やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者序文
 本書はLieberによる『Skeletal Muscle Structure, Function,and Plasticity−The Physiological Basis of Rehabilitation−(第3版)』の日本語訳である.10年前,本書の第2版をタイトルに惹かれて読み始めたが,ページをめくるごとに,私にとっては筋機能についての新たな知見に満ちており,ある種の興奮を覚えながら読み進んだ記憶がある.骨格筋は力の発生に特化した組織で,その整然とした構造や機能発現のメカニズムについては多くの科学者が魅了され,精力的な研究が続けられている.Lieberも筋の魅力にとりつかれた科学者の1人であることが,本書の端々から窺える.
 本書は基礎から臨床への橋渡しとして著されたもので,7つの章から構成されている.第1章〜第3章は基礎編で,骨格筋の解剖学,生理学,発生学,運動学について記載されている.その中でもmuscle architecture(本著では筋構築と訳)が中心的なテーマになっている.筋構築は筋線維の配列状態を意味するが,筋構築の変化によって実に多くの筋機能が影響を受けることに驚かされる.第4章〜第7章は臨床編で,活動量の変化に対する筋の適応,損傷に対する筋の反応,そして第3版において新たに加わった痙縮について記載されている.この後半の臨床編には,運動や電気刺激による筋の変化,筋損傷の発生メカニズムや修復過程,痙縮筋の特性など,臨床に直結する事象について,一般的なテキストには記載されていない内容が詰まっており,理学療法士をはじめとする運動の専門職の方にぜひ読んでいただきたい章である.
 理学療法士をはじめ,ヒトの運動に関心のある領域の専門職にとって,筋機能の理解は運動について検討する基礎として重要である.筋機能については生理学や運動学で多くを学習するが,その説明はある程度実証された定説の記載に留まっていることが多い.それに対して本書は,定説の実証経過,研究方法,研究結果についての多様な解釈,現在の論争や今後の課題などについても記載されており,静止した知識ではなく,動的で厚みのある臨床で活用できる知識を得ることができる.記憶するためのテキストではなく,考える枠組みが得られるテキストともいえる.また本書は,学生に講義をしているような表現が多く,Lieberによる講義を聴講しているような雰囲気を醸し出している.このことも本書の魅力の1つになっている.
 この度原著第3版の発刊を機に,このような本をぜひ多くの方に読んでいただきたいとの想いから,医歯薬出版のご協力を得て,翻訳出版の運びとなった.著者の意図を正しく伝えることとわかりやすさを念頭に翻訳作業を行ったが,本書の内容は広範な分野にわたるため,解釈や語句の選択に難渋した部分もあった.語句や表現において不適切な部分があれば,ご教示いただければ幸いである.なお,翻訳作業が遅れ,医歯薬出版のご担当の方々には多大な苦労をお掛けしたと思う.心よりお礼を申し上げたい.
 本書を通して,骨格筋機能に関する理解が深まり,筋について興味を増していただけることを願っている.
 2013年4月
 訳者代表 望月 久
 訳者一覧
 監訳者序文
 まえがき
 カラー図

第1章 骨格筋の解剖学
 章の概要
 教育目標
 筋の発生
 骨格筋細胞の微細構造
 骨格筋全体の構造
 章のまとめ
 臨床的問題
 文献
第2章 骨格筋の生理学
 章の概要
 教育目標
 筋線維の活性化
 骨格筋の力学的性質
 筋線維タイプと運動単位
 運動単位
 章のまとめ
 臨床的問題
 文献
第3章 運動の発現
 章の概要
 教育目標
 筋-腱の相互作用
 関節モーメント
 等尺性トルク発生時の筋-関節の相互作用
 生理的な関節可動域
 身体機能評価に用いる等運動性筋力計測器
 歩行周期
 二関節筋の生体力学
 歩行速度が増加したときの歩行周期のタイミング
 歩行中のエネルギー消費
 ばねとしての筋
 歩行中の直接的な筋力と筋の長さの測定
 理学療法との関連性
 章のまとめ
 臨床的問題
 文献
第4章 活動量増加に対する骨格筋の適応
 章の概要
 教育目標
 慢性的電気刺激に対する適応
 慢性的伸張に対する適応
 代償性筋肥大に対する適応
 間欠的電気刺激に対する適応
 運動に対する適応
 章のまとめ
 臨床的問題
 文献
第5章 活動量減少に対する骨格筋の適応
 章の概要
 教育目標
 不動に対する適応
 不動解除後の変化
 脊髄切断に対する適応
 後肢非荷重に対する適応
 骨格筋線維萎縮のメカニズム
 加齢に対する適応
 腱切除に対する適応
 脱神経に対する適応
 再神経支配に対する筋線維特異性
 章のまとめ
 臨床的問題
 文献
第6章 損傷に対する骨格筋の適応
 章の概要
 教育目標
 筋再生の原因
 変性-再生サイクルの形態学
 再生後の筋の特性
 筋ジストロフィー症に対する臨床的応用
 運動による損傷に対する筋の反応
 章のまとめ
 臨床的問題
 文献
第7章 痙縮に対する骨格筋の適応
 章の概要
 教育目標
 骨格筋の痙縮
 痙縮は活動量が増加した状態か活動量が減少した状態か?
 痙縮に伴う筋線維タイプと筋線維サイズの変化
 痙縮のある四肢に関する生体力学的研究
 痙縮筋の筋線維長
 痙縮筋の力学的変化
 まとめと今後の方向性
 臨床的問題
 文献

 索引