やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序

 切断者のリハビリテーションには,この領域に固有の課題があり,また難しさがある.とくに後天的な場合には,身体機能というだけではなく文字通り身体の一部が失われてしまう心理・社会的な影響も大きい.さらに原疾患によっては,再発や再切断ときには死の不安を抱えて生きることになる.そのような状態にある患者さんに最良のリハビリテーションを提供していくためには,各職種がどれほど緊密にチームワークをとることができるかが重要である.そして当然のことながら,全員が切断患者さんのリハビリテーションと義足について充分に理解している必要がある.
 切断原因は外傷,悪性腫瘍,末梢循環障害に大きく分類されるが,近年の傾向としては,末梢循環障害が増加している.われわれの臨床経験でも末梢循環障害のために切断した患者さんの治療を多数経験している.これらの患者さんは高齢者であることが多く,原疾患の経過が長期にわたり,全身状態も悪化していてリハビリテーションが困難な場合も少なくない.こうした状況下にあっても最適なリハビリテーションを進めるためには,より高度な知識と技術に加えて豊富な経験が要求される.
 また一方で,スポーツや趣味活動など切断患者さんのニーズが多様化し,それに対応する義肢のパーツが数多く考案・実用化されている.近年の人間工学や材料工学の発展による義肢のパーツの進歩は目覚ましいものがあり,切断患者さんにとって正に“福音”である.しかし,それらパーツの特性や機能を活かすためには,それらを充分に引き出すための理学療法が重要であることはいうまでもない.理学療法士は,常に自らの知識や技術を高め,自分の能力不足が切断患者さんの不利益にならないように努力しなければならない.
 最近は,医療の世界でもインフォームド・コンセントが行われている.患者さんの知りたい情報をわかりやすく提供し,最良のリハビリテーションプロセスを選択してもらうためにも一層幅広く奥深い知識が必要である.医療者が切断患者さんのリハビリテーションを熟知していて,いつでもどのような疑問に対してでも適切な情報を提供できることが望まれている.そのための研鑽の一助として本書が役立つことを望んでいる.
 早いもので1987年の初版以来,14年の月日が経過した.1990年の第2版でも改訂があったが,今回の第3版は更に大幅な改訂を行った.切断原因と切断術,膝 ・ TBS ・ サイム ・ 足部義足,最新のパーツの特徴を詳細に説明した.また,上肢切断の患者さんに対する理学療法を付録として掲載した.第2版と比較して,かなりのボリュームアップとなっているが,要点がより簡潔にまとめられた構成となっているので,かえって理解しやすくなったと思われる.
 2002年2月
 細田多穂
 第3版の序……(細田多恵)
 第2版の序……(細田多恵)
 第1版の序……(竹内孝仁)
 はじめに

 1.フローチャート
 2.Question & Answer
〔下肢切断のリハビリテーションの基礎知識〕
   1.下肢切断者のリハビリテーションの目的
   2.下肢切断者のリハビリテーションにおける理学療法士の役割
   3.切断の三大原因と適応
   4.切断者と義足のかかわりあい
   5.切断者の心理状態の変化
   6.モチベーション(Motivation)の引き出し
   7.処方箋から得る重要な情報
   8.手術についての理解
   9.切断部位の名称とその選択
   10.原疾患に対する治療計画と理学療法プログラムとの関係
〔術前評価〕
   11.評価の目的
   12.評価の時期
   13.検査項目
   14.問診
   15.検査の手順
   16.身長測定
   17.体重測定
   18.下肢長測定
   19.周径測定
   20.パッチテスト(皮膚感応テスト)
   21.姿勢の分析
   22.感覚テスト
   23.問題点の整理
〔術前訓練〕
   24.術前訓練の目的
   25.筋力強化訓練
   26.関節可動域訓練
   27.松葉杖歩行,車椅子操作の指導
〔術後の断端管理〕
   28.断端の管理方法
   29.Soft dressing
   30.弾性包帯の巻き方
   31.一般的な注意事項
   32.Soft dressingの利点
   33.Soft dressingの欠点
   34.Rigid dressing
   35.Rigid dressingの装着法
   36.Rigid dressingの利点
   37.Rigid dressingの欠点
   38.Semi-Rigid dressing
   39.Unna Paste
   40.Long Leg Air Splint
   41.Controlled Environment Treatment(CET)
   42.CETシステム
   43.CETの調節方法
   44.CETの利点
   45.CETの欠点
   46.Semi-Rigid dressingの適応
   47.Semi-Rigid dressingの禁忌
   48.良肢位の指導
〔術後評価〕
   49.術後評価の項目
   50.断端の周径測定
   51.断端長の測定
   52.断端左右径の測定
   53.断端前後径の測定
   54.関節可動域の測定
   55.筋力テスト
   56.感覚機能の重要性
   57.断端の循環状態
   58.皮膚の状態
   59.断端部の疼痛
   60.幻肢,幻肢痛
〔身体障害者手帳〕
   61.身体障害者手帳の手続き
   (1) 身体障害者手帳申請の時期
   (2) 身体障害者手帳申請の取扱い窓口
   (3) 申請に必要な書類
   (4) 居住地変更手続きの方法
   (5) 身体障害者手帳再交付手続きの方法
   (6) 訓練用仮義肢
〔術後訓練〕
   62.術後訓練の目的
   63.筋力強化訓練の指導
   64.関節可動域訓練の指導
〔義足の処方〕
   65.義足の適応
   66.各切断部位に応じた義足の種類
   67.股義足
   68.大腿義足
    1)ソケット
     (1) 差しこみ式ソケット(Plug fit type)
     (2) 吸着式ソケット(Suction socket)
     (3) フレキシブルソケット(Flexible socket)
     (4) IRCソケット(IRC socket)
    2)大腿吸着式ソケットの補助的懸垂方法
    3)膝継手
    4)足継手
    5)付属品
   69.膝義足
   70.下腿義足
    1)さし込み式常用下腿義足
    2)PTB下腿義足
    3)PTES下腿義足
    4)KBM下腿義足
    5)TSB義足
   71.サイム義足
   72.足部義足
    1)単軸足部
    2)SACH足部
    3)F.J.足部
    4)エネルギー蓄積型足部
   73.義足の処方
〔仮義足〕
   74.CAD/CAM
   75.坐骨レベルでのソケットパターンの設計
   76.ギプスソケットの製作
   77.ソケット適合の考え方
   78.仮義足の給付制度
   79.仮義足の給付額
   80.ベンチ・アライメント(Bench Alignment)のチェック
〔義足装着〕
   81.義足装着方法の指導
   82.スタティック・アライメント(Static Alignment)のチェック
〔義肢装着時訓練〕
   83.義肢装着時訓練の目的
   84.左右(側方)への重心移動
   85.前後への重心移動
   86.健足を1歩前にしての重心移動
   87.義足を1歩前にしての重心移動
   88.義足での片足立ち
   89.義足の踏みきり期から立脚中期における義足の振り出し
   90.義足の接踵期から踏みきり期における健足の振り出し
   91.バランス訓練の指導
   92.切断側股屈筋群の伸張方法
〔歩行訓練〕
   93.歩行訓練
   94.歩行時義足への荷重不十分な場合
   95.歩幅のコントロール
   96.姿勢矯正しながら義足への荷重
   97.ダイナミック・アライメント(Dynamic Alignment)のチェック
〔日常生活動作(ADL)訓練〕
   98.日常生活動作訓練の意義
   99.椅子からの立ち坐り
   100.床での立ち坐り
   101.床に落ちている物を拾う
   102.排泄動作
   103.階段昇降
   104.斜面昇降
   105.障害物の乗り越え
   106.公共交通機関の利用
   107.和式生活に即した義足の組み立て
〔合併症〕
   108.義足装着後の合併症
〔本義足〕
   109.本義足の給付制度
   110.本義足給付申請に必要な書類
   111.本義足給付までの過程
   112.退院後のフォローアップ
 参考文献

付録
 I.訓練用(練習用)仮義足
  1.シリコンライナーを用いたソケット着脱式TSB訓練用(練習用)仮義足
  2.ギプスソケットによる訓練用(練習用)カナダ式股義足の製作法
  3.ギプスソケットによる訓練用(練習用)大腿吸着式義足の製作法
  4.訓練用(練習用)IRC式仮義足
  5.サーモプラスチックによる訓練用(練習用)下腿義足の製作法
   A.訓練用(練習用)PTB義足
   B.訓練用(練習用)KBM義足
   C.訓練用(練習用)PTES義足
   D.訓練用(練習用)サイム義足
 II.骨格構造義足の部品
 III.身体障害者障害程度等級表
 IV.上肢切断と義手
  1.総論
  2.義手の構成要素
  3.上肢切断のリハビリテーション
  4.義手のチェックアウト

 索引