やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 心臓超音波検査(心エコー検査)が盛んに行われるようになって20数年経つだろうか,1978年のことである.当時はMモード心エコー図が主流であり,リアルタイム断層心エコーが世の中に出始めた頃であった.新天地である国立循環器病センターに赴任して,断層心エコー検査を行った時のことを今でも鮮烈な記憶としてよみがえる.リアルタイム電子セクタスキャン,バリアン社製V-3000,本邦に1台しかない超音波装置を使用して最初に検査したのが左房粘液腫症例であった.左房-左室間を往来する腫瘍像をみてこれはとてつもない検査法だなと感激したのを覚えている.それからこの超音波検査法が心臓の分野のみならずあらゆる領域で急速に発展してきたのは周知のことである.
 筆者などは恵まれた施設で著名な先生方の指導を受けて学んできたせいか,心エコーの教科書をあまり必要と感じたことがなかった.それは,日常行っている心エコー検査から得られる事柄が教科書そのものであったためと思われる.しかしながら,その当時から本学会で実施している講習会等を通じてあらゆる施設の熱心な同胞から,心エコーの技術的なノウハウを中心としたテキストの必要性を求められていた.しかし,いつも一時しのぎの簡単なテキストでお茶を濁してきたのが事実であった.最近では,著名な先生方が執筆された参考書は数多く見受けられるようになってきたが,それらの大多数が心エコー診断学を中心とした教科書であり,我々技師が日常検査を行っていく上での技術を中心としたテキストは見あたらない.そこで本学会遠田栄一会長の指導により,本会の先人たちが試行錯誤のうえに得た手法や,講習会等で披露してきたテクニックをまとめることができないかとの進言があり本書が企画されるに至った.
 本書では,これから心エコーを学んで行かれる方々,あるいはすでに実際に検査を実施しておられる読者の人たちに少しでも役立ってもらえるように,撮り方,考え方を中心とした事柄をできるだけ平易にわかりやすく執筆していただくよう各執筆者に依頼した.新進気鋭の先生方からこの道のオーソリティの先生方まで幅広く選択し,日頃から意見交換しあっている心エコー検査技術の極意を記述していただいたつもりである.
 本書が,心臓超音波検査の技術テキストとして読者の皆様方に少しでもお役に立てば幸いである.また,心エコー検査が今後さらに発展・普及していくことを執筆者一同,心から願うものである.
 2001年4月 書籍編集委員長 増田喜一
 発刊にあたって 遠山栄一
 序文 増田喜一
 執筆者一覧

1.検査の進め方

  I.検査時の注意点
   1.各種手法の特徴把握
   2.装置の調整
    1)ゲインの調整
    2)STC(TGC)の調整
    3)ティシュ・ハーモニック・イメージング法の活用
   3.アーチファクトの認識
   4.被検者の体位
  II.検査の進め方
   1. スクリーニング検査
   2. 経過観察検査
   3. 精密検査
   4. 緊急検査
  III.検査の実際
   1.検査手順
   2.断層面の記録法
    1)胸骨左縁アプローチ
    2)心尖部アプローチ
   3.Mモード法の記録法
    1)大動脈-左房の記録
    2)僧帽弁の記録
    3)左室の記録
   4.ドプラ法の記録法
    1)左室流入血流の記録法
    2)左室駆出血流の記録法
    3)肺静脈血流の記録法
  IV.報告書の作り方
   1.報告書の記載内容
    1)患者属性
    2)計測値
    3)シェーマの併用
    4)所見の記載
    5)検査時イベントの記載
    6)サインの記入
   2.報告書作成時の注意点
    1)計測法および評価基準の統一化
    2)曖昧な計測は行わない
    3)所見の記載
    4)所見のとらえ方

2.計測

 A.Mモード・断層法による計測
  I.Mモード法による計測のための基礎的事項
   1.径(距離)計測
   2.画面の調節
   3.時相分析
  II.Mモード法による計測
   1.内径,壁厚,心時相の計測方法
   2.心機能の計測方法
    1)左室内径短縮率
    2)左室容積,駆出率等
    3)平均左室内周短縮速度
    4)左室収縮時間
  III.断層法による計測
   1.心房・心室の計測方法
   2.左室容積,駆出率の計測
   3.弁計測
   4.血管径の計測
    1)大動脈径の計測
    2)肺動脈径の計測
    3)下大静脈径の計測
    4)血管径計測の留意点
  IV.記録困難例の対処法
   1.使用周波数,体位の工夫
   2.超音波ビームの投入部位(エコーウインドウ)を変える
   3.任意方向Mモード法
   4.ティシュ・ハーモニク・イメージング
   5.Mモード計測の正常値
 B.ドプラ法による計測
  I.計測のための基礎的事項
   1.ドプラ入射角度;パルスドプラ法,連続波ドプラ法
   2.サンプルボリュームのサイズ:パルスドプラ法
   3.フィルタの設定:カラードプラ法,パルスドプラ法,連続波ドプラ法
   4.ゲインの設定:カラードプラ法,パルスドプラ法,連続波ドプラ法
   5.くり返し周波数の設定,流速レンジ:カラードプラ法,パルスドプラ法,連続波ドプラ法
  II.計測の実際
   1.パルスドプラ:連続波ドプラ波形の計測
    1)血流速度
    2)時間(時相分析)
    3)流速積分値(時間・速度積分値)
   2.圧較差,心腔内圧の測定
    1)簡易ベルヌーイ式
    2)適用
   3.血流量(心拍出量)の測定
    1)流量の計測
    2)心拍出量計測の実際
   4.弁口面積の測定
   5.逆流量・逆流率の測定
   6.短絡量,肺体血流量比
   7.左室流入血流(僧帽弁血流),肺静脈血流の測定
    1)測定の実際
    2)血流波形の計測

3.心機能評価

 A.心機能の基礎的事項
  I.収縮能
   1.心筋の収縮
   2.圧-容積関係
   3.収縮末期圧-容積関係
   4.Preload-recruitable stroke work relation
   5.後負荷-短縮速度関係
   6.Peak dP/dt-左室拡張末期容積関係
   7.左室駆出率
   8.収縮能に影響する四大因子
   9.左室収縮能を評価する意義
  II.拡張能
   1.左室拡張期圧-容積関係
   2.Peak-dP/dt,等容弛緩時間
   3.左室充満を構成する三時相
   4.左室充満動態を規定する因子
   5.急速流入期の左室充満動態
   6.緩徐流入期の左室充満動態
   7.心房収縮期の左室充満動態
   8.左室拡張能を評価する意義
 B.心エコードプラ法からみた心機能評価
  I.収縮能の評価
   1.Mモード法による評価
    1)左室内径短縮率
    2)左室容積,心拍出量,駆出率
    3)平均左室内周短縮速度
    4)Mモード法で計測した内径を用いる心機能評価の問題点と限界
    5)左室収縮時間
    6)左室後壁運動による評価
   2.断層法による評価
    1)左室内径短縮率
    2)左室内腔面積変化率
    3)左室容積,心拍出量,駆出率
    4)左室壁運動評価
   3.ドプラ法による評価
    1)一回拍出量,心拍出量
    2)peak dP/dt
  II.拡張能の評価
    1)左室後壁運動による評価
    2)僧帽弁Mモードによる左室拡張能の評価
    3)左室流入血流速波形による左室拡張能の評価
    4)左室流入血流速波形と肺静脈血流速波形の関係
    5)左室拡張末期圧の推定
    6)左室流入カラーMモードによる左室拡張能の評価
    7)AQ法による心機能評価
    8)組織ドプラ法による心機能評価
    9)Tei indexによる心機能評価
    10)左室心筋重量

4.壁運動評価

  I.虚血性心疾患の病態
  II.壁運動異常の検出
   1.壁運動評価のためのアプローチ
    1)傍胸骨長軸断面
    2)傍胸骨短軸断面
    3)心尖部二腔断面および心尖部長軸断面
    4)心尖部四腔断層面
   2.左室壁の区分と責任冠動脈
   3.何を見て壁運動を評価するか
    1)心内膜面の動き
    2)壁厚の変化
    3)壁エコー性状
   4.壁運動異常の重症度
   5.虚血がなくても壁運動異常をきたす病態
    1)刺激伝導系の異常(完全左脚ブロック,WPW症候群など)
    2)右心負荷
    3)開心術後
    4)心膜腔液大量貯留
    5)外部からの圧排
  III.心筋梗塞の合併症
   1.心室瘤
   2.仮性心室瘤
   3.心破裂
   4. 心室中隔穿孔
   5. 乳頭筋不全症候群
   6. 壁在血栓
  IV.負荷心エコー
   1.運動負荷心エコー
    1)トレッドミル負荷心エコー
    2)エルゴメーター負荷心エコー
   2.薬剤負荷心エコー
    1)ドブタミン負荷心エコー
    2)その他の薬剤負荷心エコー
   3.負荷心エコーの問題点
    1)負荷心エコーの安全性
    2)負荷心エコーの再現性
  V.冠動脈の描出
   1.冠動脈の描出
    1)左冠動脈の描出
    2)右冠動脈の描出
   2.冠動脈血流の描出
    1)冠動脈血流描出のコツ
    2)左冠動脈主幹部(seg.5)血流の検出
    3)前下行枝(seg.6)血流の検出
    4)中隔枝血流の検出
    5)前下行枝末梢(seg.8,9)血流の検出
   3.内胸動脈の評価
    1)術前のグラフト適性評価
    2)術後のグラフト開存性評価 

5.弁膜疾患診断のポイント

 A.逆流
   1.僧帽弁逆流
    1)原因検索
    2)重症度評価
    3)心機能評価
   2.大動脈弁逆流
    1)原因検索
    2)重症度評価
    3)心機能評価
   3.三尖弁逆流
    1)原因検索
    2)重症度評価
    3)右室収縮期圧の推定
   4.人工弁逆流
    1)原因検索
    2)重症度評価
 B.狭窄
   1.僧帽弁狭窄
    1)病因
    2)弁狭窄の直接的所見
    3)僧帽弁狭窄の重症度評価
    4)右室圧(肺動脈圧)の推定
    5)僧帽弁狭窄における間接的所見
   2.大動脈弁狭窄
    1)病因
    2)弁狭窄の直接的所見
    3)弁狭窄の重症度評価
    4)大動脈弁狭窄症の間接的所見

6.心筋・心膜疾患診断のポイント

 A.肥大心
   1.肥大をきたす疾患とその特徴
    1)圧負荷疾患
    2)肥大型心筋症
    3)続発性心筋症(圧負荷疾患以外)
   2.心エコー・ドプラ検査
    1)Mモード心エコー図
    2)断層心エコー図
   3.ドプラ法
    1)左室内腔の狭窄部位検出と圧較差評価
    2)僧帽弁逆流の観察
    3)左室拡張機能の評価
 B.拡大心
   1.左室拡大
    1)左室拡大例における心エコー検査の進め方
    2)拡張型心筋症
    3)特定心筋疾患
    4)合併症の診断
    5)心機能評価
   2.右室拡大
    1)右室拡大例における心エコー検査の進゚方
    2)肺高血圧
    3)不整脈源性右室異形成(不整脈源性右室心筋症)
 C.心膜疾患
   1.心膜液貯留
    1)心タンポナーデサインの有無
    2)心膜腔のエコー性状
   2.収縮性心膜炎
    1)本症の血行動態と心エコードプラ所見
    2)呼吸による特徴的所見
    3)類似の所見を示す疾患との鑑別
   3.心膜欠損

7.先天性心疾患診断のポイント

   1.小児に対する検査の進め方
    1)知っておきたい胎児期の血行動態
    2)先天性心疾患診断のための記録断面とチェックポイント
    3)区分診断法
   2.小児におけるMモード計測
   3.先天性心疾患におけるドプラ検査の役割
    1)異常短絡血流の検出
    2)肺体血流比と短絡量の推定
    3)肺動脈圧の推定
    4)狭窄病変の圧較差の推定と弁逆流の評価
   4.超音波所見と先天性心疾患
   5.代表的な先天性心疾患のチェックポイント
    1)心房中隔欠損
    2)心室中隔欠損
    3)動脈管開存症
    4)心内膜床欠損症
    5)ファロー四徴
    6)完全大血管転位
    7)修正大血管転位
    8)総肺静脈還流異常
    9)Ebstein奇形

8.危急の心疾患に対するアプローチ法

   1.病変が未詳の場合の検査手順
    1)左室1回拍出量は十分か
    2)ただちに処置をしなければならない病変はないか
    3)循環器疾患以外の可能性はないか
   2.病変が予測される場合の検査の進め方
    1)心筋梗塞例
    2)弁膜疾患例
    3)感染性心内膜炎例
    4)人工弁置換例
   3.手術中の緊急検査 

9.心腔内異常エコーの見分け方

   1.心腔内に出現する異常エコー
    1)心内構造物のminor anomaly
    2)心内挿入物
    3)異常構造物
   2.アーチファクトの種類と鑑別法
    1)サイドローブ
    2)多重反射
    3)反射(めがね像)
    4)音響陰影
    5)ドロップアウト
    6)ドプラ法でみられるアーチファクト

10.経食道心エコー法の進め方(技師の役割を中心に)

   1.技師の役割
   2.探触子の構造と操作
   3.検査の進め方
    1)事前チェック
    2)前処置
    3)局所麻酔
    4)探触子の挿入
   4.検査の実施
   5.検査後の処置
   6.どんな疾患に有用であるか
   7.何がわかるか
    1)左心耳内血栓
    2)弁膜症
    3)肺静脈血流評価
    4)心房中隔欠損症
    5)左房内粘液腫
    6)僧帽弁位人工弁機能評価
    7)胸部大血管の評価
    8)その他

 索引