やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 本書は,われわれが今まで出版した「患者さんとスタッフのための 糖尿病教室」,「患者さんとスタッフのための 糖尿病 くすりのすべて」,「患者さんとスタッフのための 糖尿病 運動のすすめ」に続いて書いたものです.
 糖尿病の治療を第一線の医療機関で行っていると,患者さんからもスタッフからも糖尿病の治療が一番大変だという声をよく耳にします.その原因には,患者さんにとっては,今まで長年慣れてきた生活習慣を変えるための大変さ,糖尿病の薬やインスリン注射,あるいは血糖自己測定を毎日規則正しく実行することの大変さがあり,同時に,医療スタッフにとっても患者さんに糖尿病治療を実行し継続してもらうことの大変さがあるからです.しかし,長年第一線病院で多くの医療スタッフと一緒に毎日糖尿病患者さんの治療を行っていると,確かに糖尿病治療は簡単ではないが,糖尿病治療を難しくしている原因のひとつに糖尿病治療を実践的に具体的に書いてある本が少ないからではないかと思うようになりました.そのために,自分たちが治療してうまくいったり,悩んでいることは他の多くの患者さんや医療スタッフも同じではないだろうか,そのためにお互いに情報交換してはどうだろうか,ということが「患者さんとスタッフのための 糖尿病」シリーズを出版している理由です.
 今回の「患者さんとスタッフのためのペン型インスリン注射のすべて」は,糖尿病のインスリン治療が一番大変で,面倒くさいという患者さんと医療スタッフの声をよく聞くことがあるので,最近の新しいペン型注射器やインスリン製剤を使ってインスリン注射を行えるようになるまでのことを順を追って書いてあります.著者の清野弘明医師と朝倉俊成薬剤師は当院でもっとも精力的に糖尿病治療を行っている医療スタッフです.
 本書では,初めて糖尿病と診断された患者さんがインスリン注射が必要になり,自分でインスリン注射ができるようになるまでを具体的に順を追って書かれています.また,インスリン治療を始めようとしている患者さんや,現在インスリン治療している患者さんにとっても役に立つ内容を入れ,さらに,患者さんのインスリン治療を実際に行っている医療スタッフでなければわからないようなことが随所に書かれています.
 本書が,インスリン治療に関係ある患者さんと医療スタッフにとって,少しでも役立つ内容であればと願っています.
 最後に,本書を出版するにあたり,われわれの無理な願いを取り入れて出版を認めていただいた医歯薬出版株式会社と,編集に多大な支援をしていただいた編集部の田辺靖始氏に深く感謝いたします.
 太田西ノ内病院副院長・糖尿病センター長 阿部隆三

利用の仕方

 現在,わが国で糖尿病患者が推定で690万人,その予備軍まで含めると1370万人と言われています.糖尿病治療は合併症の発症と進展を防ぐことが大きな目的で,適正な血糖コントロールを目ざす必要があります.
 しかし,食事療法や運動療法,そして薬物療法いずれも,患者さんのライフスタイルのなかでどのように実践されるかが大きなポイントであり,私たち糖尿病医療スタッフは,患者さんの“サポート役“として,時には“先導役”として存在していると言えます.
 さて,インスリン療法は薬物療法のなかでも最も重要なものですが,患者さんにとって最大の短所は“注射による投与“であるということでしょう.しかし,ここ数年の間に,インスリン自己注射は患者さんのQOL(quality of life)を重視した“ペン型注射器の開発”により,加速度的に普及してきました.
 とくに,ディスポーザブルシリンジ(以下,シリンジとします)のときに比べ,“注射器のイメージ“がほとんどなく携帯に便利になったことや,細いペン型注射器専用針の開発で“痛み”が軽減されてきたことなどが挙げられます.
 ところが,操作法は“道具操作から機械操作”へと,シリンジに比べて複雑化してきており,機械が苦手な患者さんにとっては,新たな苦労が加わったことになります.
 太田西ノ内病院(以下,当院とします)では,薬剤師がペン型注射器の導入説明を行っています.その際,各メーカーが作成している解説書を用いていますが,糖尿病患者さんは小児から高齢者まで幅広い年齢層を有しており,まして視力低下や手指機能低下などのあらゆる条件に対応できる説明法を身につけておかなければならないと考えております.そこで,日頃から説明方法の工夫や道具の開発を行い,同時に解説書の利用法についても検討を重ねてまいりました.
 本書は,その利用法についていくつかの選択肢をまとめたものです.特徴は,
 (1) 現在主に使用されているペン型注射器の各使用解説書の流れに沿って構成していること
 (2) スタッフと患者向けにポイントをまとめたこと
 (3) 各操作には写真とイラストを多くとり入れ,読者に臨場感をもっていただけるようにしたこと
 (4) 薬剤師のもつ薬学的な視点でポイントやコツをまとめたこと
 などです.
 ぜひ,ペン型注射器の説明の“虎の巻“として,また“困ったときの解説書”として活用していただければと思います.
 太田西ノ内病院内科 清野弘明
 太田西ノ内病院薬剤部 朝倉俊成
序文 阿部隆三
利用の仕方 清野弘明・朝倉俊成
構成の説明

第1章 薬物療法とは?
 1.正しい薬物療法を実践してもらうために
  1)服薬コンプライアンス
  2)薬の形と効き方
 2.薬物療法説明のポイント
  1)病気に対する正しい理解
  2)薬に対する正しい理解
  3)器具使用法の正しい理解と実践
 3.インスリン療法
  1)どんなときにインスリンを使うのか
  2)1日何回注射するのか
  3)インスリン製剤
  4)ペン型注射器
  5)ペン型注射器用針(ニードル)
 4.ペン型注射器説明(理解)の流れ
  1)スタッフ間の連携
  2)「インスリン自己注射説明連絡票」
  3)説明方法
 5.インスリン注射開始時までのポイント
 6.説明前のアドバイス―医師から31

第2章 ペン型注射器の使い方
 1.説明に際して配慮すべき点34
 2.ステップ1
  1)ペンの特徴
  2)各部の名称としくみ
  3)ステップ1のポイント
 3.ステップ2
  1)説明時間と理解度
  2)組み立て方
  3)注射の準備
  4)ステップ2のポイント
 4.ステップ3
  1)確実な手技の実施
  2)注射の仕方
  3)ステップ3のポイント
 5.ステップ4
  1)インスリンの交換時期
  2)携帯・保管・手入れ
  3)家族の方へ
  4)その他
  5)ステップ4のポイント
 6.低血糖とその他の注意事項
  1)低血糖
  2)その他の注意事項
 7.シックデイへの対応
 8.故障かと思ったら
  1)インスリンホルダー(筒)が装着できない
  2)針を装着できない
  3)インスリンが出ない
  4)インスリンカートリッジ交換時にピストン棒が動かなくなった
  5)保管と手入れ
 9.説明後のアドバイス―医師から

第3章 付録
 チェックリスト一覧
 教育資材
 注射のためのアイデアグッズ
 参考文献