やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の発行によせて
 2016年6月に日本義肢装具学会監修による『義肢学 第3版』を改訂させていただいた.その際に,『義肢学 第3版』の対象者を義肢装具士のみでなく,切断・義肢に関わる医師,理学療法士,作業療法士,看護師,リハビリテーションエンジニアなど多職種が対象となるように編集した.よりよい充実を図るために,田澤英二先生と相談し,当時,国際義肢装具協会日本事務局長として国際的に活動されていた内田充彦先生に編集者として加わっていただき,義足の運動学,筋電義手の制御システムなどを加え,日本義肢装具学会監修のテキストとしてよりふさわしい内容として改訂することができた.
 その作業のなかで,『義肢学』のなかで義肢装具士の教育に特化すべき分野をこの『義肢製作マニュアル』に移し,『義肢学』の姉妹版として,義肢装具士の教育や実践に必要な内容を充実することを強く意識して,田澤英二先生のリーダーシップのもとで完成したのがこの『義肢製作マニュアル 第2版』である.この構想には,生前の内田充彦先生の「義肢装具の教育に絶対に必要な教科書をつくりたい」との思いが込められている.このために,新しく項目が設けられ,これにふさわしい執筆者として神戸医療福祉専門学校三田校時代の義肢装具士教育の同志であった足立英樹先生と村原伸先生にも参加いただいた.
 足立英樹先生は,義肢装具に必要な工学知識ということで,製図,機械学,システム工学,電気工学,材料学に関する基本的内容をまとめられている.村原伸先生は工具・機械の名称・用途,石膏・金属・樹脂・木材の取扱いなど,工作に関する基礎知識を整理された.そして,もう一人の新執筆者である谷口公友先生は,義肢装具士が知っておくべき,義肢装具の交付にあたって必要な関係法規を簡潔に分かりやすく解説されている.
 そして特筆すべきは,本書の中心的な内容でもある,田澤英二先生による義足・義手製作マニュアルの内容の素晴らしさである.田澤先生のこれまでの豊富な臨床経験を背景に,義肢装具士の基本的な手技から各種の採型,義肢の製作法まで,最新の知見も取り入れながら,多くの写真も用いて極めて具体的に述べられている.
 このような経緯のなかで,この『義肢製作マニュアル 第2版』は,これまでわが国に欠けていた義肢装具士の製作技術の教育にとって待望の教科書となったと思う.今後,義肢装具士および学生の方々には,『義肢学 第3版』の姉妹本として本書をご活用いただくよう推薦したい.
 最後に,上記の執筆者をはじめ,この『義肢製作マニュアル 第2版』の編集・製作に携わっていただいたすべての皆様に心から御礼申し上げたい.
 2016年12月
 澤村誠志


第2版の序
 2010年に発行した『義肢製作マニュアル』の初版は,澤村誠志先生監修のテキスト『義肢学』が義肢装具士以外にも多くの職種の方たちに活用していただく本となってきた状況を鑑みて,『義肢学』のなかでテクニカル面を詳しく扱いすぎている部分(しかし義肢装具士には絶対に必要と思われる内容)を『義肢学』から分けて,その内容をより詳細に解説した本が必要であろうという判断に基づいてできあがった.
 その『義肢製作マニュアル』初版本も発行から数年が経過し,教育現場で活用いただいている義肢装具士養成施設の教員の方たちから多くのご意見,それからすでに臨床に携わりながら本書を活用していただいている方たちからもたくさんの声をいただいた.それらのコメントを参考にして,よりテキストとして有効に活用していただけるように全体の構成を見直し,このたびの改訂第2版の発行に至った.筆者にご意見をお寄せいただいた方々には心から感謝申し上げたい.
 また今回の改訂版では,現役で義肢装具士養成教育に取り組まれている北海道科学大学の村原伸先生,広島国際大学の谷口公友先生,それからかつて神戸医療福祉専門学校三田校で教鞭をとっておられた原義肢製作所の足立英樹氏にもご執筆いただいた.その結果,初版本では取りあげられていなかった,材料学や工具・機械工作に関する基本知識,障害者総合支援法をはじめとする法制度に関する知識についても本書に付け加えることができた.また,義足の製作については,最新の下腿義足ライナー式ソケットの採型からチェックアウトまでの手順を詳しく解説し,MAS大腿義足ソケットについても最新の知見を付け加えた.下腿義足ライナー式ソケットについてはOssur Asiaの支援をいただき,MAS大腿義足ソケットについては考案者のMarlo Ortiz氏の協力があったおかげで掲載することができたものである.この場を借りて,深く御礼申し上げたい.
 義肢装具士,および学生の方々には,『義肢学 第3版』とペアにして使っていただきたいという意図で,この『義肢製作マニュアル 第2版』を作成した次第である.ぜひ実際の臨床の場でも本書を傍らに置いていただき,十分に活用していただければ幸いである.
 なお,本書の構想は,故内田充彦氏が生前に口にしていた,「義肢装具士養成教育の場で絶対に必要と思われるもので,『義肢学』ではカバーできない部分をテキストにまとめて」という考えをベースに構成したものである.彼の言葉の後押しによって,本書は完成に至ることができた.故人にも心からの感謝を捧げたい.
 読者の皆さまに本書を読んでいただき,お役に立てていただければ,筆者としては望外の喜びである.
 2016年12月
 筆者を代表して 田澤英二


初版の序
 『義肢学』(医歯薬出版,1988)の改訂を行うに際し,その内容を2冊に分けて,ここ数年で大きく増加した義肢の新しいテクニックを記述できるようにした.基本的な概念に関しては,『義肢学 第2版』に記述し,義肢装具士教育の基礎となる,断端観察,採寸・採型,モデル修正,ソケット作製,アライメント,異常歩行を本書『義肢製作マニュアル』で細かく述べる.
 義足ソケットに関しては,切断部の解剖学的形状,機能を熟知することにより,ソケットデザインを頭に描くことができ,採型時の手技を確実に行うことができる.また,義肢を使用して得られるもっとも機能的で正常により近い歩容と安定性を生み出すために,ソケットを介した体重支持による力と歩行時における重心移動,また,それらを支持する床面からの反作用などを調和させ統合することが“アライメント”である.
 本書では義肢の基本的な製作法および理論について述べるが,そのなかでも義肢の基本的概念であり,義肢の適合を行ううえで重要な要因であるアライメント,つまり“ソケットと足部の相対的位置関係”について,とくに力学的側面からアプローチし,また,理解を容易にするためにソケットと足部以外に加味される要素で力学の関連の少ないものからスタートし,順序立てて述べることにする.
 「下腿義足とサイム義足」,「大腿義足と膝義足」のような関連性のあるものは,一つの力学を応用した考えを用いることによって理解しやすくなるので,以下のような順序で述べる.
 体重支持が踵骨でほぼ正常と同じようにでき,なおかつ,補足する義肢部分が最小限である足部義足を第一段階にとりあげた.次に,切断レベルの順序からすればサイム義足をとりあげるべきであるが,サイム義足は下腿義足の長断端の場合と同様のアライメントが応用できるので,下腿義足を先に述べる.同様に大腿義足のアライメントを理解したうえで膝義足に移行するほうが応用がきき,理解しやすい.大腿義足においての膝継手以下の関連は下腿義足で述べてあるので,膝継手という複雑な組み合わせを容易に把握しやすいという点からみても,この順序が適当である.もっとも多くの部分(足部,足継手,膝継手,股継手,ソケット)の組み合わせを必要とする股義足を最後に述べる.
 義手も前腕筋電義手製作のための基本的な概念は『義肢学 第2版』に記してあるが,本書では筋電の検査,採型,仮組み立て,適合,調整と完成までを具体的に記載する.本来であれば,メーカーなり義肢装具士養成校にて研修なり実習を受けて製作することをすすめる.また,講習会受講後のリフレッシュ用にでも役に立てばと思っている.
 前腕筋電義手のテクニックはかなり完成されているが,上腕切断のための筋電義手や電動義手は必要とされるモーターコントロールと取得できる筋電サイトの数のバランスが設計に影響するので,今回のようなマニュアル形式で記してもどの程度の基礎知識を与えることができるのか不明だと考え,あえて紹介することをさけた.
 早期義足装着のなかでも,術直後の義肢装着の効果は50年近い臨床経験から証明されているが,日本の医療制度のなかでは保険適用対象ではなく,早期義足装着の医療的効果と金銭的な負担のバランスが微妙な立場となっている.今回は,術直後,ならびに仮義足作製前の簡易ソケット作製までも含めて記してある.
 2010年3月
 田澤英二
 第2版の発行によせて
 第2版の序
 初版の序
第I章 義肢装具に必要な工学知識
 (足立英樹)
 A 図学・製図学
  1 製図の基礎事項
  2 投影法
  3 図形の描き方
 B 機構学
  1 機構学基礎
  2 伝動機構─歯車機構とカム機構
  3 リンク機構
  4 義肢装具とリンク機構
 C システム・制御工学
  1 システム工学・制御工学概論
  2 フィードバック制御
 D 電気工学
  1 電気回路
  2 静電気と静電容量
  3 電池
 E 義肢装具材料・材料力学
  1 材料力学
  2 義肢装具材料
第II章 義肢装具基本工作論
 (村原 伸)
 A 工具・機械の名称および用途
  1 金敷類
  2 万力類
  3 クランプ類
  4 プライヤ類
  5 ハンマ類
  6 レンチ・スパナ類
  7 刃物類
  8 はさみ類
  9 ノコ類
  10 やすり類
  11 ポンチ類
  12 ドリル類
  13 タップ・ダイス類
  14 機械類
  15 特殊工具類
  16 測定工具類
 B 石膏およびギプス包帯の使用方法
  1 用語
  2 ギプス包帯の使用方法
  3 陽性モデルの製作と修正
 C 金属加工
  1 切削加工
  2 塑性加工
  3 手仕上げ・組み立て
  4 溶接
 D 皮革の使用方法
  1 天然皮革
  2 人工皮革と合成皮革
  3 皮革の用途
 E 樹脂の加工法
  1 プラスチック材の一般的特性
  2 プラスチックの分類
  3 熱可塑性樹脂板(シート材)の軟化温度
  4 繊維強化プラスチック
 F 木材の性質および加工法
  1 木材の一般的特性
  2 用途分類
  3 木材の性質
 G その他(接着剤・ゴム)
  1 接着剤
  2 ゴム
第III章 義足製作マニュアル
 (田澤英二)
 A 足根中足義足
  1 採寸・採型・修正
  2 製作
 B 下腿義足
  1 下腿切断の解剖学的所見
  2 義肢情報カード記入
  3 PTBソケット採寸・採型
  4 PTS(PTES)ソケット
  5 KBMソケット
  6 TSBソケット
 C サイム義足
  1 採寸
  2 採型およびマーキング
  3 陽性モデル
  4 ソケット製作(無窓全面接触式二重ソケット)
  5 プラスチック注型
  6 組み立て
  7 チェックアウト
 D 大腿義足
  1 義肢情報カード記入
  2 四方形ソケット
  3 坐骨収納型ソケット
 E 膝義足
  1 ソケット
  2 採寸
  3 採型
  4 陽性モデル
  5 ソケットの製作
  6 膝義足のアライメントの概念
  7 ベンチアライメント
  8 チェックアウト
 F 股義足
  1 採寸
  2 採型
  3 ギプスソケットによる適合チェック
  4 陽性モデルの製作
  5 股継手の位置
  6 プラスチックソケット
  7 股義足のアライメント
第IV章 義手製作マニュアル
 (田澤英二)
 A 前腕義手
  1 採寸
  2 採型
  3 ワックスソケット作製
  4 ワックスソケットによるチェック
  5 陽性モデル作製
  6 ソケット注型
  7 リストメタル設定
  8 外装
  9 上腕カフ作製
  10 ハーネスおよびコントロールケーブル
  システム
 B 上腕義手
  1 採寸
  2 採型
  3 ワックスソケット作製
  4 ワックスソケットによるチェック
  5 陽性モデル作製
  6 ソケット注型
  7 ターンテーブル設定
  8 外装
  9 ソケット前腕部の作製
  10 ハーネスおよびコントロールケーブル
  システム
 C 肩義手
  1 採寸
  2 採型
  3 ワックスソケット作製
  4 ワックスソケットによるチェック
  5 陽性モデル作製
  6 ソケット注型
  7 上腕部作製
  8 外装
  9 ソケット前腕部作製
  10 肩継手
  11 ハーネスおよびコントロールシステム
 D 前腕筋電義手
  1 患者の評価
  2 採型
  3 ギプス
  4 モデル修正
  5 チェックソケット作製
  6 チェックソケットの評価とアライメント
  7 義肢製作法
  8 筋電の評価
  9 義肢の適合評価
  10 切断者のセラピー
  11 義肢の問題解消について
第V章 術直後義肢
 (田澤英二)
  1 手術前の準備
  2 手術室での準備
  3 術直後義足の装着テクニック
  4 第3回目の懸垂装置の方法
  5 シリコーンライナーPOST?OP装着方法
第VI章 関係法規
 (谷口公友)
 A 社会保障の基本
  1 社会保障制度
  2 社会保険(医療保険)
  3 社会保険(介護保険)
  4 社会保険(労働保険)
  5 社会福祉
  6 公的扶助
 B 義肢装具士に必要な関係法規
  1 支給制度の概要
  2 他法優先
  3 症状の固定
  4 義肢装具給付制度のフローチャート
 C 業務外での傷病に関して
  1 概要
  2 医療保険による給付(治療用)
  3 生活保護による医療扶助(治療用)
  4 その他(第三者行為災害による補償)
  5 障害者総合支援法(更生用)
 D 業務上の傷病(労災保険)に関して
  1 概要
  2 療養(補償)給付
  3 障害(補償)給付
  4 その他(第三者行為災害による補償)
 E その他の関係法規
  1 介護保険制度
  2 戦傷病者特別援護法
 F 付録
  1 障害者総合支援法の規定に基づく補装具の種目
  2 日常生活用具種目
  3 支給種目(労災保険)
  4 支給基準(労災保険)
  5 義肢装具士法
  6 障害等級

 索引