やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 35億年前,原始海水の中で発生した生命体は,さまざまな環境に適応しながら進化をとげ,原核生物,原生生物や動植物,そしてついに高等動物や人類にまで進化したと予想されている.しかし個体の姿や形は違っても,細胞中で起こる代謝は種を越えてたいへんよく似ている.この絶えず起こる代謝はおそらく生命の一断面であり,生化学は“生命の化学“といっても過言ではないだろう.本書は,臨床検査学をはじめ,看護学,理学・作業療法学や栄養学など医療や人体に関わる分野の方々に,この“生命の化学”を理解してもらうために書かれた.
 臨床検査学では,ヒトの生命現象とその病的変化を化学的,生理学的あるいは形態学的にとらえ記述する.とりわけ臨床化学検査学領域では,代謝中間体や酵素の変動を疾病や病態の診断に利用することが多い.そのため本書では,代謝中間体の分子構造,反応の特性やその物理化学に至るまで比較的詳しく解説した.臨床検査学を学ぶものは,まずヒトの代謝を十分に理解し,現在使われている検査法の理解はもちろんのこと,より疾患特異性の高い検査法の開発を目指してもらいたいからである.一方,近年,ヒトゲノム解析をはじめ生物学の急速な進歩に支えられ,ヒト生化学の知見は急激に蓄積され,本書に収録すべき内容を再吟味する必要に迫られた.そこで今回の改訂では,とくに分子生物学を中心に最近の知見を加えるとともに,図を多用し記述を簡明にするよう心がけた.化学や生物学を十分に知らなくとも,理解しやすいように記述したつもりである.
 しかし,本書は生化学の膨大な知見のほんの一部しかふれることができなかった.もしさらに詳しく知りたくなったならば,より専門的な文献にぜひ目をとおし,先達が開拓してきた研究成果に直接接してほしい.本書が生命現象の理解の一助になれば幸甚である.
 本書の改訂に際し,終始ご助力いただいた医歯薬出版社編集部の方々に感謝いたします.
 2006年2月著者一同
第I章 総論
 1.生命現象と生化学
 2.生体構成成分
 3.細胞の構成と働き
 まとめ
第II章 生体物質の構造と機能
 1.糖質
  1-糖の定義と分類
  2-糖の構造と異性体
  3-二糖類および多糖類
  4-酸性ムコ多糖類と複合多糖類
  5-糖の性質
  まとめ
 2.脂質
  1-脂質の定義と分類
  2-脂肪酸
  3-中性脂肪
  4-リン脂質
  5-スフィンゴ脂質
  6-テルペン類
  7-脂質の性質
  まとめ
 3.タンパク質
  1-アミノ酸の構造と性質
  2-タンパク質の構造と性質
  まとめ
 4.核酸
  1-ヌクレオチドの構造と性質
  2-核酸の構造と性質
  まとめ
 5.酵素
  1-酵素の一般的性質
  2-酵素と活性化エネルギー
  3-酵素反応速度論
  4-酵素活性の調節
  5-酵素の分類と命名法
  まとめ
第III章 代謝
 1.代謝の概要
  まとめ
 2.糖質代謝
  1-糖質の消化・吸収
  2-グリコーゲンの合成と分解
  3-解糖系と糖新生系
  4-NADPH産生系
  5-TCAサイクル
  6-糖の相互変換
  7-オリゴ糖の生合成
  8-臓器間の糖代謝相関
  まとめ
 3.脂質代謝
  1-脂質の消化・吸収
  2-脂肪酸の合成
  3-トリグリセリド合成とリン脂質,糖脂質の代謝
  4-脂肪酸の酸化分解
  5-コレステロールの代謝
  6-臓器間の脂質代謝相関
  まとめ
 4.アミノ酸とタンパク質の代謝
  1-タンパク質の消化・吸収
  2-タンパク質の合成・分解と窒素平衡
  3-アミノ酸の分解
  4-尿素サイクルとアンモニアの処理
  5-アミノ酸の生合成
  まとめ
 5.エネルギー代謝
  1-高エネルギー化合物の働き
  2-ミトコンドリアとエネルギー生産
  3-基礎代謝と活動代謝
  まとめ
 6.核酸代謝
  1-核酸の消・化吸収
  2-ヌクレオチドの合成
  3-ヌクレオチドの分解
  まとめ
第IV章 情報伝達機構と器官の生化学
 1.情報伝達物質の総論
  1-情報伝達物質の種類
  2-受容体
  まとめ
 2.ホルモン
  1-ホルモンの分類
  2-ホルモンの役割
  3-視床下部-下垂体系
  4-甲状腺ホルモン
  5-副甲状腺ホルモン,ビタミンDとカルシトニン
  6-膵ホルモン
  7-副腎ホルモン
  8-性ホルモン
  9-消化管ホルモン
  10-エイコサノイド
  まとめ
 3.細胞内情報伝達
  1-細胞内情報伝達系
  2-情報伝達の機構
  3-プロテインキナーゼによるリン酸化
  まとめ
 4.水・電解質バランスと酸塩基平衡
  1-体液の区分と組成
  2-水と電解質
  3-酸塩基平衡
  4-血液の緩衝系
  5-酸塩基平衡の異常
  まとめ
 5.血液の生化学
  1-血液の成分とその働き
  2-赤血球の生化学
  3-ヘモグロビン
  4-ヘムの代謝
  5-止血機構
  6-免疫系の血漿タンパク質
  まとめ
 6.器官の生化学
  1-肺
  2-腎臓
  3-肝臓
  4-筋
  5-神経
  6-結合組織
  7-骨組織
  まとめ
第V章 遺伝子の生化学
 1.遺伝子情報の流れ
  1-遺伝子
  2-遺伝子の複製
  3-転写とその調節
  4-翻訳と翻訳後修飾
  まとめ
 2.遺伝子と疾患
  1-遺伝子の変異と遺伝子修復機構
  2-遺伝子異常症・分子病
  3-遺伝子検査法
  まとめ
第VI章 栄養生化学
 1.エネルギー代謝
  1-エネルギー所要量
 2.栄養素
 まとめ

 索引