序文
近年,世界的に臨床検査の標準化が進んできており,その背景のなかでわが国では,平成28年度診療報酬改定に伴って国際標準検査管理加算が新設され,全国の臨床検査室では国際標準であるISO15189の取得が急激に進んできました.その結果,各検査室ではマニュアルや記録など書類が整備され,品質マネジメントシステムの概念が浸透してきています.さらに,平成27年9月28日に公布された「医療法の一部を改正する法律」(平成27年法律第74号)により,医療法および医療法施行規則が改正されました.このなかで,臨床検体検査の品質・精度管理に関する規定が創設されたことにより,今後は品質保証(遺伝子検査を含む)という考え方がより進むと考えられます.
ISO15189を取得する目的は,臨床検査の国際的な標準化であり,検査品質を高めて医療の質の向上を目指すことです.この目的を達成するためには,ISO15189の要求事項を理解することはもちろんのこと,精度保証に関する学問的な知識を深めることが重要です.ISOの品質マネジメントシステムで求められる「規格の要求事項」に適合するための方法は一様ではなく,各検査室の規模や環境に応じた方法論があります.また,全国的にISO15189認定取得に際しては,多くの臨床検査室が企業のコンサルテーションを利用していますので,「規格の要求事項」に関しての適合性としては十分満足いくかたちで体制が構築されてきています.しかし,個人的な印象としては,認定を取得することが主目的となり,本来の目的である臨床検査の質の向上(精度管理を含めて)に関する知識が十分でないように感じます.
これからの臨床検査は「臨床検査の品質」に特化した人材育成にかかわる環境作りが重要であるといわれています.特に,精度保証は臨床検査統計学がベースとなっており,高品質な精度を確実にするためには数学的な知識が必須となります.近代科学の父ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)が「自然という書物は数学の言語によって書かれている」という言葉を残しているように,医学においても数学は強力な武器となりえますが,使い方を間違えると大きなリスクを伴うのも事実です.また,臨床化学の分野では特に自動化が著しく進歩して,機械崇拝主義もしくは依存主義的な考えを持っている人達が増えてきています.しかし,いかに最先端の性能のよい分析装置で測定しても,それを使う人の知識や経験が少ないと,高品質なデータを臨床に提供することはできません.
本書は,臨床化学部門を中心とした精度保証に関して,統計学を含む学問的な内容で構成しました.臨床化学の分野に新しく配属された新人の方や,日常ルーチン検査でこの分野に携わっていない方を対象に「これから始める臨床化学」(2015年1月発行)を,実用的な入門書として執筆いたしましたが,本書では臨床検査の品質を高めるために必要と考えられる部分を中心に解説しましたので,精度保証に関する知識を深めるためにご活用いただければ幸いです.また,本書の第IV章「臨床検査統計学」では精度保証に使用される初歩的な部分を抜粋し,できるだけ簡単に解説していますので,より専門的に詳しく勉強したい方は統計についての他の書籍をご利用下さい.
最後に本書作成に関して,ご指導や資料および情報提供等をして頂いた国立病院機構本部専門職の渡邉清司先生,国立病院臨床検査技師協会本部会長の石井幸雄先生をはじめとする国立病院臨床検査技師協会の皆様や国立病院臨床検査技師長協議会の皆様,公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)の下田勝二先生,メルク株式会社の金沢旬宣先生,キヤノンメディカルシステムズ株式会社の篠原弘生氏,八柳正美氏,セロテック株式会社の根占哲也氏,島崎宏氏,ネオメディカル株式会社の斎藤薫氏に深くお礼を申し上げます.
2019年3月
著者代表 志保裕行
近年,世界的に臨床検査の標準化が進んできており,その背景のなかでわが国では,平成28年度診療報酬改定に伴って国際標準検査管理加算が新設され,全国の臨床検査室では国際標準であるISO15189の取得が急激に進んできました.その結果,各検査室ではマニュアルや記録など書類が整備され,品質マネジメントシステムの概念が浸透してきています.さらに,平成27年9月28日に公布された「医療法の一部を改正する法律」(平成27年法律第74号)により,医療法および医療法施行規則が改正されました.このなかで,臨床検体検査の品質・精度管理に関する規定が創設されたことにより,今後は品質保証(遺伝子検査を含む)という考え方がより進むと考えられます.
ISO15189を取得する目的は,臨床検査の国際的な標準化であり,検査品質を高めて医療の質の向上を目指すことです.この目的を達成するためには,ISO15189の要求事項を理解することはもちろんのこと,精度保証に関する学問的な知識を深めることが重要です.ISOの品質マネジメントシステムで求められる「規格の要求事項」に適合するための方法は一様ではなく,各検査室の規模や環境に応じた方法論があります.また,全国的にISO15189認定取得に際しては,多くの臨床検査室が企業のコンサルテーションを利用していますので,「規格の要求事項」に関しての適合性としては十分満足いくかたちで体制が構築されてきています.しかし,個人的な印象としては,認定を取得することが主目的となり,本来の目的である臨床検査の質の向上(精度管理を含めて)に関する知識が十分でないように感じます.
これからの臨床検査は「臨床検査の品質」に特化した人材育成にかかわる環境作りが重要であるといわれています.特に,精度保証は臨床検査統計学がベースとなっており,高品質な精度を確実にするためには数学的な知識が必須となります.近代科学の父ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)が「自然という書物は数学の言語によって書かれている」という言葉を残しているように,医学においても数学は強力な武器となりえますが,使い方を間違えると大きなリスクを伴うのも事実です.また,臨床化学の分野では特に自動化が著しく進歩して,機械崇拝主義もしくは依存主義的な考えを持っている人達が増えてきています.しかし,いかに最先端の性能のよい分析装置で測定しても,それを使う人の知識や経験が少ないと,高品質なデータを臨床に提供することはできません.
本書は,臨床化学部門を中心とした精度保証に関して,統計学を含む学問的な内容で構成しました.臨床化学の分野に新しく配属された新人の方や,日常ルーチン検査でこの分野に携わっていない方を対象に「これから始める臨床化学」(2015年1月発行)を,実用的な入門書として執筆いたしましたが,本書では臨床検査の品質を高めるために必要と考えられる部分を中心に解説しましたので,精度保証に関する知識を深めるためにご活用いただければ幸いです.また,本書の第IV章「臨床検査統計学」では精度保証に使用される初歩的な部分を抜粋し,できるだけ簡単に解説していますので,より専門的に詳しく勉強したい方は統計についての他の書籍をご利用下さい.
最後に本書作成に関して,ご指導や資料および情報提供等をして頂いた国立病院機構本部専門職の渡邉清司先生,国立病院臨床検査技師協会本部会長の石井幸雄先生をはじめとする国立病院臨床検査技師協会の皆様や国立病院臨床検査技師長協議会の皆様,公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)の下田勝二先生,メルク株式会社の金沢旬宣先生,キヤノンメディカルシステムズ株式会社の篠原弘生氏,八柳正美氏,セロテック株式会社の根占哲也氏,島崎宏氏,ネオメディカル株式会社の斎藤薫氏に深くお礼を申し上げます.
2019年3月
著者代表 志保裕行
序文
I 精度保証の概念
1. 精度保証とは
1 精度マネジメント
2. 臨床化学検査におけるバリデーション(妥当性)
1 バリデーション
2 標準化
3 測定の許容誤差限界
1 技術水準に基づく許容誤差限界
2 臨床的有用性に基づく許容誤差限界
3 生理的変動に基づく誤差限界
3. 精度管理手法
1 x-R管理図法
2 マルチルール管理図法
3 双値法
1 確率楕円
2 マハラノビスの距離とユークリッドの距離
II 臨床検査の結果解釈と判断基準
1. 基準範囲と臨床判断値
1 概要
2 基準範囲
1 JCCLS共用基準範囲と基準個体の選別方法
2 統計学的方法
3 臨床判断値
1 診断閾値
2 治療閾値
3 予防医学的閾値
2. 臨床的有用性の評価
1 感度と特異度
1 ベイズ統計学
2 ROC曲線
III 検量方法
1. 酵素活性と濃度測定
1 酵素とは
1 酵素の基本は蛋白質
2 酵素は働く相手を選ぶ
3 酵素は働く環境にもこだわりがある
2 酵素反応速度
1 酵素活性と単位
2 酵素反応速度
3 酵素を利用した測定法
1 基質濃度の測定
2 基質濃度の検出
3 酵素活性の測定
2. 校正方法
1 校正とは
2 二点校正
3 一点校正
4 多点校正
IV 臨床検査統計学
1. 統計学の分類と基本処理
1 統計学の基本概念
2 記述統計学と推測統計学
3 統計学で扱うデータの種類
1 尺度によるデータの分類
2 標本の数によるデータの分類
3 連続データと離散データ
4 データの基本処理
1 母数と統計量
2 パラメトリック検定とノンパラメトリック検定
3 正規分布
4 推測統計学の基本的な考え方
2. 記述統計学
1 データの代表値
1 平均値
2 最頻値
3 中央値
4 四分位数と箱ひげ図
2 データのバラツキ
1 分散と標準偏差
2 標準誤差
3 自由度
4 日内変動と日間変動
3 相関と回帰
1 相関分析
2 回帰分析
3 重回帰分析
4 相関分析と回帰分析の実際
3. 検定
1 統計的な検定の考え方
1 片側検定と両側検定
2 有意確率p値
3 母平均の検定(t検定)
2 独立性の検定(χ2検定)
1 イェーツの補正
2 F検定
3 第1種の過誤と第2種の過誤
4 棄却検定
4. 分散分析法
1 一元配置分散分析法
2 測定の不確かさと一元配置分散分析法
1 Aタイプの不確かさ
2 Bタイプの不確かさ
3 不確かさを考える手順
V 精度保証にかかわる要因
1. 水
1 水道水に含まれる不純物と臨床検査への影響
2 純水の定義
1 水質の指標(導電率,比抵抗,TOC)
2 臨床検査用純水規格
3 純水の精製方法
1 RO(逆浸透膜:reverse osmosis膜)水
2 イオン交換水
3 RO-EDI水
4 蒸留水
4 純水の殺菌と貯水
2. 温度
1 温度の単位と国際温度目盛
2 温度計の分類
3 温度計の校正と点検
4 自動分析装置の温度管理
1 反応セル内温度の確認方法
2 試薬庫温度の確認方法
3. 重さ
1 質量の基準
2 天秤の種類
1 物理天秤
2 電子天秤
3 電子天秤(電磁式)の原理
4 電子天秤の誤差要因
1 重力
2 温度,気流
3 静電気
4 振動
5 浮力
5 電子天秤の点検方法
1 点検内容
2 分銅の選択
3 分銅を使用するうえでの注意点
4 実際の点検
5 点検で誤差が発見された時
4. 体積計
1 種類
2 微量ピペットの校正
3 ホールピペットの校正
5. 遠心分離装置
1 原理
2 構成
3 装置の点検,検査
6. 吸光光度計
1 原理
2 構成
1 光源部
2 波長選択部
3 試料部
4 測光部
3 保守
1 試験法
7. 試料
1 採血
1 日内変動
2 食事による影響
3 体位
4 クレンチング
5 薬剤の影響
2 採血後の取り扱い
1 放置による影響
2 溶血による影響
3 抗凝固剤と採血管
VI 遺伝子
1. 遺伝子関連検査の精度管理
1 精度管理の必要性と目的
2 精度管理の現状
2. ISO 15189と遺伝子関連検査
1 検査室の質保証
2 検査の質保証
1 測定前プロセス―検体の品質管理と保証
2 検査プロセス1―検査の分析的妥当性の評価
3 検査プロセス2―バイオインフォマティクスプロセスでのデータ保証
4 検査結果の品質確保
5 検査後プロセス
6 結果の報告
VII 臨床検査室とISO 15189
1. ISO 15189の概要
1 検査プロセス
2. ISO 15189の認定範囲および関係資料
索引
I 精度保証の概念
1. 精度保証とは
1 精度マネジメント
2. 臨床化学検査におけるバリデーション(妥当性)
1 バリデーション
2 標準化
3 測定の許容誤差限界
1 技術水準に基づく許容誤差限界
2 臨床的有用性に基づく許容誤差限界
3 生理的変動に基づく誤差限界
3. 精度管理手法
1 x-R管理図法
2 マルチルール管理図法
3 双値法
1 確率楕円
2 マハラノビスの距離とユークリッドの距離
II 臨床検査の結果解釈と判断基準
1. 基準範囲と臨床判断値
1 概要
2 基準範囲
1 JCCLS共用基準範囲と基準個体の選別方法
2 統計学的方法
3 臨床判断値
1 診断閾値
2 治療閾値
3 予防医学的閾値
2. 臨床的有用性の評価
1 感度と特異度
1 ベイズ統計学
2 ROC曲線
III 検量方法
1. 酵素活性と濃度測定
1 酵素とは
1 酵素の基本は蛋白質
2 酵素は働く相手を選ぶ
3 酵素は働く環境にもこだわりがある
2 酵素反応速度
1 酵素活性と単位
2 酵素反応速度
3 酵素を利用した測定法
1 基質濃度の測定
2 基質濃度の検出
3 酵素活性の測定
2. 校正方法
1 校正とは
2 二点校正
3 一点校正
4 多点校正
IV 臨床検査統計学
1. 統計学の分類と基本処理
1 統計学の基本概念
2 記述統計学と推測統計学
3 統計学で扱うデータの種類
1 尺度によるデータの分類
2 標本の数によるデータの分類
3 連続データと離散データ
4 データの基本処理
1 母数と統計量
2 パラメトリック検定とノンパラメトリック検定
3 正規分布
4 推測統計学の基本的な考え方
2. 記述統計学
1 データの代表値
1 平均値
2 最頻値
3 中央値
4 四分位数と箱ひげ図
2 データのバラツキ
1 分散と標準偏差
2 標準誤差
3 自由度
4 日内変動と日間変動
3 相関と回帰
1 相関分析
2 回帰分析
3 重回帰分析
4 相関分析と回帰分析の実際
3. 検定
1 統計的な検定の考え方
1 片側検定と両側検定
2 有意確率p値
3 母平均の検定(t検定)
2 独立性の検定(χ2検定)
1 イェーツの補正
2 F検定
3 第1種の過誤と第2種の過誤
4 棄却検定
4. 分散分析法
1 一元配置分散分析法
2 測定の不確かさと一元配置分散分析法
1 Aタイプの不確かさ
2 Bタイプの不確かさ
3 不確かさを考える手順
V 精度保証にかかわる要因
1. 水
1 水道水に含まれる不純物と臨床検査への影響
2 純水の定義
1 水質の指標(導電率,比抵抗,TOC)
2 臨床検査用純水規格
3 純水の精製方法
1 RO(逆浸透膜:reverse osmosis膜)水
2 イオン交換水
3 RO-EDI水
4 蒸留水
4 純水の殺菌と貯水
2. 温度
1 温度の単位と国際温度目盛
2 温度計の分類
3 温度計の校正と点検
4 自動分析装置の温度管理
1 反応セル内温度の確認方法
2 試薬庫温度の確認方法
3. 重さ
1 質量の基準
2 天秤の種類
1 物理天秤
2 電子天秤
3 電子天秤(電磁式)の原理
4 電子天秤の誤差要因
1 重力
2 温度,気流
3 静電気
4 振動
5 浮力
5 電子天秤の点検方法
1 点検内容
2 分銅の選択
3 分銅を使用するうえでの注意点
4 実際の点検
5 点検で誤差が発見された時
4. 体積計
1 種類
2 微量ピペットの校正
3 ホールピペットの校正
5. 遠心分離装置
1 原理
2 構成
3 装置の点検,検査
6. 吸光光度計
1 原理
2 構成
1 光源部
2 波長選択部
3 試料部
4 測光部
3 保守
1 試験法
7. 試料
1 採血
1 日内変動
2 食事による影響
3 体位
4 クレンチング
5 薬剤の影響
2 採血後の取り扱い
1 放置による影響
2 溶血による影響
3 抗凝固剤と採血管
VI 遺伝子
1. 遺伝子関連検査の精度管理
1 精度管理の必要性と目的
2 精度管理の現状
2. ISO 15189と遺伝子関連検査
1 検査室の質保証
2 検査の質保証
1 測定前プロセス―検体の品質管理と保証
2 検査プロセス1―検査の分析的妥当性の評価
3 検査プロセス2―バイオインフォマティクスプロセスでのデータ保証
4 検査結果の品質確保
5 検査後プロセス
6 結果の報告
VII 臨床検査室とISO 15189
1. ISO 15189の概要
1 検査プロセス
2. ISO 15189の認定範囲および関係資料
索引