やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 慢性疾患を持つ人々の増加や療養の場の多様化によって,病院はもとより在宅ケア,訪問看護においても看護職が「急変」に遭遇する機会は稀ではなくなった.
 また,時代とともに看護の役割も変化し,在宅療養中の患者急変時には,看護師が「包括的指示」に基づいて柔軟に対応することが求められており,病院においても「静脈注射」は診療の補助の範疇にあるとの保健師助産師看護師法の解釈が示されるなど,看護師は独自に判断し対応する能力を求められる機会が多くなり,それらの行為に伴う責任の範囲も拡大している.
 本書ではこれらの流れを受けて,良く遭遇する病院内外における患者急変や事故に対して,看護師が行うべき緊急対応を中心に述べる.
 まず第1章は,急変時の対応の原則として必須の技術を述べる.第2章は,急変時の主な症状の中から13項目を選択し,(1)状況の把握(観察のポイント,緊急性の判断),(2)ファーストエイド,(3)通報と救急要請,(4)患者搬送,の枠組みにそって述べた.この章では,観察のポイントや判断の根拠を分かりやすく示すことを重視した.第3章は,事故を,医療事故とその他の事故に分けて述べる.前者は,過誤,カテーテルの抜去などとその対応に焦点を当てた.なお,事故予防のための注意事項も併記した.第4章は,災害発生時の対応を急性期に限って述べた.
 執筆に際しては,豊富な臨床経験と知識を統合して,状況が見えるように解説することを心がけたので,もし緊急事態が発生したときには,本書を広げながら対応できるのではないかと自負している.救急看護に携わる看護師はもとより,それ以外の看護領域においても緊急時の対応に役立つことを願っている.
 2004年9月
 北海道医療大学看護福祉学部
 高橋 章子
緊急事態ナーシングマニュアル トリアージとファーストエイド 目次

第1章 急変時の対応の原則
 1.必須の技術
  1)緊急度と重症度ならびにトリアージ(高橋章子)
  2)バイタルサインの著しい異常への対応(川原千香子)
  3)心肺蘇生法(久保洋子)
  4)止血法(三木充典)
 2.救急要請と患者搬送(鈴木 靖)
  1)救急要請(119番)
  2)携帯電話による救急要請
  3)転院搬送要請
  4)救急搬送
  5)事故対策
  6)航空機搬送
第2章 おもな急変と対応
 1.呼吸困難(舘山光子)
 2.意識障害・昏睡・失神(安保弘子)
  1)意識障害(昏睡)
  2)失神
 3.ショック症候群(島本千秋)
 4.急性発作
  1)心臓発作(舘山光子)
  2)脳血管発作(西浦ちひろ)
  3)気管支喘息発作(芝田里花)
  4)過換気発作(芝田里花)
 5.体温異常(伊藤 靖)
  1)高熱,熱中症
  2)低体温,偶発性低体温症,凍傷
  3)凍傷
 6.けいれん(大隅千恵子)
 7.激しい痛み
  1)頭痛(菊池明美)
  2)胸痛(菊池明美)
  3)腹痛(馬野由紀)
 8.嘔吐・下痢(石原知代)
 9.吐血・下血(山本博美)
 10.脱水状態(高山裕喜枝)
 11.熱傷(亘 文恵)
 12.外傷(井上和子)
  1)頭部・頸部外傷
  2)胸部外傷
  3)腹部外傷
  4)骨折
 13.精神不隠(嶋田幸子)
第3章 事故による緊急事態
 1.医療事故
  1)注射に関連する異常
   (1)アナフィラキシーショック(渡部智恵子)
   (2)薬剤の過量投与(浅香えみ子)
   (3)異型血輸血(石井明代)
  2)チューブ・カテーテル抜去(西尾治美)
 2.その他の事故
  1)食中毒(新 カヨ)
  2)急性薬物中毒(新 カヨ)
  3)溺水(丸橋民子)
  4)刺咬症(伊藤 靖)
第4章 災害と緊急事態
  1)入院患者・入所者の安全管理(阿久津 功)
  2)トリアージと外来患者受け入れ(三浦京子)
文献
索引