やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 保健や医療分野での保健指導と患者指導では,病気の予防や治療のために対象者に生活習慣の改善を勧めても,なかなか「やる気」になってもらえないことが多いのではないでしょうか.そんな中,どうしたら対象者の「やる気」を引き出せるかというのは,現場で指導を行う皆さんの共通の悩みではないかと思います.
 もちろん,“こうすれば必ず「やる気」になってもらえる”という方法はないと思いますが,「やる気」を引き出すポイントというものはあります.
 対象者の「やる気」を引き出すポイントについて,拙著『医療・保健スタッフのための健康行動理論の基礎 生活習慣病を中心に』(2002)では,行動科学の代表的な7つの理論から説明し,その後の『医療・保健スタッフのための健康行動理論 実践編 生活習慣病の予防と治療のために』(2002)では,7つの理論を組み合わせて応用する方法を示しました.お陰さまで,両書とも増刷を重ねており,多くの方に読んでいただいています.
 本書では,『健康行動理論 実践編』で示した「やる気」を引き出す8つのポイントについて,さらに詳しく説明をしてコンパクトに分かりやすくまとめました.どちらを先に読んでいただいても結構ですが,保健指導と患者指導で対象者の「やる気」を引き出すポイントを実践的に学ぶために,本書と「健康行動理論 実践編」を合わせて読まれることをお勧めします.
 なお,本書では,健康行動理論の専門用語をできるだけ使わずに,分かりやすい言葉で説明をしています.そのため,“「健康行動理論」と聞くと何か難しそうで……”と思われる方にも,無理なく読んでいただけるようになっています.
 保健指導と患者指導に携わるすべてのスタッフの方に本書を読んでいただき,実際の指導にご活用いただければ幸いです.
 2007年11月
 松本千明
序章
 1.健康信念モデル
 2.社会的認知理論
 3.変化のステージモデル
 4.計画的行動理論
 5.ストレスとコーピング
 6.社会的支援
 7.コントロール所在
 8.7つの理論を組み合わせる
 9.「やる気」を引き出すポイント
第1章 よい
  健康になりたいと思っている佐藤さんの場合
  シェイプアップしたいと思っている田中さんの場合
  健康にあまり関心がない山田さんの場合
 対象者に合わせた勧め方をする
 まとめ
第2章 自信
 1.“やってみたら自分にもできた”
  肥満と2型糖尿病の加藤さんの場合
 2.“あの人ができたんだから”
  肥満と2型糖尿病の山口さんの場合
   適当なモデルを選ぶ
   モデルが得ているメリットも示す
 3.“人から励まされた”
 4.“身体や気持ちの状態が変わった”
 まとめ
第3章 まずい
  肥満と2型糖尿病の山下さんの場合
  肥満と血圧が高めの佐々木さんの場合
   「危機感」をあおりすぎたり,「脅し」になったりしないようにする
   実行できそうな行動とセットで勧める
 まとめ
第4章 妨げ
  健康になりたいと思っている佐藤さんの場合
  シェイプアップしたいと思っている田中さんの場合
 まとめ
第5章 ストレス
 1.とらえ方
  自分にとってどのような性質のものか
  どれぐらいうまく対処できるだろうか
 2.対処の方法
  「ストレス」とうまくつき合えていない藤田さんの場合
  「とらえ方」を変えてもらう
  「対処の方法」を変えてもらう
  「ストレス」とうまくつき合えている川崎さんの場合
 まとめ
第6章 サポート
 1.変えた生活習慣を維持するのに役立つ
  糖尿病で食事療法を始めた高田さんの場合
 2.ストレスの影響を和らげてくれる
  「ストレス」とうまくつき合えていない藤田さんの場合
 3.周りからの「サポート」を活用するための具体的方法
  「サポート」を提供してくれそうな人を見つける
  その人からどのような「サポート」が期待できるかを考える
  その人に「サポート」を依頼する
 まとめ
第7章 努力
  健康状態は自分の「努力」によって決まると考える山崎さんの場合
  健康状態は「他人の力」によって決まると考える武田さんの場合
  健康状態は「運」によって決まると考える糖尿病の中村さんの場合
 まとめ
第8章 ステージ
 1.「無関心期」の特徴
 2.「関心期」の特徴
 3.「準備期」の特徴
 4.「行動期」の特徴
 5.「維持期」の特徴
 6.変化のステージに合わせた働きかけをする場合の留意点
  1つ先の「ステージ」に進むことを目標にする
  「逆戻り」についての対策を考える
  「逆戻り」の起きやすい状況を避ける
  「逆戻り」の起きやすい状況に対する対処の方法を考えておく
  一時的に「逆戻り」した場合には,自分を責めたり,「逆戻り」の原因を意志の弱さに求めない
 まとめ
第9章 まとめ
 1.「無関心期」の場合
 2.「関心期」の場合
 3.「準備期」の場合
 4.「行動期」と「維持期」の場合
 5.「やる気」を引き出す働きかけを行う場合の留意点
  8つのポイントは働きかけの道しるべである
  8つのポイントを意識して働きかけを行う
  コミュニケーションの技術も重要である
 まとめ

 文献
 付録
  第1章 よい
  第2章 自信
  第3章 まずい
  第4章 妨げ
  第5章 ストレス
  第6章 サポート
  第7章 努力
  第8章 ステージ
  まとめ
 索引