がん患者が望む最期を実現し,本人と家族が満足する看取りにつながった事例
 [事例9] 神経難病の人への支援
  できるかぎり仕事をしたいと願う壮年期独身のALS患者IさんへのCNM(長谷川智子)
   Iさんの考える「生きる」を理解し,ピアサポートも含めて支えていった事例
 [事例10] 希少難治性疾患の小児と家族への支援
  医療的ケアを必要としながら成長・発達していくJくんと家族へのCNM(片山陽子)
   地域の資源を活用しながら児と家族の生活を広げ,エンパワメントにつながった事例
 [事例11] 統合失調症の人への支援
  猫といっしょに暮らしたいと願うKさん親子へのCNM(岡田麻里)
   近隣とトラブルを起こしている家族を支えることで地域が一体になった事例
 [事例12] 慢性腎不全患者への支援
  オーバーナイト透析を希望する就労者LさんへのCNM(鈴木沙織,多久和善子)
   血液透析と仕事の両立をオーバーナイト透析の実施により実現できた事例
 [事例13] がん終末期にある一人暮らし高齢男性への支援
  人の気配のする所で逝きたいと願うがん終末期MさんへのCNM(川添恵理子)
   過ごしたい所,会いたい人の希望を実現し,穏やかな最期を迎えられるようかかわった事例
 [事例14] 解離性障害のある胃がん(スキルス)終末期の20歳女性への支援
  婚約者と母親と一緒に暮らしたいと願うがん終末期NさんへのCNM(川添恵理子)
   複数の医療機関を転々と受診していたNさんの療養環境を整え,豊かな最期につなげた事例
第4章 継続看護マネジメント(CNM)の展開方法
 1 看護基礎教育に「継続看護マネジメント」を導入して(谷垣靜子,乗越千枝)
 2 継続看護の考え方を基本とした多職種連携(岡田麻里)

 おわりに