やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 『大規模災害リハビリテーション対応マニュアル』の発刊にあたり,改めて東日本大震災により尊い命を失われた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに,多くの大切なものを一瞬にして失い,今なお,大きな不安を抱えながら,厳しく,不自由な生活を強いられている被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます.
 2011年3月11日の東日本大震災発生以降,リハビリテーション関連の諸団体は比較的早い時期からそれぞれ手探りで独自の支援活動を展開してまいりました.しかしながら,未曽有の大地震と津波によるあまりにも甚大な被害の実態に直面し,リハビリテーション関連の団体が一致協力して被災者・被災地の支援に取り組むことの必要性が強く認識され,「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」が結成されました.
 これまでの支援活動を通して,被災地の行政,専門職等と密に連携しながら,大規模災害下でのリハビリテーション支援活動を多職種で行うことの重要性と難しさを改めて痛感するとともに,平時から十分な備えを行いながら,災害発生時には関係団体が一丸となって被災者,被災地のための支援活動を効率的・効果的に展開できるような基盤をつくっていくことが不可欠との認識が共有されました.
 本マニュアルはそのための重要なツールの一つとして位置づけられ,これまでの災害支援の経験を通して明らかとなった問題点や課題を踏まえ,「現場で役に立つ」ことを念頭に,以下を目的として企画・編集されました.
  1.災害リハビリテーション対応に関する基礎知識と有用な情報を提供する.
  2.平時からリハビリテーション関連団体が連携して災害に備えるための一助とする.
  3.災害発生時に機敏かつ的確な対応が可能なリハビリテーションチームを育成し,データベース化する.
  4.災害発生時にリハビリテーション関連団体の有機的な連携のもとに,多職種連携でリハビリテーション支援活動を行えるようにする.
  5.災害対応におけるリハビリテーションの重要性を行政,医療・保健・福祉関係者,一般社会に啓発する.
 読者対象としては,リハビリテーション関連の専門職全般,団体幹部,施設長,養成校教員,地方自治体・国の災害対策・医療・保健・介護・福祉担当部門,医療・保健・介護・福祉関連団体,NPO法人など,リハビリテーション及び災害対策に関わる幅広い個人,団体を想定しています.
 本マニュアルが大規模災害に対する備えの充実と災害発生時の的確な対応の一助となることを願いますとともに,読者及び現場からのフィードバック,社会情勢や災害対応に関わる諸制度の変化等を踏まえ,より有用なマニュアルとすべく,定期的に改訂していく予定です.
 最後になりましたが,マニュアルの企画・編集に尽力されたワーキンググループ委員各位,ご多忙の中,限られた期間で貴重な原稿をお寄せいただいた著者の方々,終始一貫して暖かくご支援くださった東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体浜村明徳代表,石川誠対策本部長ならびに各団体幹部の皆様,そして社会貢献の一貫として真摯に出版に取り組んでくださった医歯薬出版(株)の皆様に深謝いたします.
 2012年5月
 『大規模災害リハビリテーション対応マニュアル』作成ワーキンググループ委員長
 里宇明元
 はじめに
I.大規模災害の定義と本マニュアルの適応
 A 大規模災害の定義
  1.大規模災害の定義 2.過去の事例
 B マニュアル適応の検討と決定
  1.災害対策本部の設置 2.災害対応支援のプロセス
II.東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体(10団体)としての支援活動
 A 10団体としての活動することの意義
 B 活動目的の明確化
 C 活動の考え方・原則
 D 10団体として活動することの判断(初動判断)
 E 活動の概要
III.大災害におけるリハビリテーション支援活動の目的と意義
IV.災害リハビリテーション対応のフェーズ
 A フェーズ分類
 B 各フェーズにおける災害医療支援及びリハビリテーション支援
  1.第1期「被災混乱期」 2.第2期「応急修復期」 3.第3期「復旧期」 4.第4期「復興期」
 C 災害支援チームのあり方
  1.第1期「被災混乱期」 2.第2期「応急修復期」 3.第3期「復旧期」 4.第4期「復興期」
 D 各フェーズにおける地域リハビリテーション活動
  1.第1期「被災混乱期」 2.第2-3期「応急修復―復旧期」 3.第4期「復興期」
 E DART及びJRAT派遣に際しての留意点
 F 災害リハビリテーション活動に際しての留意点
  1.各フェーズにおける必要情報例 2.支援スタッフの留意点 3.医療機関・福祉・保健機関やその他への支援に関する留意点 4.その他,団体間連携に関する留意点
 G 行政保健師の重要な役割
  1.第1-2期「被災混乱―応急修復期」 2.第2-3期「応急修復―復旧期」 3.第4期「復興期」
 H 災害フェーズ別具体的リハビリテーションアプローチと注意点
  1.第1期「被災混乱期」(初動対応:待機中) 2.第1期「被災混乱期」(初動対応:現地派遣DMAT,JMAT等の一員またはDARTとして) 3.第2期「応急修復期」(応急対応:JRATの一員として) 4.第3期「復旧期」(生活始動支援:避難所を中心に第2期内容の着実な実施を前提としたJRAT) 5.第4期「復興期」(地域生活支援:仮設住宅等におけるCBRT)
V.組織体制
 A 平時の体制
  1.各団体としての体制 2.10団体としての体制
 B 災害発生時の体制
  1.各団体としての体制 2.10団体としての体制 3.現地対策本部のあり方と常駐者の派遣方法
VI.平時の対応(事前準備)
 A 災害リハビリテーション支援体制のための研修
  1.災害リハの確立 2.人材育成 3.チーム育成 4.幅広い災害リハ研修体制 5.教材・ツールの開発 6.NPO法人「災害リハビリテーション支援機構」の設立
 B 災害対応リハビリテーションチームのデータベース化
  1.災害対応リハチームに関するデータベース構築の必要性 2.データベース化の具体的方法 3.データベースの内容
 C 事前訓練・シミュレーション訓練
  1.事前訓練の必要性 2.多職種による情報共有の仕組みづくり 3.事前訓練・シミュレーション訓練の実施と検証
 D 災害時の執行機能
  1.被災地の事務局機能:災害マネジメント本部(仮称) 2.被災地の事務局のバックアップ機能 3.全国組織の事務局機能:関連団体災害対策本部(仮称)
 E マニュアル・ツールの収集・整理・整備
 F 現地業務に必要な書類等への対応
  1.統一した書式の活用 2.被災者の治療用装具に係る療養費の取り扱い(装具業者による代理受領) 3.保険者への請求方法
 G 災害関連情報の収集・整理・分析
  1.防災対策の動向 2.支援ニーズの把握 3.災害リハ対応のエビデンス・ガイドライン・マニュアル
 H 資金,人材,物品・装備などの準備
  1.想定される災害リハ支援体制 2.ロジスティクスの確保 3.資金 4.物品・装備 5.保険など 6.緊急避難所・備蓄拠点としての通所施設の役割
VII.災害リハビリテーション対応の基本原則
 A 大災害に備えるべきポイント
  1.情報の一元化 2.情報の体系化 3.情報の共有化 4.情報の継承化 5.初動マニュアルの共有
 B 被災直後のリハビリテーションの役割
  1.それまで行ってきたリハ医療を守ること 2.避難所などで廃用症候群を予防すること 3.新たに生じた各種障害へ対応すること 4.異なった生活環境での機能低下に対する支援をすること 5.生活機能向上のための対応をすること
 C 災害支援の継続性の担保の基本原則
  1.単なる被災地支援ではなく「被災地復興(復旧)」という認識への共通理解 2.災害支援の継続性を担保するシステム 3.ゴール(目標)の設定
 D 柔軟なリハビリテーション支援体制の基本原則
  1.被災地でのリハを支える専門職の体制の考え方 2.被災地からの一時的避難転院に対する再入院の取り扱いの考え方 3.時間経過・状況に柔軟に対応できる体制の構築 4.地方自治体の受けた打撃による支援の変更
 E 地域リハビリテーション支援の徹底の基本原則:支援部隊引き上げを想定した支援
  1.地域行政への支援が基本 2.地域の保健医療福祉サービスが安定した時点で,速やかに撤退する 3.災害リハ支援部隊は地域サービスへの橋渡し役に徹する 4.災害支援は最終的に地域資源でできることにとどめる
 F 治療的介入における必要性の基本原則と留意事項
  1.被災混乱・応急修復期における介入の原則と留意点 2.復旧・復興期における介入の原則と留意点 3.既存障害の悪化や合併症に対する気づきのポイントと対応 4.リハニーズに気づくポイントと関係機関との連携 5.精神障がい者を含む障がい児・者,児童・乳幼児などへの対応
 G 多職種での巡回プログラム
 H 柔軟な支援体制
 I 災害ボランティアの役割と活動
VIII.災害発生時の初期対応
 A 災害時の初動体制の集約機能
  1.各団体での災害対策本部設置後の集約 2.国・自治体との連携体制の構築
 B 急性期リハビリテーション対応
  1.急性期医療の特徴 2.急性期医療対応の原則 3.障害をもたらしうる疾病の二次的な発生:脳卒中など 4.急性疾患に伴う廃用症候群
 C 新たに発生した障害に対する急性期・回復期リハビリテーション対応
 D 患者・利用者の移送と予防的リハビリテーション対応
  1.被災に伴う医療供給体制脆弱化 2.患者の移送 3.予防的リハ対応 4.リハスタッフの充実
 E 大規模災害時における安全確保と対象者の安否確認
 F 利用者情報の管理と保存
 G 情報の収集と伝達
 H 二次災害への注意
 I 福祉避難所における看護実践のポイント
  1.「寝・食・排泄・清潔の分離」の取り組みと徹底 2.コミュニティの形成 3.精神的なケア・こころへの支援活動 4.情報共有化とチームアプローチ
 J 被災地側の災害発生時の初期対応
IX.災害復旧時の対応
 A 避難状況下における対応
  1.避難所の設置から解消までのプロセス 2.福祉避難所の役割と課題
 B 避難所における生活機能低下予防・改善
 C 仮設住宅への移行
 D 地域リハビリテーションの理念に基づいた既存サービスの補完
 E 被災地側の災害復旧時の対応
X.災害復興時(終了時)の対応
 A 各団体・支援提供側の対応
 B 被災地側の対応
XI.心理面への対応
 A 被災者への対応
  1.基本的な対応 2.災害直後にみられる反応 3.PTSDについて
 B 支援者・現地スタッフへの対応
  1.派遣前の対応 2.派遣中の対応 3.派遣後の対応 4.現地スタッフ
XII.国際協力
 A 地域リハビリテーション(CBR)の国際動向
 B 災害リハビリテーション支援の国際動向
  1.大規模災害における国際団体の関わり 2.クラスターアプローチ 3.ジャワ島中部地震の場合
 C 支援の提供
 D 支援の受け入れ
XIII.情報管理・収集・発信・支援
 A 各団体が提供すべき情報:会員安否,災害支援の動向など
 B 国・自治体・警察・消防・日本赤十字社等の防災・支援関連情報
 C ITセキュリティ
 D コミュニケーション手段・情報ツール
 E 情報発信:広報,メディア対応,声明,要望など
XIV.評価(アセスメント)
 A 支援活動をめぐる評価
  1.評価の目的と意義 2.評価方法・評価ツール 3.生活ニーズとその周辺
 B 支援活動の評価
  1.評価の目的・意義 2.評価方法・評価ツール 3.派遣結果の評価 4.データ収集
XV.関係団体・行政等との連携
 A 自治体・国との連携
  1.国の防災体制 2.自治体の防災体制 3.ボランティア活動等
 B 支援活動における関係機関との調整
 C 効果的支援のための国との調整・交渉
XVI.災害支援に関わる倫理的問題
 A 支援者としての心構え
  1.災害ボランティア 2.専門職集団による災害支援 3.専門職に求められる支援活動
 B データ収集・研究における倫理的問題
  1.大災害時におけるリハ活動 2.学術的研究の前提条件 3.情報収集における倫理的側面を踏まえた諸課題 4.臨床研究の意義
XVII.資料
 A 災害関係法規・各種規定
 B 自治体・国との連携:対応できる諸機関の窓口一覧
 C 東日本大震災を契機につくられた仕組み
 D 対応チェックリスト
 E フローチャート
 F 各種評価表
  1.機能評価について 2.廃用症候群を予防するための評価について
 G 研究報告
  1.災害関連文献 2.文献検索・入手に便利なサイト(国内文献) 3.東日本大震災関連の和文文献 4.海外へ発信した東日本大震災関連文献
 H 各種マニュアル,パンフレットについて

 索引
 ダイジェスト版『大規模災害リハビリテーション対応マニュアル』(災害発生時〜数日)……巻末