やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂版の序文

 新しい世紀の始まりに,「Bone and Joint Decade」の世界運動がスタートした.ちょうどそのさなか改訂版を執筆する機会を得たことは望外の喜びである.当初「Bone and Joint Decade」の日本語訳は「骨と関節の10年」としていたが,これにかかわる本邦の人々の協議の結果,「運動器の10年」と統一して呼称するところとなった.この運動はスウェーデンのルンド大学のリドグレン教授が提唱し,2000年1月に世界保健機構において発足した.2000年から2010年までの10年間に目標をある程度達成するため5つの対象疾患がとりあげられた.まず,関節リウマチを含む関節疾患,腰痛をはじめとする脊椎疾患,骨粗鬆症,重度外傷,小児運動器疾患である.
 関節リウマチはこのように重要な疾患で,この運動の目標のうち,とくに質の高い,経済効率のよい医療・予防を広く実施することが大切と思われる.日本リハビリテーション医学会でもいち早く,2000年の学術集会のシンポジウムにとりあげられた.
 さて,関節リウマチの理学療法といえば,20世紀,「できあがった障害」に対する治療であった.初版においてもその流れで執筆した.たしかに20世紀の関節リウマチの治療は「できあがった障害」に対するものであった.筆者は20年以上前から発症早期からの対応の重要性を唱え,外来でのアプローチの必要性を訴え続けたが,多くの人の同意を得るに至らなかった.しかし,障害が非可逆的になってしまっての運動療法の効果は限界があり,今後は予防と同時に可逆的な時期に対応することが求められる.
 そのためには障害の治療のためのガイドラインが必要で,アルゴリズムに沿って,クリニカルパスの理念を参考にしたマニュアルが求められる.
 第1版当時と比べ,当科のスタッフは大幅に入れ替わり,現在のスタッフは若く,この新しい概念をすなおに受け入れ今日実践している.最近の医療事情は大きく変化し,クリニカルパス,インフォームドコンセントなど目まぐるしい変化にそくしたマニュアルの改訂版の作成に至った.
 本書の執筆作業では,当科のスタッフである理学療法士の大宇根浩一,白浜正人,横山 司の各氏が日頃の診療を通して執筆に協力した.また,作業療法士の山野克明,浜ア徹志の両氏の協力に対して感謝したい.

 2003年7月31日
 椎野 泰明

 関節リウマチの早期に適切な運動療法を実施すれば,リハビリテーション(全人間的復権)の必要はない.
 関節リウマチのリハビリテーションを声高に言う医師は,障害の早期発見・早期治療を認識しない,すなわち正しい診療をしていない者である.

 椎野 泰明

監修者のことば

 わが国に理学療法という領域が正式に誕生したのは,1965年に法律137号として理学療法士および作業療法土法が制定されたときである.これがわが国の医学的リハビリテーションはもとより,理学療法自体の発展の布石になったことはいうまでもない.
 当然とはいえ,当初は理学療法に関する情報のほとんどが欧米のものであり,この現象は10年以上は続いたと思われる.また,理学療法関係の書物は訳本か,米国でリハビリテーション医学を修めた医師らによって執筆されたものが主であった.
 しかし,近年では,徐々にではあるが,わが国の理学療法士による出版物が増え,やっと自前の弁当で空腹を満たす段階になりつつあることはたいへん喜ばしい限りである.
 数年前,医歯薬出版株式会社より,『PTマニュアル』シリーズを出版したい旨の話があり,その監修依頼を受けていた.
 ここにその一編として,椎野泰明氏による『慢性関節リウマチの理学療法』をお届けできることを嬉しく思う次第である.椎野氏は,『PTマニュアル』シリーズの執筆者としては唯一医師である.しかし,椎野氏はこの領域をライフワークとして,理学療法士との緻密な協同作業により研鑽されておられる.
 RAは3大疾患の1つといわれ,わが国では50万人の患者がいると推定されていることから,この領域の理学療法についてもさらにその方法論が構築される必要がある.
 今回は,椎野氏らの長年の臨床経験・研究にもとづいてまとめていただき,この領域で活動されている理学療法士の参考になるとともに,理学療法教育の参考文献としても活用いただけるものと確信している.
 RAに対する理学療法は,患者教育を含め半永久的に継続される性格のものであると考えられる.したがって,ややもすれば,理学療法士の対応が消極的になりかねない.また,疼痛による患者の運動量低下が,廃用症候群を容易に引き起こしてしまうことも念頭に入れておく必要がある.
 1992年9月
 広島大学医学部保健学科
 奈良 勲

初版の序文
 関節リウマチ(rheumatoid arthritis,以下RAと略)はリハビリテーション(以下リハと略)医学の対象疾患のなかでも3大疾患の1つといわれるくらい重要な疾患である.原因も自己免疫疾患の1つとはいわれているもののいまだ不明である.治療に関しては薬物療法,手術療法,リハと3つあげられているが,薬物療法に関しては最近の著しい進歩により疾患の管理がかなり容易となっている.しかしながら今なお完治は望めず多くの患者は障害を持ち苦しんでいる.
 このようないわゆる難病は全国で推定50万人もいる.これらの人々は現在の治療に満足がいかず病院を転々としている患者が多い.その理由はいろいろあると思うが「リウマチ友の会」から発行された「リウマチ白書」をみると,通院する病院にリハ設備があると答えた患者は73.6%,そのうち理学療法士(physical therapist:PT)・作業療法士(occupational therapist:OT)がいると答えた人は88.2%いた.しかるに関節リウマチ患者全体でリハを行っていると答えたのは約半数の53.2%であった.このことからも現場のPTはいかに患者のニーズに答えていないかがわかる.もちろんPTに指示を出さない医師の責任も大きいと思われる.
 多くの患者は実地医家である開業医で治療を受けていたり,リハ施設がない所で治療を受けていたり,PTがいても外来にはほとんど携わっていなかったりということもあるが,果たしてPTはRAに興味を持っているのだろうか.多くのPTは脳卒中などに興味を持ち,RAに関してはよくわからないといってごまかしているのではなかろうか.PT関係でもRAに関して多くの教科書が出ている.しかし,これらの多くが実践のものではない.というのは自分達がやっていることを医師と一緒に考えながら地道に治療したなかで,多くの疑問を感じながら書かれたものでないため,とかく臨床の場ではなじめないものが多いのである.
 1980年よりRAの診療にリハを導入してはや10年が過ぎた.その間,思考錯誤を繰り返しつつ歩んできた.当初スタッフのRA患者に対する興味は薄く,いかにして情熱を持たせるかに苦慮してきた.そうして現在,ようやく診療も軌道に乗った次第である.そこで,これを機に今までの集大成をしてこの本を著すこととなった.少しでも現場のPTがRA患者に積極的に取り組み,ひいては患者が快適な社会生活を送ることを念願し,これまでの成果をまとめることとなった.
 著するにあたってはわれわれが実際に患者から教えられたこと,実際に経験したことをもとに本当に使えるマニュアルにするため,できる限り具体的に記すように心がけた.
 この書がRAの診療に携わる多くのPTのお役に立てることを祈っている.
 最後に本書の出版にあたり,繁雑な仕事をしていただいた社会保険広島市民病院,山中盛幸氏に心から感謝いたします.

 1991年6月30日
 椎野 泰明
改訂版の序文
監修者のことば
初版の序文

第1章 関節リウマチの理解
 1.誤解
 2.疾病と障害
 3.診療ガイドライン
 4.クリニカルパス

第2章 運動療法の実際
 1.システム
  1)望ましい条件
   1 リハビリテーション科・リウマチ科の一体化
   2 予約制
   3 診療録の一本化
   4 快適な雰囲気づくり
   5 待ち時間の有効利用
   6 関節リウマチ患者の集中治療
   7 起居・移動の負担を少なくする
   8 評価の年間スケジュール
  2)種々な状況下での対応
   1 理学療法士が1名の場合
   2 理学療法士が複数の場合
 2.問診時の心得
 3.初回評価
  1)総論
  2)関節炎の程度
   1 関節のみかた
   2 活動性の評価
  3)身体機能の評価
   1 関節可動域テスト
   2 徒手筋力テスト
   3 日常生活動作テスト
  4)通院方法
  5)痛みと心理
   1 痛み
   2 心理テスト
  6)quality of life(QOL)
 4.カンファランス
 5.治療
  1)総論
  2)処方
  3)関節可動域運動
   1 運動量の決定
   2 肩関節の治療
   3 肘関節の治療
   4 手関節の治療
   5 手指の治療
   6 股関節の治療
   7 膝関節の治療
   8 足関節の治療
  4)筋力増強運動
   1 肩関節屈曲
   2 肘関節屈曲
   3 肘関節伸展
   4 股関節伸展
   5 股関節外転
   6 膝関節伸展
  5)日常生活動作治療
   1 起居動作
   2 移動動作
   3 更衣動作
   4 日常生活動作治療上の留意点
 6.教育
  1)総論
  2)生活指導
  3)自己練習指導
   1 関節可動域運動
   2 筋力増強運動
 7.インフォームドコンセント
 8.効果判定

後書き
付録1 日常生活動作テストの手引き
付録2 QOL調査票(AIMS 2-日本語版)