やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 日本で初めて義肢装具士養成教育(3年過程)が,国立身体障害者リハビリテーションセンター学院において開始されてすでに25年以上が経過している.その間,義肢装具士法の制定,私立養成校の設立,日本義肢装具士協会の発足等がなされ,3,300名を超える義肢装具士が誕生してきた.当初,義肢と装具の製作・適合技術に重点がおかれていた教育内容も,リハビリテーションスタッフの一員としての役割理解や,利用者や患者の生活全般の支援の重要性が認識され始めてきた.また,義肢装具士養成校の増加に伴い,養成校間の教育内容の統一に関する議論が長年にわたり行われてきている.
 超高齢社会を迎えた今日,義肢装具士には,機器を身体に適合させる専門職として,高齢者や障害者への福祉用具を用いた生活支援に大いに期待が寄せられている.わが国で,義肢・装具の製作適合に関する書籍は存在するものの,義肢装具学をはじめて学ぶ初学者のための「総論」の書は存在しない.そのため,義肢装具に関する個々の知識の取得はできても,臨床場面を想定した義肢装具の役割や支援方法についての理解は容易ではない.
 そのようななかで,義肢装具教育に役立つ総論書作成作業部会が日本義肢装具士協会の高橋啓次前会長のもと設立された.義肢装具総論書の必要性については,日本義肢装具教育者連絡協議会(以下,協議会)においても長年にわたり検討が行われてきたものの具体的方向性がみえないままであった.そこで,当時の協議会会長・小峯敏文氏の協力を得て,協議会の意向を交えながらの本書の作製作業が開始された.
 本書では,義肢装具を単体として学ぶのではなく,それを必要とする人人を具体的に理解し,臨床場面で義肢装具がどのように用いられているのかを把握して欲しかった.そのため第1章では,義肢装具を必要とする人人について解説を行い,第2章では5つの具体的事例を示し臨床のなかで義肢装具がどのように用いられるのかを解説するとともに,専門職として必要な知識について整理を行った.第3章から第6章では,第7章以降の各論の内容を理解するうえで必要となる基礎項目を取り上げた.第9章と第10章では,義肢装具以外の福祉用具について取り上げ,機器を身体に適合させることの重要性と難しさを解説した.
 編者としては,義肢装具を初めて学ぶセラピストや福祉専門職にとっても,基本的理解を得るうえでの近道となる書の作成に心がけた.さらに,読者が理解しやすいように,全体的にイラストによる図を多用するなどの工夫を凝らした.このため各執筆者の方々には,多くの注文をお願いし,何度となく書き直しも行っていただいた.ここに各執筆者の多大なるご協力に心から感謝したい.
 本書は,企画開始から刊行まで約5年の年月を要したが,具体的出版に向けて検討を重ねるなかで,幸いにも医歯薬出版(株)の協力を得て刊行の運びとなった.この間,多くの方々のご協力を得ながら今日に至った.なかでも,専門学校日本聴能言語福祉学院の青山孝前学科長をはじめ学院スタッフの方々には,企画当初の段階から多大なるご協力を得た.また,本企画は協議会との連携により進められてきたものであり,中川三吉会長をはじめ,協議会関係者のご協力に深くお礼を申し上げたい.
 義肢装具は,人々の生活を機器で代用する適合技術の究極であると考える.本書は,義肢装具とそれを必要とする人々について学ぶうえでの足がかりであり,適合(身体・生活)の視点からの活用を期待したい.本書が義肢装具を必要とする方々に何らかの福音をもたらすことを祈願して序文とする.
 2008年3月
 関川伸哉
 序文
第1章 福祉用具と義肢・装具
 1.障害を有する人々
  1)肢体不自由に関する障害者
  2)視覚障害者
  3)聴覚障害者
  4)言語障害者
  5)内部障害者
 2.障害をもつ人々を支える福祉用具
  1)肢体不自由に関する障害者と福祉用具
  2)視覚障害者と福祉用具
  3)聴覚障害者と福祉用具
  4)言語障害者と福祉用具
  5)内部障害者と福祉用具
 3.福祉用具と義肢・装具
第2章 義肢・装具のケースファイル
 ケースファイル1 外傷による切断受傷から社会復帰までの過程
  1.対象者紹介
  2.医学的治療(切断に至るまで)
  3.リハビリテーション
   1)心理的リハビリテーション
   2)医学的リハビリテーション
    (1)義足装着前訓練 (2)仮義足の処方 (3)義足装着訓練 (4)義足歩行訓練
   3)社会的リハビリテーション
    (1)自動車改造と運転免許 (2)経済保障 (3)本義足の支給 (4)その他
 ケースファイル2 糖尿病による切断―切断から社会復帰までの過程
  1.対象者紹介
  2.医学的治療(切断に至るまで)
  3.リハビリテーション
   1)心理的リハビリテーション
   2)医学的リハビリテーション
    (1)義足装着前訓練 (2)仮義足の処方 (3)義足装着訓練 (4)義足歩行訓練
   3)社会的リハビリテーション
    (1)本義足の支給
 ケースファイル3 脳血管障害―脳梗塞発症から社会復帰までの過程
  1.対象者紹介
  2.医学的治療(リハビリテーション開始まで)
  3.回復期リハビリテーション
   1)機能障害に対する評価
    (1)理学療法評価 (2)作業療法評価
   2)能力低下に対する評価
    (1)座位,立位バランス (2)歩行評価
   3)治療用装具の採型と製作
   4)治療用装具の適合と歩行評価
   5)歩行訓練
  4.慢性期リハビリテーション
   1)退院に向けて
   2)更生用装具の製作
   3)社会復帰
 ケースファイル4 高齢に伴う身体機能の低下高齢に伴う身体機能の低下が日常生活に及ぼす影響
  1.対象者紹介
  2.受傷から入院まで
  3.医学的治療
  4.リハビリテーション
   1)心理的リハビリテーション
   2)医学的リハビリテーション
    (1)筋力増強訓練の開始 (2)膝装具の処方と適合
   3)社会的リハビリテーション
    (1)介護保険の活用 (2)住宅改修と福祉用具 (3)退院に向けて
  5.退院後
   1)加齢・既往による身体状況の変化
   2)歩行器の検討
   3)車いすの検討
 ケースファイル5 脳性麻痺ライフサイクルをとおしての支援
  1.対象者紹介
  2.新生児期・乳児期
   1)診断に至るまで
   2)母子入園
   3)通 園
  3.幼児期
   1)訓練
    (1)座位 (2)立位・歩行 (3)移動
   2)観血的療法
  4.学齢期
   1)小学校
   2)中学校
  5.青年期
   1)高等学校
   2)大学
   3)就職
   4)職場環境
第3章 障害と義肢・装具
 1.障害者と義肢・装具の歴史,「義肢装具士法」の成立
  1)黎明期より中世,近世にかけて
  2)「身体障害者福祉法」の制定
  3)「義肢装具士法」の制定
 2.医療分野における義肢・装具スタッフの役割
  1)義肢装具士
  2)医 師
  3)看護師
  4)セラピスト(理学療法士/作業療法士)
  5)リハビリテーションエンジニア
 3.福祉分野における義肢装具士の役割
第4章 義肢・装具の基礎力学
 1.重心と安定性
  1)力学的安定
  2)バランス
  3)慣性モーメントの影響
 2.慣性と慣性モーメント
  1)慣 性
  2)慣性力
  3)慣性と慣性モーメントの関係
 3.力
  1)運動方程式
  2)作用・反作用の法則
  3)立位中における反力
 4.モーメント
  1)モーメント
  2)関節モーメント
第5章 義肢・装具の基礎運動学
 1.身体運動の基準面
  1)基本肢位
  2)基本面
 2.身体部位の表現
 3.関節運動の表現
  1)関節の種類
   (1)球関節 (2)蝶番関節 (3)楕円関節 (4)鞍関節 (5)車軸関節 (6)その他の関節
  2)関節運動の表現
   (1)屈曲と伸展 (2)外転と内転 (3)外旋と内旋 (4)回外と回内 (5)側屈 (6)橈屈と尺屈 (7)外がえしと内がえし
 4.上肢の機能
  1)手の運動機能
   (1)つかみ (2)つまみ (3)握り (4)ひっかけ握り,鉤さげ
  2)上肢の運動機能
   (1)肩関節 (2)肘関節 (3)前腕関節 (4)手関節
 5.下肢の機能
  1)歩行に関する用語
   (1)時間的因子 (2)距離的因子 (3)歩行速度と歩行率
  2)歩行中の関節角度の変化
   (1)中足趾節(MP)関節 (2)距骨下関節 (3)距腿関節 (4)膝関節 (5)股関節
  3)歩行中の重心の移動
   (1)左右移動 (2)上下移動 (3)前額面での重心の軌跡
  4)効率的な歩行に関連する因子
   (1)骨盤の回旋 (2)骨盤の傾斜 (3)立脚期での膝関節の屈曲 (4)足関節と膝関節の関連運動 (5)骨盤の側方移動
第6章 義肢・装具製作工程と材料の種類
 1.義肢・装具の製作工程
  1)製作工程の概要
   (1)採型・採寸 (2)陽性モデル製作・修正 (3)成形・加工・組み立て (4)仮合わせ・仕上げ
  2)装具製作工程の一例(プラスチック製短下肢装具)
   (1)採型 (2)陽性モデル製作および修正 (3)プラスチック成形および加工 (4)仮合わせ・仕上げ
  3)義肢製作工程の一例(骨格構造PTB式下腿義足)
   (1)採型および陽性モデル製作 (2)ソフトインサート製作 (3)ソケット製作 (4)組み立て (5)仮合わせ・仕上げ
  4)採寸による装具の製作工程(両側支柱付短下肢装具)
   (1)採寸およびトレース (2)装具の設計 (3)製作工程
 2.義肢に用いられる構成部品と材料
  1)義足に用いられる構成部品と材料
   (1)ソケット (2)インナーソケット(ソフトインサート/ライナー) (3)足部 (4)膝継手・股継手 (5)支持部 (6)連結部品 (7)懸垂装置 (8)外装材
  2)義手に用いられる構成部品と材料
   (1)ソケット (2)支持部 (3)手先具 (4)手継手 (5)肘継手 (6)ハーネスおよびコントロールケーブルシステム (7)筋電義手 (8)骨格構造義手
 3.装具に用いられる構成部品と材料
  1)金属製装具
  2)プラスチック製装具
  3)金属とプラスチックの併用型装具
  4)軟性素材の装具
  5)装具に用いられる部品
   (1)足板(あぶみ) (2)プラスチック製短下肢装具における足継手 (3)膝継手 (4)股継手 (5)その他
  6)義肢・装具に用いられる金具類
 4.義肢・装具に用いられる材料の特性
  1)金属
  2)プラスチック
   (1)熱可塑性プラスチック (2)熱硬化性プラスチック (3)繊維強化プラスチック
  3)木材
  4)皮革
   (1)天然皮革 (2)合成皮革
  5)繊維
  6)石膏
第7章 義肢
 1.義肢の構成要素
  1)ソケット
  2)支持部
  3)ターミナルデバイス
 2.義肢と人の機能
 3.切断部位と義肢
  1)上肢の切断部位
  2)義手の名称
  3)下肢の切断部位
  4)義足の名称
 4.義肢の分類
  1)構造による分類
  2)機能による分類
  3)装着時期による分類
 5.ソケット
  1)体重支持による分類
   (1)全面接触式ソケット (2)差し込み式ソケット
  2)懸垂機能による分類
   (1)吸着式ソケット (2)顆上支持式ソケット
 6.義足
  1)下腿義足
  2)大腿義足
  3)股義足
  4)その他の義足
 7.義手
  1)前腕義手
  2)上腕義手
  3)肩義手
  4)その他の義手
  5)筋電義手
 8.さまざまな切断者と義肢
  1)小児切断
  2)神経学的疾患(脳卒中)
  3)感覚障害(視覚,言語,聴覚障害)
  4)精神疾患
  5)女性と義肢
  6)障害者スポーツと義肢
第8章 装具
 1.装具の定義
 2.装具の分類
  1)AAOSによる分類
   (1)体幹装具 (2)上肢装具 (3)下肢装具
  2)使用目的による分類
  3)その他の分類
 3.体幹装具
  1)頸椎装具
  2)腰仙椎装具
  3)胸腰仙椎装具
  4)側彎症用装具(頸胸腰仙椎装具)
 4.上肢装具
  1)肩外転装具(機能的上肢装具)
  2)機能的骨折治療用装具
  3)手関節装具
  4)指装具
 5.下肢装具
  1)足底装具
  2)短下肢装具
  3)膝装具
  4)長下肢装具
第9章 座位および移動機器
 1.車いす
  1)車いすの分類
   (1)普通型車いす (2)リクライニング式普通型車いす (3)手動リフト式普通型車いす (4)前方大車輪型車いす (5)リクライニング式前方大車輪型車いす (6)片手駆動型車いす (7)リクライニング式片手駆動型車いす (8)手動チェーン型車いす (9)リクライニング式手動チェーン型車いす (10)レバー駆動型車いす (11)手押し型車いす (12)リクライニング式手押し型車いす
  2)車いすの基本構造
  3)車いすの適合-身体計測
   (1)体 重 (2)身長・座位頭頂高 (3)座位肩甲骨下角高 (4)座位肘頭高 (5)座位大腿厚 (6)座位下腿長 (7)座底長 (8)座位殿幅
  4)車いす基本寸法
   (1)寸法基準点 (2)アームサポート高 (3)シート幅 (4)シート奥行 (5)前座高 (6)後座高 (7)バックサポート高 (8)ハンドリム取り付け間隔 (9)フットサポート・シート間距離 (10)手押しハンドル高
 2.電動車いす
  1)電動車いすの基本構造
   (1)充電器 (2)バッテリー (3)クラッチ (4)コントロールボックス (5)ジョイスティック
  2)電動車いすの種類
   (1)普通型電動車いす (2)手動兼用電動車いす (3)リクライニング型電動車いす (4)電動リクライニング式普通型電動車いす (5)電動リフト式普通型電動車いす (6)スクーター型電動車いす
 3.姿勢保持装置
  1)座位保持装置
   (1)座位保持装置の意義と目的 (2)座位保持装置の構造と種類
  2)その他の姿勢保持装置
   (1)立位保持装置 (2)臥位保持装置
 4.移乗機器
  1)移乗方法に合わせた移乗機器
   (1)立位移乗 (2)座位移乗
第10章 生活支援と福祉用具
 1.杖
  1)松葉杖
  2)前腕固定型杖
  3)多点杖
  4)一本杖
  5)杖先ゴム(付属品)
 2.歩行器および歩行車
  1)歩行器
   (1)固定型歩行器 (2)交互型歩行器 (3)前輪付歩行器
  2)歩行車
   (1)3輪型歩行車 (2)4輪型歩行車 (3)椅子付歩行車 (4)シルバーカー
 3.特殊寝台
  1)ギャッジベッド
   (1)背上げ機能 (2)高さ調整機能 (3)ボトム
  2)ベッド周辺機器
   (1)サイドレール (2)移動用バー (3)テーブル
  3)マットレス
   (1)エアマットレス (2)ウォーターマットレス (3)ウレタンマットレス (4)ゲルマットレス
  4)体位変換用具
 4.排泄関連用具
  1)下着
   (1)おむつ介助用肌着 (2)トイレ用肌着 (3)尿便器用肌着
  2)トイレ用具
   (1)ポータブルトイレ (2)差し込み便器 (3)補高便座 (4)立ち上がり補助便座 (5)トイレ用簡易手すり (6)トイレットペーパーホルダー
  3)ストーマ用具
   (1)パウチ (2)ストーマ関連用具
  4)採尿器および集尿器
   (1)採尿器 (2)集尿器
  5)おむつ用品
   (1)布おむつ (2)紙おむつ (3)おむつの形状 (4)おむつパット
 5.ホイスト(リフト)と吊り具
  1)ホイスト(リフト)
   (1)床走行型ホイスト (2)天井走行型ホイスト (3)設置型ホイスト (4)据置型ホイスト
  2)吊り具
 6.コミュニケーションエイド
  1)視覚障害者のコミュニケーションエイド
  2)聴覚障害者のコミュニケーションエイド
  3)肢体不自由者のコミュニケーションエイド
   (1)携帯用会話補助装置 (2)重度障害者用意思伝達装置
 7.環境制御装置
 8.住宅改修
  1)家屋内移動のための改修
  2)排泄・入浴のための改修
   (1)排泄 (2)入浴 (3)その他
  3)障害と住宅改修例
   (1)脊髄損傷(対麻痺) (2)関節リウマチ (3)片麻痺
 9.人工補綴

 索引