やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
こういう人に読んでほしい
 この本を手にとってくださって,本当にありがとうございます.本書は,言語,聴覚,コミュニケーション,発達,摂食・嚥下などの障害に対応するリハビリテーション専門職である,言語聴覚士について理解していただくための本です.主な読者として,言語聴覚士を目指して勉強中の学生の皆さん,すでにライセンス(国家資格)を取得し,臨床現場で働き始めたばかりの新人言語聴覚士や,比較的経験年数の短い現役言語聴覚士の皆さんを想定しています.また,将来の進路を検討中の中学生・高校生の皆さん,やはり将来の進路や転職のことを検討中の大学生や社会人の皆さんにもぜひご一読いただきたい内容となっています.
どういう思いで企画したのか
 まず,言語聴覚士の仕事を正しく理解していただきたい,興味深くやりがいのある仕事であることを知っていただきたい,そして,言語聴覚士として優秀な人材に育っていただきたい,長く言語聴覚療法に携わり続けていただきたい,という思いで本書を制作しました.
内容紹介
 本書「PARTI」の「1章 私の仕事―言語聴覚士とはこんな仕事―」では,比較的経験年数の短い人からベテランと称される人まで,11名の現役言語聴覚士が様々な立場や視点から「私の仕事」について語っています.したがって,専攻学生や進路を検討している方にとって貴重な情報であるのはもちろんのこと,日々の仕事に疑問を感じたり悩んだりしている現役の言語聴覚士の方にとっても,自分の考えを整理したり,新たな価値観を見出したりするきっかけになり得るものです.
 「PARTI」の「2章 言語って何だ」では,言語および言語発達に関する基礎知識を解説しています.この内容を十分に理解してから,次の「PARTII」をお読みいただきたいと思います.できれば,「PARTII」を読んだ後にもう一度「2章 言語って何だ」を読み返して,よりいっそう理解を深めるようにしてください.
 「PARTII」の「1章 言語について理解するための様々な関連事項」は,言語聴覚士を目指した専門的な学習の超入門編,超基礎編という位置づけです.専攻学生の皆さんにとっては,多くの難解な専門書を使いこなすことがどうしても必要となるのですが,そのための基礎知識となるものです.専攻学生以外の方にとっては,言語聴覚士の仕事について正しく理解できて,自分が進むべき進路として判断することができるような情報提供に努めました.いずれの場合も,「PARTI」の「2章 言語って何だ」とともに,繰り返し読んでいただくと効果的です.
 「PARTII」の「2章 言語聴覚士になるためには」は,なぜ言語聴覚士が国家資格なのかということや,その制度の概要,免許の取得方法などについて具体的に紹介しています.
 「PARTIII」として,「1.専門書以外の本から学ぶ」では,難解な専門書ではない一般の本について,「2.映像から学ぶ」では映画(DVD)について,言語聴覚療法や関連領域への理解を深めてくれるお薦めの作品を紹介しています.
 これらの本や映画は,広い意味では言語聴覚療法に何らかの接点をもつものですが,まずは理屈抜きで作品そのものを楽しんでいただきたいというのが推薦者の思いです.
ともに頑張りましょう
 皆さんには,言語聴覚士について正しく理解し,自ら目指す自分の仕事としてとらえ,十分に納得し覚悟を決めたうえで,言語聴覚士を目指すための専門的な学習に取り組んでいただければと思います.あるいは,日々の臨床活動や自らのレベルアップに対して,より意欲的に取り組んでいただければと思います.
 言語聴覚士に限らず,どの仕事でも同じことですが,これ以上の努力は不要というような意味でのゴールなどあり得ません.悲壮感を伴う「頑張り」ではなく,本来の率直な意味においてともに頑張りましょう.そして,言語聴覚士としてますます社会に貢献できるように,粘り強くともに努力を続けていきましょう.
 なお,本書で用いた用語につき付記します.
 1 「障害」という表記に代わって,近年は「障がい」「障碍」などがよく用いられるようになってきましたが,医学用語としては現在も「障害」が一般的です.本書は,言語聴覚士を目指している方やこれから目指そうとしている方,あるいは現役の言語聴覚士の方などを主な読者と想定していますので,専門用語は専門用語として一般的な表記を用いる必要があると判断し,「障害」と表記しています.
 2 「聞く」と「聴く」は,基本的には「聴く」で統一し,生活場面やコミュニケーション場面での全般的な行動の記述についてのみ「聞く」を用いています.
 3 「ことば」と「言葉」は,言語聴覚療法に関連する文章では「ことば」に統一しています.
 2010年5月31日
 山田弘幸
PARTI
1章 私の仕事―言語聴覚士とはこんな仕事―
 「たった一人の不安」からスタートして
  1.初めて現場に出て
  2.多職種による“嚥下障害”の臨床では
  3.急性期病院の醍醐味
  4.一人で悩まずに
 子どもたちの笑顔のために!!
  1.はじめに
  2.大学生から院生時代
   (1)辛いけれど楽しかった臨床実習
   (2)研究の楽しさを知った院生時代
   (3)学会発表を経験して
   (4)大学以外も学びの場
  3. 臨床に明け暮れた3年間
   (1)“重症心身障害”の患者様と接して
   (2)やっぱり臨床って楽しい!
  4.養成校の教員として
  5.最後に
 子どもと保護者から学んだこと
  1.言語聴覚士を目指したきっかけ
  2.現場にて―「経験=実績ではない」
  3.言語聴覚士としての醍醐味
 新しいことへの挑戦
  1.言語療法士との出会い
  2.講義について
  3.見学実習・長期臨床実習
  4.臨床現場にて
   (1)言語療法士としての責任感
   (2)先輩から教えを乞う
   (3)言語聴覚士としてのことばの重み
   (4)臨床家にとっての学会活動の意義
  5.大学院で学ぶ意義
  6.社会貢献
 子どもの臨床に携わって
  1.STを志した頃,そして挫折しかけた頃
  2.私の仕事
  3.学び続けること
  4.STとして,母親として
 work-life integration
  1.新人時代〜高齢者医療施設で働き始めた頃〜
  2.中堅時代〜言語聴覚士の仕事を始め,国家試験を受験した頃〜
  3.work-life integration
 じっくりふくらむ大きな魅力
  1.学校での学びが職業に直結する魅力
  2.私の一日,言語聴覚士の魅力
  3.摂食・嚥下障害との出会い
  4.言語聴覚士との出会いから就職まで
  5.言語聴覚士は「こんなこともできる!」
 言語聴覚士を目指し始めた頃からのこと
  1.はじめに
  2.養成課程に入学するまで
  3.養成課程での1年間
  4.北九州市立総合療育センターでの臨床経験
 生まれたその日に会いに行きます
  1.見えにくい仕事
  2.言語聴覚士はこんなことをしています
  3.口唇口蓋裂のこと
  4.家族カウンセリング
 非常勤STとして支援をつなぐ
  1.神出鬼没と言いますか…
  2.「子どものST」ということ
  3.非常勤で働いてきて…地域の支援ネットワークの底力
  4.生活を見る,地域を耕す視点をもって
  5.生活を流れのなかで見る――ジェネラリストのスゴさを思い知る
  6.そして保護者との連携・協働
 療育センターの仕事を通して
  1.私の職場
  2.日々の臨床
  3.多様なアプローチ
   (1)医師による障害告知後の子どもと家族への支援
   (2)家族会とピアカウンセラーの組織化
   (3)通園施設への支援
   (4)学校への支援
  4.これからの言語聴覚士
2章 言語って何だ
 1 話しことば(音声言語)と書きことば(文字言語)
  1.言語とは?
  2.言語とは記号システムである
  3.話しことば(音声言語)と書きことば(文字言語)
 2 言語の二側面(理解と表出)
  1.言語機能からみた2つの側面
  2.スピーチ・チェイン(話しことばの鎖)の図式
  3.スピーチ・チェインの図式が意味するもの
  4.フィードバックの環(自己音声フィードバック・ループ)
  5.言語機能についてのまとめ
 3 言語能力の獲得と発達
  1.言語聴覚士は発達にも関わる仕事
  2.母語(第一言語)の獲得
  3.言語発達
  4.言語発達の評価
  5.評価,検査,測定
PARTII
1章 言語について理解するための様々な関連事項
 1 見ること,聴くこと
  1.感覚・知覚・認知
  2.視覚系
  3.聴覚系
  4.見ること・聴くことと言語との関係
 2 コミュニケーションとは
  1.コミュニケーションとは
  2.コミュニケーション障害とは
  3.言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーション
 3 声を出す,発音する
  1.はじめに
  2.思いや考えが伝わる過程
  3.実際に話すまでの準備
  4.声が出る仕組み(発声発語器官の概要)
  5.気道とは? 喉頭とは?
  6.口は一階,鼻は二階
  7.軟口蓋の機能
  8.下顎,舌,口唇
  9.声が出る仕組みは,どうやって出来上がる? 生まれたときからあるの?
 4 注意する,覚える,理解する
  1.高次脳機能と私たちの生活
  2.注意(集中しているか)
  3.記憶(覚える・思い出す)
  4.言語(聴いて理解する)
  5.まとめ
 5 子どもの成長と発達
  1.成長と発達の段階
  2.スキャモンの成長曲線
  3.前言語期のコミュニケーションの発達
  4.こころ(推論能力)の発達
   (1)認知的制約
   (2)会話における推論
  5.ひとについて学ぶ
 6 食べる,飲み込むがなぜ言語聴覚士の仕事に関わるのか
  1.言語聴覚士と摂食・嚥下障害
  2.摂食・嚥下の生理機構と発声・構音の生理機構
  3.障害状況と言語聴覚士の役割
   (1)認知期の機能とその障害への対応
   (2)急性期から維持期のリハビリテーション
  4.発達期のアプローチ
   (1)摂食機能の発達
   (2)発達障害による摂食・嚥下障害
   (3)発達過程へのアプローチ――言語聴覚士の関わり
  5.今後のリハビリテーションの展望のなかの位置づけ
2章 言語聴覚士になるためには
 1 言語聴覚士は国家資格
  1.なぜ国家資格なのだろう?
  2.言語聴覚士の国家資格制度が創設されるまで
  3.言語聴覚士国家試験の現状
  4.資格をとることが,なぜこんなに難しいのか?
 2 言語聴覚士になるためにどんな勉強が必要か?
  1.養成課程を卒業しなければ,国家試験を受験できない
  2.言語聴覚士の養成カリキュラム
  3.言語聴覚士の仕事は理系?文系?
  4.言語聴覚士国家試験の試験問題
  5.『言語聴覚士国家試験出題基準』
  6.どのように勉強に取り組むべきか
  7.言語聴覚士養成課程での学生生活
  8.専門書をどう使いこなすのか?
  9.ノートとポイント集
  10.ポイント集のつくり方
  11.ポイント集は一生もの
PARTIII
 1 専門書以外の本から学ぶ
 2 映像から学ぶ

 索引