やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 20世紀後半から,わが国にも急速に国際化の大きな波が押し寄せてきた.
 国際化という言葉そのものがもはや陳腐化しているほど,日本に住む他国籍人はとても多くなった.実際,街角や電車内で,他国籍の人に遭遇することは決してめずらしくはない.都会ばかりの現象ではなく,地方にいても聞き慣れない言葉をつい耳にする.
 こうした社会情勢の変化を反映して,病院を訪れる他国籍人はめっきり多くなっている.かつて,他国籍の人は,言語の問題から,病気にかかると特定の病院だけに集中していた.それが今や,どの病院にもさまざまな国籍をもつ患者さんが来院してくるようになった.
 こうなると,臨床検査技師も,少なくとも英語を話したり理解できなければならなくなる.心電図検査や呼吸機能検査を行うにしても,英語で的確に指示できなければ,正確な検査を行うことはできない.採血するにしても,患者さんの不安をのぞいてテキパキと採血するには,患者さんとうまくコミュニケーションをとらなければならない.そのためには,患者さんと気楽に英語で話せる余裕が必要であろう.ジョークの一つでも出れば,患者さんの検査に対する不安感は遠のくはずだ.
 また,私たち日本人が,海外へ出ることも多くなった.観光ばかりでなく,臨床検査技師として海外の病院で活躍している人も多い.いきおい,英語のテキストや論文が読解できなければならなくなる.新しい知識や技術を導入するには,日本だけでなく,積極的に海外の論文を読んだり,国際学会に参加することも必要といえる.
 ところで,わが国では,大多数の人が中学・高校で少なくとも6年間は英語教育を受けている.しかし,とかくこれまでの英語教育は実用的でなく,役に立たないとの批判が多い.実際,6年以上の英語教育を受けた人なら読めるであろう簡単な英語の文章を全く理解できなかったり,また病院に来た他国籍の人に一言も話かけることができないといった状況をしばしば目の当たりにする.
 国際化社会でも通用する臨床検査技師の育成を目指して,本書を編集することになった.その方針は,あくまでも実用的であり,役立つ書物にすることとした.前半は,採血や臨床生理検査などの場面で,患者と接する際にごく自然に英会話ができるように,実際の場面を想定した会話を掲載した.後半は主として,英語で書かれたテキストがスラスラ読める実力を養うことに主眼をおいた.さらに,検査に訪れる患者の愁訴や病名も理解できるように,医療を行う際に必要な英語をアラカルトとして掲載した.いずれも臨床検査の現場で役立つものばかりである.
 英語に限らず,語学の学習で最も大切なことは,慣れることである.英語の文章をどしどし読み,下手でもよいからともかく口に出して話してみる.あるいは他国籍の人の話に耳を傾ける.そうしたトレーニングの一助になるよう,本書を大いに活用していただきたいと思う.臨床検査技師を養成する大学,短期大学,専門学校などの教科書として,また現場で活躍される臨床検査技師の参考書として,ぜひとも活用していただきたい.
 なお,正確な英語であることを期すために,本書は明治大学教授のマーク・ピーターセン先生のご校閲をあおいだほか,マサチューセッツ大学内分泌代謝科のロバート・柳澤貴裕先生,それに知人のリナ・アンダーソン・冨澤夫人には多大のご教示や協力をいただいた.また,海上ビル診療所の臨床検査技師,前田純子氏には現場でよく使う表現の収集に尽力いただいた.この場をお借りして各位に深く感謝申し上げる次第である.にもかかわらず,本書の内容になんらかの欠陥があるとしたら,それはひとえに著者の責に帰すべきものである.また本書の編集には,医歯薬出版(株)編集部のご協力をあおいだ.臨床検査技師に真に役立つ英語のテキストを目指して,資料を整えていただいたり,現場の声を聴取していただいた.ここに重ねてお礼申し上げる.
 2000年1月 奈良信雄 西元慶治
実用会話編

第1章 やさしい英語,役立つ英語
 1.誤解なく,気分よく,要領よく
 2.機能的な会話
   命令文:魔法のことば Please/Let'sを使った命令文/疑問文を使った命令文
 3.英会話:奥の手
 4.初対面でのあいさつ
 5.検査室
   患者さんの呼び入れ/あいさつ・よいマナー

第2章 血液検査
 1.採血します
 2.問診のいろいろ
 3.採血の準備,そして採血

第3章 尿検査
 1.尿検査をします
 2.生理中ですか?
 3.採尿の指示

第4章 便検査

第5章 心電図検査
 1.心電図検査を始める前に
 2.電極の装着と記録
 3.負荷心電図その1
 4.負荷心電図その2
 5.ホルター心電図

第6章 超音波検査
 1.超音波検査を始める前
 2.体位の指示
 3.特定の超音波
 4.呼吸の指示,その他
 5.超音波検査を終わって

第7章 呼吸機能検査

第8章 脳波検査

第9章 聴力検査

第10章 眼の検査
 1.眼圧測定検査
 2.眼底写真

文献の読み方編

第1章 検査編
 1.検査総論
   Preparation for diagnostic tests/Reference range/Interfering factors
 2.検査項目
   Albumin/Aspartate aminotransferase/Reticulocytes/Prothrombin time/Helicobacter pylori antibody/α-Fetoprotein
 3.検査法
   Urinalysis/Gram's stain/Wright's stain/ Serum protein electrophoresis/心電図検査
 4.検査と疾患
   Acute myeloid leukemia/Hyperthyroidism/Hepatitis A

第2章 実務編
 1.検査関係用語
   臨床検査に関する用語/装置,機器類/試薬,検査器具など/文具類
 2.外国製品の説明書
 3.学会発表
   参加申し込み/抄録の書き方/ポスター発表/口頭発表
 4.医学論文
   英語アラカルト
 1.からだの表現
   体表/内部臓器
 2.症状の表現
   全身的な症状/眼,耳,鼻,のど,口,歯の症状/消化器症状/循環器症状/呼吸器症状/皮膚症状/神経症状/排泄行為/婦人科系/症状の表現の例文
 3.疾患名
   循環器疾患/呼吸器疾患/消化器疾患/腎疾患/血液疾患/内分泌疾患/代謝疾患/アレルギー性疾患/膠原病/神経疾患/感染症
 4.診療科の名称と専門医の呼称
 5.診療部門名
 6.医療スタッフ
 7.略語一覧表