やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 日本の高齢化にとって大きな意味をもつ“戦後ベビーブーム世代”が,2015年には前期高齢者(65〜74歳)に到達し,その10年後(2025年)には高齢者人口がピーク(約3,500万人)を迎える.現在,認知症高齢者は約169万人と見込まれ,今後急速に増加し,2015年には250万人になると推計されている.厚生労働省は,認知症対策として,2004年12月,「痴呆」から「認知症」へ名称変更を行い,2005年から,認知症の人が尊厳をもって地域で暮らし続けることを支える草の根運動・国民運動として「認知症を知り地域をつくる10カ年構想」を展開している.
 認知症高齢者は,この病の特性により,病態は徐々に重度化し,重症化のプロセスも長期化する傾向にある.一方,保健医療,福祉に関連する諸サービスは質量とも徐々に改善されてきた.総体的にみると,この数年のあいだにケアの質も向上してきた.しかし,在宅や入所・入院を問わず療養期間と介護期間は長期化しているため,合併症を含む病態・病状管理の頻度は高くなり,認知症高齢者が医療機関に滞在し,加療する機会が増えてきた.
 周知のように2005年4月から認知症高齢者認定看護師の養成が開始された.彼らに期待されることは,認知症高齢者の病態・病状の悪化を防ぎ,看護倫理に基礎を置き,発症から終末期に至る的確なケアを立案し,自らの実践力を通して,家族,関係者に必要なコンサルテーションを慌OLの質の保証に寄与できる役割である.
 2010年に向けて高齢者医療福祉施設の再編・統合の動きも活発に進められている.これらの中心的課題は常に認知症高齢者のケアをめぐる対応である.
 本書は,I〜V章は全体の総論編として位置づけ,VI章は総論編の内容を踏まえた各論として,具体的な事例も取り入れ,VIIは統合,総括的位置づけとし,認知症高齢者と家族を含めた認知症看護の体系化を目指した.この編集方針に沿って,各著者には,それぞれの認知症高齢者の看護実践や大学での教育・研究活動の経験を踏まえ,看護専門家として認知症高齢者の発症から終末期に至る病状管理と療養生活環境の提供とそのケアにおける倫理性を担保とした知識と技術,並びにマネジメント能力の向上に役立つ内容にすべく努力していただいた.
 本書が広く認知症ケアに携わる人びとの必須知識の理解と活動に生かせるような実践的テキストとなることを願ってやまない.
 2007年4月
 編者
I―認知症高齢者の看護(水谷信子)
 1.認知症の概念と定義
 2.認知症高齢者の理解
  認知症を理解する看護の視点 認知症の人の世界
 3.認知症高齢者の理解と対応の歴史
  古代中世と祖霊信仰 近世と医学的管理 近代社会と修身 現代社会と社会保障
 4.統計的視点からみた認知症
  高齢者人口と有病率 認知症の罹病期間
 5.認知症高齢者の看護
  認知症高齢者ケアの歴史 認知症高齢者看護の専門性と役割
II―認知症高齢者看護における倫理(太田喜久子)
 1.認知症高齢者に生じる二重の困難さ
  認知症高齢者自身のなかにあるズレ 認知症高齢者と家族や周囲との関係におけるズレ
 2.認知症高齢者の困難さへの対応
 3.倫理とは
 4.認知症高齢者自身からのアピール
 5.アドボカシー
 6.倫理的ジレンマの分析と対応
 7.認知症高齢者の生命の重み
III―認知症の病態・治療と看護(得居みのり)
 1.認知症の病因
  血管性認知症 変性性認知症 二次性認知症
 2.加齢によるもの忘れと認知症との違い
 3.認知症の症状
  中核症状 周辺症状
 4.認知症の診断
  簡易認知機能検査 画像検査
 5.認知症の原因疾患と治療
  軽度認知機能障害 アルツハイマー型認知症 MCIと認知症との違い 脳血管性認知症 レビー小体型認知症 前頭側頭型認知症 正常圧水頭症 慢性硬膜下血腫
 6.認知症と看護
IV―認知症高齢者に関連する保健・医療・福祉制度(奥野茂代)
 1.認知症高齢者に関連する社会保障
  認知症高齢者に関連する医療・保健・福祉対策 地域福祉権利擁護事業 介護保険法に基づくサービス
 2.認知症高齢者の人権と生活を支える制度
  成年後見制度 高齢者虐待防止法
V―認知症高齢者とのコミュニケーション(北川公子)
 1.コミュニケーションの基本
  コミュニケーションの重要性 視聴覚機能の加齢変化 二者間のコミュニケーション
 2.認知症高齢者のコミュニケーションの特徴
 3.コミュニケーション能力のアセスメント
  言語・非言語メッセージ スケールを用いたアセスメントの方法 発語発声器官のアセスメント 非言語メッセージを読み取る方法
 4.コミュニケーションに対する支持的環境
  視覚要因 聴覚要因 心理社会的要因
 5.コミュニケーションへの援助
  言語的コミュニケーションの可能性を開く 生活史に関する情報の収集と統合を図る 発語発声機能の低下抑止に貢献する 援助者自身の態度や姿勢を振り返る
VI―認知症高齢者の看護援助
 1.認知症高齢者のアセスメント(吹田夕起子)
  1.アセスメントの目的
  2.ケアマネジメントに求められるアセスメントの視点
  3.観察とアセスメント
   観察の重要性 身体的側面のアセスメント 心理社会的側面のアセスメント 環境的側面のアセスメント
  4.認知機能障害の評価
   中核症状のアセスメント
  5.日常生活動作能力の障害の評価
  6.認知症に伴う精神症状・行動障害の評価
  7.検査の施行にあたっての留意点
  8.認知症の人のためのケアマネジメントセンター方式(センター方式)
 2.認知症高齢者の生活環境づくり(山田律子)
  1.プロ(専門職)としての生活環境づくりに向けて
   エビデンスに基づく計画的かつ意図的な生活環境づくり 専門職としての技と智慧と情熱 基盤となる認知症ケアの哲学(理念)をもつこと 専門職としての自己と,社会における偏りのない“意識環境”の構築
  2.認知症高齢者を取り巻く“環境”のとらえ方
   環境とは 認知症高齢者の生活環境づくりのための枠組み
  3.環境が認知症高齢者に及ぼす影響
   環境順応仮説―認知症高齢者の環境順応力に影響する環境からの刺激 ストレス刺激閾値漸次低下モデル―認知症の進行に伴い大きくなる環境から受けるストレス BPSDを引き起こす環境要因 BPSDに影響する住まい環境の変化
  4.認知症高齢者の視点で考える生活環境づくり
   生活環境づくりのスタートを見誤らない―認知症高齢者が認識している世界をベースに 生活環境づくりは,常に進行形―認知症の進行に応じた生活環境づくりの必要性 加齢変化も踏まえた生活環境づくり
  5.認知症高齢者が生活・療養する場の特徴
   認知症高齢者が暮らす場 認知症高齢者が通う場 認知症高齢者が多機能のサービスを受けられる場 認知症高齢者が治療・療養する場
  6.認知症高齢者の生活環境づくりを実践するための指針と活用法
   施設環境づくりのための指針 環境改善における取り組みのレベル “PEAP日本版3”を用いた生活環境づくりと評価
  7.認知症高齢者の生活環境づくりの実際―食環境づくりを例に
   見当識への支援 機能的な能力への支援 環境における刺激の質と調整 安全と安心への支援 生活の継続性への支援 自己選択への支援 プライバシーの確保 入居者との触れ合いの促進
 3.認知症高齢者のケアマネジメント
  1-予防と早期対応(高見美保)
   1.認知症予防について
    軽度認知機能障害の考え方 早期段階の認知症に対する診断ツール 認知症早期診断に向けた予防検診の取り組み 認知症の医学的診断と看護相談の連携―明石市医師会と兵庫県立大学看護学部の場合
   2.認知症予防に関する介入プログラム
    認知症予防プログラム―京都府網野町の取り組み 認知症悪化予防のプログラム―ある地域での取り組み
  2-認知症の進行時期に対応した日常生活機能への看護ケア(高山成子)
   1.認知症高齢者の生活と看護援助
    認知症高齢者の生活活動に影響する因子 認知症による脳の病変・損傷と臨床症状(BPSD),生活障害の関連 チームアプローチにおける看護職の役割
   2.認知症の進行経過と看護
    認知症の進行 認知症の進行と認知症高齢者の残存能力 日常生活行動のなかにある残存能力,代償能力
   3.認知症の進行による入浴行動の変化と看護ケア
    認知症の進行度別にみた入浴拒否理由と攻撃行動・不安 入浴援助の基本的原則 認知症進行度別の入浴行動への看護援助
   4.進行度別の入浴行動の事例
  3-終末期における諸問題と支援(桑田美代子)
   1.認知症高齢者の生活と看護援助
    有終の美に目標を置いた認知症高齢者ケアを目指して 認知症高齢者における終末期の定義
   2.認知症高齢者の終末期ケアにおける困難さ
    終末期における認知症高齢者側の諸問題 終末期における家族側の諸問題 終末期におけるスタッフ側の諸問題 終末期における認知症高齢者が過ごす“場”の諸問題
   3.よりよい旅立ちに向けてのコーディネート
    “人間”らしさの保持 終末期における安楽ケアの提供 チームアプローチ―他職種との調整的役割を担う看護者
   4.家族とケア・家族もケア
    家族とケア―家族とのコミュニケーション グリーフケア
   5.認知症高齢者の終末期にかかわるスタッフへのケア
    スタッフの満足感と職員教育
   6.事例紹介――終末期医療および認知症高齢者の意思とは
    ケアの実践―Aさんの有終の美を目指して
  4-QOL―自立維持,在宅生活の継続(矢部弘子)
   1.認知症高齢者の日常生活能力の変化と評価の視点について
    認知症の特性に対応した日常生活の援助のとらえ方 残存能力・潜在能力を発揮するための評価視点
   2.日常生活の各行動における認知症の特徴とアセスメント
    食事 排泄 清潔 衣服 睡眠―睡眠の状況と対応
VII―認知症高齢者ケアにおける連携システムづくり(中島紀恵子)
 認知症の人とともに“居る”ことへの誠意―ケアが連携されるということ
 1.生活モデルに基づく連携活動の原理
 2.社会資源と連携の関係
  ヘルスケアにおける資源の範囲と資源の組織化のプロセスでみられる活動の特徴 活動を元気にさせる連携
 3.チームケアを進めよう
  チームの構造とチームケアを成功させる要素 認知症ケアにおけるチームケアが目指すべき方向 協働すること 自ら進んでネットワーカーになろう
 4.連携システムを安定させ発達させるコーディネーションの機能
 索引