やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 電車やバスに乗ると,結構,他人の会話が耳に入ってきます.そのなかで,中高年の人の話題として多いのが健康の問題です.なかでも血圧の話はとくに多いようです.また健康雑誌や,新聞,テレビ,ラジオなどの健康相談でももっとも多く,あるいは保健所などの講演などでも取り上げられる機会が多いのも高血圧のようです.
 なぜ最近高血圧が一般の人々の話題にのぼるようになったかの最大の理由は,将来脳卒中で倒れ,痴呆や寝たきりになって他人のお世話になりたくないからでしょう.また心筋梗塞,腎不全といった長い間苦しい思いをしなければならない病に対する不安感もあるからでしょう.高齢者社会とはいうものの,このような疾患を免れて,無事定年を迎えて,元気で高齢といわれる世代にたどりつくことがまず1つの人生目標といえましょう.
 脳卒中,心筋梗塞,腎不全という病気はそれぞれ脳,心臓,腎臓の血管が動脈硬化によって狭くなったり,つまったり,あるいは破れたりして生じる,いわば“血管病”です.血管病をすべて総合すると,日本人の死因としては癌を抜いてトップになります.また,死亡に至らないものまで含めると,膨大な発生数となります.
 高血圧は,糖尿病や高コレステロール血症と並んでこれらの血管病を引き起こす大きな要因です.高血圧は40歳くらいからそっと忍びより,いつのまにか血管をむしばみ,気づいたときにはすでに血管病をもたらしているこわい病気です.忙しくて健康診断を受けたり近くの診療所にかかる時間のない人も,せめてこの本を読んで明日からの健康管理に役立てていただければ望外の喜びです.
 2002年8月
 桑島 巌
第1章 高血圧を知る
 1.高血圧はなぜこわいのか―サイレントキラーの恐怖
  血管病(=動脈硬化)は日本人の死因の第1位 /高血圧は血管病の最大の危険因子 /脳卒中―寝たきり,痴呆の大きな原因 /狭心症と心筋梗塞―突然おそう死の恐怖 /心不全―心臓病の終末像 /腎不全―わずらわしい血液透析の日々 /大動脈瘤 /閉塞性動脈硬化症
 2.高血圧のメカニズムを理解する
  血液の循環 /心臓と血管はポンプとホースの関係 /血圧は血管の抵抗と血流量の積で決まる /収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)
 3.高血圧はいくら以上の血圧をいうのか
  高血圧の基準はどのように決定されるか /高血圧の新しい基準

第2章 高血圧はなぜ起こるか
 1.原因が明らかでない高血圧(本態性高血圧)―高血圧の98%を占める
  食塩と高血圧―なぜ食塩をとりすぎると高血圧になりやすいか /遺伝と高血圧 /レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAS)系 /交感神経系の役割―アドレナリンとノルアドレナリン
 2.原因の明らかな高血圧―2次性高血圧
  腎血管性高血圧 /腎性高血圧 /内分泌性高血圧

第3章 血圧の正しい測り方と,家庭血圧測定のすすめ
 1.血圧を正しく測る
 2.家庭用血圧計を正しく利用する
  なぜ家庭血圧の測定が必要なのか―白衣高血圧って知っていますか? /どのような機器を選べばよいか /家庭血圧の正しい測り方 /いつ,どのくらいの頻度で測るのがよいか /家庭で測った場合の正常値

第4章 高血圧の検査と危険度の評価
 1.高血圧のための問診と検査
  高血圧の問診 /高血圧の原因をさぐるための検査 /高血圧による臓器障害や合併症の評価のための検査
 2.血圧は変動しやすい―24時間血圧測定検査からわかること
 3.自分の危険度を自己評価する
  低リスク群 /中等リスク群 /高リスク群 /超高リスク群

第5章 高血圧の予防と生活習慣の改善
 1.高血圧予防の基本は生活習慣の改善
  高血圧の一般療法―薬を使う前に
 2.ストレスと高血圧
  血圧を上昇させるさまざまなストレス /仕事とストレス /性格とストレス /朝方に多い心筋梗塞,心臓突然死―月曜日の朝の出勤がこわい /シフトワーカー(交代勤務者)のための健康管理
 3.高血圧と入浴
 4.高血圧と性生活
 5.タバコと血圧
 6.血圧と運動療法
  運動療法と血圧に及ぼす効果 /運動療法が適している人,適さない人 /運動の種類と特徴 /運動の強さと時間 /運動療法での効果判定
 7.肥満対策と高血圧
  自分の肥満度を評価する /肥満対策としての運動療法

第6章 高血圧の食事療法
 1.食塩制限と血圧管理
  日本人の高血圧の7割は食塩と関連 /目標とする食塩摂取量 /食塩を減らす工夫 /減塩料理のテクニック―料理を作る人へのアドバイス /高血圧に悩むサラリーマンのための外食の工夫 /カリウムをとって血圧を下げる /カルシウム,マグネシウム
 2.アルコールと血圧

第7章 合併症をともなう高血圧
 1.高コレステロール血症を合併した人の血圧管理
  高血圧と高コレステロール血症は動脈硬化を増幅させる /高コレステロール血症を合併した人の食事管理
 2.糖尿病を合併した人の血圧管理
  高血圧と糖尿病は悪友 /糖尿病を合併した高血圧症の食事管理 /糖尿病を合併した高血圧ではより厳格な血圧管理が必要
 3.狭心症,心筋梗塞を合併している人の血圧管理
  血圧以外のリスク因子の管理も重要 /アスピリンをのむ /心臓を守る薬
 4.脳卒中を合併した人の血圧管理
  再発率は初発の4倍高い /より厳格な血圧管理が必要
 5.腎臓機能障害を合併した人の血圧管理
 6.痛風を合併した人の血圧管理

第8章 女性,小児,高齢者の高血圧とその管理
 1.女性の高血圧
 2.小児・青少年の高血圧
 3.高齢者の高血圧
  70歳以上の高齢者の高血圧とその管理 /85歳を過ぎてからの高血圧治療

第9章 高血圧の薬物療法
 1.大規模臨床試験が証明する降圧薬の有用性
  降圧薬で予防できる脳卒中,心臓病
 2.血圧を下げる薬
  利尿薬 /β遮断薬 /α遮断薬 /カルシウム拮抗薬 /ACE阻害薬 /アンジオテンシンII受容体拮抗薬 /中枢作動性降圧薬
 3.降圧薬服用の注意
  服薬時間と服薬回数 /降圧薬をのみつづけ