やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 シャントは不思議なもので,これがないと血液透析が行えず,生命を維持することができない.しかしその一方で,シャントの非生理的血流は人体に悪影響を及ぼすため,血管はシャントを閉塞させようと狭窄を形成する.狭窄が進行すると,シャントはある日突然閉塞し,その対応に窮することになる.動脈に直接穿刺したり,カテーテルを挿入したりして透析を行わねばならないが,それは,患者にとっても,透析スタッフにとっても大きな負担となる.
 ほんの十数年前まで,シャントの管理に超音波検査を使用するという考えはなかった.トラブルが生じれば外科治療を行うというスタンスが当然であり,どのような治療を行うかが,外科医の腕の見せ所であった.しかし,近年のインターベンション治療の飛躍的な普及によって,閉塞する前の治療が可能となってきた.また,透析効率を保つためにシャントを良好な状態に保つことが必要となってきている.そういった意味で,シャントの機能評価・形態評価を同時に行える超音波検査は,このうえない強力な武器となりうる.
 そのような考えのもと,2年前に筆者が編集させていただいた「バスキュラーアクセス超音波テキスト」は,ありがたいことに,多くの方から反響をいただき,活用していただいている.今回のテキストは,実際に私が経験した症例を提示し,それに対してどのように考えてエコーを行うかを示した.シャントエコーの考え方とテクニックを学ぶための実践的なテキストとして利用していただければ幸いである.
 エコーを行うには,理学所見を迅速・正確にとる技術が欠かせない.これは,シャントエコーを多く手掛けている検者ほど身に染みていることであろう.診断能力は,理学所見をとり,エコーを行い,再度理学所見をとるということの繰り返しで向上する.本テキストで,多くのページを理学所見にあてたのもそういった意味からである.検者はプローブを持つ前に,十分な時間をとって理学所見をとっていただきたい.
 なかなか筆の進まない私を叱咤激励していただいた医歯薬出版の編集者の方に,この場を借りて感謝する.どうにか本書の上梓にこぎつけることができ,少し肩が軽くなった.
 シャントエコーを行っている方,またこれからシャントエコーを行ってみようと思っている方にとって,本書が少しでも診療の役に立つことを願っている.
 2013年4月 著者
 序
1 バスキュラーアクセスと超音波検査
 VAの種類
 VAエコーの技術的側面
 透析のツールとしてのVA
 理学所見の重要性
 チーム医療としてのVAエコー
2 VA理学所見の取り方
 視診
  1)血管の観察
  2)血管以外の観察
  3)手指の観察
 触診法と圧迫法
  1)触診の方法
  2)血管分岐がある場合の狭窄のみつけ方
  3)分岐部を同定するための圧迫
 上肢挙上法
  1)狭窄の確認
  2)瘤,静脈拡張の診断
  3)動脈圧迫法
  4)流入シャント静脈圧迫法
 VA理学所見のまとめ
3 VA機能評価法
 上腕動脈のパルスドプラ波形描出法
  1)使用するプローブ
  2)計測部位
 サンプルボリューム
 角度補正
 血管径の測定
 血流量の計算
 血管抵抗指数
 加速時間
4 基本的な走査法
 前腕のAVF
  1)動脈の走査
  2)吻合部描出法
  3)静脈の走査の基本
  4)吻合部から肘窩まで
  5)肘窩部から上腕まで
 肘窩AVF
  1)肘窩AVFの種類
  2)肘窩AVFのエコー検査
 さまざまなタイプのシャントの走査法
  1)分岐血管
  2)蛇行血管
5 狭窄の病態と症状
 狭窄の形態的特徴
  1)内膜肥厚
  2)血管収縮
  3)静脈弁肥厚
  4)壁石灰化
 狭窄の好発部位
  1)吻合部の1〜5cm以内の静脈
  2)合流部,もしくは分岐部
  3)静脈弁
 脱血不良
  1)シャント狭窄と脱血不良
 静脈圧上昇
 再循環
6 グラフトの基礎知識とエコー
 グラフトの種類と特徴
  1)ePTFEグラフト
  2)ポリウレタン製グラフト
  3)PEPグラフト
  4)どのグラフトを選択するか
 グラフト移植の適応
 流出路静脈狭窄
 穿刺困難
 グラフトの理学所見
 AVGの超音波検査
  1)血流量測定
  2)形態観察
 AVGの管理
  1)静脈圧の変化
  2)血流量
  3)感染,穿刺困難,血清腫,仮性瘤
7 さまざまな合併症
 血栓
  1)血栓性閉塞
  2)部分血栓
  3)シャント本幹に血栓があり,側副静脈にシャント血が流入
 瘤
  1)瘤の観察ポイント
  2)瘤のエコー描出法
  3)グラフトの瘤
  4)瘤の治療法
 静脈高血圧症
  1)ソアサム症候群
  2)前腕型静脈高血圧症
  3)上肢型静脈高血圧症
 グラフト感染
  1)AVG感染の原因と起炎菌
  2)グラフト感染の観察ポイント
  3)グラフト感染におけるエコーの観察ポイント
8 穿刺とエコー
 ボタンホール穿刺
 穿刺部血管の瘤化
 穿刺困難症例
 穿刺部の血栓形成
 穿刺部からのリークと血腫形成
 穿刺とエコーのまとめ

 索引