やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

「最新臨床検査学講座」の刊行にあたって
 1958年に衛生検査技師法が制定され,その教育の場からの強い要望に応えて刊行されたのが「衛生検査技術講座」であります.その後,法改正およびカリキュラム改正などに伴い,「臨床検査講座」(1972),さらに「新編臨床検査講座」(1987),「新訂臨床検査講座」(1996)と,その内容とかたちを変えながら改訂・増刷を重ねてまいりました.
 2000年4月より,新しいカリキュラムのもとで,新しい臨床検査技師教育が行われることとなり,その眼目である“大綱化”によって,各学校での弾力的な運用が要求され,またそれが可能となりました.「基礎分野」「専門基礎分野」「専門分野」という教育内容とその目標とするところは,従前とかなり異なったものになりました.そこで弊社では,この機に「臨床検査学講座」を刊行することといたしました.臨床検査技師という医療職の重要性がますます高まるなかで,“技術“の修得とそれを応用する力の醸成,および“学”としての構築を目指して,教育内容に沿ったかたちで有機的な講義が行えるよう留意いたしました.
 その後,ガイドラインが改定されればその内容を取り込みながら版を重ねてまいりましたが,2013年に「国家試験出題基準平成27年版」が発表されたことにあわせて紙面を刷新した「最新臨床検査学講座」を刊行することといたしました.新シリーズ刊行にあたりましては,臨床検査学および臨床検査技師教育に造詣の深い山藤 賢先生,高木 康先生,奈良信雄先生,三村邦裕先生,和田骼u先生を編集顧問に迎え,シリーズ全体の構想と編集方針の策定にご協力いただきました.各巻の編者,執筆者にはこれまでの「臨床検査学講座」の構成・内容を踏襲しつつ,最近の医学医療,臨床検査の進歩を取り入れることをお願いしました.
 本シリーズが国家試験出題の基本図書として,多くの学校で採用されてきました実績に鑑みまして,ガイドライン項目はかならず包含し,国家試験受験の知識を安心して習得できることを企図しました.また,読者の方々に理解されやすい,より使いやすい,より見やすい教科書となるような紙面構成を目指しました.本「最新臨床検査学講座」により臨床検査技師として習得しておくべき知識を,確実に,効率的に獲得することに寄与できましたら本シリーズの目的が達せられたと考えます.
 各巻テキストにつきまして,多くの方がたからのご意見,ご叱正を賜れば幸甚に存じます.
 2015年春



 遺伝子検査,染色体検査は,数多い臨床検査のなかでも比較的新しい分野である.染色体検査は遺伝子検査よりも古く,Down症候群等の先天性疾患の診断や慢性骨髄性白血病におけるフィラデルフィア染色体の検出など,臨床医学に応用されてきた.それでも,必ずしもすべての検査施設で実施されていたわけではなく,専門の研究室で検査されるなど,他の臨床検査ほどには普及していなかった.
 しかし,遺伝医学,分子生物学等が急速に発展するにつれ,染色体あるいは遺伝子レベルで病態が解析されるようになり,診断,治療に応用されることが多くなってきた.こうした背景から,「遺伝子・染色体検査学」が臨床検査技師養成のためのテキストとして,1999年に初めて刊行された.ただ,当時は臨床検査に正規に組み入れるには時期尚早との意見もあり,本シリーズ「臨床検査学講座」の別巻として出版された.
 その後,遺伝子検査学,染色体検査学はともに長足の発展を遂げ,臨床医学にもはや欠かせない重要な臨床検査となった.そこで,2002年には正式に「臨床検査学講座」の一科目として刊行され,臨床検査技師教育に利用されることとなり,医学・医療の発展を逐次取り入れ,増刷を重ねてきた.
 このたび,本シリーズが「最新臨床検査学講座」に刷新されるにあたり「遺伝子・染色体検査学」も装いを新たにすることにした.最新の情報を盛り込んだのはもちろんであるが,「国家試験出題基準平成27年版」にあわせることにした.さらに,読者がより理解しやすくなるよう,構成を一新し,かつ2色刷りを取り入れるなどの工夫もした.臨床検査技師に必ずしも必要ではないかもしれないが,知っておいた方が便利な記載などは側注にした.
 なお,平成23年版の国家試験出題基準「IV章 臨床化学」(遺伝子関連)と「VI章 臨床血液学」(染色体関連)に含まれていた遺伝子・染色体の部分は,平成27年版の新しい国家試験出題基準では,「I章 臨床検査総論」のなかに,病因・生体防御検査学という節として,独立させて扱うこととなった.本書に合わせてご利用いただくと,より理解が深まると考える.
 本書を是非ご活用いただき,遺伝子検査,染色体検査の応用に役立てていただきたいと願う.
 本書の企画・編集にあたっては,日本臨床検査学教育協議会の先生方,医歯薬出版株式会社編集部の多大なるご協力をいただいた.ここに深謝する.
 2015年1月
 著者を代表して 奈良信雄
 口絵:ヒトの染色体を解析してみよう
第1章 遺伝子の基礎
 I 細胞の構造と機能
  1 生物の基本単位としての細胞
  2 細胞の構造と機能
   1)細胞膜
   2)核
   3)小胞体,リボソーム
   4)ゴルジ装置(体)
   5)ミトコンドリア
   6)リソソーム
   7)細胞質
   8)細胞骨格
   9)中心体
  3 細胞の接着
  4 細胞分裂
   1)体細胞分裂
   2)減数分裂
  5 細胞周期
 II 遺伝子
  1 核酸
   1)核酸の基本構造
   2)核酸の高分子構造
  2 核酸代謝
   1)核酸の合成
   2)核酸の分解
  3 遺伝子の構造と機能
   1)DNA
   2)RNA
  4 クロマチンの構造
  5 DNAの複製
   1)複製
   2)DNA複製の校正
   3)遺伝子の損傷と修復
  6 遺伝情報の伝達と発現
   1)転写
   2)翻訳
   3)遺伝子発現の調節
   4)蛋白質合成
  7 遺伝子変異と多型
   1)遺伝子変異
   2)遺伝子多型
  8 遺伝子の異常
   1)表現型と遺伝子型
   2)遺伝の法則
   3)遺伝子変異と変異原
第2章 遺伝子異常と疾患
 I 遺伝子の異常が関連する疾患
  1 ヘモグロビン遺伝子の異常
   1)鎌状赤血球症
   2)その他の異常ヘモグロビン症
   3)サラセミア
  2 先天性代謝異常症
  3 悪性腫瘍
   1)がん遺伝子
   2)がん抑制遺伝子
 II 遺伝子診断
  1 遺伝子診断の原理
  2 遺伝子診断の対象
   1)感染症の診断
   2)遺伝病の診断
  3 出生前診断
   1)羊水検査
   2)絨毛検査
   3)胎児採血法
   4)その他
  4 発症前診断
  5 遺伝子診断の問題点
 III 遺伝子治療
  1 原理
  2 臨床応用
  3 問題点
 IV 移植・再生医療
  1 移植医療
  2 再生医療
 V ファーマコゲノミクス
第3章 遺伝子の検査法
 I 遺伝子検査の概説
  1 遺伝子関連検査の種類
  2 検体の取り扱い
  3 遺伝子検査に用いる試薬
 II 遺伝子検査用機器とその保守管理
  1 クリーンベンチ
  2 炭酸ガス培養装置
  3 恒温水槽,恒温器
  4 電気泳動装置
  5 遠心分離装置
  6 滅菌装置
   1)オートクレーブ
   2)乾熱滅菌装置
  7 顕微鏡
  8 写真撮影装置
  9 水の精製装置
  10 分光光度計
  11 核酸増幅装置
  12 ブロッティング装置
  13 シークエンサー
  14 遺伝子検査に用いるその他の器具
 III 核酸抽出
  1 検体採取
  2 血球分離
   1)赤血球を溶血させて白血球を分離する方法
   2)比重遠心法で単核細胞層を回収する方法
  3 DNA抽出
   1)フェノール-クロロホルム法
   2)凝集分配法
  4 RNA抽出
   1)AGPC法
   2)スピンカラム法
  5 核酸の濃度測定
 IV サザンブロット法
  1 サザンブロット法の原理
  2 制限酵素処理
  3 アガロースゲル電気泳動
  4 ブロッティング
  5 プローブの作製
  6 ハイブリダイゼーション
  7 化学発光と検出
  8 発色反応による検出
  9 トラブルシューティング
  10 サザンブロット法の実習
 V PCR法
  1 PCR法の意義
  2 PCR法の原理
  3 プライマーの作製
  4 PCR法の手順
  5 ポリアクリルアミドゲル電気泳動
  6 トラブルシューティング
  7 PCR法の実習
 VI 定性RT-PCR法
  1 定性RT-PCR法の意義
  2 定性RT-PCR法の原理
  3 定性RT-PCR法の手順
  4 定性RT-PCR法の実習
 VII Real-time PCR法
  1 Real-time PCR法の意義
  2 Real-time PCR法の原理
  3 Real-time PCR法の手順
  4 Real-time PCR法の実習
 VIII その他の遺伝子検査法
  1 PCR以外の核酸増幅法
   1)LAMP法
   2)TMA法
  2 ノザンブロット法
  3 シークエンス解析
  4 マイクロサテライト解析
  5 DNAマイクロアレイ法
   1)網羅的な遺伝子の発現解析
   2)遺伝子多型解析
   3)CGHマイクロアレイ解析
  6 FISH法
第4章 染色体の基礎
 I ヒト染色体解析の進展
 II 染色体の構造と機能
  1 染色体の複製と分配
   1)体細胞分裂と細胞周期
   2)染色体の複製と細胞周期
   3)減数分裂:相同染色体の分離と組換え
  2 染色体の分類と解析法
   1)分染法以前の核型分析
   2)分染法による核型分析
   3)蛍光in situハイブリダイゼーション法
   4)染色体DNAの新しい解析法
  3 染色体の分子構造
   1)DNAから染色体への成り立ち
   2)分染バンドの性状
   3)セントロメアとテロメア
  4 性染色体とX染色体の不活性化
 III 染色体異常の種類と生成機構
  1 数的異常
   1)異数性
   2)倍数性
   3)片親性ダイソミー
  2 構造異常
  3 染色体構造異常の安定性
  4 放射線・環境変異原と染色体異常
 IV ヒトの遺伝子マッピングと染色体地図
  1 遺伝子のマッピング法
   1)細胞雑種法
   2)家系資料による連鎖解析
   3)染色体構造異常の利用
   4)蛍光in situハイブリダイゼーション法
   5)染色体特定領域からの遺伝子クローニング
  2 ヒト染色体地図の作成
   1)ヒトの遺伝子マッピングとゲノムプロジェクト
   2)遺伝子の数と不均一な分布
   3)ヒトゲノムの多様性
   4)物理的地図と遺伝地図
  3 核型進化
第5章 染色体異常と疾患
 I 染色体異常症候群
  1 常染色体異常
   1)常染色体トリソミー症候群
   2)部分モノソミーおよび部分トリソミー症候群
  2 性染色体異常
   1)性染色体の数的異常
   2)性染色体の構造異常
   3)脆弱X症候群
  3 隣接遺伝子症候群
  4 染色体不安定症候群
 II ヒト集団における染色体異常の発生頻度
  1 新生児集団
  2 胎生期
  3 着床前の受精卵
  4 配偶子(精子,卵子)
  5 ヒトのライフサイクルにおける染色体異常の動態
 III 腫瘍と染色体異常
  1 白血病,リンパ腫
  2 固形腫瘍
  3 発がんの多段階過程
第6章 染色体の検査法
 I 細胞の培養法
  1 細胞培養の準備
   1)培養液の作製と滅菌
   2)培養に用いる器具類と滅菌
   3)培養操作上の注意
  2 培養に用いる試薬,機器,器具類
  3 末梢血リンパ球の培養方法
   1)静脈血を採取しリンパ球を培養する方法
   2)ウシ血清を使わずに培養する方法
   3)全血からリンパ球を分離して培養する方法
  4 骨髄細胞の培養
   1)直接法
   2)培養法
  5 リンパ芽球細胞株の樹立
  6 羊水細胞の培養
  7 皮膚線維芽細胞の培養
  8 絨毛組織の培養
  9 固形腫瘍の細胞培養
  10 高精度分染法用の培養
   1)細胞同調法の利用
   2)染色体凝縮の抑制を利用した方法
 II 染色体標本の作製法
  1 浮遊培養系の場合
  2 単層培養系の場合
  3 スライド(カバー)ガラス上での直接作製法
 III 染色体分染法
  1 Q染色法
   1)QFQ法
   2)QMとヘキスト33258との二重染色法
  2 G染色法
   1)GTG法
   2)GAG法
  3 R染色法
   1)RHG法
   2)RBA法
   3)RBG法
   4)二重染色によるR染色法
  4 C染色法
   1)CBG法
   2)DA-DAPI染色法
  5 NOR染色法
   1)ナイロンメッシュを用いたAg-NOR染色法
   2)ゼラチンを用いたAg-NOR染色法
  6 姉妹染色分体の分染法
   1)蛍光(AO染色)観察法
   2)FPG(Giemsa染色)法
  7 高精度染色体分染法
 IV 核型分析(染色体分析実習)
  1 核型の作製(実習)
  2 核型異常の記載法
   1)数的異常のある場合
   2)構造異常のある場合
 V 蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法
  1 遺伝子マッピングのためのFISH法
   1)プローブDNAのビオチン標識・変性と染色体DNAの変性
   2)ハイブリダイゼーションと洗浄
   3)ビオチン化プローブに対する蛍光染色
   4)染色体のPI染色
   5)検鏡
   6)シグナルの増幅法
  2 染色体ペインティング法
  3 m-FISH法とSKY法
  4 染色体特異的領域のDNAプローブを用いたFISH法
   1)DNAプローブの種類と適用
 VI 新しい分子遺伝学的手法
  1 MLPA法
  2 アレイCGH(マイクロアレイ)
第7章 遺伝子・染色体検査における倫理
 I 倫理
  1 インフォームドコンセント
  2 遺伝倫理
  3 遺伝情報管理

 参考図書
 染色体検査にかかわる技能認定制度
  日本人類遺伝学会・臨床細胞遺伝学認定士制度」について
 索引