やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

訳者の序文
 このたび, フランスで出版され好評を得ている“Manuel des voies d'abord en chirurgie orthopediqueet traumatologique,2e edition“の日本語版(『整形外科手術進入路マニュアル』)が上梓された.主著者のフレデリック・デュブラナ教授は,福岡にゆかりの深い先生で,1992 年に日仏整形外科学会(SOFJO:Societe Franco-Japonaise d'Orthopedie)の交換留学生として九州大学および福岡整形外科病院で研修されており,2014 年9 月福岡市で訳者が担当した第16 回日仏整形外科学会の招待講演に来福していただいた.現在は,フランス北西部に位置するブレストの大学において,教授として膝関節外科の臨床を中心に活躍されている.整形外科臨床だけでなく哲学にも造詣が深い先生で,哲学に関する著書もある.2001 年から6 年間,毎週末にブレストからパリのソルボンヌ大学までバカンスも返上して通いつめ哲学の学位を取得されている.フランス整形外科学会(SOFCOT:Societe Francaise de Chirurgie Orthopedique etTraumatologique)で,2007 年以降毎年,開催期間中の火曜日午前中に行われている“Cercle Nicolas Andry”という医学史や哲学・医学倫理に関するセッションの座長を務めておられ,訳者はカパンジー先生とともに参加している.
 本書では,大学関連の専門家11 名が各分野を執筆しているが,それぞれの手術進入路について,「手技」,「変法」,「リスク」,「適応」そして「コツと要領」という一貫した構成で簡潔に記載されており,とりわけ「コツと要領」が参考になる.日ごろ,われわれが無意識に行っているが,従来の手術書には書かれていないような有用な情報も明記されている.たとえば,手掌と指のレベルでは血管・神経の位置関係が逆転していること,大腿筋膜を切開するとき,クーパー鋏を少し開きぎみにしてまっすぐ進めると,すばやく正確に切開できること,股関節の後方侵入で梨状筋を温存すれば脚長調整の指標になり,術後の脱臼予防にも有利であること,人工膝関節置換術の皮切と閉創は屈曲位で行うと,術中の伏在神経下行枝の損傷を回避でき,術後の適正な伸展機構バランスと屈曲可動域獲得に有利であること,胸椎と腰椎のレベルは椎間関節の傾きの違いで判断できること,仙骨は叩打すると第5 腰椎よりも高音が出ることなどが記載されている.
 また本書の特筆すべき点は,イラストが芸術的といってよいほど美しくすばらしいことである.フランスにはパリ周辺に医学専門のイラストレーターが10 人程度いて,強調すべき点を注文どおりに描いてくれる環境がある.本書を担当したシリル・マルティネ氏も,第2 版で割愛された脊椎進入路を日本語版に復活させるための追加のイラスト作成(図14.2〜8)を快く引き受けてくれた.
 フランスと日本では,手術手技や器具について若干異なるものがあり,2015 年5 月にフランス・サンマロで開催された第13 回日仏整形外科合同会議(AFJO:AssociationFrance-Japon d'Orthopedie)の際に疑問点について直接尋ね,その後はメールで質問を繰り返しながら翻訳した.しかしながら,わかりにくい箇所や不適切な誤訳もまだ多いことと思うので,お気づきの点があればぜひご指摘いただきたい.今回も日本語版出版に際して多大なご尽力をいただいた医歯薬出版株式会社編集部に深甚の謝意を表する.
 本書は著者も「整形外科手術のGPS」と表現しているように,ポイントが一見してわかるように工夫されているので,修練中の整形外科医はもとより,熟練した専門医も手術場など手元において,ルーチンには行っていない進入路を用いる際などに確認されることをお勧めする.さらに,整形外科手術に関わる手術場の看護師など専門職各位にも参考にしていただければ幸いである.本書が,多くの日本の整形外科関係者の皆様に愛用されることを心から祈念している.
 2015 年10 月
 福岡大学リハビリテーション部 塩田悦仁

原著第2 版への序文
 『整形外科手術進入路マニュアル』の原著第2 版は,初版の独創性,つまり最も普及している進入路,リスク,コツと要領を前面におくことなどを踏襲した.
 その目的は,一目で整形外科手術進入路が理解できる,いわば整形外科のGPSのようなものである.本書は,研修中の整形外科医はもとより上級医も対象としている.本書は,習得しているが部分的に忘れていた知識を思い起こさせ,また,整形外科と人体の学習,解剖学講義,修練そして実際の手術など特別な組み合わせである整形外科の教育を完成させる.しかし,より全般的に本書は,手術場の看護師や整形外科や外傷にかかわる専門職の人々に興味をもたらすことであろう.
 デジタル図書のおかげで知識が幅をきかせる世界において,本書の,簡潔にして総合的そしてイラスト入りの内容は,この新しい学問の形態に完全に適合する.われわれは,紙媒体の本の力と美しさを信じてくれたElsevier-Masson出版社に感謝する.しかし,フォーマットが紙であれデジタルであれ,人体の学習は,イラストを通して行われる.私はとりわけ,平易なテキストを,視覚の楽しみになるくらいのイラストに変えてくれたシリル・マルティネ(Cyrille Martinet)氏に感謝する.多くの手術進入路は,デッサンだけで十分なのである.
 フレデリック・デュブラナ(Frederic Dubrana)
 訳者の序文
 共著者一覧
 原著第2 版への序文
第1部 上 肢
  第1章 肩
   三角筋胸筋進入路
   前外側経三角筋進入路
   三角筋下後方進入路
  第2章 上 腕
   前外側進入路
   前内側進入路
   後方進入路
  第3章 肘
   外側進入路
   内側進入路
   前内側進入路
   後方進入路
   後外側進入路
  第4章 前 腕
   前外側進入路
   外側進入路
   尺骨の後方進入路
   橈骨の後方進入路
  第5章 手関節
   正中前方進入路
   前外側進入路
   大菱形骨への前外側進入路
   前内側進入路
   後方進入路
   後外側進入路
   後内側進入路
  第6章 手と指
   指の側方進入路
   手と指の前方進入路
   背側進入路
第2部 下 肢
  第7章 股関節
   前方進入路
   前外側進入路
   外側進入路
   後側方進入路
   後方進入路
  第8章 大 腿
   側方進入路
  第9章 膝
   前内側進入路
   前外側進入路
   後外側進入路
   後内側進入路
   後方進入路
  第10章 下 腿
   前外側進入路
   前内側進入路
   外側進入路
  第11章 足関節
   前方進入路
   前外側進入路
   外側進入路
   内側進入路
   後外側進入路
   後内側進入路
   後方進入路
  第12章 足
   距骨下外側進入路
   足底進入路
   母趾の内側進入路
   第1趾間ひだの背側進入路
第3部 骨盤と脊椎
  第13章 骨 盤
   腸骨稜への後方進入路
  第14章 頚 椎
   頚椎の前方進入路
   頚椎の後方進入路
   胸椎と腰椎の後方進入路
第4部 関節鏡
  第15章 上 肢
   肩の関節鏡
   後方進入路
   前方進入路
   肩峰下進入路
   肘の関節鏡
   前方進入路
   後方進入路
   手関節の関節鏡
   橈骨手根関節への進入路
   手根中央関節への進入路
  第16章 下 肢
   股関節の関節鏡
   前外側進入路
   外側進入路
   膝の関節鏡
   前方上外側進入路
   前外側進入路
   前内側進入路
   Gillquistの経腱進入路
   上内側進入路
   後内側進入路
   足関節の関節鏡
   前外側進入路
   前内側進入路

 索引