やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 食生活やライフスタイルの近代化に伴い,わが国でも糖尿病が増加しています.糖尿病は「患者教育の病気」と言われています.われわれ医療従事者がどんなに頑張って説明しても,患者さん自身が変わらないと何も始まりません.例えば,糖尿病患者さんに,
 「もっと食事に気をつけましょう!」
 「もっと運動をしましょう!」
 「きちんとインスリン注射をしましょう!」
 と一方的に指導しても,
 「食事を制限するとストレスがたまる」
 「運動する時間がない,長続きしない」
 「つい忘れるのです」
 などと言い訳されることがあります.これを,心理学では「抵抗」と呼んでいます.そういった抵抗を示す患者さんに対して,将来起こりうる合併症の話題を提供する,いわゆる“医学的おどし”で行動変容をせまっても,患者さんはなかなか心を開いてくれません.これはイソップ物語の『北風と太陽』の話に似ています.われわれ医療従事者が強くおどせばおどすほど,患者さんはその場から逃げたいという気持ちになって,心を閉ざしてしまいます.今,われわれ医療従事者には,患者さんの心を開く楽しい療養指導が求められています.これが本書「Dr.坂根のやる気がわいてくる糖尿病ケア」です.それでは,具体的にどうすればいいのでしょうか.
 糖尿病の病態や薬の使い方は,教科書などで学ぶことができます.しかし,患者さんの心を開く方法については,教科書には記載されていません.事実,私自身も,多くの糖尿病患者さんからいろいろなエピソードや物語を教えてもらいました.これらが私の療養指導の財産になっています.つまり,私にとって,「患者さんが一番の教科書」なのです.これらの患者さんのエピソードと最新のエビデンスを加えて作ったものが,本書の24回シリーズです.これらの糖尿病の療養指導のコツは外来や教室などで繰り返し使い,改良し,私自身効果を実感していますので,患者さんの心に響く内容になっているのではないかと思います.
 そして,本書では私の友人でもある,いわみせいじさんの楽しいイラストで,視覚的にも「やる気がわいてくる“糖尿病ケア”」について,学ぶことができるように工夫してあります.ノート欄も上手に活用し,楽しく本書を読み進んでいくうちに,あなたなりの効果的な療養指導法に活用して頂ければ嬉しく思います.
 本書の原案は第一三共(株)の糖尿病情報サイトにネット公開されたもので,本書の制作にあたっては,第一三共(株)のご理解と医歯薬出版(株)のご協力をいただきました.
 本書を上手に活用して頂いて,患者さんが“やる気”を出して下さることを望んでやみません.是非,ご一読ください.
 2009年4月吉日
 京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室
 坂根直樹
 はじめに
第1回 患者さんの言い訳は
 1.巷では健康情報が氾濫!
 2.つまらない講義は眠くなる
 3.効果のない指導用語とは?
 4.上手に言い訳する患者さん
第2回 ものごとの裏を読んでみよう!
 1.患者さんに感動してもらいましょう!
 2.栗入りドラやき
 3.栗入りドラやきの裏の顔
 4.カレーパンとせんべいの話
第3回 健康寿命を延ばすには?
 1.延命ではなく健康寿命を延ばしましょう!
 2.自動車や洗濯機の普及と糖尿病
 3.運動療法に対する言い訳
 4.運動すると血糖が下がる!
第4回 糖尿病はありふれた病気?
 1.糖尿病に対するイメージは?
 2.糖尿病に関する○×クイズ
 3.糖尿病を持つ有名人は?
 4.村田英雄さんの生き方から学ぶ
第5回 合併症は『しめじ』と『えのき』?
 1.合併症が出た人のつぶやき
 2.あなたの気になる合併症は?
 3.糖尿病の3大合併症は『し・め・じ』
 4.『し・め・じ』もあれば『え・の・き』もある
第6回 糖尿病の進行を食い止めるには?
 1.糖尿病と言われた時の気持ちは?
 2.糖尿病を駅に例えると……
 3.あなたはいま,どこの駅にいますか?
 4.糖尿病を予防する5つの方法
第7回 メタボになりやすい食生活とは?
 1.正しいウエストの測定法
 2.内臓脂肪がたまりやすい食生活とは?
 3.炭水化物の「重ね食い」にご用心
 4.食べ物によって血糖の上がり方が違う!
第8回 楽しくやせる気にさせるコツは?
 1.体重の変化と糖尿病発症の関係は?
 2.20歳から体重は何kg増えましたか?
 3.10kgと言えば……
 4.増えた体重を経験してもらいましょう!
第9回 一番簡単な食事療法は?
 1.食事指導に対する言い訳
 2.健康ブームの歴史
 3.どちらがヘルシーなメニュー?
 4.健康に良いと思って取り過ぎている!
第10回 肥満者は刺激に弱い!
 1.自己管理の実行度は?
 2.肥満者と正常体重者の違いは?
 3.あなたは刺激に弱いタイプ?
 4.刺激を減らす工夫とは?
第11回 太りやすい食べ方,太りにくい食べ方
 1.「はや食い」と肥満の関係は?
 2.太ると胃の通過時間が速くなる!
 3.よく噛んでゆっくり食べましょう!
 4.はや食いをやめるには?
第12回 民間療法が好きな患者さんへの対応は?
 1.糖尿病に対する民間療法
 2.民間療法を否定すると……
 3.どんな人が民間療法をするの?
 4.チラシの正しい読み方
第13回 減量を成功させるには?
 1.肥満は伝染する!
 2.太っている人は座っている時間が長い!
 3.太りやすい人の部屋は?
 4.生活環境を変えるとやせる!
第14回 散歩も運動になるの?
 1.健康寿命を延ばしましょう!
 2.運動習慣があると病気になりにくい!
 3.犬と散歩すると長生きする!
 4.一緒に歩ける仲間を探しましょう!
第15回 適正飲酒指導のコツは?
 1.あなたの飲酒量は?
 2.「酔ってない」と言う人ほど酔っている!
 3.アルコールは意外と高カロリー!
 4.未来質問で尋ねてみましょう!
第16回 脂肪細胞の不思議
 1.2つの脂肪細胞
 2.脂肪細胞は分泌臓器
 3.柔らかくなったのはやせてきた証拠?
 4.脂肪細胞は大人になっても増える?
第17回 糖尿病網膜症を上手に説明する方法
 1.食後高血糖と合併症の関係
 2.「もったいない」の落とし穴
 3.視力障害を擬似体験してみる
 4.眼球モデルを用いて説明する
第18回 血糖を下げる効果的な歩き方とは?
 1.歩くと血糖が下がる!
 2.脈拍が110になると効果的!
 3.腕の振り方で効果が違う!
 4.運動したくなるきっかけを作りましょう!
第19回 やせる体重記録のつけ方
 1.あなたの家の体重計は?
 2.体重測定のタイミングは?
 3.太る食べ物,やせる食べ物
 4.記録をつけるとやせてくる!
第20回 糖尿病と認知症の関係は?
 1.糖尿病患者はアルツハイマー病になりやすい!
 2.物忘れチェック
 3.糖尿病とアルツハイマー病に関するクイズ
 4.アルツハイマー病になりやすい人,なりにくい人
第21回 血糖を下げる運動とは?
 1.運動するとHbA1cが低下する!
 2.血糖を下げる運動はどれ?
 3.糖尿病運動療法としてのゴルフの意義
 4.家事労働は食後の血糖を下げる!
第22回 筋トレの効用は?
 1.筋肉量は年々減少する
 2.「よっこらしょ」と声が出る人々
 3.有酸素運動と筋トレの組み合わせが効果的
 4.椅子を使った筋トレとは?
第23回 検査値を上手に説明する方法
 1.検査値を覚えていない患者さん
 2.忘れない! 空腹時血糖値の覚え方
 3.隠れ食いがバレる検査とは?
 4.HbA1cを体温に例えると……
第24回 楽しいメタボ対策とは?
 1.メタボ連想メニューとは?
 2.きっかけは人それぞれ
 3.メタボ面白エピソード
 4.期間限定! 無料! 簡単ダイエット法

 索引