やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書は,主として看護研究の初心者を対象に文献レビューの考え方や具体的な手順について解説したものです.国内では,文献レビューではなく,文献研究や文献検討と呼ばれることのほうが多いかもしれません.この本を手に取られた皆さんは,何らかの理由で文献レビューが必要になったのだと思います.
 文献レビューという言葉は聞いたことがあっても,具体的な考え方や手順を学ぶ機会はそう多くありません.研究方法論などの科目の一部として1 回あるいは多くても数回程度学ぶだけで,系統的に講義を受けた経験は非常に少ないと思います.あるいは,図書館でパソコンを使った文献の検索の方法を教わる程度だったかもしれません.看護研究の本などの一部に「文献研究」あるいは「文献レビュー」として記述されることはあります.しかし,これだけだとなかなか深く理解することは難しいと思います.文献レビューの基本的な考え方や手順をやさしく解説した本が見つからず,自己流で文献研究をやるしかなかった人も多いでしょう.
 量的な研究は統計学の知識や統計ソフトの使い方を知らないとできません.そのため,数学に苦手意識を持っている人は敬遠しがちです.一方,日本語で書かれた文献を普通に読めれば,文献レビューは何となくできてしまいます.したがって文献レビューに対する拒否反応は比較的少ないと思います.しかし,この“何となくできてしまう”というところが実は大きな問題です.文献を集めてきて,それぞれの要約をつなぎ合わせて文献レビューをしたと思い込んでいる場合があります.これだと,単に文献要約のリストにすぎません.文献レビューも研究方法の1 つですから,そこには新たな知見が加わらないといけません.
 筆者が調べた限りでは,国内向けに文献レビューの方法論だけに絞って書かれた基本書は見当たりません.多くの場合は,研究方法論の書籍の中で文献検討として数ページからせいぜい十数ページで解説される程度です.その多くは文献を検討する必要性や,文献を検索する方法が主であり,それ以上の説明や文献レビューの具体的な手順が詳しく示されることはほとんどありません.つまり,文献として報告された先行研究を検討することが,その後に続く研究(質問紙調査や面接調査など)の基礎として重要であることは強調されますが,文献レビューがそれだけで独立した研究方法だという視点からは記載されていません.
 海外には英語で書かれた文献レビューの書籍が10 冊以上あります(詳しくは巻末の付録を見てください).海外の書籍は参考になりますが,(1)英語の論文を英語のデータベースで検索することを前提としている,(2)大学教育や学位授与に関する考え方が必ずしも日本と同じでない,(3)文献レビューを支援するデジタルグッズやインターネット情報が日本より普及している,などの理由で日本の初心者が読むテキストとして不向きな部分があります.そこで,海外の標準的なテキストを参考にしながら,考え方や方法論に偏りがないように,なるべく保健医療系の研究に取り組む初心者に必要と思われる事項を厳選し,筆者のこれまでの経験も踏まえてまとめ上げたのが本書です.
 本書では,文献レビューを学部学生や大学院生が身に付けておくべき研究方法論の基本の1 つと位置付けています.そして,初心者が知っておくべき基本事項を解説してあります.基本さえきちんと身に付けておけば,それを応用することは可能です.そして文献レビューを通じて身に付けた知識や技術は,この先研究を続ける上で役に立つものが多いと思います.また,日常生活でも生かしてみてください.本書を読んで,文献レビューに対する興味や関心が強まったとすれば本書の目的は達成されたと思います.
 最後に,いつもお世話になっている医歯薬出版第一出版部の編集担当者の方々には,読みやすい教材にするために多大なご尽力を賜りましたことを厚くお礼申し上げます.また,図表の作成・文章校正など煩雑な作業の大半は山梨大学の大間敏美さんにお願いいたしました.同僚で在宅看護学講座の彦聖美准教授には,本文を通読していただき的確なコメントを頂きました.ご協力に感謝申し上げます.
 2013 年8 月
 大木秀一
Book-1
第1章 文献レビューに必要な予備知識
 1.レビューって何だろう
 2.研究の世界の約束ごと…研究,文献,論文に関する基礎知識
  1)文献とは
  2)一次文献・二次文献とは
  3)学術雑誌とは
  4)論文とは
  5)学会発表と抄録(会議録)とは
  6)査読(ピア・レビュー)とは
   (参考) レビュー論文
   (参考) 灰色文献
 3.学術論文の基本的な構成
 4.研究の種類とデザイン
  1)研究の種類
  2)研究デザイン
  3)研究デザインを分類する難しさ
 5.文献レビューが重要になった背景
  1)根拠に基づく医療(EBM)から根拠に基づく実践活動(EBP)へ
  2)EBMと文献レビュー
  3)文献レビューの目的に応じたエビデンスの階層
   (コラム) レビューの対象となる文献は看護学に関する研究だけではありません
   (ジグソーパズル1) 文献レビューはジグソーパズルみたいなもの
第2章 文献レビューの概要
 1.文献レビューとは
  1)文献レビューの目的
  2)文献レビューの定義とプロセス
  3)文献レビューは感じた疑問に答える研究方法の1 つ
 2.文献レビューの特徴
  1)文献レビューと文献検討の違い
  2)文献レビューの利点
  3)文献レビューの5 つのキーワード
  4)文献レビューと調査研究
 3.文献レビューの簡単な流れと5 つのstep
  1)5 つのstep
  2)5 つのstepは一方的ではなく双方向的・相互補完的
  3)実際の文献レビューは「探す」「読む」「書く」のサイクル
 4.いろいろな文献レビュー
  1)高度な文献レビュー-システマティック・レビューなど
  2)伝統的なレビューあるいは物語風のレビュー
  3)系統的でないレビューの危険性
  4)ビュー論文を読むときの注意事項
   (参考) 出版バイアスと言語バイアス
 5.文献レビューを始めるにあたって
  1)初心者に向いている文献レビュー
  2)レビューの対象とする文献
  3)好ましくない文献レビューとは
   (コラム) 文献レビューをすることで研究者に必要な基礎的な能力が高まります
   (コラム) 抄録の羅列では文献レビューにはなりません
 6.文献レビューに役立ついくつかの日常習慣
  1)メモをとる習慣を身に付けること
  2)クリティカルに読み,書き,考えること
  3)情報を記録すること
  4)図表を使って考えを整理すること
  5)計画的に進めること
  6)文献レビューのプロセスを意識してみること
  7)優先順位を考えること
   (ジクソーパズル2) 全体像を見る必要性
Book-2
第1章 Step 1 課題設定─研究テーマを決める
 1.課題設定のプロセス
  1)研究につながる素朴な疑問
  2)トピック,研究テーマ,研究疑問
  3)研究テーマを決めるための知識量・情報量
  4)知識の増加(情報収集)と課題設定プロセスの循環
   (コラム) 研究疑問に対する「正解」を求めているわけではない
   (コラム) 論文の読み方
 2.研究テーマと研究方法
 3.研究疑問を絞り込む方法
  1)良い研究疑問とは?
  2)研究疑問の変化と深化
  3)発散と収束
   (コラム) 制限をつけてテーマを絞り込んでみましょう
 4.良い研究疑問を設定するためのヒント
  1)興味や関心,強い研究動機のあるテーマを選ぶこと
  2)研究疑問は適度に焦点を絞ること
  3)研究疑問は明確で,曖昧さの残らないものにすること
  4)研究疑問は決められた時間内で解答可能で現実的なものにすること
  5)重要な1 つ(多くても2 つ)の疑問に絞ること
  6)文献を用いて解答できること
 5.課題設定を有効にするために
  1)研究疑問の設定プロセスの記録
  2)いつでも頭の中に研究疑問を
   (ジグソーパズル3) 研究疑問の絞り込みとジグソーパズル
第2章 Step 2 文献検索─文献を検索・入手・管理する
 1.探索的な文献検索と系統的な文献検索
   (参考) 書誌データベースと検索システム
 2.文献の選択基準
  1)選択基準とは
  2)適切な選択基準の例
  3)選択基準をつくる理由
  4)研究疑問と選択基準
   (注意!) 文献の種類による絞り込みはしない
 3.文献検索の方法
  1)キーワード検索
  2)主題検索とシソーラス
  3)キーワード検索と主題検索
   (コラム) 適切なキーワードを見つけ出すコツ
 4.検索結果のとらえ方
  1)ノイズと見落とし
  2)検索実験のすすめ
   (注意!) 重要文献の見落としは致命的になることがある
 5.文献検索の実際
  1)文献検索システム
  2)検索手順の記録
  3)文献の入手
  4)コア文献(キー文献)に目星をつける
  5)対象文献を確定するまでのプロセス
  6)文献データベースによる系統的検索の問題点
   (参考) 医中誌Web
   (コラム) 文献の著者と検索した者の興味や関心が異なる場合
   (コラム) 文献検索は量的研究と似ています
 6.文献の管理
   (参考) 文献を管理する方法の例
   (ジグソーパズル4) ノイズ・見落としをジグソーパズルに例えると
第3章 Step 3 内容検討─入手した文献を読み,内容を検討する
 1.批判的吟味ないしクリティークについて
 2.文献を読む力
  1)情報収集のための読み方
  2)読みにくい文献の理由を考える
  3)情報リテラシー
   (コラム) 効率よく論文を読む
 3.内容検討の方法
  1)内容検討の目的
  2)クリティカルな内容検討
 4.内容検討の実際
  1)チェックリストを用いた品質評価
  2)文献内容の要約と判定
   (参考) 量的研究の評価の基本
   (参考) 文献の間違いを見つけた場合にどうするか
第4章 Step 4 文献統合─検討した結果を整理し統合・解釈する
 1.要約表の作成
  1)要約表の体裁
  2)要約表に記載する情報量
 2.文献統合の方法
  1)要約表の概観
  2)文献の引用・被引用のマッピング
  3)文献統合の基本的な考え方
  4)初心者向きの統合の方法
 3.文献統合の実際
  1)文献全体を1 つのデータと考える
  2)叙述的にまとめる
  3)質的に統合する
  4)結果の精査
  5)統合した内容のストーリー作り
   (参考) コードとカテゴリの例
   (ジグソーパズル5) 文献統合とジグソーパズル
第5章 Step 5 論文執筆─全体のプロセスを執筆する
 1.なぜ論文を書けないのか
 2.論文執筆に際しての心構え
  1)「理解するために書く」から「理解してもらうために書く」へ
  2)読み手を想定した執筆
  3)必要最小限の記述
  4)学術的な文章を書く練習
 3.論文執筆の方法と実際
  1)執筆計画
  2)IMRAD形式による論文執筆
  3)図表の整理
  4)引用文献の取り扱い
  5)結論と提言に挑戦
   (コラム) どの文献のどの箇所に引用する事項があるかを同定するための工夫
   (注意!) 引用に関して
 4.結果と考察の関係と議論の進め方
 おわりに

 FAQ 文献レビューについて よくある質問
 付録 文献レビューの実例 本書の執筆にあたって行った文献レビューの概要
 参考文献
 索引