やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書の姉妹編と言える「リハビリテーション専門看護」を発刊して8年が経ちました.この間,回復期リハビリテーション病棟や特定高齢者対象の介護予防事業の開始など,リハビリテーションの需要はますます高まっています.また,保健医療福祉における急激な変化は看護師の役割拡大や役割強化を迫り,リハビリテーション医療においても看護師が専門的機能を発揮することが期待されます.前書で“専門看護”を標榜することにはかなり勇気が必要でしたが,今や看護の各領域に専門家が育っており,リハビリテーション専門看護を名乗るのも普通に思えるようになりました.それだけに,より具体的で実践に役立つテキストが望まれていると考えます.
 本書の執筆者は,国際リハビリテーション看護研究会を母体に研鑽している看護の実践・教育・研究者です.研究会活動をとおして,リハビリテーション看護師は何ができ,どのような技術があるのか,リハビリテーション看護師が果たす役割の何が他の看護領域と異なるか,等を問題意識として学習を深めてきました.本書は,これまでの知見を整理してエキスパートの実践に必須の知識と技術を提示し,リハビリテーション看護の実践者が,日頃の看護を見直して更なるレベルアップができるようにまとめました.この意味でリハビリテーション専門病院や回復期リハビリテーション病棟の看護師の皆様には是非ともご活用いただきたい書といえます.また,リハビリテーション看護に関心の高い看護学生や教員の皆様にもご活用いただけるように,技術の全体構造をフィッシュボーンで示すなど,学習時の参考になるように工夫しました.
 本書は5章で構成されています.第1章では,今日の医療状況を踏まえリハビリテーションの視点から看護理論の活用や看護戦略としてのチームアプローチと可能性へのチャレンジについて述べています.第2章では,国際生活機能分類を軸に対象を生活者として捉えるアセスメントの実際を提示します.第3章では,リハビリテーション看護の基本技術として代表的な項目を取り上げました.第4章では,リハビリテーション過程で生じやすい問題を看護事例として展開します.第5章では,リハビリテーション看護に関連する政策・制度・社会状況および倫理的問題に関して述べています.
 リハビリテーション看護を限られた紙面で記述する難しさと,実践事例の集積という点ではまだまだ途上であるため,項目毎の統一のなさ,読者のご要望に応えるには網羅しきれていない面があると思います.この点は責任編集者へのご批判としてお返しいただければと考えます.本年2月,「脳卒中リハビリテーション看護」認定看護師がようやく分野特定されました.今後,エビデンスに基づくリハビリテーション看護技術は急速に開発されると考えます.本書がエビデンス開発の指針になれば幸いです.
 2008年6月 編者
第1章 看護行動を支えるリハビリテーション・マインド
 1.リハビリテーション看護の理念と目標(野々村典子)
  ・リハビリテーション医療の動向とリハビリテーション看護の立場
  ・リハビリテーション看護とは何か
  ・リハビリテーション看護の方向
 2.リハビリテーション看護に関連する理論(山元由美子)
  ・リハビリテーション看護の特徴と用いられる理論
  ・セルフケアの自立に向けた理論
  ・危機理論と看護介入
  ・看護理論の臨床での活用
 3.リハビリテーション看護の戦略(奥宮暁子)
  ・役割と機能
  ・チームアプローチ
  ・援助の方向性とポイント
 4.強みを引き出すアプローチと可能性にチャレンジするマインド(林 裕子)
  ・強みに着目したアプローチ
  ・「ADLのできない」状態から可能性を探る
  ・事例:ギラン・バレー症候群,70歳代男性へのエンパワメント・アプローチ
  ・対象者の可能性にチャレンジする
第2章 リハビリテーション看護に必要なヘルスアセスメント
 1.リハビリテーション看護におけるアセスメントの視点(奥宮暁子)
  ・はじめに
  ・理論的枠組み:国際生活機能分類の考え方
  ・アセスメントの視点
 2.アセスメントの実際
  (1)リハビリテーション看護におけるフィジカルアセスメント(石川ふみよ)
   ・全身状態の把握
   ・機能別アセスメント
  (2)日常生活の評価(酒井郁子)
   ・日常生活を構成する要素と日常生活の評価の目的
   ・ADLの種類と評価
   ・基本的ADLスケールの適用と評価
   ・看護師による日常生活活動の評価
  (3)社会生活(活動・参加)の評価(酒井郁子)
   ・リハビリテーションにおける社会生活の評価の目的
   ・活動と参加
  (4)リハビリテーション看護におけるメンタルアセスメント(粟生田友子)
   ・メンタルアセスメントにおける対象の反応の捉え方
   ・メンタルアセスメントに必要な情報
   ・メンタルアセスメント―解釈の手法
   ・メンタルアセスメントの具体的な展開
   ・障害による心理的特徴
第3章 リハビリテーション看護基本技術
 1.呼吸機能障害のある人のケア(佐藤道代・高橋ひとみ)
  ・はじめに
  ・呼吸とは
  ・呼吸機能障害の原因
  ・呼吸のフィジカルアセスメント
  ・呼吸リハビリテーション
  ・呼吸リハビリテーションの評価
  ・まとめ
 2.廃用症候群の予防(齋竹一子・川波公香)
  ・起こりうる二次的障害
  ・二次的障害,廃用症候群を予防するためのケア
  ・クッションによるポジショニング(姿勢・肢位の保持)の方法
 3.排泄障害のある人のケア(金城利雄)
  ・はじめに
  ・排尿障害のアセスメントに必要な基本的知識
  ・排便障害のアセスメントに必要な基本的知識
  ・神経因性以外の排泄障害に関するケアのポイント
 4.摂食・嚥下障害のある人へのケア(小山珠美)
  ・「口から食べること」とは
  ・摂食・嚥下リハビリテーションの意義
  ・摂食・嚥下障害の原因や誘因
  ・アセスメント
  ・摂食・嚥下訓練
  ・セルフケア拡大を見据えた段階的アプローチ
  ・安全の確保
  ・まとめ
 5.スキンケア(藤田あけみ)
  ・スキンケアとは
  ・皮膚の構造と機能
  ・皮膚に影響を与える要因
  ・基本的スキンケア
  ・皮膚障害のアセスメント
  ・皮膚障害におけるスキンケア
 6.高次脳機能障害のある人のケア(小林美佐子)
  ・「高次脳機能障害」とは
  ・脳外傷リハビリテーションの流れ
  ・神経心理学検査
  ・看護の視点―入院から退院まで
  ・看護の実際
  ・日常生活指導
  ・家族への介護指導
  ・患者・家族への支援の視点
  ・まとめ
 7.麻痺のある人の運動・休息へのケア(竹井 仁)
  ・麻痺とは
  ・体位変換およびポジショニング
  ・他動運動
  ・トランスファー
  ・移動
第4章 リハビリテーション過程に生じやすい問題と看護アプローチ
 はじめに(石鍋圭子)
 1.発症:生命の危機からの脱出と活動への準備(細谷貴美・天沼美智子)
  ・事例 人工呼吸器管理患者の廃用症候群予防と活動への準備
   概要 本人および家族の希望・意思 看護診断 看護の実際 事例のまとめ
 2.活動性向上への援助(千田いく子・小澤悦子・濱川育子)
  ・事例 車椅子生活の自立を目指す四肢不全麻痺患者
   概要 本人および家族の希望・意思 長期目標と看護の問題点 看護の実際 事例のまとめ
 3.セルフケア確立への援助(島田節子・大石才子)
  ・事例 頸髄不全損傷患者の退院後の生活に合わせた排尿管理
   概要 本人および家族の希望・意思 アセスメントとゴール設定 長期目標と看護の問題点 看護の実際 事例のまとめ
 4.生きる力を引き出す援助 (1)脳卒中(今城博子)
  ・事例 脳卒中患者が主体性を回復していくための看護ケア
   概要 本人および家族の希望・意思 長期目標と看護の問題点 看護の実際 事例のまとめ
 5.生きる力を引き出す援助 (2)脊髄損傷(矢後佳子)
  ・事例 障害の現実認識ができず依存状態から抜け出せない青年期の患者
   概要 本人および家族の希望・意思 アセスメント 長期目標と看護の問題点 看護の実際 事例のまとめ
 6.活動・参加を促す援助(宮内康子)
  ・事例 家族と生活したい,家に帰りたいと言い出せない主婦
   概要 本人および家族の希望・意思 長期目標と看護の問題点 看護の実際 事例のまとめ
 7.場の変化に伴うストレスへの対処:ケアをつなぐ(山本なお子・濱川育子)
  ・事例 高次脳機能障害患者が転院時の混乱から入院生活に適応するまで
   概要 本人および家族の希望・意思 長期目標と看護の問題点 看護の実際 事例のまとめ
第5章 リハビリテーション看護に関連する政策・制度,社会状況
 1.リハビリテーション看護に関連する政策・制度
  (1)日本における保健医療・福祉の変化とリハビリテーション看護(諸伏悦子・石鍋圭子)
   ・社会の変化と看護の役割の拡大
   ・地域リハビリテーション支援体制とリハビリテーション看護の役割強化
   ・障害をもつ人にかかわる法律等
  (2)リハビリテーションが行われる場と看護ケア(山本恵子)
   ・救命救急ケア
   ・急性期ケア
   ・回復期ケア
   ・維持期ケア
   ・終末期ケア
  (3)ライフサイクルとリハビリテーション看護
   ・家族の発達段階とニーズ(中村令子)
   ・小児リハビリテーション(高橋良枝)
   ・高齢者リハビリテーション(荒木美千子)
  (4)リハビリテーションに多い疾患と障害の看護管理(山本恵子)
   ・障害別のケアの特徴
   ・ケアマネジメントに必要な視点
 2.リハビリテーション医療における倫理的問題(正源寺美穂・宇野親子・泉 キヨ子)
   ・倫理
   ・成果測定とケアの質向上
 3.リハビリテーション看護教育と今後の展望(石鍋圭子)
   ・わが国における看護のスペシャリストとリハビリテーション看護
   ・リハビリテーション・チームの構成員としての看護師教育
   ・ケアマネジャーとしてのリハ看護師教育

 索引