はじめに
山﨑 聡
東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター幹細胞治療研究分野
生命の根源的な営みを支える全血液・免疫細胞を生み出す造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)の研究は,再生医療,癌治療,老化研究といった広範な生命科学領域において,常に核心的なテーマであり続けてきました.その発見から半世紀以上を経て,HSCの単離,移植技術は臨床医学に革命をもたらし,血液疾患の治療に不可欠なものとなっています.
しかし近年,HSC研究は新たなパラダイムシフトの渦中にあります.単なる細胞補充源としての理解を超え,そのニッチ(微小環境)との複雑な相互作用,エピジェネティックな制御,加齢に伴う機能変化(クローナル造血),そして疾患発症における異常性など,より深遠なメカニズムの解明が急務とされています.最先端の研究は,もはや1つの分野にとどまらず,分子生物学,細胞工学,そして最先端のゲノム解析技術が融合することで,いまだかつてないスピードで進展しています.このような状況下,本特集「造血幹細胞研究の革新と臨床応用への挑戦」は,世界の研究を牽引する著名な先生方を執筆陣に迎え,その最新の知見と洞察を一冊に結集させることを企図しました.
われわれは,単なる論文の羅列や知識の整理に終始するのではなく,各執筆者が長年の研究を通じて確立してきた“本質的な問い“と,それに向けた“独自の視点”を深く掘り下げていただくことを依頼しました.執筆者の皆さまは,それぞれの研究テーマにおいて国際的に高い評価を得ており,その論文はHSC研究の歴史を形作ってきたと言っても過言ではありません.読者の皆さまは,各章を通じて,その最先端の研究内容を正確に把握できるだけでなく,研究者がたどった思考のプロセスと,次に挑むべき課題を鮮明に捉えることができるでしょう.
本特集は,HSCの発生・分化の制御機構といった基礎的テーマから,in vitroでのHSCの作製技術や疾患特異的なクローナル造血の病態といった臨床応用を見据えたトピックまでを網羅的に取り扱います.第一人者である博士方による緻密な記述は,HSC研究に携わる研究者や医師にとって,知識のアップデートはもちろんのこと,新たな研究の着想を得るための重要な羅針盤となるはずです.本特集が,研究室の新たな議論を呼び起こし,難治性血液疾患の克服,ひいては人類の健康寿命延伸という普遍的な目標に向けた,強固な基礎となることを切に願います.この一冊が,HSC研究の明るい未来を切り拓く,知のプラットフォームとなることを確信しております.
山﨑 聡
東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター幹細胞治療研究分野
生命の根源的な営みを支える全血液・免疫細胞を生み出す造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)の研究は,再生医療,癌治療,老化研究といった広範な生命科学領域において,常に核心的なテーマであり続けてきました.その発見から半世紀以上を経て,HSCの単離,移植技術は臨床医学に革命をもたらし,血液疾患の治療に不可欠なものとなっています.
しかし近年,HSC研究は新たなパラダイムシフトの渦中にあります.単なる細胞補充源としての理解を超え,そのニッチ(微小環境)との複雑な相互作用,エピジェネティックな制御,加齢に伴う機能変化(クローナル造血),そして疾患発症における異常性など,より深遠なメカニズムの解明が急務とされています.最先端の研究は,もはや1つの分野にとどまらず,分子生物学,細胞工学,そして最先端のゲノム解析技術が融合することで,いまだかつてないスピードで進展しています.このような状況下,本特集「造血幹細胞研究の革新と臨床応用への挑戦」は,世界の研究を牽引する著名な先生方を執筆陣に迎え,その最新の知見と洞察を一冊に結集させることを企図しました.
われわれは,単なる論文の羅列や知識の整理に終始するのではなく,各執筆者が長年の研究を通じて確立してきた“本質的な問い“と,それに向けた“独自の視点”を深く掘り下げていただくことを依頼しました.執筆者の皆さまは,それぞれの研究テーマにおいて国際的に高い評価を得ており,その論文はHSC研究の歴史を形作ってきたと言っても過言ではありません.読者の皆さまは,各章を通じて,その最先端の研究内容を正確に把握できるだけでなく,研究者がたどった思考のプロセスと,次に挑むべき課題を鮮明に捉えることができるでしょう.
本特集は,HSCの発生・分化の制御機構といった基礎的テーマから,in vitroでのHSCの作製技術や疾患特異的なクローナル造血の病態といった臨床応用を見据えたトピックまでを網羅的に取り扱います.第一人者である博士方による緻密な記述は,HSC研究に携わる研究者や医師にとって,知識のアップデートはもちろんのこと,新たな研究の着想を得るための重要な羅針盤となるはずです.本特集が,研究室の新たな議論を呼び起こし,難治性血液疾患の克服,ひいては人類の健康寿命延伸という普遍的な目標に向けた,強固な基礎となることを切に願います.この一冊が,HSC研究の明るい未来を切り拓く,知のプラットフォームとなることを確信しております.
特集 造血幹細胞研究の革新と臨床応用への挑戦
はじめに(山﨑 聡)
造血幹細胞の多様性と階層性(山本 玲)
造血幹細胞増幅がもたらす臨床応用と基礎研究の発展(菊地理子・錦井秀和)
胎生期の造血幹細胞(横溝智雅)
造血研究を支えるヒト化マウスの開発(伊藤亮治)
造血幹細胞と多臓器連関(三原田賢一)
造血発生機構を模倣してヒト多能性幹細胞を血液細胞へと分化誘導する(入口翔一)
白血病幹細胞研究の展望(雁金大樹)
骨髄環境の重要性─造血維持機構と血液腫瘍病態への関わり(川野裕子)
TOPICS
病理学 アルポート症候群モデルマウスを用いた腎病理AI解析:マルチモーダルAI病理診断の新展開(川西邦夫)
膠原病・リウマチ学 膠原病に伴う間質性肺疾患の気管支肺胞洗浄液を用いたシングルセルRNA解析(藤井 渉・池田 啓)
連載
イチから学び直す医療統計(20)(最終回)
多変量メタアナリシス(長島健悟・他)
医療分野におけるブロックチェーンとNFTの活用(10)
分散連合学習可能なデータ流通基盤およびオミクス解析に基づく病態解明と疾患予測モデル構築(宮川 繁)
医師の働き方改革─取り組みの現状と課題(9)
病院全体で推進するタスクシフト・タスクシェア(朝倉啓介・他)
医療における生成AIとDX(1)
総論:医学研究への生成AI活用の現状と未来(紺野大地)
FORUM
人間社会の未来─専門家が予見する人類の行方(5) 情報技術が変える医療と人間のかたち─治療から予防,そして進化へ(荒川 豊)
次号予告
はじめに(山﨑 聡)
造血幹細胞の多様性と階層性(山本 玲)
造血幹細胞増幅がもたらす臨床応用と基礎研究の発展(菊地理子・錦井秀和)
胎生期の造血幹細胞(横溝智雅)
造血研究を支えるヒト化マウスの開発(伊藤亮治)
造血幹細胞と多臓器連関(三原田賢一)
造血発生機構を模倣してヒト多能性幹細胞を血液細胞へと分化誘導する(入口翔一)
白血病幹細胞研究の展望(雁金大樹)
骨髄環境の重要性─造血維持機構と血液腫瘍病態への関わり(川野裕子)
TOPICS
病理学 アルポート症候群モデルマウスを用いた腎病理AI解析:マルチモーダルAI病理診断の新展開(川西邦夫)
膠原病・リウマチ学 膠原病に伴う間質性肺疾患の気管支肺胞洗浄液を用いたシングルセルRNA解析(藤井 渉・池田 啓)
連載
イチから学び直す医療統計(20)(最終回)
多変量メタアナリシス(長島健悟・他)
医療分野におけるブロックチェーンとNFTの活用(10)
分散連合学習可能なデータ流通基盤およびオミクス解析に基づく病態解明と疾患予測モデル構築(宮川 繁)
医師の働き方改革─取り組みの現状と課題(9)
病院全体で推進するタスクシフト・タスクシェア(朝倉啓介・他)
医療における生成AIとDX(1)
総論:医学研究への生成AI活用の現状と未来(紺野大地)
FORUM
人間社会の未来─専門家が予見する人類の行方(5) 情報技術が変える医療と人間のかたち─治療から予防,そして進化へ(荒川 豊)
次号予告















