やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 迎 寛
 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科呼吸器内科学分野
 超高齢社会を突き進むわが国において,増多の一途をたどる肺炎診療を呼吸器専門医のみで行うことは極めて難しく,非専門医の肺炎診療をサポートするガイドラインの重要性がますます高まっています.
 「成人肺炎診療ガイドライン2024」(以下,2024年改訂版)は,前版である2017年に公表された「成人肺炎診療ガイドライン2017」から,日本医療機能評価機構により作成されたガイドライン作成方法である「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に準拠し,質の高いガイドラインに進化してきました.2024年改訂版では,欧米のガイドラインを参考にしつつも,超高齢社会であるわが国の医療情勢にフィットするように,作成委員会でも議論を重ね,医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare associated pneumonia:NHCAP)を残すといった独自性を出しました.さらに作成過程で特に留意したのは,エビデンスに基づき,できるだけ狭域抗菌薬での治療を選択するという点です.これは,広域なエンピリック治療は必ずしも予後の改善をもたらさずに,副作用の増大を招くなどの報告が相次いでいる背景があります.さらに,薬剤耐性菌が世界的に蔓延していることに加えて,検査領域のめざましい発展により原因微生物の同定が進むことへの期待もあげられます.実際に分子生物学的検査の普及に伴い,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だけでなく,さまざまなウイルスが呼吸器感染症の原因微生物として認知されるようになり,われわれの日常診療を大きく変える可能性を秘めています.そのため,今回のガイドラインからウイルス性肺炎の項目を追加しました.
 さらに2024年改訂版では,豊富なシステマティックレビュー(systematic review:SR)の結果に加えて,クリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)に対する推奨を決定する過程や議論点も含めて提示することなど,実地医家の先生方にとって読み応えのあるガイドラインに仕上がっていると思います.
 本特集では,ガイドライン作成の中心的役割を担っていただいた先生方に,そのポイントと未解決の課題を端的にあげていただき,エッセンスをご教示いただきました.読者の先生方にはぜひ通読していただいて,現行ガイドラインのエッセンスをご享受いただき,次期ガイドライン作成に寄与するような新たなエビデンスの創出にご尽力いただければ,望外の喜びです.
特集 肺炎診療マネジメント─ガイドライン改訂のポイントと今後の課題
 はじめに(迎 寛)
 市中肺炎のポイントと課題(岩永直樹)
 医療・介護関連肺炎のガイドライン改訂ポイントと今後の課題(進藤有一郎)
 院内肺炎のポイントと課題(川筋仁史・山本善裕)
 ウイルス性肺炎のポイントと課題(宮下修行・他)
 「成人肺炎診療ガイドライン2024」における誤嚥性肺炎の位置づけと課題(小宮幸作)
 肺炎診療における検査法(池上博昭・他)
 予防のポイントと課題(丸山貴也)

TOPICS
 輸血学 献血というボランティアの実像─多回数献血者とはどのような人々なのか(吉武由彩)
 内分泌・代謝学/救急医学 もう常識?SGLT2阻害薬による正常血糖性ケトアシドーシス!(髙橋直樹・久志本成樹)

連載
ケースから学ぶ臨床倫理推論(24)
 小児の輸血拒否─15歳以上18歳未満の場合(楠瀬まゆみ)

イチから学び直す医療統計(16)
 生存時間解析(長島健悟・他)

医療分野におけるブロックチェーンとNFTの活用(6)
 中央集権型と分散型Web3.0併用による医療情報共有のトラスト(信頼関係)の評価法(松下一之)

医師の働き方改革─取り組みの現状と課題(5)
 医師の働き方改革における宿日直許可取得の意味とは(髙橋慶子・他)

FORUM
 人間社会の未来─専門家が予見する人類の行方 はじめに(梅﨑昌裕)
 人間社会の未来─専門家が予見する人類の行方(1) 人口分布の観点からみた人口減少のゆくえ(小池司朗)

 次号の特集予告