やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 日本リハビリテーション栄養研究会として初めての書籍を,医歯薬出版株式会社から出版させていただくことになりました.2013年と2014年の日本静脈経腸栄養学会学術集会で,リハと栄養に関するシンポジウムが開催されるなど,リハ栄養という言葉の認知度は上昇しつつあります.
 しかし,リハ栄養の実践は言葉ほど広がっていません.その原因の1つとして,リハ栄養の研究やエビデンスが少なく,リハ栄養のガイドラインが存在していないことがあります.今後,日本リハビリテーション栄養研究会などでリハ栄養の研究を推進し,5年以内にはリハ栄養のガイドラインを作成したいと考えています.
 別の原因として,臨床現場でどのようにリハ栄養を実践したらよいかがわからないということがあります.リハ栄養に先駆的に取り組んでいる病院・施設・在宅はあります.しかし,どこの病院・施設・在宅でリハ栄養に取り組んでいるかを把握できていないため,見学してリハ栄養の取り組みを学ぶことが現状では困難です.また,病院・施設・在宅で,リハ栄養のチーム医療の最適な進め方は異なります.
 そこで,急性期病院,回復期リハ病院,施設,在宅別に,臨床現場でどのようにリハ栄養を実践すればよいかという書籍を企画しました.病院・施設・在宅において,具体的にリハ栄養にどう取り組めばよいのか,リハ栄養の実践でどんな変化や効果を期待できるのかを,先駆的にリハ栄養に取り組んでいる方々に執筆を依頼しました.大変お忙しい中,引き受けてくださった執筆者の皆様に深謝いたします.リハ栄養実践のあるべき姿が明確になりました.
 日本リハビリテーション栄養研究会(https://sites.google.com/site/rehabnutrition/)の会員数は,2014年7月時点で3,700人と増加しました.しかし,1つの病院・施設・在宅でリハ栄養に関心のある人は少数です.栄養に関心のないPT・OT・STや,リハに関心のない管理栄養士,栄養にもリハにも関心のない医師・歯科医師・看護師・薬剤師・歯科衛生士は少なくありません.「リハに口を出すな」「栄養管理に口を出すな」というチーム医療の妨げとなる医療人もいます.このようななかでリハ栄養を実践すると,職種の高い壁に衝突します.
 この場合,まずは病院・施設・在宅において2職種以上でリハ栄養を話し合える機会と仲間をつくることを,私はお勧めします.この書籍を読んで真似できそうな部分がありましたら,明日から真似をして実践していただければと思います.所属する病院・施設・在宅でリハ栄養に関心のある方がいない場合には,日本リハビリテーション栄養研究会が企画する学術集会や研修会にご参加ください.リハ栄養について話し合うことで,実践のヒントが見つかります.
 最後に医歯薬出版株式会社の小口真司さんには,今回も企画,執筆,編集などで大変お世話になりました.心より御礼申し上げます.
 2014年8月
 日本リハビリテーション栄養研究会 会長
 若林秀隆
第1章 リハビリテーション栄養を始めるにあたって
 リハビリテーション栄養を始めるにあたって(若林秀隆)
第2章 急性期病院でのリハビリテーション栄養の実践
 急性期病院でのリハビリテーション栄養:オーバービュー(吉田貞夫)
  実践紹介1:近森病院(1)
   急性期病院におけるアウトカムの出るリハビリテーション栄養(近森正幸)
  実践紹介2:近森病院(2)
   近森病院におけるNSTの構築とリハビリテーションの協働そしてアウトカム(宮澤 靖)
  実践紹介3:近森病院(3)
   近森病院におけるリハビリテーション提供体制─栄養状態とリハのアウトカムとの関連性(前田秀博)
  実践紹介4:東名厚木病院
   早期経口摂取開始と経口栄養を主軸としたリハビリテーション栄養(小山珠美)
  実践紹介5:横浜市立脳血管医療センター
   集中治療室から「その人らしく治る過程」を支える限られたリソースのなかでの実践(熊谷直子)
第3章 回復期リハビリテーション病棟でのリハビリテーション栄養の実践
 回復期リハビリテーション病棟でのリハビリテーション栄養:オーバービュー(吉村芳弘)
  実践紹介1:熊本リハビリテーション病院(1)
   回復期リハ病棟における早期ADL自立をアウトカムとした集団起立訓練とリハ栄養マネジメントの挑戦(吉村芳弘・槌田義美・他)
  実践紹介2:熊本リハビリテーション病院(2)
   回復期リハビリテーション病棟における入院時口腔機能スクリーニングから摂食機能訓練への多職種協働「口から食べる」プロジェクト(齊藤智子・辻 友里・他)
  実践紹介3:長崎リハビリテーション病院
   病棟専従多職種によるチーム医療の実践とリハ栄養サポート─「リハからみた栄養」を出発点として(西岡心大・西岡絵美・他)
  実践紹介4:小倉リハビリテーション病院
   臨床サービス部とNSTによる入院から退院までのリハ栄養トータルマネジメント─リハ栄養実践の第一歩(井村沙織・伊藤元貴・徳永武男)
第4章 施設でのリハビリテーション栄養の実践
 施設でのリハビリテーション栄養:オーバービュー(藤本篤士)
  実践紹介1:鶴巻温泉病院
   療養病棟におけるリハ栄養の現状と今後の展望─生活の視点での病棟専従多職種と院内横断型組織NSTのアプローチ(ア美幸・足立雄介・他)
  実践紹介2:札幌西円山病院
   療養型病院における栄養管理の実際とリハ栄養の取り組み(阿部沙耶香・安田真紀・他)
  実践紹介3:国立重度知的障害者総合施設 のぞみの園診療所
   独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園診療所でのリハビリテーション栄養の実践(山川 治)
第5章 在宅でのリハビリテーション栄養の実践
 在宅でのリハビリテーション栄養─地域ケアをともに考え相互に高め合う仲間づくり:オーバービュー(豊田義貞)
  実践紹介1:ふれあい歯科ごとう
   口から食べられる街,新宿─新宿食支援研究会のコンセプト,ストラテジーとアンビション(五島朋幸)
  実践紹介2:愛生会山科病院
   地域でのリハ栄養モデルの作成と導入─京都府,京都市山科区での実践について(荒金英樹・松本史織・他)