やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 わが国における尿沈渣検査法は,1995年の『JCCLS GP1―P2』の刊行,その改訂版である2000年の『JCCLS GP1―P3』の刊行によって飛躍的に進歩を遂げることができた.また,尿沈渣検査に携わってきた多くの人々の研鑽によって,従来不明とされてきた沈渣成分や判定困難な細胞などが解明されるようになり,これからの尿沈渣鏡検者にはますます高度な知識と鑑別能力が必要になってきた.
 そこで,これまでのどの既刊書よりも尿沈渣成分の鑑別知識・能力が身につき,しかも見やすく,読みやすく,わかりやすく,の三つをコンセプトに企画されたのが本書である.文章は図表を多用し,総数462枚のカラー写真は,どの施設でも行える無染色法とS染色法を中心にこれらを対比させながら,簡潔にまとめるように心がけた.「各種尿沈渣成分の解説」の項は見開きで構成し,左頁には各々6枚一組の写真を並べ,右頁にはその特徴などを記載した.また,「実践!比較でみる尿沈渣鑑別法・」 の項では,よく似た2種類の成分を取り上げて両者の鑑別のポイントは何かなどを記載したが,鑑別能力を養ううえできっと役に立つ試みと思う.
 本書をコンパクトなサイズにしたのは,読者が白衣のポケットなどに入れて持ち歩きいつでも見て学んでもらえるようにしたかったからである.また,判は小型ではあっても,新しい知見や考え方を随所に加え,内容的には多彩かつ凝縮したものになったと自負している.
 尿沈渣検査の重要性は,改めていうまでもないが,腎・尿路系病変や全身状態の異常を知るうえで不可欠の検査である.本書に提示した各種尿沈渣成分の鑑別法や臨床的関連性,報告の仕方およびコメントの記載例などが医療の現場で少しでもお役に立つことを願う.また,尿沈渣鏡検に携わる臨床検査技師だけでなく,これから臨床検査技師を目指す学生,内科医,泌尿器科医をはじめとした臨床の先生方にも本書を役立てていただければ幸いである.
 最後に,本書の出版にあたって種々ご教示頂いた当院泌尿器科 福井 厳部長ならびに臨床各科の先生,病理部および細胞診断部の方々,そして推せんのお言葉を頂いた神奈川県立衛生短期大学 伊藤機一学長に心から御礼を申し上げる.また文末ながら,多大なご支援を頂いた医歯薬出版株式会社編集部 桃井輝夫氏に深謝する.
 2001年4月 著者一同
 推せん文
 序

I.ここがポイント尿沈渣
 尿沈渣をみるにあたって
  1.医師が尿沈渣検査を依頼する目的
  2.尿沈渣鏡検に携わる技師の心構え
  3.尿沈渣をみるうえで参考となる患者情報
  4.尿沈渣鏡検上達法
  5.尿定性検査異常と主な疾患
  6.尿検査異常から腎・尿細管疾患診断へのアプローチ
  7.尿沈渣異常と生化学・免疫血清検査による診断へのアプローチ
  8.顕微鏡の正しいセッティングの修得
   (1)コンデンサーの位置
   (2)コンデンサーレンズの開口絞りの調整法
   (3)フィルターによる色の調整法(色の混合)
 特殊な採尿法と尿沈渣所見
  1.カテーテル尿
  2.腎瘻尿
  3.尿管瘻
  4.回腸(または結腸)導管
 尿沈渣標本作製
  1.作製条件
  2.尿沈渣染色法
   (1)S染色(Sternheimer染色)
   (2)ズダン(Sudan)III染色
   (3)ベルリン青染色
   (4)ルゴール(Lugol)染色
   (5)P-B(Prescott-Brodie)染色
   (6)ハンセル(Hansel)染色
   (7)その他の脂肪染色法と鑑別法
  3.保存方法およびその標本作製法(癌研法)
   (1)保存液の試薬
   (2)保存液の作製法
   (3)保存方法
   (4)無染色標本作製法
   (5)S染色標本の作製法-1
   (6)S染色標本の作製法-2
   (7)標本作製例
 各種尿沈渣成分の鑑別
  1.赤血球
   (1)赤血球の鑑別ポイント
   (2)血尿をきたす疾患
   (3)赤血球の由来と臨床的意義
   (4)均一赤血球と変形赤血球の違い
   (5)変形赤血球の形態と出現機序
   (6)ネフロン内における浸透圧変化
  2.白血球類
   (1)白血球の鑑別ポイント
   (2)各種白血球の形態と臨床的意義
  3.円柱類
   (1)円柱の形成
   (2)円柱の形成過程
   (3)円柱の臨床的意義
   (4)幅広円柱の形成
   (5)円柱の判別基準
   (6)円柱の分類と報告の仕方
  4.上皮細胞類
   (1)泌尿・生殖器系の解剖と出現細胞
   (2)上皮細胞類の由来と考え方
   (3)上皮細胞類の鑑別ポイント
   (4)とくに重要な鑑別ポイント
   (5)各種上皮細胞類の形態学的特徴および臨床的背景
    (1)尿細管上皮細胞
    (2)卵円形脂肪体と脂肪顆粒細胞
    (3)移行上皮細胞
    (4)円柱上皮系細胞
    (5)扁平上皮細胞
    (6)大食細胞(マクロファージ)
    (7)封入体細胞
    (8)その他のDNAウイルス感染細胞
  5.異型細胞
   (1)異型細胞のスクリーニング
   (2)異型細胞の鑑別ポイント
   (3)正常細胞と悪性細胞との関連性
   (4)異型細胞の出現要因と異型度
   (5)各種悪性細胞の形態学的特徴および臨床的背景
    (1)移行上皮癌細胞
    (2)腺癌細胞
    (3)扁平上皮癌細胞
    (4)まれに出現する小型の悪性細胞
  6.結晶・塩類
   (1)結晶・塩類の形態
   (2)結晶・塩類の鑑別方法
  7.微生物・寄生虫類
  8.その他
 尿沈渣成分の正常とみなす基準
 報告の仕方およびコメントの記載例
  1.赤血球
  2.白血球
  3.円柱
  4.上皮細胞類
  5.異型細胞

II.各種尿沈渣成分の解説
 赤血球類
  1.均一赤血球(非糸球体性赤血球)
  2.変形赤血球(糸球体性赤血球)
 白血球類
  1.好中球
   (1)生細胞
   (2)死細胞
  2.リンパ球
  3.好酸球
  4.単球
 円柱類
  1.硝子円柱
  2.顆粒円柱
  3.ろう様円柱
  4.上皮円柱
  5.赤血球円柱
  6.白血球円柱
  7.大食細胞(マクロファージ)円柱
  8.脂肪円柱
  9.空胞変性円柱
  10.ヘモジデリン円柱
  11.Bence Jones(BJ)蛋白円柱
  12.結晶・塩類円柱
 上皮細胞類
  1.尿細管上皮細胞(基本型)
   (1)鋸歯型(変性・崩壊型)
   (2)棘突起・アメーバ偽足型
   (3)角柱・角錐台型
  2.尿細管上皮細胞(特殊型)
   (1)円形・類円形型
   (2)オタマジャクシ・ヘビ型
   (3)線維型
   (4)洋梨・紡錘型
   (5)空胞変性円柱・顆粒円柱型
   (6)脂肪顆粒型(卵円形脂肪体)
  3.移行上皮細胞
   (1)基本的細胞像
   (2)大型化・奇妙な形状・集塊状出現
  4.円柱上皮系細胞
   (1)前立腺上皮細胞
   (2)子宮内膜細胞
   (3)尿道円柱上皮細胞
   (4)回腸(結腸)上皮細胞
  5.扁平上皮細胞
   (1)基本的細胞像
   (2)奇妙な形状・大型化・錯角化
  6.大食細胞(マクロファージ)
  7.細胞質内封入体細胞
  8.核内封入体細胞
  9.ヒトポリオーマウイルス(HPoV)感染細胞
  10.ヒトパピローマウイルス(HPV)感染細胞
  11.移行上皮癌細胞
  12.腺癌細胞
  13.扁平上皮癌細胞
  14.その他の悪性腫瘍細胞
 結晶・塩類
  1.通常結晶
  2.異常結晶
 微生物
 原虫
 寄生虫・寄生虫卵
 その他

III.実践!比較でみる尿沈渣鑑別法
 ■どちらが糸球体性赤血球?
 ■どちらがリンパ球?
 ■どちらが単球?
 ■どちらが好酸球?
 ■どちらが白血球円柱?
 ■細胞系は?
 ■どちらが尿細管上皮細胞?
 ■どちらが大食細胞?
 ■どちらが扁平上皮細胞?
 ■どちらが移行上皮細胞?
 ■どちらが円柱上皮系細胞?
 ■どちらの脂肪化細胞が卵円形脂肪体?
 ■どちらが扁平上皮癌細胞?
 ■どちらが腺癌細胞?
 ■どちらが好中球?
 ■どちらが赤血球円柱?
 ■どちらの脂肪化細胞が大食細胞?
 ■(1)(2)は共に扁平上皮系細胞.ではどちらが悪性細胞?
 ■(1)(2)は共に移行上皮系細胞.ではどちらが悪性細胞?
 ■どちらが悪性細胞を疑う?
 ■どちらが悪性細胞?
 ■(1)(2)は共に腺系細胞.ではどちらが悪性細胞?

 [参考] 特殊型尿細管上皮細胞/剖検腎組織像
 文献