やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 吉岡靖生
 がん研究会有明病院放射線治療部
 放射線療法は,がん治療の3本柱のひとつとして,近年,めざましい進化を遂げている.技術革新はハード・ソフト両面に及び,最新鋭のリニアック装置にはCTが標準搭載され,さらにはMRIとの融合も現実の選択肢となった.これにより,毎回の照射前に腫瘍位置を高精度で確認し,照射方法を柔軟に変更する“適応放射線治療”が可能となった.
 臨床応用も大きく進展している.早期肺がんに対する定位放射線治療は,手術不能例における標準治療として確立され,手術可能例でも同等の成績が報告されている.III期肺がんでは,強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy:IMRT)と同時化学療法,さらに免疫維持療法の併用により,生存期間の延長が確認されている.進行直腸がんに対する術前化学放射線療法では,一定割合で手術回避が可能となり,“non-operative management(手術回避戦略)”という新たな治療方針が注目されている.
 粒子線治療は陽子線,炭素イオン線を中心に日本が世界をリードする分野であり,適応拡大とともに一般診療への組み込みが進んでいる.さらに,放射性同位元素を抗体に結合させて投与する核医学放射線治療では,α線など強力な線源を用いた高効果が期待され,国内でも薬剤開発が活発化している.
 放射線治療はデジタルデータとの親和性が高く,AIの導入による治療の迅速化,高精度化が進むと予想される.また,放射線による免疫応答の誘導を活用した“免疫放射線療法”も新たな治療領域として注目されており,オリゴメタスタシスへの定位照射や微小腫瘍への免疫活性化などが研究されている.
 厚生労働省が2025年8月に公表した2040年予測では,放射線療法の需要は2025年比で24%増加するとされており,三大治療法のなかで最大の増加幅である.高額薬剤の代替として医療経済への貢献も期待される.本特集では,これらの最新技術とエビデンスについて,各分野の第一人者にご執筆いただいた.放射線療法の現在地と未来像を描く一助となれば幸いである.
特集 がん放射線療法─最新治療技術とエビデンス
 はじめに(吉岡靖生)
 適応放射線治療の幕開けとMRリニアック(澁谷景子)
 肺がんの高精度放射線治療(原田英幸)
 直腸がんに対するnon-operative managementの治療開発(伊藤芳紀)
 粒子線治療の現在地と今後の展望(石川 仁・森 祐太郎)
 放射性同位元素内用療法の現状と今後の期待(原田 堅・神宮啓一)
 オリゴ転移への放射線治療と免疫療法(田中秀和)
 切らない高精度放射線治療がAIでさらなる高みへ(有村秀孝・他)
 放射線治療提供体制の地域格差の現状─2040年を見据えた放射線治療集約化の観点から(齋藤正英・大西 洋)

連載
医療分野におけるブロックチェーンとNFTの活用(11)
 ヘルスケア型リビングラボにおけるNFT利活用(卯津羅泰生)

医師の働き方改革─取り組みの現状と課題(10)
 追加的健康確保措置への対応(前田嘉信)

医療における生成AIとDX(2)
 診療業務における生成AI活用の可能性─皮膚科医の視点から(大塚篤司)

特報
 第62回(2025年度)ベルツ賞受賞論文1等賞 臓器間神経ネットワークによるインスリン分泌・膵β細胞増殖制御機構の解明とインスリン分泌低下性糖尿病治療への応用(片桐秀樹・今井淳太)
 第62回(2025年度)ベルツ賞受賞論文2等賞 膵β細胞転写因子の異常によるインスリン分泌低下型糖尿病の発見とその発症機構の解明(山縣和也)

FORUM
 人間社会の未来─専門家が予見する人類の行方(6) 食文化の変容─伝統と革新の狭間で変わる食と健康(野林厚志)

 次号予告