やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 近年,理学療法士の職域は,医療・福祉・保健・予防分野へ拡大しています.その流れのなか,産前産後の女性の健康や閉経後の女性の健康などに携わるウィメンズ・ヘルス分野に興味をもつ理学療法士が増えています.また,これまで本分野に関わってきた産婦人科医師や助産師などの医療専門職のあいだでも,姿勢などの運動機能の影響に目が向けられ,理学療法士に対する要望が高まってきています.このようなニーズに応えるためにも,正しい知識や技術をもち,安全で適切なサービスが提供できる理学療法士が増えることが望まれていると感じます.すでに産前産後のケアなどにかかわる理学療法士も見受けられますが,本書を手に取ってくださった多くの人はこれから学んでいかれる人ではないかと思います.
 ウィメンズ・ヘルスの分野の理学療法は,若年者の健康管理や産前産後女性へのアプローチ,尿失禁などの骨盤底機能障害に対するアプローチなど多岐にわたります.現在の日本では,このような幅広い分野について卒前教育の体制が整っていません.また,卒後教育においても自己研鑽を重ねながら知識や技術を身につけているのが現状です.数年前までは,論文や書籍などのほとんどが英語で書かれ,日本語で書かれた成書はほとんどなく,ウィメンズ・ヘルス分野にかかわる成書の多くは医学・看護の視点から出版されたものでした.しかし,最近になって,理学療法士の視点で書かれたウィメンズ・ヘルス分野に関する成書も出版されるようになってきました.それでも,臨床現場で実践をし始め,さらに質を高めていくにはより多くの技術的な情報が必要でしょう.
 そこで,本書では,妊娠・出産や加齢による身体変化に関する基礎知識に続いて,理学療法士の視点を通した「運動療法」等に焦点を当て,ウィメンズ・ヘルス分野での主要な病態を対象として,病態・評価・治療についてまとめました.幅広い本分野のなかでも,医療や福祉で理学療法士がかかわる問題として,産前産後の運動療法,女性特有の病態に対する運動療法を取り上げています.そして,予防活動として,育児にかかわる運動指導,働く女性にかかわる運動指導を取り上げて,健康を維持・増進するために必要な知識や技術をまとめました.いずれの項においても,臨床に従事する理学療法士が本書を活用することで対象者に対応できる実践書であることを目指して,実践する際にわかりやすいように執筆者の視点でポイントを絞って述べてもらいました.また,安全で適切な治療の提供のため,起こりうるリスクについても触れてもらいました.本書の作成にあたり情報を提供してくれた執筆者に感謝いたします.
 本書を用いてウィメンズ・ヘルス分野の知識・技術を磨き,1人でも多くの女性の健康なライフスタイルを送る一助としていただければ幸いです.
 2017年4月
 山本綾子 荒木智子
 序文(山本綾子,荒木智子)……III
第1章 女性に対する運動療法の必要性
 (山本綾子)
   ウィメンズ・ヘルス分野の運動療法
   女性のライフステージの考え方と健康問題
   女性のライフステージでの健康問題と運動療法の必要性
   社会のなかでの女性の健康問題と運動療法の必要性
   女性に対する運動療法の実施時期 おわりに
第2章 女性に対する運動療法における基礎知識
 1 解剖学
  (1)女性の骨盤底にかかわる解剖学(井上倫恵)
   はじめに 骨盤の構造 骨盤の構造の解剖学的な性差
   骨盤に関係する靱帯 外陰部の構造 骨盤内臓器
  (2)骨盤底筋群にかかわる解剖学と運動学(井上倫恵)
   はじめに 骨盤底筋群 骨盤底筋群収縮時の運動方向
   腱弓 臓側筋膜 女性の骨盤底の支持機構
   女性の尿禁制機構 おわりに
 2 生理学・内分泌学
  (1)女性にかかわる生理学(関口由紀)
   女性のライフステージ 卵巣とは 排卵と月経周期
   月経周期に影響を受ける女性の体調変化とリハビリテーションでの注意
  (2)女性にかかわる内分泌学(関口由紀)
   ライフステージによる体の特徴とその特徴を踏まえた理学療法の必要性
   第二次性徴と思春期のウィメンズ・ヘルスサポートとリハビリテーション
   成熟期のウィメンズ・ヘルスサポートとリハビリテーション
   更年期のウィメンズ・ヘルスサポートとリハビリテーション
   壮年期のウィメンズ・ヘルスサポートとリハビリテーション
 3 運動学
  (1)妊娠・出産にかかわる姿勢変化(須永康代)
   はじめに 妊娠中の姿勢変化 産後の姿勢変化
   子どもの抱き方 妊娠中から分娩時,出産後の骨盤の広がり
  (2)妊娠・出産にかかわる動作の変容(武田 要)
   妊娠経過に伴う姿勢制御の変化 妊娠経過に伴う動作の変化
   立ち上がり−着座動作 歩行 妊娠期の転倒
   妊娠期での転倒予防介入への糸口
 4 妊娠・出産にかかわる基礎知識
  (1)正常妊娠の経過(平元奈津子)
   体重変化 姿勢変化 胎児の変化
  (2)妊娠にかかわる異常(平元奈津子)
   母体側の問題 胎児の異常
  (3)正常分娩の経過(平元奈津子)
   分娩の経過 産褥期
  (4)分娩にかかわる異常(平元奈津子)
   分娩の種類 分娩にかかわる異常
   妊婦に対する運動療法
  (5)産褥期(山崎愛美)
   産褥期とは 産褥期の全身の変化
   産褥期における姿勢 産褥期によくみられる愁訴
  (6)産後の生活の変化(山崎愛美)
   産後の生活の変化
 5 加齢による身体変化にかかわる知識
  (1)成長期における身体変化(粕山達也)
   成長期の変化
  (2)閉経と更年期障害にかかわる身体変化(梶原由布)
   閉経と更年期 更年期障害とは 更年期障害の原因
   更年期障害の症状 更年期障害の診断と評価 更年期障害の治療
   エストロゲンの低下による影響
  (3)高齢者にみられる問題(梶原由布)
   骨粗鬆症の定義 骨粗鬆症の評価と診断 骨粗鬆症の予防
   骨粗鬆症による骨折 骨粗鬆症の治療 変形性関節症とは
   OAの症状 OAの診断 OAの治療
第3章 女性にみられる病態・症状別の運動療法
 1 産前産後女性に対する運動療法(評価および運動療法)
  (1)妊婦に対して行う評価(奥佐千恵)
   はじめに 訴えの多い疼痛について
   骨盤帯について(仙腸関節・恥骨結合部を中心として) 評価
  (2)妊婦の評価を行う際のリスク管理(奥佐千恵)
   妊娠中の運動に関するガイドライン
  (3)骨関節系の運動療法(おもに骨盤帯痛に対して)(奥佐千恵)
   産前産後における運動療法とは 運動療法の実践 おわりに
  (4)泌尿器科疾患に対する運動療法(井上倫恵)
   はじめに 尿失禁の種類 疫学 リスクファクター
   問診 評価 具体的な運動療法 おわりに
 2 女性特有の病態・疾患に対する運動療法
  (1)女性アスリートに対する運動療法(板倉尚子,新堀加寿美)
   女性の骨格の特徴と運動連鎖における問題点
   発生しやすい下肢のスポーツ障害 
   knee-in & toe-outを改善するための運動療法
   跳躍競技に特徴的なスポーツ外傷・障害と運動療法
   走行競技に特徴的なスポーツ外傷・障害と運動療法
   重量競技の運動療法 女性のスポーツ外傷・障害とその対策
  (2)女性特有がんに対する運動療法(乳癌,婦人科がん)(井ノ原裕紀子)
   はじめに 乳癌 婦人科がん リンパ浮腫 おわりに
  (3)骨盤底機能障害に対する運動療法(重田美和)
   はじめに 骨盤臓器脱とは
   骨盤底に特化した理学療法評価と運動療法
  (4)骨粗鬆症に対する運動療法(瓜谷大輔)
   骨粗鬆症とは 骨粗鬆症に対するPTの役割 骨粗鬆症の予防
   評価 リスク管理 具体的な運動療法
  (5)変形性関節症に対する運動療法(瓜谷大輔)
   変形性関節症とは OAに対するPTの役割 評価
   リスク管理 具体的な運動療法
第4章 ライフイベントに応じた運動指導の実践
 1 育児にかかわる運動指導
  (1)育児動作の特徴(平元奈津子)
   授乳,おむつ替え 入浴 移動
  (2)育児動作指導の実践(平元奈津子)
   授乳 おむつ替え 入浴 移動
 2 働く女性にかかわる運動指導
  (1)妊娠・出産に関する就業への対応(荒木智子)
   はじめに 背景 評価・リスク管理 具体的な運動療法
  (2)復職に向けた体力再獲得の実践(荒木智子)
   はじめに 背景 評価 リスク管理 具体的な運動療法

 索引