やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 運動学の授業で力学の学習をする際には,力の合成や分解を理解する必要がある.授業でベクトルの分解や合成を教えていると,クラスの半分くらいがポカンとしている.まるで理解していない様子.「高校で習ったよね,ベクトルの分解は平行四辺形を書いて……」.すると学生の1人が「先生,ベクトルって何ですか?」と聞いてきた.えっ,そこから?と思いながら丁寧に「ベクトルというのはね……」と始めていく.さらに,小テストで100×0.40を4000と答えた学生がいたので聞いてみると,「だって,ひゃくかけるれいてんよんじゅうでしょ」と答える.「じゃあ,一から始めようか」と居残り学習が始まる.
 「医療従事者にとって計算は必要なのですか?」と問われれば「必要です」と即答できる.研究などでは難しい計算の理解も必要になるのだが,せめて小学校や中学校で習ったことは出来て欲しい.例えば,体重の60%を患側下肢にかけて良いと指示されて何kgまで荷重して良いかが分からない,血圧が30%上がったら歩行練習を中止するように言われても計算が出来なければ中止の基準が分からない,それでは仕事にならない.
 少し難しくなるかもしれないが,計算ができると,歩行スピードを計算することによって信号が変わるまでに道路を横断できる能力が有るかどうかも分かるし,運動強度や消費エネルギーの計算が出来れば効率的な体重のコントロールも指示できる.運動学的には,関節の角度変化と筋力の関係も容易に理解できるようになる.
 このようなことを含めて,PT/OTの国家試験では計算問題の比重が大きくなってきている.計算問題は,解けるようになるのには相応の努力が必要だが,一度解けるようになると安定して解けて得点源になるのも特徴である.
 本書は,国家試験対策ワークとして,国家試験に出題される“計算要素を含む問題”を精査し,四則演算から始めてPT/OTの国家試験問題まで対応できるように構成している.基本事項,例題,練習問題,国家試験問題と無理なく学習できるように配慮しているので,国家試験直前の追い込み時期の得点源確保はもちろん,1年生時に「高校までの復習」と「これから学習することを見据える」ためのワークとして使用していただくことも可能である.また,授業でも使用しやすいように15章構成にしている.
 本書を利用して,多くの学生が国家試験で計算問題を得意分野にしていただければ,筆者としては望外の喜びである.
 2017年6月 川島 圭司
 本書の使い方
1 四則演算
 整数の計算
 少数の計算(1)
 少数の計算(2)
 少数の計算(3)
 四捨五入
 %(百分率)の計算
 分数の計算(1)
 分数の計算(2)
 べき乗
 平方根
2 比の計算
 比と比例式
 比の値と比の計算
3 三角関数
 三角関数
 代表的な三角関数
4 速度と加速度
 単位の変換
 速度
 加速度
 重力加速度
5 神経伝導速度
 神経伝導速度
6 力と仕事
 力と質量,重さ
 運動の法則
 仕事
 仕事率(パワー)
7 ベクトル
 ベクトルとは
 ベクトルの整数倍
 等しいベクトル
 逆ベクトル
 ベクトルの足し算(ベクトルの合成)
 同一方向のベクトルの足し算
 ベクトルの引き算
 ベクトルの分解
8 てこの計算
 モーメント
 第1のてこ
 第2のてこ
 第3のてこ
 てこのつり合い
9 重心
 重心
10 滑車と輪軸
 滑車
 輪軸
11 運動強度
 Karvonen法による予測最大心拍数
 代謝とエネルギー代謝率
 代謝当量(METs)
 BMIと標準体重
 消費エネルギー
12 回転運動のトルクと仕事率(パワー)
 トルクとモーメント
 運動する物体の仕事率
 等速度回転運動の仕事率
13 基本統計量
 統計におけるさまざまな代表値
 分散と標準偏差
14 四分表
 四分表
15 その他の計算
 さまざまな指標

 COLUMN
  有効数字の考え方
  平方根をマスターしよう
  神経伝導速度の見かた
  重心と基底面
  Borg scale

 索引