やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 厚生労働省の患者調査によると,2014(平成26)年の精神および行動障害の患者数は,入院患者26万5500人,外来患者25万700人と推計され,なかでもうつ病を含む気分障害圏の患者数は平成26年には11万2,200人と増加しており,2万8,000人が入院加療をしている.日本においてうつ病の生涯有病率は6.7%であり,うつ病は発症頻度の高い疾患である.うつ病は,内分泌系の変化により2型糖尿病の発症を2倍ほど高めることや,動脈硬化を進行させて冠動脈虚血性疾患の発症率が1.2〜3.9倍になるという報告がなされ,身体疾患を契機に発症する.また1998(平成10)年以降3万人を超える自殺者の多くは,うつ病が原因であることが報告され,うつ病に特化した治療やケアの必要性が社会的な課題となっている.さらに,国民全体の健康上の問題として認知症もあげられ,高齢者のうつ病は認知症に発展しやすいこと,認知症そのものに罹患する患者数も増えていることから,患者および家族を地域で包括的に支える仕組みづくりが政府主導で急速に進められている.そして,超高齢社会において,認知症,うつ病の早期発見と早期介入,さらに予防は,重要な社会的課題となってきている.
 このような時代背景をもとに,身体疾患による精神状態の悪化を予防し,うつ病や認知症を早期発見して介入し,早期回復を目指すため,2012(平成24)年度に精神科リエゾンチーム加算が診療報酬に設定され,医師,精神看護専門看護師もしくは認知症認定看護師,看護師,臨床心理士,精神保健福祉士,薬剤師,作業療法士など多職種チームから構成される精神科リエゾンチームが誕生した.この精神科リエゾンチームは,総合病院・一般科の病院における精神医療のニーズの高まりを踏まえ,一般病棟に入院する患者に対してより質の高い精神科医療を提供する場合に評価されることとなった.さらに2016(平成28)年度には,診療報酬上の点数,精神科リエゾンチームの要件,施設基準が見直されて盛り込まれ,精神科リエゾンチームがさらに全国に広がることとなった.
 そこで,精神科リエゾンチームの基本的な考え方,総合病院での精神科リエゾンチームが有効に活用されるための方法について,事例や実践を通じて具体的に示し,精神科リエゾンチームの医療の質向上を目指すことのできるガイドブックを作成した.
 本書では,総合病院・一般科の病院で精神科リエゾンチームをどう始めるのか,また精神科リエゾンチームの介入方法,各職種の役割,病棟・他職種間との連携の方法,など組織全体を視野におきながら,具体的な展開が可能であるよう事例や実践活動を紹介して同時に課題も提示した.本書が精神科リエゾンチームの発展をさらに促進し,精神科リエゾンチームを展開する人々,そしてその支援を受ける患者・家族に有効であることを願っている.
 本書の作成において,熊本地震をあいだに挟んでしまい,完成が非常に遅れてしまい,著者の皆様,出版社の皆様にお詫びとお礼を申し上げます.そして何より共同編者の秋山 剛先生の忍耐と創造性に感謝いたします.
 2017年9月
 編者を代表して 宇佐美しおり
第1章 精神科リエゾンチームの経緯
 (宇佐美 しおり)
  1)精神科リエゾンチームの歴史
  2)精神科リエゾンチームの支援の必要性
  3)精神科リエゾンチームの支援の対象
  4)精神科リエゾンチームの効果
  5)精神科リエゾンチーム加算
  6)精神科リエゾンチーム加算後の研究の動向
第2章 精神科リエゾンチームの病院のなかでの機能
 (秋山 剛)
  1)はじめに
  2)特別なケアチームの意義
  3)精神科リエゾンチームに特有の事情
  4)精神科リエゾンチームの位置づけ
  5)精神科リエゾンチームのリーダーの機能
  6)おわりに
 付録:拘束回診と救急入院患者精神症状確認(山本 沙織,高橋 香織,窪倉 正三,松田 充子,秋山 剛)
  I.拘束回診
  II.救急入院患者精神症状確認
第3章 精神科リエゾンチームのはじめ方
 (福嶋 好重)
  1)病院システムでの位置づけ
  2)精神科リエゾンチームの活動の使命,目的
  3)精神科リエゾンチームのメンバーの職種
  4)精神科リエゾンチームのメンバーの役割分担と協働
  5)精神科リエゾンへの依頼方法
  6)精神科リエゾンチームのPRとアウトリーチ
  7)精神科リエゾンチームによるコンサルテーション,エンパワーメント,支援者支援,直接ケア
  8)精神科リエゾンチームの職種による特徴
  9)おわりに
第4章 精神科リエゾンチームの介入
 (宇佐美 しおり)
  1)介入の対象となる患者
  2)依頼,アセスメント,支援,フォロー,終結
第5章 精神科リエゾンチームにおける各職種の役割とチームの調整
 1.医師の立場から(荒井 宏・秋山 剛)
  1)精神科リエゾンチームにおける精神科医の役割
  2)精神科リエゾンチームに提供できる情報の内容
  3)事例
 2.精神看護専門看護師の立場から(福嶋 好重・秋山 剛)
  1)精神科リエゾンチームにおける精神看護専門看護師の役割
  2)精神科リエゾンチームに提供できる情報の内容
  3)事例
 3.臨床心理技術者(臨床心理士)の立場から(高橋 香織・秋山 剛)
  1)精神科リエゾンチームにおける臨床心理士の役割
  2)精神科リエゾンチームに提供できる情報の内容
  3)事例
 4.精神保健福祉士の立場から(岩蕗 かをり・秋山 剛)
  1)精神科リエゾンチームにおける精神保健福祉士の役割
  2)精神科リエゾンチームや入院病棟に提供できる情報の内容
  3)事例
 5.薬剤師の立場から(橋 結花・秋山 剛)
  1)精神科リエゾンチームにおける薬剤師の役割
  2)精神科リエゾンチームに提供できる情報の内容
  3)事例
 6.作業療法士の立場から(早坂 友成・秋山 剛)
  1)精神科リエゾンチームにおける作業療法士の役割
  2)精神科リエゾンチームに提供できる情報の内容
  3)事例
 7.チームで意見が食い違ったとき
  1)チームの意見のまとめ方(山内 典子)
  2)チームの管理医師への相談(赤穂 理絵)
第6章 他科スタッフとの協働
 1.他科スタッフへの周知,PR(佐藤 寧子・秋山 剛)
  1)他科スタッフへの周知,PRの方法
  2)重要な点
  3)事例
 2.他科の看護師に対するスクリーニングの研修(佐藤 寧子)
  1)認知症を含む精神疾患の既往歴
  2)抗精神病薬,気分安定薬,抗うつ薬,抗認知症薬,抗てんかん薬の服用歴
  3)興奮を伴う意識障害(せん妄)
  4)身体疾患に伴う不安,抑うつ状態
  5)自殺企図・希死念慮
  6)身体拘束の施行
  7)興奮を伴わない意識障害および診断を受けていない軽度の認知症
 3.ケアプラン展開への他科看護師の研修(福岡 敦子・山本 沙織)
  1)せん妄
  2)認知症
  3)認知症以外の精神疾患の既往歴
  4)身体疾患に伴う不安,抑うつ状態
  5)自殺企図・希死念慮
  6)身体拘束
  7)興奮を伴わない意識障害および診断を受けていない軽度の認知症
 4.他科医師への支援に関する資料(赤穂 理絵)
  1)支援資料の概要
  2)重要な点
  3)支援資料の実際例
 5.患者に応じた担当診療科・病棟の検討(福嶋 好重・秋山 剛)
  1)コンフリクトの解決に向けて
  2)重要な点
  3)事例
 6.他科の医師・看護師の関係がよくない場合の対応-その1(赤穂 理絵・秋山 剛)
  1)精神科リエゾンチームの医師が他科の医師を支援する
  2)介入例
 7.他科の医師・看護師の関係がよくない場合の対応-その2(福嶋 好重・秋山 剛)
  1)精神科リエゾンチームとしての支援は,他科の看護師を中心に行う
  2)事例
第7章 トラブル時の対応
 1.他科の医師の拒否・抵抗(富安 哲也・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 2.精神科医からの依頼がない,拒否・抵抗がある(五十嵐 友里・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 3.病棟看護師からの依頼が少ない(寺岡 征太カ・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 4.病棟看護管理者からの依頼がない,拒否・抵抗がある(寺岡 征太カ・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 5.患者の拒否・抵抗(白井 教子・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 6.家族の拒否・抵抗(宇佐見 しおり・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 7.患者の不安への対応(花村 温子・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 8.抑うつへの対応(花村 温子・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 9.低活動型せん妄で意識障害がある患者への対応(河野 佐代子・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 10.怒り,担当科スタッフへの威嚇・攻撃への対応(河野 伸子・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 11.特別扱いを要求する患者への対応(河野 伸子・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 12.既往の精神障害のある患者への対応(石飛 マリコ・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 13.患者の病状進行が受け入れられず一過性に操作的になった家族への対応(宇佐見 しおり・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点
 14.患者・家族の意思決定能力に問題がある場合の対応(小林 清香・秋山 剛)
  1)事例の概要
  2)アセスメント
  3)トラブルへの対応
  4)重要な点