やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 現在,日本の透析患者数は約33万人,慢性腎臓病(CKD)患者数は約1,330万人と推定されています.腎臓リハビリテーションは「腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として,運動療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サポートなどを行う,長期にわたる包括的なプログラム」です.まさに,CKD患者のトータルケアを目的としています.
 昨今,内部障害のリハビリテーション医療が大きく普及拡大し,書籍も多数出版されている一方で,腎臓リハビリテーションについてのビギナー向けの入門書はこれまでありませんでした.そこで本書は,理学療法士,看護師,臨床工学技士,リハビリテーション科医,腎臟内科医,透析科医など医療職の中で,これから腎臓リハビリテーションをはじめるビギナーを読者対象としてつくられました.すなわち,I章では,腎臓機能障害の概要,腎臓リハビリテーションの定義・エビデンス,診療報酬について解説しました.II章からIV章では,腎臓リハビリテーションの構成要素である運動療法・食事療法・薬物療法の実際について,症例を提示しながらわかりやすく解説しました.V章では,構成要素である日常生活指導や心理的問題への対応,看護ケアの実際について解説しています.
 本書は,「JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION」誌に2017〜2018年に連載され好評を博した「リハ医・リハスタッフのための腎臓リハビリテーションの実際」を中核に最新情報を盛り込んで1冊の書籍としてまとめたものです.書籍化にあたっては,文章の平易化,イラストや要旨の追加など,全面的に「読みやすさ」を追求した構成にしています.
 腎臓リハビリテーションは,透析患者に対して,最大酸素摂取量の増加,タンパク・エネルギー代謝障害の改善,日常生活活動の改善などをもたらします.また,CKD患者の心大血管疾患発生予防,生命予後改善,透析導入予防の役割も期待されています.2016年度の診療報酬改定では,進行した糖尿病性腎症に対する運動指導の評価として「腎不全期患者指導加算」が新設され,腎臓リハビリテーションに対する世界で初めての診療報酬となりました.さらに,2018年度の診療報酬改定では,「高度腎機能障害患者指導加算」としてeGFR45ml/min/1.73m2未満まで対象が拡大されました.
 CKD治療は「運動制限から運動療法へ」とコペルニクス的転換を果たしました.本書が読者の腎臓リハビリテーションへの積極的な参加のための一助となり,腎臓リハビリテーションの普及・発展につながることを願っております.
 2018年10月
 上月正博
 はじめに(上月正博)
I イントロダクション
 1 慢性腎臓病(CKD)患者の実態と問題点(上月正博)
 2 腎臓リハビリテーションの定義とエビデンス(上月正博)
 3 2018年の診療報酬改定での「高度腎機能障害患者指導加算」の概要(上月正博)
 4 疾患と検査(上月正博)
II 運動療法の実際
 1 保存期CKD患者への運動療法(伊藤 修)
 2 透析患者の運動療法(松永篤彦)
 3 腎移植患者の運動療法(上月正博)
 4 運動後急性腎不全(伊藤 修)
 5 心不全患者の運動療法(倉富暁子)
 6 末梢動脈疾患患者の運動療法(日寿美,小林修三)
III 食事療法の実際
 1 保存期CKD患者の食事療法(市川和子)
 2 透析患者の食事療法(瀬戸由美)
IV 薬物療法の実際
 1 保存期CKD患者の薬物療法(木村 健)
 2 透析患者・移植患者の薬物療法(木村 健)
V 生活指導と心理的問題への対応・看護ケアの実際
 1 教育・日常生活指導(原田孝司)
 2 精神・心理的問題とその対応(中元秀友)
 3 看護ケアの実際(水内恵子)

 索引