やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 わが国の医療現場において,チーム医療の必要性が認識されて久しい.
 日進月歩する医療技術の多様化,先鋭化に伴い,医療従事者の専門は多岐に分化し,多くの医療職種を誕生させてきた.1つの医療機関において,複数の医療職が共働することは常態化しているが,近年の各医療職の専門性の高度化・複雑化,教育機関の高等化(4年制大学化)などを背景として,部門間の垣根を越え,連携することを相互に認め合う,真の意味での協働が,良質な医療サービスを提供するうえで不可欠の要素であることを,医療職は認識している.
 また,昨今の医療機関の情報公開により医療過誤の状況が(部分的にではあるが)一般の知るところとなり,その解決策の1つとしても,「チーム医療の充実」が不可欠であるという議論が盛んに行われている.また,患者の権利意識の高まり,セカンドオピニオンの希求,診療内容の説明の要求などにより,伝統的な医療者ー患者関係を見直す機運が高まり,こうした患者側の要求に応えるためにも,医療サービスの提供形態に変化が求められ,この面からも医療チームによる対応の必要性と可能性について検討が行われている.
 このように,一種の流行モノとして「チーム医療」という文言だけが一人歩きをしているのではなく,少し大げさに言えばチーム医療に医療の再生を懸けているという医療現場の状況が見てとれる.この傾向は逆に言えば,医療機関において有効なチーム医療が行われてこなかったことの反証でもあるが,チーム医療について真摯に再検討を行おうという機運の醸成は歓迎すべきものである.
 1人の患者に対して,医師のオーダー(指令)の下,多職種が連続的に自らの職能をもって,与えられた任務を遂行することがチーム医療なのであろうか? そうであれば医療機関の内外から,これほどチーム医療の必要性が議論される事態には至っていないであろう.つまり,一般的にこれまでチーム医療であると思われて行われてきた,「あらかじめ制度化されたヒエラルキーの下で展開される流れ作業」そのものや,上位下達のシステム,パターナリズムによる医師のリーダーシップの独占などが,実は真のチーム医療とは遠いものであると,多くの人々が気づいたのであろう.
 真のチーム医療とは何か?その今日的命題に応えるべく,気鋭の医師,学者らが本書の執筆に参加した.医療社会学的なチーム医療論の展開,医療者ー患者関係の転換から見たチーム医療のあり方,チーム医療の倫理,チーム医療の実際など,現在とこれからの医療現場に不可欠の,わが国初の系統だった「チーム医療論」が完成した.
 医学・医療を学ぶ学生のテキストとして,医療現場で悩むメディカルスタッフの参考書として,本書を多くの人々に活用していただきたい.
 2002年10月 編者
 はじめに

I チーム医療とは何か?(細田満和子)
 1.「チーム医療」への関心
 2.チーム医療の起源
  1) 「病院」の誕生
  2) 医療関係職種の誕生
 3.医療従事者の捉えるチーム医療
  1) チーム医療の4つの要素
  2) 4つの要素の関係性
   (1)緊張関係
   (2)相補的関係
  3) チーム医療の現実
 4.チーム医療の論理
 5.チーム医療のために
II チーム医療における患者医療者関係(高山智子)
 1.チーム医療における患者の参加
 2.さまざまなレベルのチーム
 3.チームの中での医療者,患者,家族の役割
  1) 医療者の役割
  2) 患者の役割
  3) 家族の役割
 4.患者中心の協働的なチームを最大限に生かすために
  1) 患者の阻害要因と改善に向けてのアプローチ
  2) 医療者の阻害要因と改善に向けてのアプローチ
  3) 家族の阻害要因と改善に向けてのアプローチ
  4) チーム全体の阻害要因と改善に向けてのアプローチ
III チーム医療の倫理(岡本珠代)
 1.満足な医療のための「チーム医療」とは
 2.チーム医療の倫理性
  1) 尊厳を尊重できるチームの体制
  2) 過誤や事故を予防できるチーム体制
  3) チームの倫理的効用
 3.倫理的効用を高める民主的なチーム体制
  1) チーム構成員のあり方
  2) チーム成員間のコミュニケーション
 4.チームとインフォームド・コンセント
  1) インフォームド・コンセントの歴史的概観
  2) インフォームド・コンセントの2つの実現モデル
 5.専門職としての意識向上と医療倫理原理
IV チーム医療の実際
 1.リハビリテーション医療を例に(土肥信之,三重野英子,小野光美,石倉 隆,吉川ひろみ,吉畑博代,鷹野和美)
  1.職種間の相互理解の基本
  2.主な専門職の資格制度と教育,チームでの役割
   医師 看護師 理学療法士(PT)・作業療法士(OT) 言語聴覚士(ST)
  3.専門職の協働-事例検討からの役割考察
  医師の役割 看護師の役割 理学療法士の役割 作業療法士の役割 言語聴覚士の役割
  4.チームの成員たる職種
   管理栄養士・栄養士 薬剤師 歯科医師/歯科衛生士 診療放射線技師 臨床検査技師 その他福祉スタッフ(MSW・PSW,社会福祉士,介護福祉士)
 2.地域医療におけるチーム医療(吉澤 徹)
  1.地域医療におけるチーム医療の必要性
   1) 患者中心のチーム医療
   2) 高齢者在宅療養環境の変貌
  2.地域医療の現場におけるチームアプローチの実際
  3.情報を共有することの大切さ
   1) 1患者1カルテ方式
   2) POS(問題志向型システム),POMR(問題志向型診療記録)
  4.地域医療で望まれるチームアプローチのあり方
  5.デンマークの高齢者在宅療養におけるチームアプローチ
   1) デンマークにおける高齢者医療の転換
   2) デンマーク・ハメル市の在宅ケアチームの実際
V チーム医療に未来はあるか?―チーム医療の可能性を探る―(鎌田 實)
 1.諏訪中央病院でのチーム医療の歴史
  1) “病院の再生”
  2) 医療と地域とのつながり
  3) チームの地域での成長
 2.病院の内部体制の工夫
  1) 医局を1つに.看護から副院長を出す
  2) 患者さんの選択・決定を大切にする
  3) ボランティアも大切なチームの一員
  4) カルテと情報の共有
 3.チーム医療の可能性
  1) 海外医療支援から学んだチーム医療
  2) チームの民主化と患者-医療者関係
  3) チーム医療が医療過誤をなくす
  4) セカンドオピニオン
  5) インフォームド・コンセント
 4.これからのチーム医療
  1) 地域生活を視野に入れたクリニカルパス
  2) 患者-医療者の関係
  3) スタッフ間の関係
  4) チーム医療の方向
VI チーム医療の教育―患者中心のチーム医療をめざして―(鷹野和美)
 1.チーム医療の教育を考える
 2.「チーム医療」の教育方法
  1) 集団の捉え方
  2) チームであることの意義
  3) チーム医療の類型化
  4) ディレンマとカンファレンス
  5) 情報の共有(1患者1カルテ)
  6) 患者中心のチーム医療への視座
  7) 各種医療職の紹介
  8) 早期教育の必要性
 3.チーム医療論の展開への期待
Column
 チームアプローチによる奏功例(1)
 チームアプローチによる奏功例(2)
おわりに

 索引