やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 奥野恭史
 京都大学大学院医学研究科 ビッグデータ医科学分野
 製薬産業は新薬開発の難化や開発費の高騰に直面し,日本では研究開発投資の不足も重なって国際競争力の低下が懸念されている.AI(artificial intelligence;人工知能)への期待は高いものの,高品質データの不足や実装の難しさから十分に力を発揮できていないのが現状である.筆者らはこうした課題に対し,産学連携コンソーシアムLINC(Life Intelligence Consortium;ライフインテリジェンスコンソーシアム)や,日本医療研究開発機構(AMED)の産学連携による次世代創薬AI開発(DAIIA)事業を通じて連合学習体制を築いてきた.さらに,2025年度からAMED新規事業として「汎用生成AIとシミュレーションに基づく次世代創薬DXプラットフォームの構築」プロジェクトを開始した.本特集は,この次世代創薬DX(digital transformation;デジタルトランスフォーメーション)の思想と構想を共有する場として企画したものである.
 目次は,創薬プロセス全体と,それを支える計算基盤技術の両面を意識して構成した.第1~6稿では,疾患予防,AI創薬,ゲノム医療,臨床データと大規模言語モデル(large language model:LLM),マルチオミクス,分子ネットワークなど,患者から細胞・分子レベルまで多層的に広がるデータを用いた標的探索のあり方を整理する.第7~10稿では,低分子,中分子,核酸,抗体というモダリティ別に,生成AIとADMET(absorption,distribution,metabolism,excretion and toxicity)予測を組み込んだ薬剤設計の方向性を示す.さらに第11・12稿では,トランスレーショナルリサーチや臨床試験において,AIがデータと創薬実務を橋渡しするための課題と実装方法を扱った.
 第13~17稿では,基盤モデル,kMoL,タンパク質言語モデル,AlphaFold・CryoTwin,シミュレーションとAI連携といった,本プロジェクトの核となる計算基盤技術を体系化し,第18稿でそれらを統合する創薬DXプラットフォームの姿を描いた.
 本特集が,日本発の創薬DXを前進させるための共通基盤となることを期待している.
 はじめに
 (奥野恭史)

疾患発症予防とAI─個別化介入に向けた現在地と展望
 (内野詠一郎)
AI創薬とデータベース
 (長尾知生子・水口賢司)
ゲノム医療からAI,そして創薬へ
 (鎌田真由美)
臨床データ起点の創薬標的探索─AIによるデータ駆動型アプローチ
 (櫻木 実)
シングルセルオミクスを用いた創薬標的推定─深層生成モデルによる細胞動態解析から創薬標的同定へ
 (島村徹平)
分子ネットワークに基づく創薬標的推定
 (玉田嘉紀)
創薬DX実現に向けた低分子創薬AIの進展と展望
 (松本篤幸・小山拓豊)
中分子創薬AIの動向と展望
 (池田和由・清水祐吾)
核酸医薬のためのアンチセンス核酸のデータベースと活性予測技術
 (千葉峻太朗)
抗体創薬AI
 (白井宏樹)
トランスレーショナルリサーチを加速化する数理モデル解析およびそれを支援するin silico技術の進展
 (前田和哉)
臨床開発におけるAI技術の活用─被験者リクルート効率化を中心に
 (岡本里香)
創薬計算技術 創薬のための分子深層学習ツールと基盤モデル
 (小島諒介)
創薬計算技術 タンパク質言語モデルと生成AI
 (齋藤 裕)
創薬計算技術 AlphaFoldとcryoTWIN
 (吉川 和・河東 孝)
創薬計算技術 分子シミュレーション
 (荒木望嗣)
創薬計算技術 分子生成AIとシミュレーションの連携
 (寺山 慧)
AIとシミュレーション技術に基づく創薬DXプラットフォームの開発
 (大塚教雄)

 次号の特集予告