やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

『臨床検査学実習書シリーズ(全11巻)』の発行にあたって
 臨床検査技師教育は昭和46年(1971年)にその制度が制定されて以来,本年で37年目を迎えた.また衛生検査技師教育を含めると約半世紀がたとうとしている.その間に臨床検査学の教育内容も充実し,確立したものとなった.今から約8年前の平成12年(2000年)に臨床検査技師学校養成所指定規則の改正が行われ,カリキュラムが大綱化された.それは科学技術の発展に即応した先端技術教育の実践や,医療人として豊かな人間性と高い倫理性をもつ人材の育成,そして総合的なものの考え方や広い視野の下で,医療ばかりではなく,予防医学・健康科学・食品衛生・環境検査などにも対応できる教育の充実を目標として改正されたものだった.時代の変遷とともに求められる臨床検査技師というものが変化し,技術主体から問題解決能力をもつ臨床検査技師の育成が求められるようになった.しかし,いくら自動化や機械化が進んだとしても臨床検査技師の養成に技術教育をお座なりにしてよいものではない.卒前教育において十分な基礎技術を身につけ,現場においてどんな場面においても的確に対応できる人材が必要となる.
 有限責任中間法人日本臨床検査学教育協議会は平成18年(2006年)の法人化に伴い事業の一環として実習書の発行を企画した.その目的は,現在,標準となる臨床検査学の実習書がないこと,そして実習内容は各養成施設独自に定められており卒前教育として必要な技術が明確になっていないことなどがあげられる.それに加え,学内実習の標準化がなされれば臨地実習の内容統一にもつながってくることが期待される.このようなことからも実習書の作成は急務なものであった.医歯薬出版株式会社の協力の下,この『臨床検査学実習書シリーズ(全11巻)』が発行されることは,今後の臨床検査技師教育の発展に大きな足跡を残すことになると編者一同自負している.
 編者は日本臨床検査学教育協議会の理事を担当されている先生に,そして執筆者は現在,教育に携わっている先生方を中心にお願いした.いずれも各専門科目において活躍し,成果を上げられている方がたである.
 利用するであろう臨床検査技師養成施設の学生は,本書を十分に活用して,臨床検査技師として必要な技術を身につけていただき,将来社会で大いに活躍することを願うものである.
 2008年8月
 有限責任中間法人(現・一般社団法人)日本臨床検査学教育協議会・理事長
 三村邦裕

序文
 感染症は時代の流れとともに変貌している.わが国では,感染力(伝染力)の強い微生物による感染症(急性伝染病)は減少しているが,医療の進歩が基礎疾患・医原性要因による宿主条件の変化や抗菌薬耐性菌の出現・増加をもたらし,平素無害微生物による日和見感染・医療関連感染が社会的な問題にまで発展している.一方,海外に目を向けると,細菌性赤痢やコレラなどの急性伝染病に悩まされている国や地域も少なくない.このような現況下,医療の現場はもとより,保健衛生行政,国際医療協力などさまざまな分野が微生物検査の知識と技術を必要としている.今後は,わが国の臨床検査技師が開発途上国などで感染制御のスペシャリストとして活躍する機会も多くなるであろう.
 検査技術の進歩はめざましく,微生物検査においても自動同定装置,自動薬剤感受性測定装置,自動血液培養装置などの自動機器が日常的に使用されるようになってきた.また,抗酸菌の検査などでは分子生物学的手法を取り入れた遺伝子検出のように,先端技術を駆使した検査法の実用化が進んでいる.しかし,このような技術革新のなかにあっても,1876年にRobert KochがBacillus anthracisの純粋培養に成功してから今日まで,培地を用いた培養検査が微生物検査の基本であることに変わりはない.また,1884年にChristian Gramが開発したGram(グラム)染色は,手技・試薬の改良を経た現在,微生物検査に必須な染色法であり,救急医療の現場における急性感染症の迅速診断にも貢献している.このようなことから,卒前教育としての微生物検査実習においては,目に見えない病原体を対象とした“培養検査の意義を理解すること“および“基本的な培養操作を習得すること”が重要な課題となる.
 今般の「臨床検査学実習書シリーズ微生物検査学実習書」発刊の目的は,臨床検査技師教育施設の学生と教員を対象とした“標準的な実習書”の作成であるが,さまざまな培地を駆使する微生物検査では,検査室ごとに使用する培地や手技に相違のあること,つまり流儀が異なることが少なくない.このような相違は教育施設の学内実習においても同様に認められる.そこで本書では,教育現場での経験が豊富で臨床現場に対する理解が深く,感染制御にも高い見識をもちあわせていらっしゃる先生方の視点から,“標準的”な実習内容をご執筆いただくことにした.
 本書は,感染制御を視野に入れた微生物の取り扱いと基本操作,染色法,薬剤感受性検査法,主要な細菌と真菌の検査法,検査材料別検査法,薬剤耐性菌の伝播・拡散に関与するRプラスミドの簡便な分析法について記載されており,いずれも臨床検査技師の卒前教育に必要かつ重要な内容である.
 微生物検査の学内実習書として,また臨地実習時の参考書として,“流儀”を超えて活用していただければ幸である.
 2012年6月
 編者・執筆者を代表して 森田耕司
 『臨床検査学実習書シリーズ(全10巻)』の発行にあたって
 序文
 カラー口絵
I 微生物検査学実習の到達目標
 1 微生物検査学実習の到達目標
II 微生物の取り扱いに必要な心構えと基本操作
 1 微生物の取り扱いに必要な心構えと基本操作
III 染色法
 1 染色操作の概略
 2 Gram染色
 3 特殊染色
  A.抗酸性染色(抗酸菌染色)
  B.芽胞染色
  C.莢膜染色
  D.鞭毛染色
  E.異染小体染色(異染体染色,ナイセル小体染色)
  F.その他の染色法
IV 薬剤感受性検査法
 1 薬剤感受性検査法
  1 ディスク拡散法-1濃度法
  2 寒天平板希釈法
  3 微量液体希釈法
  4 β.ラクタマーゼの検査法
  5 薬剤耐性遺伝子の検査法
V 主要細菌の検査法
 1 スタフィロコッカス属
 2 ストレプトコッカス属とエンテロコッカス属
 3 ナイセリア属
 4 腸内細菌の主要菌種
 5 ビブリオ属
 6 ヘモフィルス属
 7 シュードモナス科およびその他のブドウ糖非発酵Gram陰性桿菌
 8 レジオネラ属
 9 カンピロバクター属とヘリコバクター属
 10 リステリア属とコリネバクテリウム属
 11 バシラス属
 12 マイコバクテリウム属
 13 嫌気性菌
 14 マイコプラズマ属
VI 病原真菌の検査法
 1 病原真菌の検査法
  1 真菌検査の概要
  2 病原性酵母
  3 糸状菌
VII 検査材料別検査法
 1 検査法の概略
 2 血液
 3 髄液
 4 尿
 5 糞便
 6 喀痰
 7 咽頭・鼻咽腔粘液
 8 膿・分泌物・体腔液,手術・剖検材料
 9 胃液・胆汁
VIII Rプラスミドの検出と接合伝達
 1 Rプラスミドの検出と接合伝達
  1 プラスミドの検出
  2 接合伝達試験(液体培養法)
IX 実習モデル
 1 学内実習モデル1(3年制)
 2 学内実習モデル2(4年制)
X 臨地実習に望むもの
 1 臨地実習に望むもの