やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 重症心身障害児に対して,高度な病院医療を前提としながら,毎日の生活を限りなく豊かに,そして,人としての可能性を少しでも広げようと努力する施設,それが重症心身障害児施設です.世界でもわが国だけが備えているもので,今日では,福祉先進国からでさえ羨ましがられるほどに高く評価されております.
 私たちはそのような施設にかかわれたことを心から誇りに思っております.今日このような評価が与えられるのは,優れた先輩たちをはじめ,全国各地の施設で日々地道な努力を続けてくれている多くの職員やそれを支えてくださっているご家族や地域の方々の賜物にほかなりませんが,同時に,このような施設の存在を温かく認めてくれているわが国の社会に対して深く感謝を申し上げたいと思います.
 さて,私たちの日本重症児福祉協会は,全国の重症心身障害児施設が加盟する社団法人です.その誕生は昭和40年にさかのぼりますが,法人格を得たのは昭和52年でありました.したがって,昨年は,重症心身障害児施設の法制化30周年であると同時に,私たち協会の法人化20周年でもありました.このような節目の年を迎えて,多くの方々から,何か意味ある記念事業をというご意見をちょうだいしました.こうしたことから当協会の理事会では,十数年前に出版された「重症心身障害児の療育指針」をこの機会に全面改定したらということになったしだいです.
 ご存じのように,重症心身障害児の医療・教育・生活に関して,系統的に知識・技術を蓄積しているのはわが国だけです.そして,その担い手は,まさに全国にある重症心身障害児施設だと申せましょう.当協会が各施設の実践を集大成してこれを広く伝えることができれば,まことに意義あることと存じます.そこで,わが国医療福祉の第一人者,江草安彦・当協会理事長に監修の労をとっていただき,重症心身障害児施設の粋を集めた指導書にすることを誓って,本書の発刊を決意いたしました.ここに,重症心身障害に関しては最高レベルのものを網羅しえたと自負しておりますが,同時に幅広い分野の方々にご理解いただけるよう平易な表現にも配慮したつもりです.
 最近刊行された生命倫理の書物(「いのち」,濱田恂子編,理想社)に,「わが国は欧米に比べて,どんな新生児でも延命に努める傾向が強いといわれる.これは一つには,児童福祉法に規定されている『重症心身障害児施設』の存在が大きいという意見もある.」と記されています.私たちの実践が,生命に対する尊厳や畏敬の念を強めることに役立っているとすれば,これに勝る喜びはありません.本書をお読みくださる方々に,そのようなことがらをもお伝えできればと切に願っております.
 1998年10月
 日本重症児福祉協会会長 戸澤 政方

監修者序
 「重症心身障害児の療育指針」が昭和57年に発刊されて,15年が経過しました.
 当時,本書は重症心身障害児(重症児)の療育を総合的にまとめた画期的な内容で,多くの方に利用していただきました.しかし,その後の重症児分野の医療・福祉の発展は著しく,また当時では予想されなかったほど加齢と重症化が進み,療育内容も多彩なものとなりました.現在では,「療育指針」も古典的存在となりました.
 一方,重症児療育は,医療と福祉の狭間にある重症児と家族の方々の立場にたって,医療の原点ともいうべき全人的,包括的医療と生活支援の立場で取り組んでまいりました.今日では重症心身障害児施設は,療育内容の高度化とともにウイングを広げて,超重症児療育を通じて,地域医療・福祉システムの一端を担うまでになってきました.
 昨年は重症児施設法制化30周年でありました.この機会に,岡田喜篤,末光 茂,鈴木康之の三氏の責任編集のもとに,最新の「重症心身障害療育マニュアル」づくりをめざして,重症児療育の現場で活躍している人たちが,長い間蓄積した経験を傾け,生命の尊厳を守るための具体的療育内容を本書で述べました.日々の療育の向上をめざす執筆者の皆様の情熱に心からの敬意を表します.
 全国で,日々,重症児の医療・介護にかかわっている方々が,本書によって,いっそう重症児を理解し,さらに安心して活躍していただければ幸いです.
 1998年10月
 日本重症児福祉協会理事長 江草 安彦

第2版の発刊にあたって
 近年,重症心身障害児施設は,施設が所在する地域のなかで生活するあらゆる障害児者の方々のための総合医療センターとしての役割が期待されています.また,施設利用者の個別な生活の豊かさを支えるという細やかなサービスが求められるようになりました.こうした点を考慮して第2版を発刊いたします.
 2004年12月
 日本重症児福祉協会理事長 江草 安彦

第2版の発刊にあたって
 私たちの日本重症児福祉協会は,昭和40年(1965年)に誕生し,昭和52年(1977年)には法人化いたしました.以来,現在まで全国で107施設が加盟しております.
 日本における重症心身障害児の施設は制度の上から,福祉と医療の両者の性格をもっていますので,お互いにそれぞれの長所を活かしながら,この両者がうまく統合された形で運営されてきております.この優れた形は日本独自のものと言えましょう.
 それだけに重症児の療育に当たる職員は,深い洞察力と,より幅の広い知識をもつことが求められております.
 当協会では,昭和57年(1983年)に『重症心身障害児の療育指針』を,さらに平成10年(1998年)に,その全面改訂による『重症心身障害療育マニュアル』を発刊いたしました.
 かつての『指針』も『マニュアル』も大変利用され,施設運営者はもとより,子どもたちに直接関わる職員たちにとって貴重な参考書として,高い評価を得ております.
 この度,第2版を発刊するにあたり,制度の一部改正はもとより,医学医術の進歩に対応して,さらに一層,内容の充実がはかられております.
 わが国の社会保障制度は,現在大きな変革期を迎えつつあります.社会保障制度の大きな一部を担う社会福祉の中で,重症児を巡る領域でもまた改革が行われようとしております.また,一方で地域医療体制,とくに地域における小児医療体制のなかで,超重症児対策が大きな課題となっております.これらは,いずれも重症心身障害児施設が関わりをもたざるを得ない問題であり,まさに,これからの重症児医療,重症児福祉の動向を占う事柄とも言えましょう.
 重症心身障害児に関係する方々は,常にこういった問題にも深い関心を持ち合わせていていただければと思います.重症児施設の担う社会的役割は,ますます重要性を増してきております.療育を担当する人々は,当然のこととして子どもたちに対する深い愛情が基本的態度として求められておりますが,それにもまして,プロフェッショナルとしての知識と技量をもつことが望まれております.
 本書が重症心身障害児施設に働く人々にとって,貴重な座右の書となることを祈念しております.
 2004年12月
 日本重症児福祉協会会長 矢野 亨
発刊にあたって
監修者序
第2版の発刊にあたって

第1編 基礎編―重症心身障害児の基本的理解のために
 第1章 重症心身障害児の療育と理念
  1.重症心身障害児問題の歴史
   a)重症児問題の黎明期(1946〜1955)
   b)問題提起の時代(1956〜1958)
   c)施設実現に向けての努力(1958〜1960)
   d)島田療育園の誕生(1961)
   e)指定施設の時代(1963〜1966)
   f)法制化とその後(1967年以降)
   g)新たな支援の模索(1970年代半ば以降)
   h)通園事業の登場(1989年以降)
   i)超重症児問題の登場(1990年以降)
   j)支援費制度の破綻と障害者自立支援法(2003年以降)
   k)政権交代による変革について(2009年9月以降)
  2.重症心身障害児の概念と定義
   1)概念と定義の変遷
   2)概念の混乱
   3)大島の分類
   4)動く重症児と超重症児
  3.障害の概念と療育
   1)わが国の障害者基本法にみる障害の概念
   2)WHOによる障害の理解の仕方
   3)重症心身障害の障害とは
   4)療育について
  4.重症心身障害児の診断と評価
   1)福祉行政的診断・評価
   2)医学的診断・評価
   3)療育的診断・評価
  5.今後の重症心身障害児の方向
   1)重症心身障害児・者医療福祉の経年的推移
   2)当面する諸課題と重症心身障害児
 第2章 重症心身障害児の実態
  1.重症心身障害の発生頻度と発生原因
   1)発生時期
   2)原因となる脳障害の発生時期による分類と発生頻度および生命予後
   3)発生原因
  2.重症心身障害児・者の予後
   1)生命予後,死亡率,それらに影響を与える要因
   2)死因
  3.動く重症心身障害児
   1)動く重症心身障害児という呼称について
   2)強度行動障害と強度行動障害特別処遇事業
   3)重症児施設に入所している「動く重症児」の実態
   4)動く重症児対策の今後の課題
第2編 実践編―重症心身障害児の各分野からのアプローチ
 第1章 重症心身障害児にみられる障害と療育のポイント
  1.重症心身障害の主病態
   1)脳性麻痺
   2)知的障害
   3)てんかん
   4)心理・行動面の問題
  2.療育的対応の実際
   2-1 運動・姿勢維持の障害
    1)評価の仕方
    2)姿勢保持・ねたきり対策
    3)移動介助
    4)筋緊張の強い児への対策
    5)側彎・胸郭変形・四肢拘縮変形・股関節脱臼の影響とその予防
    6)骨折の予防と治療
   2-2 呼吸の障害
    1)重度心身障害児・者における呼吸障害の背景と評価
    2)医療手技
   2-3 摂食の障害
    1)摂食指導
    2)栄養管理
   2-4 排泄の障害
    1)排尿障害の背景
    2)排泄介護の実際
   2-5 コミュニケーションの障害
    1)聴覚障害児への対応
    2)認知障害の児への評価と対応
    3)MRIによるコミュニケーション評価
   2-6 行動障害(異常)の考え方と対応-いわゆる「動く重症児」を中心に
    1)行動障害のとらえかた
    2)行動障害の特徴とその要因
    3)行動障害への対応
    4)在宅支援について
    5)行動障害に対する行動療法・薬物治療の適応とその実際
   2-7 超重症児,準超重症児の概念と対応
    1)超重症児の概念
    2)超重症児の判定
    3)スコアの内容
    4)成因
    5)対応
    6)準超重症児の概念と課題
   2-8 高齢化による障害と対応
    1)精神運動機能の退行
    2)嚥下機能の退行
    3)骨折
    4)易感染性
    5)生活習慣病
    6)悪性新生物
    7)アテトーゼ型脳性麻痺の頚椎症
    8)その他
 第2章 重症心身障害のリハビリテーション
  1.基本的な考え方
   1)重症心身障害児・者にリハビリテーションは必要か
   2)最重度四肢麻痺例を考える
   3)肺炎で治療中の重症児の場合は
   4)少し動けて少し理解できるケースでは
   5)自分で表現したい,気持ちをわかってほしいケースを考える
   6)やはりリハビリテーションは欠かせない
  2.リハビリテーション専門職のかかわり
   1)理学療法
   2)作業療法
   3)言語療法
   4)肺理学療法
   5)重症心身障害児・者への心理療法
  3.重症心身障害療育に関連する新しいテクノロジー
   1)リハビリテーション工学
   2)ユニバーサルデザイン
 第3章 重症心身障害児の医療的対応
  1.重症心身障害児の日常生活での健康管理
   1)健康管理の基本的な考え方とチェックポイント
   2)よくみられる症状とその対応
  2.重症心身障害児の医学的合併症とその治療
   1)合併しやすい内科疾患とその対策
    a)感染症
    b)呼吸器疾患
    c)消化器疾患
    d)筋疾患の管理
    e)内分泌代謝の異常
    f)栄養障害
    g)てんかん・痙攣重積の対応
   2)専門医との連携
    a)重症心身障害児への外科的配慮
    b)整形外科的異常
    c)耳鼻咽喉科疾患
    d)眼科疾患
    e)歯科口腔外科疾患
    f)皮膚科疾患
    g)泌尿器科疾患(合併症)
    h)婦人科疾患
    i)精神心理的異常
第3編 生活編―よりよい生活を支えるために
 第1章 障害者プランについて
  1.はじめに
  2.「障害者基本計画」と「障害者プラン」に至る経緯
  3.第一次「障害者プラン」の概要
  4.重点施策実施5か年計画
 第2章 重症心身障害児・者への支援
  1.在宅重症心身障害児・者の実態
  2.障害者自立支援法
   1)障害者自立支援法の成立の背景
   2)障害者自立支援法の大きなポイント
   3)障害者自立支援法から障害者総合支援法へ
   4)平成24年4月改正された児童福祉法
   5)障害者自立支援法(平成24年4月から)の概要
   6)サービス利用の手続き
   7)支給期間および支給量
   8)障害児の居宅サービスの支給決定
   9)障害児施設の利用
   10)介護給付および訓練等給付に関する利用者負担
  3.その他の福祉サービス
   1)手帳の交付
   2)自立支援医療以外の医療費の助成
   3)手当,年金など
  4.重症心身障害児通園事業
   1)A型通園, B型通園
   2)その他の重症児通園
  5.医療サービス
  6.重症心身障害児施設の入所機能
   1)重症心身障害児施設の役割
   2)重症心身障害児施設入所の手続き
   3)重症心身障害児施設の生活
   4)今後の課題
  7.教育
   1)特別支援教育
   2)学校生活
   3)医療的ケアを必要とする児童生徒の課題
   4)入口と出口-就学指導と卒業後の進路
 第3章 家族への援助
  1.親の思いと守る会の活動
   1)重症心身障害児・者の親の思い
   2)親の会の理念と活動
  2.重症心身障害者の生き方
   1)重症心身障害児・者のQOL
   2)死のみとり
   3)自己決定権,インフォームド・コンセント
   4)成年後見制度の意義と活用
 第4章 重症心身障害児・者療育にかかわるスタッフ
  1.スタッフに期待されるもの
   1)人権への理解と配慮(自己点検・倫理)
   2)第三者評価について
   3)専門性とチームアプローチの考え方
   4)重症心身障害児・者から学んだこと
  2.仕事をするうえでの注意点
   1)腰痛
   2)頚肩腕症候群障害
   3)精神衛生

■索引

■コラム
 ・重症心身障害児・者の英語表記
 ・知的障害という名称について
 ・誤嚥検査(嚥下造影検査)
 ・気管切開を考える前に
 ・気管切開児・者の気管内吸引
 ・レスピレーターでの外出・外泊への配慮
 ・排痰の病理と去痰剤
 ・酸素療法の功罪
 ・重症児・者のケアに役立つ市販品:増粘剤
 ・重症児・者のケアに役立つ衛生材料:栄養チューブ
 ・ゼリー剤の種類(キシロカインゼリーの問題点と代替製品)
 ・重症児の認知行動について
 ・TEACCHアプローチの実際と可能性
 ・新生児・未熟児に関する用語について
 ・ムーブメントセラピー
 ・肥満とるいそう
 ・褥瘡の観察と対応
 ・グループホーム
 ・医療的ケア-過去・現在・未来
 ・重症心身障害児に関する学会
 ・リスクマネジメント
 ・院内感染予防対策の基本的な考え方