やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 上肢の「スプリント」といえば,ハンドセラピィの分野で作製経験の豊富なハンドセラピストによって自作される治療用装具,という印象をお持ちのかたも少なくあるまい.本来,スプリントは治療のためだけではなく,障害を有する人たちの日常生活動作や生活関連動作を容易にし,ひいてはQOLを向上させ得るものであるから,その適応はきわめて広く,リハビリテーションに従事するものにとって,もっと身近なツールであるはずである.しかし,現実にはスプリントの作製経験を有する作業療法士は意外に少なく,教育の現場でも学生がその作製方法を充分に学ぶ機会は乏しいと聞く.
 近年,わが国では高齢社会の到来に伴い,リハビリテーションに対するニーズが高まり,セラピスト数の充足のみならず,技能の向上が併せ求められるようになってきた.今後,多くの作業療法士にとって,基本的なスプリントならば,義肢装具士やハンドセラピストに委ねることなく,即座に作製できることがひとつのアドバンテージとなるであろう.
 このような状況に対応すべく,スプリントの作製経験の少ない作業療法士にとって比較的容易に取り組むことができる基本的なスプリントを取り上げてみた.いずれも一般の作業療法士にとってきわめて応用範囲の広いものであり,その作製方法を写真中心にわかりやすく解説した.本書を手にとれば一目瞭然なので,あえて詳細は述べないが,ほかにもさまざまな工夫がなされている.なお,本書はスプリント作製のための「実用書」であり,参考文献などは掲載しなかったため,詳細については原著や成書,総説を参考にしていただきたい.
 執筆陣は,いずれも当科で数多くのスプリント作製に携わってきた作業療法士諸兄である.彼らは長年にわたりハンドセラピィの分野で各種の動的/静的スプリントの作製を手掛けてきており,今回そのノウハウを多くの作業療法士や学生,他のリハビリテーション関連職種にできるだけわかりやすくお伝えするようお願いした.
 本書で取り上げた8種類のスプリントは,リハビリテーションの急性期〜回復期〜維持期〜終末期のいずれにおいても幅広く役立つ基本的なものばかりであるが,読者が活躍されている現場で個々のニーズに応じた工夫や改良を加えられ,さらに発展したスプリントを作製していただければ幸いである.もちろん,作製にあたっては,必ず医師の指示処方と適合判定を受けていただきたい.
 最後に,本書の執筆と編集にあたり,終始献身的な協力を惜しまれなかった作業療法士の野上真弓,大坪健一,西川佳奈の各氏に深謝するとともに,本書の企画から出版に至るまで,無理難題を快くお引き受けいただき,多大なご尽力を賜った医歯薬出版株式会社の塚本あさ子氏ほか関係各位に心から感謝したい.
 2007年10月8日
 大阪医科大学附属病院リハビリテーション科
 山口 淳
 はじめに
1.背側型コックアップスプリント(背側型手関節背屈保持副子)
2.掌側型コックアップスプリント(掌側型手関節背屈保持副子)
3.全周型コックアップスプリント(全周型手関節背屈保持副子)
4.短母指対立スプリント
5.長母指対立スプリント
6.ウェブスペーサー
7.良肢位保持スプリント
8.リングスプリント

 失敗例から学ぼう!よくある失敗例
 Q&A
 スプリントの材料
 型紙見本