やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 平成18年厚生労働省「国民健康・栄養調査結果の概要」より,糖尿病が否定できない人を含めて推定される糖尿病該当者は1,870万人であるが,そのうち,治療を受けている患者は約820万人である.また,糖尿病は自覚症状が乏しいためか,平成14年厚生労働省「糖尿病実態調査」では,半数以下の人しか通院していない現状である.そして「糖尿病データマネジメント研究会」の報告(小林 正)によると,血糖コントロール「良」に相当するHbA1C6.5%未満の達成率は40%に満たない.糖尿病患者の療養生活は多くの場合,医学的管理に加え,生活の行動変容を求められ,生涯にわたり継続してセルフコントロールすることを望まれる.これは患者の主体的な取り組みが必要であることを意味する.生涯にわたり継続してセルフコントロールすることを望まれるがゆえに,うつ状態に陥り,うまくできない自分を責める患者も少なくない.そして,合併症が進行すれば生活の質を脅かす結果を招く.療養支援を行う私たちは,糖尿病をもちながら生活する「人」の悩みを知り,支え,導くことがとても重要だと考える.患者に糖尿病の正しい知識を伝え,疾患に縛られた生活ではなく,糖尿病と生活に折り合いをつけて,患者が自分らしく,豊かな生活を送れるよう支援していきたい.
 本書は,糖尿病療養指導士や糖尿病患者の支援に関わるすべての医療者を対象に書いた.著者らが,糖尿病看護認定看護師の専門課程で学び,さらに実践から得た経験や患者の言葉,仲間同士で語り合う中でかたどってきた支援技術をまとめた結果,糖尿病看護のプロセスをひとりの糖尿病をもつ患者との出会いから始まる物語として捉えた.患者と向きあう前に知っておきたいことから始まり,出会い,受け止め,身体面・精神面・社会面と全人的に理解し,支え,導き,セルフケアを支持できるようになるまでのポイントや事例を,イラストを使いイメージしやすいように解説した.最初から最後まで通してご覧頂いたり,また必要な場面だけを開いたり,随時ご参考にしていただければ幸いである.
 2009年8月吉日
 執筆者一同
 はじめに
I 患者と向きあう前の準備
 1 自分を知る
  1 どうして人によりものの見方が違うのか
  2 自分の傾向を知る
  3 職場環境を考える
  4 行動を起こす
  5 まとめ
II 糖尿病看護のプロセス―患者との関わり―
 第1幕〜出会い〜
  1 出会い
   1 出会いの場面での心構え
   2 患者の内面に関心を寄せる
   3 まとめ
  2 患者を知る
   1 情報収集
   2 情報を分析する(アセスメント)
   3 まとめ
 第2幕〜患者と共に歩む〜
  3 支える
   1 ありのままを受け止める
   2 まとめ
  4 導く
   1 「導く」とは
   2 目標を見出す
   3 医療者も自分を振り返り問い直すこと
   4 「病院に来る」だけでも努力が必要な日もある
   5 まとめ
  5 伝える
   1 伝える時の考え方と心がけ
   2 伝える時の工夫
   3 医療者以外の人々を通じて
   4 伝えた後のサポート
   5 まとめ
  6 振り返る
   1 「振り返る」とは
   2 振り返りを行う際の医療者の心構え
   3 振り返りの実際
   4 患者のもっている力を信じる
   5 医療者にとっての振り返り
   6 まとめ
 第3幕〜見守り〜
  7 見守る
   1 患者が治療の自己中断をしないために
   2 その人らしい生活を見守る
   3 気にかけ,受け入れ,見守る
III 事例
 1 事例
  1 患者への関わりの違いでインスリン治療に変化がみられた事例
  2 振り返り
  3 事例について考える
IV 認定看護師への道
 1 認定看護師(Certified Nurse)とは
 2 糖尿病看護認定看護師
 3 糖尿病看護認定看護師の活動
 4 今後の展望

 おわりに
 参考図書

 COLUMN(1) 真実は「薮の中」
 COLUMN(2) どうして詰問になるのか?
 COLUMN(3) 共に考える姿勢で
 COLUMN(4) 医療者が認識しておきたいこと
 COLUMN(5) ありのままを受け止めてもらえた体験を通して
 COLUMN(6) 認めていることをどう伝えるか? どう伝わっているか?
 COLUMN(7) 言葉だけではない
 COLUMN(8) こんな教室考えました
 COLUMN(9) 民間療法
 COLUMN(10) 小児サマーキャンプ